安倍晋三は日朝首脳会談を拉致解決に資するものと条件づけ、条件付けずに22回も重ねる日ロ首脳会談との二重基準

2018-09-27 10:14:54 | 政治
 

 国連総会一般討論演説のためにニューヨークを訪れていた日本の首相安倍晋三が9月25日(2018年)午前(日本時間26日未明)、ホテル「パーカー・ニューヨーク」で韓国の文在寅大統領と首脳会談を行った。その内容について「外務省」(2018年9月25日)が公表している。

 〈文大統領より、先般の南北首脳会談の結果について具体的な説明があった。これに対し安倍総理より今回の文大統領による努力が朝鮮半島の非核化に向けた具体的な成果に繋がるよう日本も協力を惜しまない、そのために安保理決議の完全な履行が重要であり、引き続き韓国と連携したい旨述べた。また、文大統領から金正恩委員長に対して改めて拉致問題を提起した旨の説明があったのに対し、感謝の念を伝えた上で引き続きの協力をお願いしたい、自分(総理)としても、相互不信の殻を打ち破り、金正恩委員長と直接向き合う用意がある旨述べた。〉

 この外務省サイトでは触れていないが、文在寅大統領が安倍晋三に対して「これまで3回に亘って金正恩朝鮮労働党委員長に日本人の拉致問題の解決など日朝の対話と関係改善を模索するよう勧めた」ことを明らかにし、この勧告に対して金正恩が「適切な時期に日本と対話をし、関係改善を模索していく用意がある」と表明したと「NHK NEWS WEB」や他のマスコミが伝えている。

 「適切な時期に」とは「ふさわしい時期に」と言うことであって、現在のところはふさわしい時期ではないということなのだろう。ふさわしい時期がいつ訪れるのかは双方の姿勢にかかっているということなのだろう。

 日韓首脳会談翌日の9月25日午後、安倍晋三は国連総会で「一般討論演説」(首相官邸サイト)を行っている。北方四島問題と北朝鮮問題に触れている箇所を抜粋してみる。

 安倍晋三「私は先刻、北東アジアから積年の戦後構造を取り除くため、労を厭わないと申しました。

 私は今、ウラジーミル・プーチン大統領と共に70年以上動かなかった膠着を動かそうとしています。

 大統領と私は今月の初め、ウラジオストクで会いました。通算22度目となる会談でした。近々、また会います。両国の間に横たわる領土問題を解決し、日露の間に平和条約を結ばなくてはなりません。日露の平和条約が成ってこそ、北東アジアの平和と繁栄はより確かな礎を得るのです。

 皆様、昨年この場所から、拉致、核・ミサイルの解決を北朝鮮に強く促し、国連安保理決議の完全な履行を訴えた私は北朝鮮の変化に最大の関心を抱いています。

 今や北朝鮮は歴史的好機を掴めるか否かの岐路にある。手付かずの天然資源と大きく生産性を伸ばし得る労働力が北朝鮮にはあります。

 拉致、核・ミサイル問題の解決の先に不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す日本の方針は変わりません。私たちは北朝鮮が持つ潜在性を解き放つため、助力を惜
しまないでしょう。

 ただし幾度でも言わなくてはなりません。全ての拉致被害者の帰国を実現する。私は、そう決意しています。

 拉致問題を解決するため、私も、北朝鮮との相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接向き合う用意があります。今決まっていることは、まだ何もありませんが、実施する以上、拉致問題の解決に資する会談にしなければならないと決意しています」(以上)

 「私は先刻」申したとしている「戦後構造」とは冒頭で「議長、御列席の皆様、向こう3年、日本の舵取りを続けることとなった私は、連続6度目となります本討論に思いを新たに臨みます。今からの3年、私は、自由貿易体制の強化に向け、努力を惜しみません。北東アジアから戦後構造を取り除くために、労を厭(いと)いません」と発言したことを指している。

 北方四島に関しては領土問題の解決を条件として平和条約を結ぶ。北朝鮮に対しては不幸な過去の清算に基づいた日朝国交正常化は拉致、核・ミサイル問題の包括的解決を条件としている。いわば拉致、核・ミサイル問題の包括的解決が先にあるべしを突きつけている。

