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US-2を増強せよ!【4】北極海航路の将来展望と日本の北太平洋安全保障戦略,救難飛行艇の新しい役割

2022-11-24 20:00:00 | 先端軍事テクノロジー
■安保展望-決めるのは政治
 防衛を所掌するのは防衛省自衛隊なのですが防衛政策と安全保障展望を画定するのは政治の役割です、今回はこの視点から考えてみましょう。

 救難飛行艇、存続すべきかヘリコプターの航続距離延伸を受け任務の完了と考えるかは、もう一つ視点を加える必要があります、それは"北極海航路"の今後の展開です。しだいによってはUS-2は不可欠、これは日本が北極海航路を活用するか否かに関わらず、北極海とベーリング海峡に太平洋を結ぶ航路の重要性が増すか否か、という点に左右される視点です。

 八戸航空基地へもうUS-2救難飛行艇を一個航空隊を置く必要性が出てくるのかもしれない。さて、この特集は元々US-2の製造維持が不可能な程に調達数が少なく、結果的に新明和工業は兎も角として、関連企業が防衛産業から撤退の方針を続々と示し、これが、利益を出す事が許されない防衛産業の端的な問題となっている点でした。数を増やす必要が。

 北極海航路は、近年の気候変動を受け長らく人類の行動を制約してきました北極海の海氷が特に気温の上がる夏期において広範に船舶航行が可能となり、欧州とアジア地域を結ぶ最短距離の航路として注目されてきています。これは気候変動対策の観点からは望ましくない部分、温室効果ガス削減に寄与する部分と、両輪の関係がある故、見通せないのだが。

 気候変動対策の観点からは、船舶が航行する際に発生する波が海氷の破砕を促進し北極圏の解氷につながる、そもそも北極は白い氷で覆われていたことから太陽光線を反射していたのに対し、解氷し海面となれば太陽光線を吸収する地域に転じてしまい、地球規模の気候変動を促進する懸念があります、故に海氷はオゾン層のように貴重なものではあります。

 オゾン層への影響から高高度を飛行する超音速旅客機の環境不可が懸念されたように、北極圏の航行が増えれば航跡波の影響で北極圏の解氷が進むという。一方、温室効果ガス抑制の観点から反論しますと、欧州とアジアを最短経路で海上輸送することは、それだけ燃料消費を抑えられることで温室効果ガスの排出量も抑えられるとの反論も成り立ちます。

 現時点では北極圏航行による環境負荷の懸念は科学的研究が、なにしろここまで急速に解氷が進むという前提さえ無かったために未着手の分野であるという結果、北極圏、現状でその航行への規制はありません。一方、燃料消費は環境負荷の観点からその省エネ化を忌避する視座はなく、アジアと欧州の最短経路は今後利用が拡大する可能性は、残ります。

 北極圏航路は、しかし、二つの点で利用は政治的なものとなるでしょう、経済採算性は低い、これは貨物船であっても耐氷構造の船舶でなければ航行が制限されますし、利用できるのは夏期のみで冬季には流氷の南下でベーリング海峡を越えることも困難となります。経済性とともに利便性として中継に使える港湾が少ないという背景も課題とはなり得る。

 スバルバル諸島のような国際法上敢えて設定された管轄権の微妙な地域という問題がありますが、同時に経済性ではなく政治的視点に依拠しますと論点は逆となります、それはFOIP自由で開かれたインド太平洋という新しい国際公序により、海洋を制海権により航行を担保しようとする諸国には別の航路が必要となる為です、それも日本の隣国で、です。

 US-2救難飛行艇と北極圏航路の関係ですが、仮に北極海航路が広く運用される場合、FOIPの理念に反して代替航路を模索する諸国には、FOIPのような自由で開かれた北極圏というような各国の自由を求める海洋開発よりも、南シナ海人工島開発のような施策により、これは人工島でなくとも浮体構造物や艦艇常時遊弋を含め、プレゼンスの公使が予想される。

 プレゼンスの公使に対して、つまりこれまで軍事力で防衛する必要の無かった地域が地政学的重要性を帯びることとなるのですから、当然防衛力の展開として日本は無関心でいることは出来ません、何故ならば北極海航路は確実に北海道と本州沖合で結ばれることとなるのですから一方が来れば均衡を、この海域に軍事的プレゼンスが及ぶ事を意味する為だ。

 北太平洋海域は、しかし、千島列島はロシア領土として日本の北方領土を含めロシアの施政権が及んでいます、他方で北海道東方沖には日本とアメリカを結ぶ北太平洋シーレーンが伸びており、またアラスカにはアメリカ北方軍の有力な部隊が展開、日本本土との防衛協力の枠組みが伸びています、他方でこの中間には基地を建築し得る島が無いということ。

 北極海航路が今後重視されるようになれば、その航路を防衛すべく艦艇の遊弋頻度が高まる可能性がある、同時に北海道や東北地方とアラスカの中間地域には航空機の飛行も増大することとなるのでしょうが、これらの航空機に対する航空救難の枠組みは、救難ヘリコプターの航続距離と進出速度では限界があることも否めません。正にUS-2の出番でしょう。

 日米防衛協力の視点から、US-2による航空救難の範囲をアリューシャン諸島まで延伸し、これらの現状解決に寄与する、こうした選択肢はありえるのかもしれません。もちろん、北極海航路の重視という可能性を考えず、また、これらを活用する諸国の良心を信じて、軍事力によるプレゼンスを行使することはない、と考える事もできるのかもしれませんが。

 救難飛行艇はヘリコプターの航続距離が今ほど長くない時代に必要性が突きつけられ装備化されました。これがヘリコプターの航続距離延伸と空中給油機の導入により行動半径のさらなる増大という、一見して救難飛行艇の時代が終わりつつあるような印象を受けなくもないのですが、同時に日本の防衛、ポテンシャル公使の範囲も広がっている実情がある。

 日本の安全保障範囲は増大したからこそ、ヘリコプター搭載護衛艦にF-35Bを搭載しなければパワープロジェクションが難しい時代となっているのですし、C-1輸送機の後継機であるC-2輸送機がフェリー航続距離で10000kmも飛べる時代となり陸上自衛隊がV-22可動翼航空機を導入する時代、遠くまで飛べるUS-2にも相応の役割があると考えるのです。

 政治が判断する必要がある。自衛隊の任務を増やしているのは政治です。そして内閣人事局がある以上、政治は予算の確保についても権限と責任を負っている訳なのですが、自衛隊は政治が任務を付与しない限り部隊等を勝手に増やす事は制約がある一方、現状のままではUS-2は維持不能となるが、政治が求める日本の役割を具現化する上で妥当なのか、考えるべきでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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