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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新防衛大綱とF-35B&EA-18G【10】EA-18Gグラウラー,電子戦専用機は新次元の防衛装備

2018-03-20 20:09:25 | 防衛・安全保障
■EA-18Gグラウラー電子攻撃機
 EA-18Gグラウラー、自衛隊が電子戦専用機を導入するならば、本機種か国産EF-15しか無い状況でしたが、実際にその名前が出るとは。

 EA-18G導入という報道の背景には何があるのでしょうか。一つは脅威の顕在化を前に開発と評価試験に時間を要する国産装備を待っている余裕が無くなった、という事が挙げられます。そしてもう一つは、電子戦装備という高水準の装備をアメリカが日本へ供与する可能性が生じた事でしょう。国産で架空機サンダーファントムのような機体をF-15派生、サンダーイーグルとして開発しようにも防空脅威増大下F-15J初期型に余裕が無いという事情もある。

 RQ-4無人偵察機、グローバルホークの愛称で知られ防衛省が自衛隊統合作戦機として調達を開始している無人偵察機について、国産装備の完成を待つ事ができない同様の事例がありました。元々は防衛装備庁が技術研究本部時代から高高度滞空型無人機として、RQ-4と同等性能を有する航空機を開発していましたが、高高度滞空型無人機については仕様こそ確定していたものの構成技術要素開発の段階であり、間に合わないとしてRQ-4を選定しました。

 国産よりも緊急にEA-18Gを、勿論、ユニットコストだけでもEA-18GはF-35A戦闘機よりも高価な航空機です、元々のF/A-18Fに電子戦装置を搭載したものですが、その電子戦装置が高い上に、第三国供与を従来アメリカが認める可能性も低かった。しかし、F-15Jへのポッド式電子戦装置は、設計開始段階であり、勿論空力特性が変化しないようF-15戦闘機用増槽と同形状の機材とする構想と聞くのですが、実用化へは時間がかかります。また、能力についてもこればかりは使うまで未知数だ。

 S-500地対空ミサイル、突如EA-18Gという機種が防衛計画の検討として具体的に浮上した背景は此処にあると考える。S-500は現在開発中でロシア製の広域防空ミサイルですが、射程は400kmといい、この脅威がEA-18Gを自衛隊が死活的に必要とする背景といえるかもしれません。地対空ミサイルといえば、航空自衛隊が長射程にあたるペトリオットミサイルの100km、陸上自衛隊が改良ホークや03式地対空誘導弾の60km、というものが思い浮かぶのですがS-500の射程は長い。

 S-500地対空ミサイルの射程は400kmに達し、理論上沿海州に配備されたならば北海道の広範囲が、北方領土へ配備されれば北海道全域と東北地方北部が、中国へ輸出されたならば上海方面から沖縄本島さえその射程内に入り、那覇基地や千歳基地の上空が敵地対空ミサイルの射程内に入る事は気持ちのいいものではありません。もちろん、400kmを中間指令誘導無しで命中させるには様々な条件が重なると考えられますし、中国への輸出は現段階では具体的可能性が無く、ロシアが輸出を認めるかも難しい所ですが、少なくとも沿海州のロシア領域内へ配備された場合でも、このミサイル脅威を突き付けられた際に、EA-18Gがあれば払拭できる。

 S-500の脅威を放置する事は、有事の際に千歳基地や那覇基地、位置によっては三沢基地からの要撃機を離陸させる事も難しくなります。実際に命中させる事が出来るかではなく、数値の上で日本本土上空の制空権を奪ったと誇示される事だけで、抑止力に歪を及ぼしてしまう。築城基地や百里基地からF-35A戦闘機を爆装させ、S-500ミサイル基地を空爆する事は手早い処方箋ですが、専守防衛の観点から平時には難しく、しかし射撃管制レーダー照射等の示威行動には対応できず、ここが転換点だ。

 EA-6電子戦機、実はEA-18Gの報道が示された際に考えたのは、過去、電子戦専用機をアメリカが積極的に輸出した事例が無かった為、今回名称が上がるからには具体的な導入の可能性目処が多々だろうという驚きでした。EA-6はアメリカ海軍がEA-18G配備まで運用していました航空機がありましたが、電子戦装備は最先端の電子戦情報を有するもので、同盟国イギリスにも、建国以来の友好関係有するイスラエルにも、供与していません。しかし、具体的にEA-18Gという名称が出る以上、まさか電子装備抜きとは考えられませんので、供与見通しが立ったのでしょう。

 EA-18Gを電子装備抜きで供与する可能性も多少は考えられます、これでは配線のみが確保されているF/A-18Fに過ぎないようにもみえますが、例えばオーストラリアが導入したF/A-18Fは配線がEA-18G仕様のもので、これは開発が遅延していたF-35導入検討時代、更に古いオーストラリア空軍F-111を代替する喫緊の課題に、当面は戦闘機として運用しF-35取得後には電子戦機へ代替し得る、として導入したものです。ただ、この場合でもEA-18Gと同様の水準に当たる電子戦装置を確保出来るとは、限りません。

 F/A-18FとEA-18Gの関係で、仮に電子戦専用装置は供与されないという事でもあれば、なにか“OS抜き激安中古パソコン”商法を思い出させるものですが、航空自衛隊にはEC-1の実績があり、そもそも搭載するF-15Jに数の余裕が無い為です。ただそれならば、電子戦専用機ではなく制空戦闘機としてF/A-18F戦闘機を導入した方が良い、F/A-18F戦闘機ならばF-35やF-22といった第五世代戦闘機を除けば、対処出来ない脅威はありません。即ちF/A-18F戦闘機を導入して古くなったF-15Jを電子戦機へ回す余裕を創る方が現実的で、そうならないのであれば今回の検討は電子戦機材込みと考える。

 実はJSM空対地ミサイルのような500km級の空対地装備調達等、航空自衛隊の装備体系が大きく長射程化している状況がありますが、これは経空脅威が年々長大化しており、JSMミサイルも長射程化する敵地対空ミサイルの射程圏外から攻撃する事が可能、という選択肢の延長線上で選定されました。つまり、EA-18G導入検討は既に開始されるJSMミサイル取得と同じ背景で配備されるといえまして、地対空ミサイルの長射程化という厳しい現実、この為に我が国も備えというものが大きくせざるを得ない事情があります。電子戦装備に理論上直接殺傷能力はありません、しかし、我が国には新段階の防衛装備といえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (3)
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