■映画「立喰師列伝」を観てきた
友人のT氏の誘いで先日、押井守氏の最新作、“立喰師列伝”を観てきた。なんというか、触れ込みとしては終戦後の闇市から昭和の終わりのファーストフード店時代まで、巧みな弁術によって無銭飲食を繰り返したプロの集団を描いたという明らかに面白くなさそうな作品である。
ここからはネタバレ注意!
鑑賞を考えている方は読まない方が幸いです・・・。
■時代がつまらなくなっていく・・・
架空世界の東京を戦場に見立てた「機動警察パトレーバー2」や、知られている戦後とは異なった世界における日本を描いた「人狼 JIN-ROH」、グローバルにクリエイターへ永享を与えたという「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」、そして実写作品として「ケルベロス 地獄の番犬」や「Avalon」といった作品を世に送り出してきた押井監督が、1970年代以降の日本の歴史に語るべき歴史があっただろうか、という問いとから時代が面白さを失ってきたことに対する抵抗として本作を製作したという。
いわば、押井的視野から望む戦後と脱戦後を図る日本の姿を描いた作品であるといえよう。
映画そのものは、八本の短編からなっており、吉祥寺怪人や兵藤まこ、石川光久、鈴木敏夫、樋口真嗣、川井憲次、寺田克也、河森正治といった押井氏とかかわりの深いクリエイターやアニメーター、プロデューサーが“キャスト”として出演している。
■実験的映像美
本作の特異点は、短編映画「ミニパト」で試験的に導入された実写データとCGの融合による“スーパーライヴメーション”方式にある。いわば三次元パタパタアニメともいわれる方式は、登場人物の写真と製作者が思い描く背景をCGで製作し融合させる事により作品とすることで、これはアニメーターとしての押井氏でなければ思いつかない方式であろう。
また、“擬似ドキュメンタリー”方式によって展開される作品に適度な緊張感と説得力を付与しており、ところどころに散りばめられたコメディー要素とうまくマッチングしていることが作品の面白さを引き立てている。
戦後とは、日本とは、という議論は戦後一貫して続いてきた訳ではあるが、方の力を抜いて見返す際に、凡庸なドキュメンタリー群を相手とするよりも、案外本作のようなものを起点に考えた方が何かが見えてくるのかもしれない。
また、「赤い眼鏡」のような、今日までの押井作品の要素も適度に織り込まれており、お分かりになる方はニヤっとしてしまうだろう。
(注 :「 ・・・I'm standing on the Moon 」とは、第一章の主人公、吉祥寺怪人扮する月見の銀二が、占領軍のMPに誰何された際に発する言葉である)
HARUNA