■北朝鮮動揺と米宥和外交攻勢
朝鮮半島有事は回避されるべきです、本土ミサイル攻撃や邦人保護に浮流機雷と特殊部隊浸透、日本への影響が大きいのですが、この可否を左右するのが米朝首脳会談です。
北朝鮮の李容浩外相が15日、スウェーデンを訪問しました。今回の訪問は五月にも実施される米朝首脳会談の開催国を模索する一環とみられ、スウェーデンの他に中立国であるスイスなどが開催国として検討されているとのこと。当初は金正恩最高指導者が訪米するという流れでしたが、飛行機に乗る必要があり、陸路で移動できる欧州が有力視されている。
トランプ大統領との初会談において、金正恩最高指導者が訪米するとの当初の報道は意外でした、何故ならば、実父の金正日第一書記は自身が主導したラングーン事件と大韓航空機爆破事件を受け、逆に自らが旅客機毎暗殺される事を恐れ、外国訪問は基本的にロシアへ専用列車利用、航空機を使わなかったのです。訪米ならば航空機を使わねばならない。
金正恩最高指導者は、しかし結局会談場所にスイスやスウェーデンの調整を行っているとの報道から、やはり北朝鮮は変われないのではないかとの危惧がありました、17日にスウェーデン政府は北朝鮮が米朝首脳会談をスウェーデン国内で行うとの観測報道に対し、そのような事実についての言及を行いませんでした。スイス政府もこの点についての言及はありません。
こうした中で、訪米という方針が一転した以上、ただし訪米の意向を示しただけで確約したものではないとの部分を差し引く必要があるとはいえ、他の施策も一転しないのか、核武装放棄示唆や米韓合同演習容認論も次第に姿勢変更するのではないか、核開発へ時間稼ぎのための交渉をアメリカは今回も許すとは限らない、こうした視点から関心を持っていました。
北朝鮮寧辺核関連研究施設において実験用軽水炉が稼動状態へ移行しつつある。米ジョンズホプキンズ大学北朝鮮研究機関38ノースとIHSジェーンズが衛星画像解析から、示した結論で、これは北朝鮮が米朝首脳会談を行うのに先立ち、長距離ミサイル実験や核実験を行わないと一方的宣言したものの、核弾頭量産に言及しなかった点と関係がありましょう。
寧辺核関連研究施設の実験用軽水炉は兵器用核物質精製能力があり、プルトニウムとトリチウムの製造に転用されれば核弾頭数を増大させる懸念があります。寧辺核関連研究施設の現状を見ますと、必然的にアメリカが求める核兵器放棄は核開発技術へも言及される事は必至であり、寧辺核関連研究施設の解体要求を含め厳しい交渉となる事が予想されます。
歴史的な米朝首脳会談が決定したのもつかの間、北朝鮮の労働党機関紙労働新聞は朝鮮半島の平和には核武装放棄よりも前に在韓米軍の全面撤退を行う必要があるとしました。米朝首脳会談を前に米韓合同軍事演習へも一定の理解を示す宥和的な姿勢を示しつつ、基本的には譲歩の余地がないことを改めて突き付けた形で、交渉の難しさが示されました。
米宥和外交攻勢を前にアメリカへの姿勢が一本化出来ず動揺している北朝鮮ですが、その一方で北朝鮮当局の談話の形で、日本へ制裁解除を行わなければ平壌での首脳会談の可能性がなくなるとの、ゆさぶりを掛けています、これは逆に北朝鮮国内の指導部意見集約混迷ともいえ、米朝二国間交渉を求めつつ突如成立しような情勢下、多極化交渉の枠組を模索しているように分析できるもの。
在韓米軍の撤退、韓国の安全保障上現実離れした要求と云わざるを得ません。韓国の防衛力は年々近代化されている事も確かではありますが、核戦力を有する北朝鮮は米軍の核抑止力が無ければ、緒戦でソウル北部の南北軍事境界線を戦術核兵器により攻撃された場合、当然ながら防衛線を維持する事は出来ません。これは韓国存続の国際信用度にも関わる。しかし、北朝鮮の主張が現実味を帯びないものを突如示唆する当たり、北朝鮮が動揺しているとも受け取れる。
