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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上自衛隊が海上輸送力整備検討:高速双胴カーフェリーHSV-2スイフト/ナッチャンWorld

2018-05-10 20:16:39 | 防衛・安全保障
■インキャット社製高速フェリー
 名古屋港にて撮影の太平洋フェリーいしかり,にて北海道から機動した善通寺第14旅団車両部隊の写真とともに。

 HSV-2スイフト、インキャット-タスマニア社製高速双胴カーフェリーをアメリカ海軍が長期チャーターし高速輸送船として運用したもの。HSV-X1ジョイントベンチャーとしてアメリカ陸軍が長期チャーターした同様の高速双胴カーフェリーがあり、平時における長距離の兵員や装備移動、グアムと沖縄の往復輸送等に充てており、これが全長98mです。

 カーフェリーと自衛隊、報道等を見れば北海道から九州へ緊急展開を演練する自衛隊協同転地演習や自衛隊統合演習においてカーフェリーを利用している場面が報じられますが、実はこの種の演習以外にも長距離射撃やミサイル射撃等演習場環境の良好な北海道への演習に際し、車両と人員共々、太平洋フェリー等を一般乗客と共に部隊が移動する事も多い。

 インキャット-タスマニア社製高速双胴カーフェリーの特色は低抵抗船体構造として双胴型船体を採用しているもので、その速力は最大40ノットに達します。HSV-2スイフトは最高速力45ノット、巡航速度30ノットの航続距離は6500km、基準排水量955tに全長98mと全幅27mという構造、107席と2670平方m貨物区画に車両を含む605tを搭載可能だ。

 ナッチャンWorldとして陸上自衛隊も同じインキャット-タスマニア社製高速双胴カーフェリーを長期チャーターしています。東日本大震災発災時に臨時チャーターし北部方面隊等の部隊を被災地へ輸送する実任務に投入し評価されたもの、その前にも協同転地演習時に運用されている。東日本フェリーが青函航路用高速フェリーとして運用していた後身です。

 東日本フェリーが青函航路用高速フェリーへ投入していた時代には、速力の一方で燃費の点で原油高に併せ採算性に影響を与えていましたが、普通乗用車195台とトラック33台を同時輸送出来る車両デッキの広さは特筆すべきもので、協同転地演習では東千歳第7師団の90式戦車4両と89式装甲戦闘車10両という重車両を九州大分港へ同時輸送しました。

 HSV-X1ジョイントベンチャーとHSV-2スイフトは那覇軍港、在日米軍施設で陸上自衛隊那覇駐屯地に隣接している兵站施設なのですが、ここに入港している様子が時折見られ、ナッチャンWorldの運用実績と併せ、今回の自衛隊が独自に海上輸送手段の整備を検討との報道、陸上自衛隊が長期チャーターではなく直接運用を行う可能性は充分あるでしょう。

 チャーターでは何故不充分なのでしょうか。考えられるのは陸上自衛隊が平時における訓練移動の他に有事の際の南西諸島への作戦機動を念頭に置くため、チャーターフェリーでは船会社、現在は高速マリン-トランスポート社がナッチャンWorldを運行していますが、民間人である船員が運行しており、第一線輸送に非戦闘員を指揮下に置けない為と考える。

 HSV-2スイフトであれば全長98m、ロイター報道の100m級と合致します。HSV-2スイフトは2003年に米海軍がリースし2013年にリース終了となりました。それならばこのフェリーを取得すればよい、と思われるかもしれません。しかし、HSV-2スイフトは元々民間船、民間船故の現実が続くアラブ首長国連邦UAEがチャーター時に発生してしまいました。

 2016年10月1日、内戦中のイエメン沖においてUAE軍装備を輸送中、武装勢力による中国製C-802対艦ミサイルでの攻撃を受け、大破してしまいます。戦死者2名、沈没は免れましたが、高速フェリーにはミサイル妨害用のECM電波妨害装置やCIWS個艦防空火器を搭載していません。自衛隊がフェリーを導入する場合、留意すべき点の一つといえます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (2)
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