安倍晋三のプーチン提案を「平和条約締結に対する意欲の表れ」とする認識は日ロ両国の国益の違いに蓋をする国民騙しの発言

2018-09-14 11:28:05 | 政治


 安倍晋三は2018年9月12日の東方経済フォーラム全体会合でプーチンに平和条約締結を呼びかける演説を行った。「首相官邸」 

 安倍晋三「日本とロシアには、他の二国間に滅多にない可能性があるというのに、その十二分な開花を阻む障害が依然として残存しています。それこそは皆さん、繰り返します、両国がいまだに平和条約締結に至っていないという事実にほかなりません。

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 プーチン大統領、もう一度ここで、たくさんの聴衆を証人として、私たちの意思を確かめ合おうではありませんか」

 この全体会合の2日前の9月10日に同じロシアのウラジオストクで行われた22回目だとかの2時間35分に亘った日ロ首脳会談を行っている。その首脳会談で安倍晋三は同じような趣旨の言葉をプーチンに向かって発信していたはずだ。なぜか分からないが、大勢の聴衆が詰めかけ、中国国家主席の習近平や他国の首脳が列席している全体会合で大層な国家指導者だとの思い込みから自身の雄弁に酔っていたのかもしれないが、首脳会談で言うべき発言を得々と費やした。

 もし事実そのとおりだとすると、安倍晋三はプーチンにしっぺ返しを喰らったことになる。プーチンは次の発言を以って応えた。
 
 プーチン(戦後70年以上、日ロ間で北方領土問題が解決できずにいることに触れた上で)「今思いついた。先ず平和条約を締結しよう。今すぐにとは言わないが、ことしの年末までに。いかなる前提条件も付けずに。

 (会場から拍手)拍手をお願いしたわけではないが、支持してくれてありがとう。その後、この平和条約をもとに、友人として、すべての係争中の問題について話し合いを続けよう。そうすれば70年間、克服できていない、あらゆる問題の解決がたやすくなるだろう」(NHK NEWS WEB

 北方四島の帰属問題を抜きに平和条約を締結し、その締結後に帰属問題の話し合いを行おうという日本の基本的立場――日本のに反する提案となるからだ。

 対して9月13日午前の記者会で見せた官房長官菅義偉の反応。「NHK NEWS WEB」(2018年9月13日 12時21分)

 菅義偉「常日頃からロシアとの間では意思疎通を図ってきており、具体的なやり取りについて発言は控えたい。プーチン大統領の今回の発言は、平和条約を締結して日ロ関係の発展を加速したいとの強い気持の表れではなかったかなと思う」

 記者「プーチン大統領の提案は、北方領土問題の棚上げにつながると受け止めているか」

 菅義偉「我が国としては領土問題を解決して平和条約を締結するというのが基本的な立場であり、こうした我が国の立場はロシア側も承知していると思っている」――

 菅義偉は「プーチン大統領の今回の発言は、平和条約を締結して日ロ関係の発展を加速したいとの強い気持の表れだ」との認識を示している。

 これと同じような認識をウラジオストクから帰国し、公明党の山口代表と会談した中で指摘したと次の記事、「NHK NEWS WEB」2018年9月13日 18時56分)が伝えている。

 安倍晋三「(提案は)プーチン大統領の平和条約締結に対する意欲の表れだと捉えている。政府の方針としては、北方四島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結するという基本に変わりはない」――

 安倍晋三と菅義偉の発言は日本の国益にも適っているプーチンの提案のように聞こえる。いわば日本政府が基本的立場としている北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する行程表がさも進展するかのような物言いに見える。

 プーチンの提案が「平和条約を締結して日ロ関係の発展を加速したいとの強い気持の表れ」であろうと、「平和条約締結に対する意欲の表れ」であろうと、それはロシアの国益に立った「強い気持」や「意欲」の表れであって、当たり前のことだが、日本の国益に適うどころか、そういった気持や意欲が強ければ強い程、日本の国益から乖離することになり、北方四島の帰属問題の解決を難しくしていく、あるいは解決の可能性をゼロにしていく現実が横たわることになる。

 当然、プーチンの提案をそこに内在させている”国益”という頑強な要素を排除して「強い気持の表れだ」とか、「意欲の表れ」で片付けるのは日ロ両国でそれぞれに異なる国益そのものを直視していない愚かしい認識の提示だと解釈されかねない。

 安倍晋三は今回のプーチンとの首脳会談で北方領土での共同経済活動の具体化に向けた今後の行程表を取り纏め、会談後の共同記者発表で、「四島の未来像を共に描く道筋が見えてきた。双方の法的立場を害さず、できることから実現する」(NHK NEWS WEB)と発言、日ロ関係の明るい先行きを確信させているが、現実にはロシア側が自国の法律に矛盾しないことという条件を譲らず、北方四島での共同経済活動のための双方の法的立場を害さない「特別な制度」を構築し得ないでいる。

 その原因はロシア側が日本の国益に歩み寄る気配すら見せず、自らの国益を譲る意思がないからで、安倍晋三が共同経済活動に関していくら「双方の法的立場を害さず、できることから実現する」と言っても、「特別な制度」がロシアの国益が障害となって創設できなければ、共同経済活動はロシアの法律に従って行われることになり、北方四島を即ロシア領と認めることになりかねない。

 いわば「特別な制度」の創設が先でありながら、後回しにして「双方の法的立場を害さず、できることから実現する」と言っていることは日ロ両国の国益の違いに蓋をして国民を騙す発言となる。

 もし日ロ双方の国益の違いが北方四島の帰属問題と平和条約締結問題進展の障害、さらに共同経済活動に於ける双方の法的立場を害さない「特別な制度」創設の障害となっていることを得視していながら、プーチン提案を菅義偉は「平和条約を締結して日ロ関係の発展を加速したいとの強い気持の表れだ」と解釈し、安倍晋三の方は「プーチン大統領の平和条約締結に対する意欲の表れだ」と認識しているとしたら、同じく日ロ両国の国益の違いに蓋をして国民を騙す発言何よりの発言となる。

 どちらにしても安倍晋三も菅義偉も、北方領土問題に関して何が問題となっているのかに蓋をして、さも平和条約締結に向かうかのような国民を騙す発言を繰返している。

 この国民騙しに河野太郎が加わる。「時事ドットコム」(2018/09/13-17:59)

 9月13日、訪問先のベトナム・ハノイで記者団に対して。

 河野太郎「(プーチン提案に対して)なるべく早く平和条約を締結したいという思いがよく分かった。向いている方向は(日ロ両国で)同じだと確認した」

 この男の頭の中はどうなっているのだろう。プーチン提案を受け入れて、平和条約を先に締結すれば、領土帰属問題は棚上げにされる可能性は高くなる。にも関わらず、「向いている方向は(日ロ両国で)同じだと確認した」と言うことができる。

 外国訪問回数のハッタリだけで持っている外務大臣で、ハッタリという点でそっくりの安倍晋三が任命しただけのことはある。
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