南北朝鮮統一は南北の悲願であるも、これは完全な民主的合意と平和的手段の下で行われなければなりません。この後に在韓米軍の撤退は有り得ますが、現時点では韓国併合となりかねず、確実な検証と査察による北朝鮮の完全な核兵器と核関連施設の放棄が無ければ、在韓米軍撤退は韓国の核武装や次の周辺地域への核戦力拡散へ繋がりかねない問題です。
これは、南北会談がそのまま米朝首脳会談示唆に繋がり、即座にアメリカがトップダウン方式で大統領即決という対応を予測できていなかった、アメリカの外交奇襲成功ともいえるでしょう。プロパガンダの方式を採って宣言を行った北朝鮮がアメリカに言質を取られた形となり、一挙に進む宥和攻勢、北朝鮮が仕掛けた宥和攻勢にそれ以上の宥和反撃を受け、混乱したかたちだ。
北朝鮮の宥和が移行と並行する新しい強硬姿勢は、しかし今回ばかりは逆効果となるかもしれません。アメリカの国務長官更迭によりアメリカの反応が大きく転換する可能性があります。ティラーソン国務長官は3月13日、トランプ大統領により解任されました。また続いて、安全保障分野での対立が伝えられていたマクマスター補佐官も解任され、安全保障政策が大きく転換する事が考えられましょう。
トランプ大統領は対北朝鮮強行論者として知られていまして、選挙当時はアメリカ安全保障への北朝鮮脅威度を低く考えていましたが、現在であれば限定空爆に躊躇するとは考えにくい。この中で、ティラーソン国務長官は平和裏に米朝対立を収束させようとした点から、過去の米朝交渉背景に時間がかかり確実性が低すぎると大統領の不満をかった事で、後任にポンペイオCIA長官が充てられました。
ポンペイオ新国務長官は陸軍士官学校首席卒業と軍務経験を経て除隊後ハーバード大学法科大学院に進んだ法務博士、下院議員を経た元CIA長官として北朝鮮とのし烈なサイバー戦争を戦った経験があり、北朝鮮による核開発の進展と、過去のアメリカがクリントン政権、ブッシュ政権、オバマ政権、と北朝鮮が核開発を秘密裏に進めつつアメリカと宥和政策を進めた厳しい事情を良く知る新国務長官であり、従来通りの北朝鮮背宥和政治には厳しく反応しましょう。
米朝対立が新段階に入りつつある中、この問題は21世紀に冷戦時代型の対立を惹起させる危険な起爆剤となる危険を孕んでいます。朝鮮半島が従来のような時間稼ぎの宥和政策を許さないアメリカ政権の陣容が揃うと共に、米朝対立の中間を仲介する第三国とアメリカとの関係が悪化しているのです、米朝対立を仲介できないばかりか、対立の起爆剤とさえなる可能性がある。
第三国による協力ですが、具体的には米ロ対立、アメリカ大統領選への介入疑惑と共に3月15日に実施したロシア個人及び政府関係者への金融制裁の拡大を受けての米ロ対立の激化で、従来のような米ロ歩み寄りによる北朝鮮交渉が難しくなるのです。そして、この部分が最も重要な要素ですが、米ロ対立の出口戦略が全く見えず、関係良好化の端緒さえ見えません。
北朝鮮とアメリカ、日本と韓国を巡る問題は、中国とロシアの関与が不可欠です。冷戦時代に北朝鮮が核開発を進めなかった背景にはソ連の軍事援助と軍事顧問の駐留が抑止力の一端を担っていた為ですし、在韓米軍が強化された背景には北朝鮮特殊部隊が韓国大統領府を攻撃した青瓦台事件のように、そのソ連の支援と統制の不均衡が悪く進んだ為でした。可能性の一つとして、米ロ対立が顕在化するまえならば、北朝鮮へのロシア軍協力を以て核武装解除をロシアが支援するという選択肢があり得たかもしれない。
