菅首相の生活困窮者年越し対策に見る元市民派にふさわしい誠実さの正体

2010-12-30 07:49:06 | Weblog

 
 職・住を失った生活困窮者の年越しのための最初の年越し派遣村はNPOや労働組合組織の実行委員会によって2008年12月31日から2009年1月5日まで東京の日比谷公園に開設された。そして民主党政権に移行したその年の暮れの12月28日、政府の要請を受けて都が渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターに公設派遣村として開所、736人がそこで越年、1月3日には833人に増員。4日終了予定が生活再建のめどが立たない入居者が多く、562人を大田区の都の施設に移動させ、そこに収容し、支援継続、1月18日に閉所。

 だが、今年の開所を政府は見送った。その理由を《派遣村なき年越し 国は「通年支援に移行」というが…》MSN産経/2010.12.27 23:19)が伝えている。

 今冬、国が派遣村を開催しない理由――

 酒光一章・厚労省労働政策担当参事官は「役所が閉まっている年末年始にできることは限られている。年末年始に困る人は現在も困っているはずで、今年一年を通じて年末に派遣村を開かなくてもよいような対策を講じてきた」
 
 例え生活に困窮していても、年末に派遣村を開設しないで済む対策を取った。何とも頼もしい菅内閣有言実行である

 その対策とは――

 全国のハローワークに計263人の住居・生活支援アドバイザーを派遣、就職及び生活相談を受付ける体制を整備。住居喪失者対象の賃貸住宅家賃補助制度の開設。一部ハローワークは30日まで窓口を開設予定。

 このような対策を以って万全の態勢だというわけなのだろう。

 記事は今年中止の理由を昨年の公設派遣村生活者の騒動を挙げている。

 〈昨年の公設派遣村には860人が入所。しかし、就職活動のための交通費として2万円が支給されると、その夜に200人以上が戻らないといった問題が発生。無断外泊や飲酒など、一部の入所者のモラルが問題視され、都には多くの否定的な意見が寄せられた。〉

 厚労省幹部「あの失敗で国が派遣村を開くという選択肢はもう無くなった」

 懲罰主義に出たということなのか。有効求人倍率が半分にも満たない中で住まいを持たない生活困窮者が就職活動をしても、彼らに対する有効求人倍率はさらに下がるだろし、就職活動自体がムダだと既に彼ら自身が身を以て体験しているに違いないだろうから、就職活動交通費2万円を当てにもならない就職活動で空費するよりも他に有効な使い道をと考えた可能性もある、就職活動を求めたこと自体土台無理な要求ではなかったのかと以前ブログに書いた。(アドレス後出)

 「MSN産経」には書いてなかったが、《「派遣村」今年はなし ハローワーク30日まで相談窓口》asahi.com/2010年12月29日19時1分)では、都内5カ所のハローワークが住居喪失者に4日朝までのカプセルホテルと食事代7千円を提供と書いてある。

 このことは酒光一章・厚労省労働政策担当参事官が「今年一年を通じて年末に派遣村を開かなくてもよいような対策を講じてきた」と言っていたことに反する対策となる。カプセルホテルと食事代7千円の提供は公設派遣村に代る、その形態を取った支援だからである。

 「asahi.com」はさらに、〈自治体によってはハローワークに職員を派遣し、宿泊場所も提供する。〉と書いているが、各自治体の支援にしても政府が講じてきたという「年末に派遣村を開かなくてもよいような対策」が何ら役に立っていなかった、その非有効性を反映した措置ということになる。

 平松大阪市長が12月29日に年末年始に身を寄せる場所がない日雇い労働者の年越し用の臨時の宿泊施設を視察している。《平松市長 年越し宿泊施設を視察》毎日放送/2010年12月29日(水) 23時34分)

 臨時の設置場所は大阪・住之江区の南港。対象者は年末年始に仕事が途切れ生活が困窮するあいりん地区の日雇い労働者。寝る場所と食事を無償で提供。設置期間は12月29日から来年の1月5日まで。