 ところが金正恩側は「日本は自分らの過去を至急、清算すべきだ」、あるいは「日本は過去の清算なしには、一歩も未来に進むことはできない」と日本の過去の清算が先にあるべしを突きつけている。このように日朝の態度が相衝突し合うようでは金正恩が韓国大統領の拉致解決に向けた勧告に対して日本との対話と関係改善の模索を試みる旨応じたとされる「適切な時期」はそう簡単には実現しないように思える。

 安倍晋三は「全ての拉致被害者の帰国を実現する」との発言を「幾度でも言わなくてはなりません」と断っているが、「金正恩と直接向き合う用意がある」、但し向き合う以上は「拉致問題の解決に資する会談にしなけれならない」と発言していることも、数え上げたならキリがない程に「幾度でも」言っている。

 要するに安倍・金正恩首脳会談前に外務省の次官クラスの事務方、あるいは秘密裏にその役目を担わされた政治家と北朝鮮側との間で何回かの交渉を経た上で前以って拉致被害者全員の生存確認と帰国決定がセッテングされ、それゆえに解決が約束されることになる首脳会談が「拉致問題の解決に資する会談」ということになる。

 勿論、拉致被害者全員の生存確認と帰国決定を導いた事務方、あるいは政治家は裏方であって、表に出ることはなく、金正日が拉致被害者4人の生存を認めた(帰国は5人)2002年9月の小泉純一郎・金正日首脳会談がそうであったように安倍・金正恩首脳会談でも金正恩が日本側が挙げている拉致被害者全員の生存とその帰国を自身がその場で初めて認める体裁を取り、それに対して安倍晋三が金正恩の措置に感謝し、歓迎するという会談の進め方をするはずである。

 金正恩に認めさせる代償として経済援助の形を取った多額の戦争賠償で応じる。

 この手の成果・手柄の一番美味しいところは一度の会談で拉致解決が一挙に実現する形を見せるために小泉純一郎がそうであったように安倍晋三が独占することになって、その外交能力は高く評価され、暫くの間はその能力を褒めそやす声は途絶えることなく続き、最終的には政治史に安倍晋三の名を残すことになるだろう。

 但し解決が約束されなければ首脳会談は行わないという姿勢に正当性を与えることができるのだろうか。

 一方で北方四島の帰属問題の解決に資する会談とはなっていないにも関わらず、プーチンとは通算で22回目にもなる会談を開いている。解決に資する会談とはなっていないことは2018年9月10日の22回目となる日ロ会談2日後の東方経済フォーラム全体会合で中国の習近平国家主席らと共にテーブルに就いていた安倍晋三は同じテーブルに就いていたプーチンから、「今思いついた。先ず平和条約を締結しよう。今すぐにとは言わないが、ことしの年末までに。いかなる前提条件も付け
ずに。

 その後、この平和条約をもとに、友人として、すべての係争中の問題について話し合いを続けよう。そうすれば70年間、克服できていない、あらゆる問題の解決がたやすくなるだろう」(NHK NEWS WEB)と、前提条件なしの、いわば領土の帰属問題抜きの平和条約締結を持ちかけられたことが何よりの証明となる。

 このことはバカだって理解できるだろう。22回の日ロ首脳会談が少しでも北方四島の帰属問題の解決に資する会談となっていたら、当事者同士で仕切り直しを話し合うなら兎も角、他国首脳がいる面前でそれまで積み重ねてきた議論を反故にするような発言はできないはずだ。積み重ねてきた議論をさらに積み重ねる方向に話を進めるはずだ。

 だが、そういった22回の日ロ首脳会談ではなかった。北方四島の帰属問題の解決に資する会談とはなっていなかったからこそできる反故発言であろう。

 一方で北方四島の帰属問題の解決に資する役には立っていない日ロ首脳会談を22回も行い、その一方で「拉致問題の解決に資する会談」でなければ金正恩とは会わないと言っている。このことは二重基準であるということだけではなく、拉致問題の解決に資する会談とならなくても、金正恩と何度でも会い、直接働きかけて、拉致問題を解決に導こうと心がける練り強さや誠実さが認められない点、あるいは「拉致は安倍内閣で解決する」と発言している手前から言っても、拉致家族会に対して失礼に当たる。

 練り強さや誠実さを欠いていながら、裏方の力を借りで拉致解決が約束される日朝首脳会談に持っていき、一番美味しい成果・手柄は独り占めするようなことを考えている。名を残すための手段を選ばない貪欲さだけはおぞましいばかりに一人前以上のようだ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする