菅首相が17、18の両日沖縄を訪問。仲井真知事に普天間の辺野古移設を求めたが、逆に県外への移転を求められて話し合いは平行線を辿った。そして18日午後記者会見。その発言から色々と知ることができる。
先ずは「asahi.com」記事から全文参考引用――
《「辺野古案は危険除去や負担軽減になる」18日の菅首相》(asahi.com/2010年12月18日19時32分)
菅直人首相が18日午後、視察先の沖縄県嘉手納町で記者団の質問に答えた内容は、以下の通り。
【沖縄訪問総括】
「昨日、沖縄知事選が終わって、初めて沖縄に訪問いたしました。今回の訪問は二つのことを目的として、あるいは目標としてやってまいりました。一つは沖縄について、総理として、私がどんな風に考えているのか、そのことを知事はもとよりでありますけれども、特に沖縄の県民の皆さんに私の考え方を伝えたいというのが一つの大きな目的であります。そしてもう一つは、沖縄の現状を改めて、基地の問題、また沖縄振興の観点から、しっかりとこの目でみたいと。ま、この二つの目的でお邪魔をさせていただきました」
「幸い昨日の知事との会見の席で、県民の皆さんに向かっても私の考えを申し上げる機会をいただきました。また、今日は天候にも恵まれまして、沖縄本島全域をヘリコプターで視察をし、また昨日今日といくつかの施設等をみることができまして、二つ目の目的も、大変、実現することができたと、このように考えております。そう言った意味で、後ほどいろいろとご質問をいただけると思いますけれど、まだまだいろいろな意見の違いや、いろいろな見方の違いはありますけれども、丁寧に、しっかりと議論をつみ重ね、あるいは議論を進めていくことができる、そういう訪問になったと、そういうことができたとこのような感想を持っております。私から以上冒頭申し上げました」
【基地負担軽減】
――昨日知事との会談で基地負担を日本全体で考えるべき問題だと発言。具体的にどのように進めていくのか。
「私が申し上げたのは、知事の方が、米軍基地の存在が日本の安全保障上必要であるとする、あるとする方、私を含めて多いわけですが、そのときは『日本全体で受け止めて考えて頂くことが必要だ』との趣旨を言われましたので、そのこと全体について、知事がおっしゃることは、正論だと思うということを申し上げました。このことは従来から、本当に昨日のお話でも申し上げたように、沖縄が本土に復帰してから以降においても、本土の米軍基地がかなり減る中で、沖縄の基地があまり削減されなかったというこの間の経緯を見ても、昨日も私も申し上げましたが、私も政治に携わる者として大変忸怩(じくじ)たる思い、あるいは慚愧(ざんき)の念に堪えないところであります」
「私は、日本全体の皆さん、この日本の安全保障のために日米安保条約が必要であり、米軍基地の日本国内の存在が必要であると、そういう風に思っておられる方も私含めて多いと思いますので、そういう中でこの問題を全国民の課題として、しっかり受け止めていかなければならないと、こう思っておりますし、こういう形で申し上げることも、いわばそういうことを全国民に、あるいは全47都道府県の、沖縄以外の46都道府県の皆さんにも考えて頂きたいという思いで申し上げさしていただいたところであります」
【県民との直接対話】
――県民に総理自身の考えを伝えたいというが、しかし市町村長や市民には会わなかった。総理の思いは県民に理解されると思うか。今後直接対話の機会を設けるか。
「私はこの間も沖縄の皆さんのいろいろな声は、知事ご自身からもですね、自ら公約をされた県外というご意見も含めお聞きいたしておりますし、いろいろな機会にお聞きをいたしております。その中で今回は私自身の考え方をまずきちっとお伝えすることが、この段階で私としてやらなければいけない第1弾目の、やるべきことだと考えたわけであります。今後、あるいはこれからも、これまでもそうですが、いろんなご意見を聞く機会はあると思いますけれども、まずは、なぜこのような判断を私がしたかということを、昨日は、私なりの知識ではありますけれども、この沖縄の歴史をさかのぼる中で、私の見方、考え方に触れて申し上げたところです。なかなかこういう形で、自分の考えをきちんと伝える機会がこれまで十分になかったものですから、そういう意味では、コミュニケーションをする上ではいろいろなご意見をこれまでも聞いてきました中で、総理大臣という立場できちんと伝えるというのは今後のコミュニケーションを深めていく、大きな一歩になると、あるいはなったと、このように思っております」
