北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

米朝首脳会談実現!金正恩五月にも訪米しトランプ大統領首脳会談,結実した日米経済制裁圧力

2018-03-10 20:00:48 | 国際・政治
■日本の悲願,核拡散防止へ一歩
 朝鮮半島情勢、ここ数か月間は真剣に開戦の危惧がありましたが、緊張緩和か破局か、危惧された大規模武力衝突は回避され、前者へ向け大きく動こうとしています。

 朝鮮半島情勢が緊張緩和に向け大きく変動しつつあります、このまま核武装放棄への道筋の端緒に就き、中長期的に北朝鮮核武装放棄が実現するのか、更に続いて神経ガスなどの大量破壊兵器廃棄を条件とする北朝鮮国際社会への復帰が実現するのか。逆にこの米朝交渉を核開発への米国経済制裁強化への遅滞行動に転用した場合、破局的結果もありうる。

 ピョンチャン五輪における南北融和の機運は韓国代表団の訪朝という南北対話の再開へ漕ぎ着け、韓国代表団はそのまま訪米、北朝鮮の金正恩最高指導者が米朝首脳会談を希望し訪米を希望している旨をアメリカ政府へ通知、アメリカのトランプ大統領は、よし会おう、との即断即決で意思を表明、史上初の米朝首脳会談が五月にも実現する目途が付きました。

 国連安全保障理事会決議に基づく経済制裁が着実に成果を実らせた結果の北朝鮮側妥協、とみる事が出来るでしょう。国連安全保障理事会による石油関連資材輸出制限は、開始されそれほど期間を経ている訳ではなく、厳密に計算する限りでは北朝鮮に経済制裁の悪影響が生じている段階ではない、と分析することは出来ますが、当方は逆であると考えます。

 海上自衛隊P-3C哨戒機による北朝鮮禁輸物資密輸監視が黄海や日本海は勿論、東シナ海においても広範に実施され、現状のまま推移したならば確実に北朝鮮は通常戦力による大規模攻勢を示唆する事が出来ない水準まで石油が枯渇する事は目に見えています。米朝交渉をその段階で開始した場合、パワーバランスは核戦力偏重となり、交渉が成り立たない。

 北朝鮮通常戦力は膨大な規模です。質はともかくとして砲兵火力は、韓国の首都ソウル外縁部を射程に収め、長距離ロケット砲はソウル中心部を打撃可能であると共に、火砲は南北軍事境界線付近だけでも4000門、ロケット砲を含めれば6600門に達します。精度を度外視し飽和攻撃を行うには十分な戦力であり、T-62戦車改良型等も多数を保有しています。

 韓国への軍事的圧力として、T-62改良型は一見旧式と見えます、我が国の74式戦車よりもT-62は確かに旧式です。しかし北朝鮮はT-62戦車ライセンス生産を実施し、砲塔と再設計、車体部分も強化した国産の暴風号や千里馬号といった派生型を生産しており、基本設計は旧式であるものの、能力については未知数、そして総数の多さを忘れてはならない。

 通常戦力の優位を誇示出来るからこそ、核武装に関する米朝交渉に就けるのであって、通常戦力の優位性が国際社会からの石油関連資材輸出制限により破たんした後では核武装偏重の体制に行きつき、そこで核武装放棄を会談したのでは北朝鮮は完全に無防備となりかねません。核開発にめどがつき、制裁が次段階に移る前だからこその交渉といえましょう。

 米朝交渉は長期化する事が考えられます。世界史上核開発を完了させ核武装放棄に成功した事例は、南アフリカが核爆発装置を完成寸前で放棄した事例、インドが最初の核爆発装置核実験成功の後に放棄した事例、これはその数十年後に再開し現在核保有国です。そしてウクライナがソ連崩壊後に取得した核兵器を交渉の末ロシアに移管した事例があります。

 しかし、北朝鮮核開発はこれまで、核開発中止に伴う見返りの重油提供や人道物資支援を受けつつ、その裏で核開発を継続していた繰り返しでした。核開発は本当に行われていないのではないか、大量破壊兵器開発を口実としたイラク戦争後に、反省として考えられた北緒戦核開発疑惑は、2006年最初の核実験により文字通り見事に瓦解したといえましょう。

 1994年、アメリカのクリントン政権は北朝鮮への精密誘導弾による限定空爆直前まで展開し、韓国では予備役の臨時招集が行われると共に小中学校が休校、ソウル都市圏から北朝鮮砲兵火力圏外への疎開まで行われました。しかし、核開発放棄を条件に兵器用核開発に転用できない軽水炉提供と重油提供により、核兵器の開発は完全に放棄された、筈でした。

 六か国協議として北朝鮮核開発放棄と、その見返りとしてのエネルギー開発支援を討議する枠組みが構築されましたが、2005年には北朝鮮の新たな核開発疑惑から、当時のアメリカブッシュ政権は北朝鮮をテロ支援国家として、北朝鮮がマネーロンダリングに用いているとした複数金融機関口座を凍結しています。この指定はオバマ政権時代に解除されます。

 トランプ大統領は、早ければ五月にも金正恩最高指導者との首脳会談に臨みます。この首脳会談一回で、北朝鮮が長期的な核武装放棄計画を示唆する事は充分考えられますが、核武装放棄の条件や、また1994年の朝鮮半島核危機以来実に24年間の歴史を鑑みれば、核関連施設査察枠組みや検証可能な第三国による平和利用核開発の管理の要諦は未知数です。