しかし、ロシアはクリミア併合とウクライナ東部紛争介入以来、所謂西側諸国との関係悪化が進んでおり、3月4日にイギリスで発生した元ロシア諜報部員神経ガス攻撃事案により、イギリス国内へロシアが神経ガスを持ち込んだ疑惑が高まっており、更にイギリス亡命ロシア人の暗殺疑惑事件が新たに浮上、神経ガス事件だけでも双方の外交官追放へ対立が激化しています。この米朝関係に大きな影響を及ぼすロシアと旧西側諸国の対立構造も無視できません。
ロシアが仲介する北朝鮮核武装放棄への道筋は、こうした事情から難しくなっています。また、2013年に友好国シリアがシリア内戦に際し神経ガスを用い、アメリカが懲罰爆撃を実行寸前まで展開した際にロシアが化学兵器武装解除を提案、しかし不徹底に終わった事例がありました。北朝鮮が同様の施策を行おうにもこうした実例が生まれ、例えば北朝鮮核武装解除へロシアが協力する事となった結果、北朝鮮国内へロシア軍基地が建設されるというシリア情勢の再現が懸念される事から、米ロ協力による核武装解除も厳しくなった。
ただし、在韓米軍撤収、北朝鮮が提示した核武装解除への条件となる在韓米軍撤退の可能性が皆無化と云えばまったくその限りではありません、過去にもカーター政権時代には在韓米軍撤収が真剣に検討されたことがありました。トランプ大統領は3月14日、ミズーリ州での演説において韓国との膨大な貿易赤字に触れ、同盟国は自国だけの事を考える国は相応しくないとし、在韓米軍を撤退させる示唆を行いました。
駐留経費の観点から本当に核武装解除があり得るならば、可能性は変わるのですが、現時点では非現実的に過ぎない。過去の歴史から北朝鮮は宥和の陰で核開発を継続してきましたので、完全な核武装放棄と核開発能力を確実に破棄する検証可能な背景さえ確立できるならば、アメリカの駐留負担軽減と加え悪い話ではない、と判断される余地がありますが、これを時間稼ぎへ悪用した場合の北朝鮮への攻撃は苛烈を極めるものとなり得る。
トランプ大統領は、カーター大統領のような南北融和の観点からの在韓米軍撤退ではなく、韓国へ対米貿易収支黒字を見直させる選択肢として、在韓米軍撤収を政治的要求の手段に用いた構図ですが、在韓米軍撤退はアメリカ大統領選当時、この際は在日米軍撤退と日本核武装容認を含め、提示していたものであり、背景は異なるものの可能性は皆無ではないのです。一方で、北朝鮮核武装を容認する可能性は、皆無です。
核のドミノ倒し、何故ならば際限なき核拡散の端緒となり得ない為です、実際問題、中東に目を移せばイラン核開発が進むのであればサウジアラビアが核開発を行うという、核拡散ドミノ倒し、というべき状況が醸成されつつあり、在韓米軍が撤退したままで確実な北朝鮮核武装放棄を確認できなければ韓国核武装という状況も想定する必要さえ生じるでしょう、核拡散防止の枠組さえなければ核武装を望む国は少なくありません。
米朝首脳会談は、長い核武装放棄への端緒となる、とは米朝首脳会談決定の際に示したやや厳しい分析でしたが、場合によっては完全な物別れとなるならば、アメリカによる核施設への限定空爆、勿論大規模紛争への米朝開戦の一撃となる可能性が高い。少なくとも、巡航ミサイルなどによる限定空爆への過剰反応という形で、徐々に段階が悪化する経路をたどる可能性は否定できない。
一方で、北朝鮮国内での米朝首脳会談への調整や意見集約が位置しているとは言えず、これも核武装を行うという国是と核武装を求めるアメリカとの米朝首脳会談は体制動揺にも展開し得ない、しかし、従来通り時間稼ぎに用いる事は上記大規模な軍事制裁、こうした施策へアメリカが展開する可能性すらあります。今後も慎重深く、日本海の対岸をみてゆくべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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朝鮮半島有事は回避されるべきです、本土ミサイル攻撃や邦人保護に浮流機雷と特殊部隊浸透、日本への影響が大きいのですが、この可否を左右するのが米朝首脳会談です。