【沖縄振興と基地負担軽減】
――沖縄県向け別枠の一括交付金に言及。基地問題に理解求めるのと、振興策を同時に提示するやり方で基地問題の解決はかられると思うか。
「この一括交付金交付金、あるいは沖縄振興の新法をぜひ新たにつくるようにというそういう要請は、昨日のその場でもそうでしたし、それ以前から、知事から強く要請を頂いてきたことであります。基本的には今おっしゃったように、基地負担の軽減は軽減として、そして沖縄の振興は振興として、それぞれ政府として取り組まなければならない課題でありますし。中には基地跡の活用などはダブる部分もあります。ですから昨日、パーティーにおいても、私の沖縄全体に関する考え方を申し上げた上で、知事からのいろいろ要請があった問題について、いま、政府としてそれをしっかり受け止め、やろうとしていることについては、それもふまえて説明をいたしました。それは二つのことをそれぞれしっかり政府としても取り組むという、そういう姿勢で申し上げたつもりであります」
【普天間問題の日米関係への影響】
――来年春に訪米を予定されるが、普天間問題に期限を設けないで取り組むとの姿勢だが、総理が同盟関係を強調するなかで、日米同盟関係の最重要課題に何の成果も出ず、解決の状態が見えないことが日米同盟にどのような影響があると思うか。
「私は、日米関係、あるいは日米同盟というものの重要性は、ある意味、近年、特にこの1年、より強まったというふうに考えております。そういう中で日米同盟の真価については、先のオバマ大統領との首脳会談の中でも、私のほうから三つのカテゴリーで進めたいということを申し上げ、そうだという理解をいただいております。第1は安全保障の問題。第2は経済の問題。そして第3は文化や人の交流の問題。この三つのカテゴリーで進めていこうということで、来年、半ばまでに訪米して、そう言う考え方を踏まえながら、できれば何らかの共同声明といった形を、実現したいと考えております。そういう幅広い中で、もちろん安全保障の課題の中のひとつとして、この普天間の問題が存在することはその通りでありますけれども、私は全体の日米同盟深化ということの方向性が、より進むことが重要であると思っておりまして、その中における、普天間に関してのいろいろな今後の努力は、当然しっかりやってまいりますけれども、そこにだけ何かこう、焦点が集まるということではなくて、もっと幅広い日米関係の深化の大きな一歩にしたいとこのように思っております」
(「全体の日米同盟深化ということの方向性」を重要視するなら、その「全体」の中に日米双方の地域的全体性も含めるべきであろう。その地域全体性の中に「安全保障の問題」、「経済の問題」、「文化や人の交流の問題」も含まれることになる。)
「それから冒頭ひとつ、ちょっと、いい忘れたので付け加えさせていただきますが、私は今回最初には那覇の飛行場に新設された、貨物の、カーゴの国際流通の基地、あるいはITの津梁パーク等を見てまいりました。本当にですね私は、日本全国47都道府県の中で最も人口も増大し、そして観光を追い越す形でITが活発な企業活動が進展し、さらには沖縄というこの地理的条件を積極的に生かした、アジアの窓口としてのいろいろな貨物輸送などの基地化というものが進んでいる、最も日本で元気のいい地域が沖縄だということを実感をいたしました。そういう意味で、基地経済からの脱却は既に大きく進んでおりますけれども、沖縄は、これから日本のなかでも最も活力のある地域として発展するであろうと思いますし、知事も、もう10年、後押しをする新たな法律をぜひやって欲しいと、そうすればそうしたことも十分にカネになるという自信をも含めておっしゃっておりましたので、私たちとしてもですね、ぜひ沖縄が日本で最も発展する地域に、今なりかけている、なろうとしているという認識の中で、政府としても取り組んでいきたい。このことをすこし付け加えさせていただいておきます」
【「ベター」発言】
――総理、総理…。
「じゃあ1問だけ」
――仲井真知事との会談で辺野古はベターと発言したことに県民から反発。この発言の真意を。ベター発言の撤回するつもりはあるか。
「昨日の夕方のぶら下がりでもお聞きになりましたんで、その場でも申し上げたけど、これは知事ご本人もそうですが、沖縄の多くの皆さんは、県外あるいは国外が最も望ましいというか、そう思っておられることは私もよく認識をしております。一方で、この普天間の危険性の除去ということは、これは本当に避けては通れない、重要な課題だと、そう認識しております。ま、そういうなかで私が申し上げたのは、沖縄の皆さんにとっては、県外国外ということを望まれていることはわかるけれども、現在における国際情勢や実現性を考えたときに、今の辺野古の案は、多くの点で、普天間の危険性を大きく除去することにもなるし、あわせて40%の海兵隊員がグアムに移転する、あるいは嘉手納以南のいくつかの米軍施設を返還するなど、そういう意味での基地負担の軽減につながることもあるので、そういう意味でですね、ぜひ皆さんにも考えて頂きたい、という、そういう趣旨で申し上げたところであります」 |
菅首相は二つの目的をもって沖縄を訪問した。一つは沖縄について総理としてどのように考えているか、知事を始め沖縄県民に伝えること。
もう一つの目的は基地の問題や沖縄の振興の問題等の沖縄の現状を改めて自分の目で見ること。
最初の目的に関しては仲井真県知事との会見を通して仲井真知事に伝えると同時に、「県民の皆さんに向かっても私の考えを申し上げる機会をいただきました」としている。いわばマスコミ報道等の間接的伝聞を以ってして自分の考えを伝えたと。
「沖縄の県民の皆さんに私の考え方を伝えたい」と意思表示したのは首相自身である。果して仲井真県知事に伝えたことを以って県民に対する考えの伝達だとすることができるのだろうか。この意思伝達は間接的であるばかりか、一方向、一方通行の伝達でしかない。知事との会談では知事は直接的な批判も反論も否定も可能な両方向の意思伝達の機会を持ち得るが、県民は自らの直接的な意思表示としての批判も反論も否定も無視された。そのような扱いを受けた。
会談に対する評価が、「いろいろな見方の違いはありますけれども、丁寧に、しっかりと議論をつみ重ね、あるいは議論を進めていくことができる、そういう訪問になったと、そういうことができたとこのような感想を持っております」と無邪気に自己正当化できる合理的認識能力を欠いた楽観論は素晴らしい。
殆んどの報道が会談は平行線を辿ったと書いているが、仲井真知事が会談で「日米合意の見直しをぜひお願いしたい。県内ではなく、県外をぜひ求めていきたい」と主張している以上、辺野古への移設、あるいは日米合意に関しては実質的には「議論を進めていく」ことを拒否したのであり、沖縄県民の大多数も県知事と立場を同じくしている。
県外移設を公約に掲げて当選を果たした仲井真知事が変節しない限り、議論を進めることの拒否は続く。
日米合意の撤回と県外への移設、そして沖縄振興問題に関してみ、「議論を進めていく」余地を残した。「そういう訪問になった」。
仲井真知事が基地問題は「日本全体で受け止めて考えて頂くことが必要だ」と主張したのに対して、菅首相は「全国民の課題として、しっかり受け止めていかなければならない」、「全国民に、あるいは全47都道府県の、沖縄以外の46都道府県の皆さんにも考えて頂きたいという思いで」、「基地負担を日本全体で考えるべき問題だ」と仲井真知事と考えを同じくしたと言っている。
では、「全国民の課題」とすべく、あるいは「基地負担を日本全体で考えるべき問題」とすべく、どのような努力を払ったのだろうか。訓練の分散は図ったかもしれない。だが、訓練の部分的分散のみでは全国土0・6%の沖縄県に日本全国駐留米軍基地のうち75%も集中負担している現状の根本的解決にはならないはずだ。
基地そのものの撤去に関しては初めに辺野古ありき、日米合意ありきで「全国民の課題」とすべく行動した様子は少なくとも菅内閣になってからは窺うことはできない。
行動していないのに、「全国民の課題として、しっかり受け止めていかなければならない」と言い、「全国民に、あるいは全47都道府県の、沖縄以外の46都道府県の皆さんにも考えて頂きたいという思いで」、「基地負担を日本全体で考えるべき問題だ」と言う。
これは有言不実行の典型で、単に言葉を走らせているに過ぎない。2001年7月の参院選時に沖縄で野党民主党幹事長として発言した「海兵隊は即座に米国内に戻ってもらっていい。民主党が政権を取れば、しっかりと米国に提示することを約束する」にしても言葉を走らせただけのことだから、政権を取っても野党から与党への立場の変化、代表から国と国民に責任を持たなければならない総理大臣への立場の変化、北東アジアの安全保障の環境変化等を口実に実行に移すことはなかった。
上記約束を自身のブログで、「その場の思いつきでもリップサービスでもなく、民主党の基本政策と矛盾してはいない」と補強証明していながらの背信である。
