■米会計監査院が勧告
最初に事務的お知らせ。昨日の時点でWeblog北大路機関は、アクセス解析開始から49万アクセスを突破しました。たくさんのアクセスありがとうございます。本題、アメリカ空軍次期空中給油輸送機の選定で、ボーイングKC-767案とエアバスA330MRTTとの競合を行った結果、今年2月にエアバス案に決定、KC-45として導入することとなった。
800機以上が生産されたKC-135空中給油機の後継ということで、少なくとも100機以上の需要が見込まれる次期空中給油輸送機選定ということで、エアバス案が採用されたことに当然ボーイングは反発し、アメリカ会計監査院に対して異議申し立てを行った。この異議申し立てが今月にはいり認められ、会計監査院は報告書において受注競争が公正に行われていなかったことを指摘、空軍も報道官の談話として報告書を重く受け止めると発表。こうして選定は白紙撤回され、再度行われる流れとなっている。
ボーイング案のKC-767は、航空自衛隊が空中給油輸送機として採用しており、日本の導入に先立ってイタリア空軍が導入している。原型となるボーイング767の製造には日本の川崎重工が参加しており、国際共同開発機という表現が正しい。他方、エアバス案は生産をノースロップグラマンと協同で行うこととしており、機体名称こそエアバスというアメリカ以外の名称を冠しているが、生産区分の内訳割合ではKC-767よりもKC-45の方がアメリカの分担が大きいとされている。
KC-767は当初、ボーイングからのリースを受けるとして内定していたものの、リース契約終了時に全機を購入するという契約に対して、リース料が割高という下院軍事委員会からの指摘があり、白紙撤回し再選定を行った結果、KC-45に落ち着いたという経緯がある。KC-45は、KC-767よりも機体が大きく、給油能力にも優れているものの、運用当事者となる空軍からは空中給油機の開発に実績のあるボーイングと比較した場合エアバスに難色を示すものもあったようだ。
地域研究としてアメリカを対象としてみると、労働組合について、我々が想像する以上のポテンシャルを有していることに気付かされる。他方で自由貿易を求め自由競争を掲げていることとやや矛盾を感じなくもないが共和党、民主党の微妙な均衡状態がこういった一種文化を形成している。したがって必ずしも合理的な選択が為されるとは限らないのであるが、今回もその一例というべきなのだろうか。
ところで、今回のKC-45白紙撤回という流れに関して、驚かれなかった方も多少いるのではないだろうか。思い出されるのは空軍の次期救難ヘリコプターとしてCH-101派生型が最有力視されながらもCH-47派生型に決定し、同じような異議申し立てが行われていたからだ。もしかして逆転か再選定、ということもありえるのではないか、と。
米空軍の再選定によりKC767の可能性が再び出てきたということについて、日本はもう一つの視点から注目する必要がある。航空自衛隊がKC-767空中給油輸送機を選定した背景には、川崎重工の生産への参加という要素以上に、浜松基地で運用されているE-767空中早期警戒管制機との相互互換性が重視された。
KC-767は当面4機を導入する予定であるが、将来的に可能であれば数機を増強したいという意向もあるようだ。だが、米空軍が採用しなければ母機となるボーイング767の生産が終了してしまうため、中古機の改造を除けば、調達の可能性が潰えてしまうという点があるわけだ。過去に増勢の予定がありながら製造が終了してしまった事例では海上保安庁のサーブ350などの事例が挙げられるが、日本以外の航空機ど導入するうえでの注意点を一つ示されたような印象だ。
KC-135の後継がKC-767となれば日本にも利点がある点は以上。他方で、KC-135と同じくボーイング707を母体としているE-3早期警戒管制機の後継なども、開発されていたE-10計画が頓挫しているため、母体機がどの航空機になるかについても影響を及ぼそう。日本ではE-2C早期警戒機の後継をそろそろ選定について考えなければならない時期が来ており、国産にしても輸入にしても、そうとう先の装備体系までを含め、検討しなければならないだろう。
HARUNA
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