北朝鮮の李容浩外相が15日、スウェーデンを訪問しました。今回の訪問は五月にも実施される米朝首脳会談の開催国を模索する一環とみられ、スウェーデンの他に中立国であるスイスなどが開催国として検討されているとのこと。当初は金正恩最高指導者が訪米するという流れでしたが、飛行機に乗る必要があり、陸路で移動できる欧州が有力視されている。
トランプ大統領との初会談において、金正恩最高指導者が訪米するとの当初の報道は意外でした、何故ならば、実父の金正日第一書記は自身が主導したラングーン事件と大韓航空機爆破事件を受け、逆に自らが旅客機毎暗殺される事を恐れ、外国訪問は基本的にロシアへ専用列車利用、航空機を使わなかったのです。訪米ならば航空機を使わねばならない。
金正恩最高指導者は、しかし結局会談場所にスイスやスウェーデンの調整を行っているとの報道から、やはり北朝鮮は変われないのではないかとの危惧がありました、17日にスウェーデン政府は北朝鮮が米朝首脳会談をスウェーデン国内で行うとの観測報道に対し、そのような事実についての言及を行いませんでした。スイス政府もこの点についての言及はありません。
こうした中で、訪米という方針が一転した以上、ただし訪米の意向を示しただけで確約したものではないとの部分を差し引く必要があるとはいえ、他の施策も一転しないのか、核武装放棄示唆や米韓合同演習容認論も次第に姿勢変更するのではないか、核開発へ時間稼ぎのための交渉をアメリカは今回も許すとは限らない、こうした視点から関心を持っていました。
北朝鮮寧辺核関連研究施設において実験用軽水炉が稼動状態へ移行しつつある。米ジョンズホプキンズ大学北朝鮮研究機関38ノースとIHSジェーンズが衛星画像解析から、示した結論で、これは北朝鮮が米朝首脳会談を行うのに先立ち、長距離ミサイル実験や核実験を行わないと一方的宣言したものの、核弾頭量産に言及しなかった点と関係がありましょう。
寧辺核関連研究施設の実験用軽水炉は兵器用核物質精製能力があり、プルトニウムとトリチウムの製造に転用されれば核弾頭数を増大させる懸念があります。寧辺核関連研究施設の現状を見ますと、必然的にアメリカが求める核兵器放棄は核開発技術へも言及される事は必至であり、寧辺核関連研究施設の解体要求を含め厳しい交渉となる事が予想されます。
歴史的な米朝首脳会談が決定したのもつかの間、北朝鮮の労働党機関紙労働新聞は朝鮮半島の平和には核武装放棄よりも前に在韓米軍の全面撤退を行う必要があるとしました。米朝首脳会談を前に米韓合同軍事演習へも一定の理解を示す宥和的な姿勢を示しつつ、基本的には譲歩の余地がないことを改めて突き付けた形で、交渉の難しさが示されました。
米宥和外交攻勢を前にアメリカへの姿勢が一本化出来ず動揺している北朝鮮ですが、その一方で北朝鮮当局の談話の形で、日本へ制裁解除を行わなければ平壌での首脳会談の可能性がなくなるとの、ゆさぶりを掛けています、これは逆に北朝鮮国内の指導部意見集約混迷ともいえ、米朝二国間交渉を求めつつ突如成立しような情勢下、多極化交渉の枠組を模索しているように分析できるもの。
在韓米軍の撤退、韓国の安全保障上現実離れした要求と云わざるを得ません。韓国の防衛力は年々近代化されている事も確かではありますが、核戦力を有する北朝鮮は米軍の核抑止力が無ければ、緒戦でソウル北部の南北軍事境界線を戦術核兵器により攻撃された場合、当然ながら防衛線を維持する事は出来ません。これは韓国存続の国際信用度にも関わる。しかし、北朝鮮の主張が現実味を帯びないものを突如示唆する当たり、北朝鮮が動揺しているとも受け取れる。