菅首相の発言は状況次第、立場次第の変数に過ぎず、どうとでも変わる発言となっている以上、その発言は常に責任を伴わない発言となる。
記者との質疑に入って、「今後直接対話の機会を設けるか」と聞かれると、沖縄県民の声は知事を通して聞いたとし、自分自身の考え方を伝えることが「第1弾目の、やるべきこと」だと、県民の声よりも自身の声を優先させている。
このことからも初めに日米合意ありき、辺野古移設ありきを窺うことができる。仙谷官房長官が「甘受していただく」と言ったと同様に国を上に置いて下に置いた沖縄に対して無条件的に受け入れされようとする権威主義的な意志を忍ばせた態度となっている。
このことは次の、「これまでもそうですが、いろんなご意見を聞く機会はあると思いますけれども、まずは、なぜこのような判断を私がしたかということを、昨日は、私なりの知識ではありますけれども、この沖縄の歴史をさかのぼる中で、私の見方、考え方に触れて申し上げたところです」と首相自身の「見方、考え方」を伝えることを優先させていることにも現れている。
言葉を替えて言うと、沖縄県民よりも私の優先となっている。
「コミュニケーションをする上ではいろいろなご意見をこれまでも聞いてきました中で」とは言っているが、沖縄県民の意見、主張、あるいは民意を一切取り入れない「コミュニケーション」はコミュニケーションの体裁を為しているとは言えず、首相の聞いた行為自体が馬の耳に念仏同様、無効な作用しか働かせていない。
沖縄県民の考え、意見を役立たせていない上に自分を優先させているから、沖縄県民と直接的なコミュニケーションの場を設けないにも関わらず、「総理大臣という立場できちんと伝えるというのは今後のコミュニケーションを深めていく、大きな一歩になると、あるいはなった」と、自身の考えを伝える一方通行を以ってして「コミュニケーションを深めていく」方法だとすることができる自己都合な解釈も可能となる。
この自己都合な解釈も自身の発言を状況次第、立場次第の変数としていることと相互対応させたものであろう。
一括交付金の問題は菅首相としたらこれを手土産として辺野古容認へと向けて仲井真知事の反対姿勢を軟化させたいだろうが、今のところ仲井真知事は基地移設と沖縄振興を別個の問題として扱っている。あとは仲井真知事がこの態度を厳しく守るか、変節するかにかかっている。
日米関係への影響について、日米同盟を「安全保障の問題・経済の問題・文化や人の交流の問題」の「三つのカテゴリーで進めたい」とした上で、日米同盟は普天間の問題だけのことではなく、「全体の日米同盟深化ということの方向性」により重点を置いていると言っている。
「全体の日米同盟深化ということの方向性」を重要視するなら、その「全体」は日米双方の地域的全体性をも意味しなければならないはずだ。沖縄だけの特定の一部地域のみの「日米同盟深化」であったなら、「全体の日米同盟深化ということの方向性」へは進まない。
いわばこの地域全体性の中に「安全保障の問題」、「経済の問題」、「文化や人の交流の問題」を含むことによって、本土、沖縄「全体の日米同盟深化ということの方向性」という体裁を取ることができる。
そのような体裁を取って初めて仲井真知事が基地問題は「日本全体で受け止めて考えて頂くことが必要だ」とした発言に合致する「全体の日米同盟深化ということの方向性」となり、合致させなければならない「全体の日米同盟深化ということの方向性」であろう。
菅首相は日本の首相としてこの地域全体性に則った「全体の日米同盟深化ということの方向性」を推進する責任を負っていることになる。
だが、既に指摘したように「全国民の課題として、しっかり受け止めていかなければならない」と口で言うのみで、何ら努力の跡を窺うことができない不実行のみが露となっている。
「ベター」発言については昨日のブログに書いた。
自己都合のみしか見て取ることができない記者会見としか言いようがない。
沖縄県民の大多数は「国外・県外」の意思を示している。辺野古への移転が実現しなければ、普天間基地は存続することになり、普天間の危険は残るとする発想自体が間違っている。政府の意志で普天間の基地を閉鎖し、駐留米軍の自衛隊と連携させた効率的運用を計画立てて本土へ分散を図ることは決して不可能ではないはずだ。
このことを遮っている要因は初めに辺野古あり、沖縄ありの政府の態度であろう。
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