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自衛隊サイバー戦と自衛官募集難【3】専守防衛下で攻守問わず大規模災害へも寄与する能力

2019-12-16 20:02:28 | 防衛・安全保障
■日本型平和的防衛力の構築
 自衛隊のプログラミング教育強化提言、曹候補学生制度と任期制自衛官の再就職対策以外に防衛上の利点も特に大きい点を追記しましょう。

 サイバー攻撃を司法事件として取り扱う法整備は既に為されていますが、軍事攻撃として経済擾乱を引き起こす攻撃を受けた場合の対処法は、監督官庁としての機能を国内に行使する事が限界であり、外国からの大規模なサイバー攻撃への対応を主管する枠組みは未だありません、膨大な予算を擁する機構の創設は、政治主導でなければ不可能でしょう。

 サイバー攻撃、そして攻撃を受けた場合に組織的に対抗する技術は研究こそされていますが、報復的抑止力としてサイバー攻撃を行う機能は限定的です。一方で、サイバー攻撃を受けた場合に武力攻撃事態を宣言できるかは未知数であり、要するに外国のクラッキング集団に対して戦闘機を派遣する事が出来ない、即ちグレーゾーン事態という位置づけです。

 グレーゾーン事態として自衛権の行使を制限する、これが我が国立法府の視点であり公序といえるのですが、これは言い換えればサイバー攻撃は平時における報復的抑止力として整備し得る手段ともいえるのですね。この為にも人員を訓練し枠組みを構築する意味はあります。特に平和憲法の視点からは銃弾も砲弾も使わない平和的な防衛力とさえ、いえる。

 国土防衛の視点からは。平時からサイバー攻撃を実戦に応用できるとの国際法上の理解ならば、師団を大幅に再編してでも師団規模のサイバー戦部隊を維持する事は必要ですし、なによりも軍事力による直接武力侵攻が日本本土へ降り注ぐ前に、サイバー攻撃によりその懸念を払しょくできる可能性もある。攻撃着手前にあらゆる混乱が押し寄せる為ですね。

 専守防衛ですが、相手が着上陸するまで何もしない、つまり同胞が戦禍に巻き込まれてようやく重い腰を上げる、これは我が国が憲法に示す平和的生存権の享受に関する冷酷な現実です。しかし、火砲やミサイルを撃つよりも、サイバー攻撃により相手が自国経済に耐えがたい損害を受け、その結果として日本へ上陸しないならば、それに越したことは無い。

 サイバー戦部隊は、自衛隊の着想は世界でも早かった。そもそも海上自衛隊のプログラム業務隊こそが、1960年代から始まる日本で最も早い時期のプログラム教育実践の場でした。この為に歴史と質は高いものといえるのですが、絶対数が大きくありません。もちろん、サイバー戦部隊は現在喫緊の課題である災害派遣へはそれ程大きな威力を発揮できません。

 イギリス第6師団を実例に示しますと、小銃や拳銃を持たない要員も少なからず居るようです。したがって、台風19号災害や来る南海トラフ巨大地震に際して、現場で瓦礫の中から被災者を救い出し、安全な避難所で温かい食事と入浴施設を提供するような災害派遣は出来ないでしょう。ただ、物流プログラム等、絶対必要な後方支援では寄与しましょうが。

 多次元統合防衛力、しかし厳しそうな師団規模のサイバー戦部隊の新編について、自衛隊が進める新しい防衛力整備では、実現の可能性が示されています。基盤的防衛力としまして、全国へ部隊を均一に配備する方式は既に断念され、統合機動防衛力という概念、必要な地域へ必要な部隊を集約する海上自衛隊型運用が陸上自衛隊に採用されたのは前のこと。

 次期防衛大綱下では、と仮定するべき視点ですが、師団規模でサイバー戦部隊を置くか、若しくは通信大隊を強化する形でサイバー戦部隊を平時から全国に配置し、平時には戦域内のプログラミング業務を、有事の際にはネットワークを通じ各師団旅団から電子的に集合を行い師団規模の人員での任務を展開する、こうした運用も考えられるかもしれません。