南北朝鮮統一は南北の悲願であるも、これは完全な民主的合意と平和的手段の下で行われなければなりません。この後に在韓米軍の撤退は有り得ますが、現時点では韓国併合となりかねず、確実な検証と査察による北朝鮮の完全な核兵器と核関連施設の放棄が無ければ、在韓米軍撤退は韓国の核武装や次の周辺地域への核戦力拡散へ繋がりかねない問題です。
これは、南北会談がそのまま米朝首脳会談示唆に繋がり、即座にアメリカがトップダウン方式で大統領即決という対応を予測できていなかった、アメリカの外交奇襲成功ともいえるでしょう。プロパガンダの方式を採って宣言を行った北朝鮮がアメリカに言質を取られた形となり、一挙に進む宥和攻勢、北朝鮮が仕掛けた宥和攻勢にそれ以上の宥和反撃を受け、混乱したかたちだ。
北朝鮮の宥和が移行と並行する新しい強硬姿勢は、しかし今回ばかりは逆効果となるかもしれません。アメリカの国務長官更迭によりアメリカの反応が大きく転換する可能性があります。ティラーソン国務長官は3月13日、トランプ大統領により解任されました。また続いて、安全保障分野での対立が伝えられていたマクマスター補佐官も解任され、安全保障政策が大きく転換する事が考えられましょう。
トランプ大統領は対北朝鮮強行論者として知られていまして、選挙当時はアメリカ安全保障への北朝鮮脅威度を低く考えていましたが、現在であれば限定空爆に躊躇するとは考えにくい。この中で、ティラーソン国務長官は平和裏に米朝対立を収束させようとした点から、過去の米朝交渉背景に時間がかかり確実性が低すぎると大統領の不満をかった事で、後任にポンペイオCIA長官が充てられました。
ポンペイオ新国務長官は陸軍士官学校首席卒業と軍務経験を経て除隊後ハーバード大学法科大学院に進んだ法務博士、下院議員を経た元CIA長官として北朝鮮とのし烈なサイバー戦争を戦った経験があり、北朝鮮による核開発の進展と、過去のアメリカがクリントン政権、ブッシュ政権、オバマ政権、と北朝鮮が核開発を秘密裏に進めつつアメリカと宥和政策を進めた厳しい事情を良く知る新国務長官であり、従来通りの北朝鮮背宥和政治には厳しく反応しましょう。
米朝対立が新段階に入りつつある中、この問題は21世紀に冷戦時代型の対立を惹起させる危険な起爆剤となる危険を孕んでいます。朝鮮半島が従来のような時間稼ぎの宥和政策を許さないアメリカ政権の陣容が揃うと共に、米朝対立の中間を仲介する第三国とアメリカとの関係が悪化しているのです、米朝対立を仲介できないばかりか、対立の起爆剤とさえなる可能性がある。
第三国による協力ですが、具体的には米ロ対立、アメリカ大統領選への介入疑惑と共に3月15日に実施したロシア個人及び政府関係者への金融制裁の拡大を受けての米ロ対立の激化で、従来のような米ロ歩み寄りによる北朝鮮交渉が難しくなるのです。そして、この部分が最も重要な要素ですが、米ロ対立の出口戦略が全く見えず、関係良好化の端緒さえ見えません。
北朝鮮とアメリカ、日本と韓国を巡る問題は、中国とロシアの関与が不可欠です。冷戦時代に北朝鮮が核開発を進めなかった背景にはソ連の軍事援助と軍事顧問の駐留が抑止力の一端を担っていた為ですし、在韓米軍が強化された背景には北朝鮮特殊部隊が韓国大統領府を攻撃した青瓦台事件のように、そのソ連の支援と統制の不均衡が悪く進んだ為でした。可能性の一つとして、米ロ対立が顕在化するまえならば、北朝鮮へのロシア軍協力を以て核武装解除をロシアが支援するという選択肢があり得たかもしれない。
