5月26~28日(2014年)スウェーデン・ストックホルムで外務省局長級の日朝政府間協議が開催され、北朝鮮は拉致調査の再開を約束した。
日本の外務省は5月29日、「日朝政府間協議合意事項」を発表した。
その一つ、北朝鮮側が1945年前後に北朝鮮域内で死亡 した日本人の遺骨及び墓地、残留日本人、いわゆる日本人配偶者、拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人を対象とする調査を具体的かつ真摯に進めるために特別の権限(全ての機関を対象とした調査を行うことのできる権限。)が付与された「特別調査委員会」を立ち上げることとしたのに対して日本側は、北朝鮮側が包括的調査のために「特別調査委員会」を立ち上げ、調査を開始する時点で、人的往来の規制措置、送金報告及び携帯輸出届出の金額に関して北朝鮮に対して講じている特別な規制措置、及び人道目的の北朝鮮籍の船舶の日本への入港禁止措置を解除することとした。
立ち上げた「特別調査委員会」が調査を開始する時点での一部制裁解除は調査の実効性を呼び込むエサであると同時に実効性への期待の表明でもあるはずだ。
実効性を期待できないにも関わらず実効性を呼び込むエサを与えることは無駄を覚悟していることになり、安倍内閣で全面解決という姿勢が示さなければならない積極性と矛盾することになる。
また、実効性への期待は実効性をそれなりに見込んでいたことになる。見込むことができないままに実効性を期待していたなら、倒錯した判断ということになる。
いわば安倍内閣で全面解決という積極的姿勢を示している以上、本来なら日本側から実効性を貪欲に求めて、その実効性を確実なものとしていかなければならない。と言うことは、一部制裁解除は確実な実効性へと向かわせる序章としての効果をも持たせていたはずだ。
ところが、大方のマスコミが「特別調査委員会」の実効性を問題にし出した。北朝鮮側の手順としては「特別調査委員会」を立ち上げて調査を開始し、ある程度の調査の実績を挙げる熱意を示してから求めるべき要求を、「特別調査委員会」を立ち上げもしないうちから、いわば調査を開始しないうちから、在日朝鮮総連中央本部ビルの売却問題が日朝合意に含まれるとの認識を示したり、万景峰号が北朝鮮船舶の入港禁止解除の対象になっていないにも関わらず禁止解除への期待を示したり、それとなく匂わせたことがマスコミに対する実効性への疑義を膨らませることになったはずだ。
多分、安倍政権もその疑義に影響を受けたのかもしれない。一部制裁解除というエサまで与えて実効性をそれなりに見込んだはずの「特別調査委員会」設立の合意でなければ、合意自体が意味を失うことになるために本来なら影響を受けてはならないはずだが、時ここに至って見込んでいたはずの実効性が根拠のないものであることを暴露することになった。
安倍政権が何時頃から北朝鮮側が設立予定の「特別調査委員会」の実効性に疑いを持ち出したか分からないが、「特別調査委員会」の組織や権限などについて説明を受けるための局長級による日朝政府間協議開催を北朝鮮側と協議、来月7月1日に中国・北京で開催することが決まったと6月26日夕方、マスコミが記事で伝えていた。
要するに「特別調査委員会」の組織や権限などについての具体的な説明は受けていなかった。受けていないままに実効性への期待を持ち、実効性を呼び込むエサとして一部制裁解除を示した。
ここに外交なるものを見ることができるのだろうか。安倍内閣が拉致全面解決の積極姿勢を示していながらの、その姿勢に反する「特別調査委員会」に関わる外交不在である。
7月1日の中国・北京での日朝協議には拉致問題や北朝鮮情勢に詳しい警察庁の幹部職員1人を派遣するという。
この派遣からは組織や権限の具体性の精査に腹を据えて臨む姿勢を窺うことができるが、このことはまた、腹を据えてかからなければならない程に組織や権限についての精査を行っていなかったことの証明としかならない。
5月末のスウェーデン・ストックホルムでの日朝政府間協議から1カ月も経過してから、「特別調査委員会」の組織や権限の具体的な姿の確認に取り掛かる。確認し、実効性が担保できる委員会なのかどうかを推定しなければならない。
安倍晋三は積極的平和主義外交だ何だと機会あるごとに自身の外交能力を誇示しているが、口で勇ましいことを言っているだけとしか思えない、拉致問題に於けるお粗末な外交不在としか言い様がない。