《プーチン大統領 「年内に平和条約を」》(NHK NEWS WEB/2018年9月12日 16時03分)
2018年9月12日東方経済フォーラム2018全体会合。テーブルにプーチンを初め、中国の習近平、日本の安倍晋三、その他モンゴルなどの各国首脳が3名、合計6名が聴衆を前にテーブルに着いていた。プーチンや我が安倍晋三、習近平中国国家主席の演説後、プーチンが司会者に発言を求められた。プーチンの演説後だから、前以って示し合わせていた可能性は高い。
プーチン(戦後70年以上、日ロ間で北方領土問題が解決できずにいることに触れた上で)「今思いついた。まず平和条約を締結しよう。今すぐにとは言わないが、ことしの年末までに。いかなる前提条件も付けずに。
(会場から拍手)拍手をお願いしたわけではないが、支持してくれてありがとう。その後、この平和条約をもとに、友人として、すべての係争中の問題について話し合いを続けよう。そうすれば70年間、克服できていない、あらゆる問題の解決がたやすくなるだろう」――
このプーチンの唐突な提案に対する9月12日午後の官房長官菅義偉の記者会見発言を記事は紹介している。
菅義偉「プーチン大統領の発言については承知しているが、その意図についてコメントすることは控える。日ロ首脳会談ではきたんのない意見交換があったが、指摘されるようなプーチン大統領の発言はなかった。わが国の立場は、たびたび申し上げているように北方四島の帰属の問題を解決したうえで平和条約を締結する。これは全く変わりない」――
首脳会談では「指摘されるようなプーチン大統領の発言はなかった」
当然だろう。そのような発言があったなら、テレビ放映も含めたら、世界の目が集まっている衆人環視の場とも言える全体会合で同じ発言を繰返しはしないはずだ。
記事は、〈プーチン大統領としては、困難な北方領土問題の解決を棚上げにして、平和条約を速やかに結びたい考えを示したものと見られます。〉と解説しているが、プーチンは日ロ2国間問題を2日前のロシアのウラジオストクで行われた22回目だとかの2時間35分に亘った日ロ首脳会談では提案せずに他国の首脳が4人も列席し、テレビカメラが入り、聴衆が目の前にいる中で外交上の慣例からしたら異例で、失礼に当たる方法で唐突に提案したのはなぜなのだろう。
ロシア大統領が他国首脳も列席している中で安倍晋三に対して直接口にした提案である。ロシア外務省が日ロ間でこの提案をベースに議論していくことを既定路線とするかのような発言を自国メディアに示したのは当然の成り行きであるし、あるいはロシア政府の中で前以って既定路線とすることを打ち合わせていたのかもしれない。
モルグロフ外務次官「この提案も含めて日本と協議を進めていく。我々は用意ができている。日本のパートナーがいつ準備ができるかにかかっている」
「さあ、準備してください」と促している。
だが、菅義偉が言っているように日本としては受け入れるわけにはいかないはずだ。そのことは記事が、「平和条約をめぐる日本の立場」として解説していることからも頷くことができる。
〈ロシアとの平和条約交渉をめぐっては、日本政府は「北方四島の帰属の問題を解決して条約を締結する」という立場を一貫してとってきました。
仮に帰属の問題を解決しないまま平和条約を結べば、領土問題が存在しないことを日本側が認めたと国際社会に受け止められかねないという立場からです。〉
当ブログにプーチンは北方四島を返還する気はなく、これらの島々を自国領土としたまま平和条約だけを結ぶ意思でいると何度か書いてきたが、その意思をいつもとは違う方法で今回は単刀直入且つ露骨に提示した。
22回もの首脳会談を繰返していながら、ナメられたものである。上記NHK記事の動画を編集してプーチンの発言と発言に対する安倍晋三の反応をピックアップしてみたが、日本政府が受け入れ難いのはプーチンの提案に対して安倍晋三は最初は穏やかな表情で頷きながら聞いていたものの、思わずにだろう、プーチンとは反対の方向に顔を背けた様子からも窺うことができる。
要するに安倍晋三はプーチンの顔と口にする言葉に最後まで目を向けていることができなかった。
安倍晋三は9月10日午後、ウラジオストクに羽田空港を出発する際、記者団に対して「あらゆる分野で日ロ関係を進め、領土問題を解決して平和条約を締結する。その方向に向けてしっかり前進していきたい」と発言し、同日の首脳会談後の共同記者会見では日露平和条約が締結されていない状況について「異常な戦後がそのままになっている。私とプーチン大統領の間で終わらせる」(「毎日新聞」(2018年9月10日 23時30分)と、その可能性を確実に請け合うことができるかのように大層な言葉を使っている。
つまりプーチンとの首脳会談で「領土問題を解決して平和条約を締結する」前向きの感触を得たことになる。得ていなければ、「異常な戦後」を「私とプーチン大統領の間で終わらせる」などと御大層に請け合うことはできない。
プーチンが北方四島を元々返還する気がないのは「北方四島は第2次世界大戦の結果、ロシア領となった」というロシア側の立場を踏まえているからなのは断るまでもない。9月10日に日ロ首脳会談を控えているというのにロシア政府はたった8日前の9月2日、北方領土の国後島、択捉島、色丹島で日本に勝利したことを祝う式典を開いている。「ロシア領となった」ことの日本向けシグナルも含まれているはずだ。北方四島の軍備強化もロシア領であることのシグナルであろう。
当然、ロシア側には領土問題の解決を前提とした平和条約締結のシナリオは存在しないことになる。にも関わらず、日ロ首脳会談後の共同記者発表で我が日本の安倍晋三は平和条約が締結されていない「異常な戦後がそのままになっている。私とプーチン大統領の間で終わらせる」と日本側のシナリオを前面に出した。
プーチンは自身が首脳会談でロシア側のシナリオに添ったシグナルを発することはあっても、日本側のシナリオに添ったシグナルに呼応してはいないにも関わらず、安倍晋三が記者会見等でプーチンが日本側のシナリオに添ったシグナルに呼応しているかのような発言を繰返していることに業を煮やしたのではないだろうか。
「いい加減にしろ、領土返還に応じるつもりはない」とばかりに。
そこで北方四島問題が重要な日ロ二国間問題であるにも関わらず、他国首脳が列席し、聴衆も存在する東方経済フォーラムの衆人環視に等しいとも言える全体会合の場でロシア側の国益に添わせる都合のいいシナリオとなる領土の帰属を前提としない平和条約締結の話を持ち出した。
重要な二国間問題を首脳同士の合意がないままに首脳会談の外に出すこと自体が外交上は失礼に当たるプーチンのこのような態度は安倍晋三の発言に業を煮やしていなければ、見せることはないはずだ。
要するに日ロ首脳会談でプーチンは「領土問題を解決して平和条約を締結する」前向きの感触を安倍晋三に与えていなかったし、安倍晋三もプーチンからそのような感触を得てもいなかった。にも関わらずそのような感触を得たかのように発言をしたのはプーチンとの間で平和条約締結に向けて議論が停滞している状況を日本国民に明らかにすることはできなかったからで、明らかにしたなら、自身の外交能力が優れていることを常々演出している手前、自ら創り上げたそのような偶像を自ら破壊するような真似はできなかった以外に理由は考えることはできない。
アベノミクスにしても、日銀の異次元の金融緩和がなければ、今頃消滅していただろうから、ハッタリでアベノミクスを持たせているに過ぎない。ハッタリこそ、安倍晋三には似合う。