しかし、ロシアはクリミア併合とウクライナ東部紛争介入以来、所謂西側諸国との関係悪化が進んでおり、3月4日にイギリスで発生した元ロシア諜報部員神経ガス攻撃事案により、イギリス国内へロシアが神経ガスを持ち込んだ疑惑が高まっており、更にイギリス亡命ロシア人の暗殺疑惑事件が新たに浮上、神経ガス事件だけでも双方の外交官追放へ対立が激化しています。この米朝関係に大きな影響を及ぼすロシアと旧西側諸国の対立構造も無視できません。
ロシアが仲介する北朝鮮核武装放棄への道筋は、こうした事情から難しくなっています。また、2013年に友好国シリアがシリア内戦に際し神経ガスを用い、アメリカが懲罰爆撃を実行寸前まで展開した際にロシアが化学兵器武装解除を提案、しかし不徹底に終わった事例がありました。北朝鮮が同様の施策を行おうにもこうした実例が生まれ、例えば北朝鮮核武装解除へロシアが協力する事となった結果、北朝鮮国内へロシア軍基地が建設されるというシリア情勢の再現が懸念される事から、米ロ協力による核武装解除も厳しくなった。
ただし、在韓米軍撤収、北朝鮮が提示した核武装解除への条件となる在韓米軍撤退の可能性が皆無化と云えばまったくその限りではありません、過去にもカーター政権時代には在韓米軍撤収が真剣に検討されたことがありました。トランプ大統領は3月14日、ミズーリ州での演説において韓国との膨大な貿易赤字に触れ、同盟国は自国だけの事を考える国は相応しくないとし、在韓米軍を撤退させる示唆を行いました。
駐留経費の観点から本当に核武装解除があり得るならば、可能性は変わるのですが、現時点では非現実的に過ぎない。過去の歴史から北朝鮮は宥和の陰で核開発を継続してきましたので、完全な核武装放棄と核開発能力を確実に破棄する検証可能な背景さえ確立できるならば、アメリカの駐留負担軽減と加え悪い話ではない、と判断される余地がありますが、これを時間稼ぎへ悪用した場合の北朝鮮への攻撃は苛烈を極めるものとなり得る。
トランプ大統領は、カーター大統領のような南北融和の観点からの在韓米軍撤退ではなく、韓国へ対米貿易収支黒字を見直させる選択肢として、在韓米軍撤収を政治的要求の手段に用いた構図ですが、在韓米軍撤退はアメリカ大統領選当時、この際は在日米軍撤退と日本核武装容認を含め、提示していたものであり、背景は異なるものの可能性は皆無ではないのです。一方で、北朝鮮核武装を容認する可能性は、皆無です。
核のドミノ倒し、何故ならば際限なき核拡散の端緒となり得ない為です、実際問題、中東に目を移せばイラン核開発が進むのであればサウジアラビアが核開発を行うという、核拡散ドミノ倒し、というべき状況が醸成されつつあり、在韓米軍が撤退したままで確実な北朝鮮核武装放棄を確認できなければ韓国核武装という状況も想定する必要さえ生じるでしょう、核拡散防止の枠組さえなければ核武装を望む国は少なくありません。
米朝首脳会談は、長い核武装放棄への端緒となる、とは米朝首脳会談決定の際に示したやや厳しい分析でしたが、場合によっては完全な物別れとなるならば、アメリカによる核施設への限定空爆、勿論大規模紛争への米朝開戦の一撃となる可能性が高い。少なくとも、巡航ミサイルなどによる限定空爆への過剰反応という形で、徐々に段階が悪化する経路をたどる可能性は否定できない。
一方で、北朝鮮国内での米朝首脳会談への調整や意見集約が位置しているとは言えず、これも核武装を行うという国是と核武装を求めるアメリカとの米朝首脳会談は体制動揺にも展開し得ない、しかし、従来通り時間稼ぎに用いる事は上記大規模な軍事制裁、こうした施策へアメリカが展開する可能性すらあります。今後も慎重深く、日本海の対岸をみてゆくべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
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