■米軍再編に関する考察
今回の考察は、沖縄県に重点を置き論述したい。
米軍再編において、抑止力の維持と地域負担に対する配慮という二点が日本政府の主眼点として扱われているが、恐らく次期通常国会では国際法としての地位を有する米軍再編に関する最終合意書を国内法として整備することで、米軍再編は次の段階へ移行するであろう。
昨日放送された米軍再編に関するNHKスペシャルでは、地域住民の視点から米軍再編が提起されていたが、陸上空母発着訓練の厚木基地から岩国基地への移転問題や嘉手納基地の戦闘機訓練の千歳・三沢・小松・百里・新田原・築城基地への移転、普天間基地の空中給油機の鹿屋基地移転が挙げられていた。いわゆる負担の押し付け合いとの印象が否めない。
写真は沖縄県の嘉手納基地であるが、ここには二個飛行隊48機のF-15C制空戦闘機が展開している。住民の話をNHKが扱った中では、この基地における騒音問題の最大のものが早朝から訓練飛行を実施するF-15Cであると話していた。聞くところでは、航空自衛隊のF-15Jは要撃飛行(スクランブル)や航空祭における飛行展示を除き、基地離陸時は極力推力を絞って飛行しているという。こうした運用体系が非実戦的との声もあろうが、実戦を想定する米軍と航空自衛隊の差異が挙げられる点であろう。
結論から言うと、嘉手納基地は沖縄県という、台湾海峡・朝鮮半島に対する重要な抑止力である事から、アメリカの台湾・朝鮮半島政策に劇的な展開が無い限り不変であろうし、この点、嘉手納基地周辺住民に対する“負担”は不変であろう。対して、普天間航空基地の辺野古地区への新基地建設と移転に関しては、非常に疑問がある。新基地を建設せずとも、嘉手納基地に集約する事は充分可能であろう。基地機能の集約に関して、これは言い換えれば一部の基地に機能を集約する事であるから集約された基地に対する“負担”は増えるだろうが、過剰な機能を今後米軍に対して提供する事を考えれば、駐留経費分担の点も踏まえ、思い切った集約化を提唱するべきだったといえよう。
また、更に不充分な点を付け加えれば、第三海兵師団の第31海兵遠征群を除きグアムに移転する事となっているが、これに伴いどの程度の演習用地が日本に返還されるかも不透明である。
更に、海兵師団主力のグアム移転も、アメリカの抑止力の維持と日本の利益向上という観点から疑問符がつく。日本側が日本国外に対して、ODA以外の資金投下を行うということは、予算の正統性上問題があることは否めない点と、佐世保基地(写真)の両用戦艦艇を移転しないのであれば(佐世保の両用戦艦艇の艦載機が、現在岩国基地におかれたAV-8攻撃機であり、普天間基地のCH-46,CH-53である)グアム移転は、逆に距離を伸ばしただけであるといえる。海兵隊の主力を思い切って師団の旅団化により用地に余裕の在る北海道の帯広(第五師団を旅団化)や、間もなく旅団化される第十一師団(真駒内)への移転、両用戦艦艇の大湊基地への移転も真剣に議論されるべきではなかったのだろうか。普天間航空基地のヘリコプターは、丘珠駐屯地や大湊航空基地へ分散移転するか、若しくは収容しきれない機体が出たならば駐屯地・基地機能拡充までのあいだ、陸上自衛隊然別中演習場地区へ、応急ヘリコプター基地の新設を実施すれば、負担の部分はかなり軽減されるであろう。
■沖縄県の抑止力維持
抑止力維持という観点から、沖縄県の米軍基地が移転する事は南西諸島の安全保障を考えた場合どうであろうか。
抑止力維持を考えるならば、那覇に新しく地対艦ミサイル連隊を新編し、若しくは北部方面隊隷下の第一特科団から一個地対艦ミサイル連隊を移転し、16基あるミサイル発射基を沖縄県宮古島の航空自衛隊宮古島分屯基地(第53警戒隊)、沖縄本島陸上自衛隊南与座分屯地(第326高射中隊)に分散配置すれば、沖縄県のほぼ全域を確保する強力なミサイル網を配置できる。88式地対艦誘導弾は射程百数十km(海外の資料では180kmとするものも)、また短射程の96式多目的誘導弾や93式地対空近距離誘導弾といった、相互補完に最適な国産装備が多数開発されており、柔軟且つ複合的な配置により、少なくとも抑止力の維持と言う観点からは充分なものを実現可能であろう。
加えて、近く旅団化が検討されている沖縄県那覇駐屯地の第一混成団を、例えば現行の第101飛行隊のヘリコプターを増強するかたちで、群馬県の第12ヘリコプター隊に範を採った編成に移行し、空中機動能力をやや強化した編成とする事、また北海道稚内分屯地の第302沿岸監視隊のような洋上監視部隊を石垣島に配置する点も重要であろう。18年度防衛予算に計上され、19年度予算において検討されている航空自衛隊の輸送機の空中給油機への改良が実施されれば、例えば現在第一混成団が運用しているUH-60JAの航続距離延伸にも一役を買う事が期待される。少なくとも、海兵隊主力が移転した後も、また第31海兵遠征群が移転したとしても、嘉手納基地にF-15Cが配置されているならば航空優勢確保は比較的優位であり、抑止力全般に影響があるとは考えにくいといえよう。また、抑止力向上の為航空自衛隊は、那覇基地へのF-15J移転が内定している。
地域負担軽減に偏重することなく、自衛隊が既に有している抑止力を最大限に配慮し、米軍再編を検討すれば、ここまでの状況にはならなかったといえよう。
HARUNA
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