 金正恩最高指導者は、一切示唆しませんが、北朝鮮は核兵器以外の大量破壊兵器を備蓄している事実を忘れてはなりません。亡命中の政敵金正男氏をマレーシア国内において暗殺した際にVXガスを使用しています。VXガスは東京でテロに使用された地下鉄サリン事件のサリンと同系統の攻撃用化学兵器であり、同重ならば戦術核兵器と同等の脅威度がある。

 最良の核武装放棄は、兵器用核兵器の完全廃棄、核開発関連施設の維持を見返りとした第三国による平和利用以外の核開発への徹底監視体制、通常弾頭型弾道弾の数量規制と大量破壊兵器拡散防止レジームへの参加、でしょう。北朝鮮は核開発を成し遂げた核物理学陣と大陸間弾道弾を独力開発するロケット工業力があり、潜在的に高い工業国となり得ます。

 最良の選択肢を北朝鮮指導部が選択するならば、民主化により経済を飛躍させたミャンマーのようになる。安価で勤勉な労働力と先端技術に応用可能な技術開発能力は、東南アジア諸国の新興工業国以上に、中国並の高度集約財を安価に製造する新工業国として世界に躍進、短期的は難しくとも中長期的に一人当たりGDPでは韓国に追いつく事さえ可能です。

 次善の選択肢としては、核開発への見通しが不明確であっても核兵器の総数を明示し、使用できない核抑止の基盤を朝鮮半島に構築する事でしょう。核抑止とは、冷戦時代のように在韓米軍への戦術核兵器前方展開を行い、北朝鮮が第三国を核攻撃した際には即座に在韓米軍が韓国軍の戦時統帥権を通じて北朝鮮に破滅的な規模での戦術核攻撃を加える、と。

 被爆国である日本には在韓米軍核戦力前方展開は非常に受け入れがたい次善の策ですが、一旦、均衡状態を構築した上で核兵器を漸減してゆく。朝鮮半島からアメリカはグアム以遠へ撤収する同数の核兵器を北朝鮮は廃棄、もしくは核兵器国である友好国ロシアや中国へ移管し最終的に核不拡散条約の枠組み内へ持ち込み、廃棄してゆくという道筋でもよい。

 准最悪の選択肢は、核兵器放棄の道筋を永遠の十年後、つまり中期的に施策を見直すとして、いつかは完全廃棄するが廃棄着手の時期を明確としない選択肢を採り、韓国への米軍核兵器前方展開さえ認めないというもの。この場合、日本は究極の選択肢として核脅威を受け入れつつ、在日米軍核兵器前方展開可否という政治上の禁忌さえ討議せざるをえない。

 最悪の選択肢は、米朝開戦です。北朝鮮指導部は金正恩最高指導者を含め回避したいと考えるところでしょう。究極的判断を強いられた際は核兵器使用は司法が判断できない、1994年核兵器使用合法性事件において国際司法裁判所が勧告的意見として示した、事実上の国際慣習法があり、朝鮮半島有事は限定空爆に留まらぬ場合、こうなる可能性もあります。

 日本の対応はどうするべきか。核武装放棄まで最大限の経済制裁を含む圧力を継続する。基本的に現状のまま間違ったところは無く、転換する事なく継続すべきです。米朝接近により日本が孤立する可能性がある、という分析もあるのでしょうが、日米が圧力をかけ続け、結実した成果である事を忘れてはならない。米朝交渉へ妥協した点は当然の結果だ。

 日本が米朝接近で孤立、という分析は北朝鮮核開発がそもそもアメリカへの抑止力を核兵器に求めたものであり、その核戦力が日本を射程に収め、そして日本は自国が核武装する選択肢を被爆国として忌避し、核兵器廃絶という国際公序を現実的に進める国是を有しているからこその施策に過ぎません。北朝鮮核容認を妥協するよりも孤立の方が価値がある。

 日本の北朝鮮への経済制裁は邦人拉致問題を契機として、全ての船舶航空機入国禁止、人的移動の禁止、人道支援を含む北朝鮮への送金禁止、という元々非常に厳しい措置を行っています。自国民拉致に対しては特殊部隊派遣を含む強硬措置を採って然るべきでもあるのですが、平和的措置の枠内にとどめる反面、最大限の措置を採っている現状があります。

 我が国は我が国のための施策を採っているのであり、米朝接近により日本が孤立という視点を示すのであれば、その識者には“それならば核兵器保有の北朝鮮よりも日本は孤立しているのか”を問う事で、度合いが理解できるでしょう。そして経済制裁強化の指針は、これまで核開発凍結を信じ進めた国際社会への背信行為への当然の結果といえるもの。

 核兵器廃止の交渉は米朝交渉についても長く続く事でしょうが、我が国が採るべき施策は間違いではなく、他に北朝鮮の核開発を阻止できるとすれば、海上封鎖、更に進めば機雷敷設や飛行禁止空域設定等軍事手段まで及んでしまいます。それよりは経済制裁により戦争を仕掛けず核兵器を放棄させるという、世界史に残る核廃棄の道を進めるべきでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする