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陸上自衛隊が海上輸送力整備検討:30m級/100m級,南西諸島防衛へ水陸機動支援用

2018-05-09 20:02:08 | 防衛・安全保障
■LSV支援艦やL-CAT高速艇か
 水陸機動団が佐世保に創設、冷戦時代の北方脅威から南西脅威を含む脅威の多極化へ統合機動防衛力整備が進んでいますが、此処に一つ驚きの報道が。

 陸上自衛隊が水陸両用艦艇の導入を検討している、複数の防衛省関係者からの話としてロイター通信が“陸自が海上輸送力の整備検討、南西諸島で機動展開=関係者”5月8日付記事にて配信しました。今年度新編された水陸機動団、南西諸島防衛を期して佐世保市相浦駐屯地に団本部を置く精鋭部隊で、沖縄本島や奄美大島へ連隊を駐屯させてゆく方針です。

 海上自衛隊は満載排水量14000tの輸送艦おおすみ型を、おおすみ、しもきた、くにさき、と保有しており、エアクッション揚陸艇LCACと全通飛行甲板から輸送ヘリコプターを運用可能、海上自衛隊の輸送能力は世界的に見ても高い水準にあります。しかし、中国海軍と比較すれば小規模であり、専守防衛国是の我が国では水陸両用艦艇建造に消極的でした。

 水陸機動団が目指すものは輸送艦か上陸用舟艇か、ロイター記事では“陸自は全長30メートル程度から100メートル程度まで、数種類の大きさの船を候補に調達の検討を進めている”としています。30m程度と云いますとフランス海軍のL-CAT/ EDA-R高速水上輸送艇、100m程度と云いますと全長83mのフランク-S-ベッソン級輸送支援艦が思い浮かぶ。

 海上輸送力の整備検討はしかし、何故求められたのか。水陸機動団は第1水陸機動連隊、第2水陸機動連隊、戦闘上陸大隊、水陸機動特科大隊、水陸機動偵察中隊、水陸機動施設中隊、水陸機動通信中隊、水陸機動後方支援大隊、以上基幹とし主力は佐世保に駐屯しています。そして連隊を沖縄本島や奄美大島に置いた場合、団主力からの支援が課題となる。

 水陸機動連隊を奄美大島に置いた場合も隣の徳之島へ行くには海路を越えねばなりませんし、石垣島に連隊を配置しても舟艇が無ければ隣の宮古島や下地島へ展開する事が出来ませんし、そもそも上陸に必要となるAAV-7水陸両用車は佐世保の崎辺分屯地に置かれる戦闘上陸大隊に装備されている、まず最初にAAV-7を九州から持ってこなければなりません。

 L-CAT/ EDA-R高速水上輸送艇は、フランス海軍がミストラル級強襲揚陸艦と共に開発した双胴揚陸艇で基準排水量285t、全長30.1m、最高速力は30ノットで巡航速度15ノットでの航続距離は1800kmと外洋航行も可能で、艇内に全長23m幅6.9mの車両デッキを有し戦車を含む60tまでの装備、10式戦車と96式装輪装甲車の重さに相当、を輸送可能です。

 L-CAT/ EDA-R高速水上輸送艇と自衛隊ですが2015年5月に九州西方日米仏共同訓練に初参加して以来、日英仏共同訓練等に度々参加、自衛隊の関心が伝えられます。その様子は報道の他に“NHK鉄道紀行-中井精也のてつたび-第13回松浦鉄道西九州線”にて佐世保の高台からの俯瞰風景にさり気なく母艦が写っていたいりして、再放送等で視る事も出来る。

 フランク-S-ベッソン級輸送支援艦はアメリカ陸軍が、海軍ではなく陸軍、運用する輸送支援艦です。輸送支援艦LSV,というと貨物船のような響きですが艦首部分に揚陸用扉を有していまして岸壁や浜辺にそのまま車両を揚陸可能です。厨房や洗面入浴設備が無く基本的に港内で車両などを輸送する任務に当りますが満載排水量4100t、M-1A1戦車31両を運ぶ。

 フランク-S-ベッソン級輸送支援艦は一見すれば戦車揚陸艦、実際フィリピン海軍が居住区画等を追加しバコロド-シティ級揚陸艦として運用、上陸不可の揚陸専門、輸送専門艦ながら輸送力は輸送艦おおすみ型よりも大きい。戦闘を想定しない為、乗員は30名で運用可能、電子戦装備や個艦防空装備を持たない分安価でAAV-7装甲車3両分の20億円程度です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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