 統合機動防衛力を更に置換える新しい概念として、サイバー空間や宇宙空間を自由に活用する防衛力として平成最後の防衛計画の大綱に明示されたのが、この多次元統合防衛力です。言い換えれば、指揮系統さえあるならば、必要な部隊を必要な地域へ展開させる為の機動力があれば、即ち装甲車を増やし自然減のヘリコプターを補填すれば、良い、という。

 要するに、師団数を再編し、複数の旅団を隷下に持つ比較的大型の師団を置き、有事の際には全国に配置されている北部方面隊、東北方面隊、東部方面隊、中部方面隊、西部方面隊、その方面総監を統合任務部隊司令官として統合機動し集結した部隊を司令官が全力で駆使できるならば、サイバー戦以外活躍しない師団があっても任務は遂行できるのですね。

 サイバー戦部隊は平時における予防としての任務遂行と共に、実は日本の社会インフラをサイバー攻撃より防衛する為に機能する事が多次元統合防衛力の前の前提である統合機動防衛力にも大きな意味を有します、鉄道網や港湾と電力網等が一部でも破綻したならば、戦略機動を行う自衛隊は民間インフラに依存する以上、必要な機動力を発揮できません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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Unknown (ミナミ)
2019-12-16 23:16:50
自衛官募集については、もちろん18~26歳位の対象年齢の人口が、
かなり減ってるというのはありますが、それでも志願者数は人口動態ほど変わってない
つまり国民の自衛隊への理解から、志願者の割合は増えたという事です

防衛費における人件費の割合は約45%で、5兆円とすると2.25兆円になります
面白い事に自衛官の実員数は22.5万人で、諸々込みの一人当たりの平均人件費は
約1000万円という事になります。自衛官募集難の一番の処方箋は、
やはり待遇改善、簡単に言えば報酬を増やす事だと思います

自衛官は警察や消防より報酬が少ないと言われ、
しかも退職まで同一都道府県内で留まる後者と違い
自衛官は全国規模で何回も転勤させられると聞きます
それなのに引越手当は無いとか。これも退役自衛官に、
半官の引っ越し会社を作らせれば良いのにと思います

誰にでも共通の利得と言えば、お金しかありません
単純に給与一律2割増、3割増させれば志願者数も随分と増えるのではないでしょうか
人件費が分かっているので、人件費の内の給与を2割3割増やしても、
負担増は年間3000億円程度前後だと分かります。これは不可能な数字とは思えません

募集難と言っても対象人口は未だに1100万人程居て(男女計ですが)
年間そこから2~3万人獲るという話です。(退職する人も居るので)
結局は予算の話、財務省というこの国の主要政策のボトルネックの話に戻ると思います
定員通り獲れば、予算が全く足りないとか、
それじゃ「定員」に何の意味があるのかという論点もあると思います
返信する
Unknown (軍事オタク)
2019-12-17 11:44:39
自衛隊は
特別職国家公務員で
特別に待遇の悪い公務員と言えるでしょう。

給料は安い中、血反吐を吐く訓練に耐え、パワハラに耐えても、定年は早いし、全国転勤あるし、離島や過疎地勤務もあるし、有事は真っ先に死を覚悟しなきゃならないし、
憲法違反だと言われるし、
自衛官の子供は憲法違反の子供と言われることにも耐えなきゃいけませんでしたね。

そういう状況でも優秀な自衛官を揃える必要があるので、
憲法改正して、他国と同じように尊敬の対象となるぐらいの地位を上げないと、
入隊する人は減り
結果的に国民が損をすると思います。

再就職先の確保は大変です。
引っ越し業者案、面白いですね。

各種待遇改善、
具体的には給与UP、婦人自衛官の活用、定年延長、給与改善、福利厚生改善等も必要でしょう。
※世界一高齢な軍隊?に既になっていますが・・・
返信する
引っ越しは日通 (はるな)
2019-12-17 12:55:43
ミナミ 様

とりあえず、日通の創立背景を一度少し調べて頂けると、幸い
返信する

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