◆SIGINT機多数を運用する自衛隊
朝鮮半島での緊張に際して防衛省お対応の一部が朝雲新聞で報じられていました。日本は比較的多くの電子情報収集用航空機を運用しています。
12/2日付 ニュース トップ: 延坪島砲撃事件 陸海空自 不測の事態に備え 警戒監視体制など強化・・・ 北朝鮮による韓国領の延坪島砲撃で緊張が高まる朝鮮半島情勢を受け、防衛省・自衛隊は砲撃のあった11月23日以降、24時間体制で情報収集と分析に努めるとともに、P3C哨戒機で行っている日本周辺海域の警戒監視に加え、朝鮮半島方面の洋上での航空機による警戒監視体制を強化、また、AWACS早期警戒管制機やEP3多用機を待機させたほか、各司令部では人員配置を増やすなどの措置で万全を期した。一方、米韓両国は11月28日から12月1日まで、朝鮮半島西方海域で、米原子力空母「ジョージ・ワシントン」やイージス艦などが参加して北朝鮮の軍事攻撃などを想定した合同軍事演習を行った。
黄海で米韓軍事演習・・・ 一方、政府は官邸の情報連絡会議や関係閣僚会議を連日開くとともに、黄海で11月28日から12月1日まで行われた米韓合同軍事演習の期間中、菅首相の指示に基づき全閣僚が都内で待機するなどして不測の事態に備えた。 韓国西方の黄海で行われた米韓合同軍事演習には、米側から原子力空母「ジョージ・ワシントン(GW)」、イージス艦「カウペンス」「ラッセン」「ステザム」「フィッツジェラルド」など艦艇6隻とGWの艦載機、米空軍のF16戦闘機、A10攻撃機など、韓国軍はイージス艦「世宗大王」、ヘリ搭載駆逐艦「崔瑩」「大祚栄」、フリゲートなど艦艇6隻、F15、F16戦闘機、P3C哨戒機、ヘリコプターなどが参加。対北朝鮮海上作戦や対潜戦能力の確認、航空機による防空作戦などを4日間にわたって行った。http://www.asagumo-news.com/news/201012/101202/10120201.html
防衛省自衛隊がどのように今回の事案に対して情報収集体制を撮っていたかを示す記事が朝雲新聞に掲載されていました。もちろん、これだけがすべてではありません、防衛省情報本部は全国に幾つかの通信傍受施設を有していて、その最も有名な一つは北海道の玄関口新千歳空港に着陸する直前、青い屋根が続く東千歳駐屯地に隣接した森林の中に“象の檻”とよばれる円状に展開した信号受信用アンテナ設備がみえるのですが、ああした通信傍受設備が全国に数ヶ所あり、米軍占領時代から自衛隊発足、そして今日まで情報収集を継続しています、そうした設備による地上での電波収集用設備に加え、全国28か所のレーダーサイト、艦艇による情報収集も実施されていた、という事は想像に難くありません。また、各国に駐在する防衛駐在官も独自の情報収集を行っていたでしょうし、防衛省以外にも日本には治安情報収集を行う機関があります。
日本の電子情報収集航空機、いわゆるSIGINT機の数は、意外かもしれませんが数と質の両面で世界有数の能力と規模を持っています。海上自衛隊には写真の電子情報収集機(電子偵察機)EP-3が5機、画像情報収集機OP-3Cが5機配備されています。原型が一機100億円のP-3C哨戒機ですので、これをもとに10機の規模を有している、というのは実は世界的に見てかなり大きな規模の組織と言える訳です。なにしろ、P-3C哨戒機クラスの哨戒機ですら二桁の機数を保有している国は決して多くないのですからね。このほか、航空自衛隊もYS-11EB電子測定機、YS-11EA電子測定機として各2機、計4機を運用しており、日本周辺国の電子情報を収集しています。このほか、EC-1電子戦訓練支援機やOP-3電子戦訓練支援機など、電子情報収集を支援することが可能な航空機を運用しているほか、4機のE-767早期警戒管制機が警戒監視に当たり、80機のP-3C哨戒機が洋上での哨戒任務に当たっているのです。
しかし、これで十分か、と言えば情報収集に充分という言葉は無く、特に欧州などの各国は戦闘機などの正面装備を削減してでも情報収集機の取得と増強を行っています。電子情報収集はそのまま有事の際の電子戦や対電子戦での勝敗に直結する平時の実戦ですので、少しでも情報は必要、情報優位がそのまま戦力の裏付けになり、その能力が最大限の抑止力ともなる訳なのですが、昨今、この分野にあまり熱心ではありません。ちょうどP-3C哨戒機の後継機としてP-1哨戒機が量産を間近に控えているのですから、この際、その量産を前進させて余剰のP-3C哨戒機を電子情報収集に充てれば、と思ったのですけれども難しいようです。一応防衛計画の大綱では電子情報収集機の増強を行う、という文言を盛り込もうとはしているようなのですけれども、肝心の電子情報収集機装備計画が見えてこないのですよね。
P-1哨戒機の量産計画は次期中期防衛力整備計画で10機、P-1哨戒機10機を取得という数字が独り歩きしているのですが中期防は5年計画ですので毎年は2機。これで大丈夫なのかな、と少し思ったりもしました。機材は一流で、運用当事者の能力も意識も一流なのですが、肝心の政策決定者がその重要性を認識していない、正面装備を削った予算で情報収集の予算を増強する事に用いるべきところを、正面装備を削って、そのまま安全保障以外の分野に予算を振り向けそうな危惧が現実となっている訳ですからね。
HARUNA
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