 記事は書いている。〈プレハブの中には2段ベッドが置かれ、利用者にはスリッパやタオルなどが入ったセットが手渡されます。

 ピーク時の98年には2,800人が利用しましたが今年は、600人にとどまると見込まれていて、その数は年々減っています。〉

 平松大阪市長「生活保護という行政(サービス)に流れてきている、そちらで居宅生活する人が増えた」

 要するに土木建築の仕事が減って、毎日日雇い仕事にありつけるわけではない。仕事休みの12月29日から来年の1月5日まで過ごすだけのカネを蓄えることができなかったからと、あるいは少しのカネを持っていても、年明けの仕事始め早々に仕事にありつける保証はないからと手をつけずに市提供の無償施設を頼るといったことなのだろう。

 「asahi.com」記事は東京以外で窓口を開設しているハローワークを紹介している。各ハローワークが宿泊施設と食事代まで提供するのかどうかは書いてないが、政府が「今年一年を通じて年末に派遣村を開かなくてもよいような対策を講じてきた」なら、ハローワークを年末に臨時開設する必要性も生じなかったはずだ。

 ▽ハローワークプラザ札幌
 ▽ハローワークプラザ大宮
 ▽ハローワークちば駅前プラザ
 ▽ハローワークプラザよこはま
 ▽ハローワーク川崎
 ▽ハローワーク浜松
 ▽キャリアアップハローワークあいち
 ▽ハローワーク西陣烏丸御池プラザ
 ▽ハローワーク梅田
 ▽ハローワークプラザ難波
 ▽ハローワーク堺
 ▽ハローワーク神戸
 ▽ハローワークプラザ福岡
 ▽ハローワーク小倉。

 菅首相が29日(2010年12月)、首相公邸で細川厚生労働相と会談、職・住のない生活困窮者の年越しについて指示を出していることも政府が「今年一年を通じて年末に派遣村を開かなくてもよいような対策を講じてきた」ことに反する事柄となる。

 《生活困窮者に支援を…首相、厚労相に指示》YOMIURI ONLINE/(2010年12月29日19時20分)

 菅首相「生活や住居(の確保)が困難な方に対し、自治体と協力して、しっかりと支援してほしい。年末年始にかけて情報を集め、様々な状況に対応できるよう注視してほしい」

 〈細川厚労相は、ハローワークが29、30の両日に都市部で年末の緊急職業相談を実施していることなどを報告した。〉――

 菅首相は「生活や住居(の確保)が困難な方」の年越しを気遣っているふうに一見見える。だが、年の瀬が詰まった29日の指示ということはどういうことなのだろう。政権交代後の鳩山前政権が都に依頼して公設派遣村を開所したのは1日前の12月28日。12月28日に開所するについてはかなり前からの計画と準備を必要とする。

 大阪市が開設した臨時宿泊施設の入所は12月29日から。同じくかなり前からの計画と準備を経た開所であろう。

 菅首相の指示にしてもより早い時期にあって然るべき措置ではなかったろうか。特に市民派出身の総理大臣である。生活困窮者の年越しとなると自身にとって極々敏感な問題となっているはずだ。生活困窮者の特に年始年末に襲ってくる最悪の生活破綻を当然思い遣るだろうし、首相と言う立場上、その思い遣りは行動を伴わせなければならない。その行動が暮れも押しつまった29日になって「生活や住居(の確保)が困難な方に対し、自治体と協力して、しっかりと支援してほしい」の指示のみであった。

 対して細川厚労相の反応は、現在の厳しい就職難の状況下で特に住いを満足に持たない、年齢が若ければいいが、生活困窮が集中している中高年層には就職の機会が排除されがちな特殊性を何ら考慮に入れていないハローワークが29、30の両日に都市部で年末の緊急職業相談を実施していることなどの報告だった。

 いわば殆んど当てにもならない就職保証を行うという、マヤカシに近いその場凌ぎの対応であり、このことは同時に菅首相の指示の有効性がどのようなものか如実に物語っている。

 指示の有効性とは菅首相の元市民派にふさわしい誠実さの有効性に即そのまま直結するはずである。「今年一年を通じて年末に派遣村を開かなくてもよいような対策を講じてきた」と言っていることを無効とする上に暮れも押し詰まった29日になって指示を出す、その誠実さ。特に就職の機会から遠ざけられている生活困窮者に当てにもならないハローワークの緊急職業相談でよしとしている誠実さ。このような誠実さに菅首相自身の元市民派にふさわしい誠実さの正体が現れているはずである。

 参考までに――

 《有効求人倍率に反した無意味な「公設派遣村」- 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》

 《幕が下りた公設派遣村騒動の成果》


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