◆東富士演習場AH-1S対戦車ヘリ墜落事案
国は保護されるべき弱い消費者なのか、少々不可解な判決が出されましたので本日はこの話題を掲載しましょう。
2012年1月30日の東京地裁判決で川崎重工は国に対して2億3000万円の支払いを命じられました。2000年に東富士演習場において訓練中の対戦車ヘリコプターAH-1Sが墜落事故を起こし乗員二名が重傷を負うという事案が発生しましたが、防衛省はエンジンを製造した川崎重工に対しエンジンに欠陥があったとしてPL法に基づく2億8000万円の損害賠償請求を行っています。
AH-1S対戦車ヘリコプターは、富士重工がライセンス生産の主契約企業であり川崎重工がエンジン部分のライセンス生産を担当しているのですが、設計に欠陥があったとするならば、AH-1Sを開発したアメリカのベルヘリコプター社、もしくは搭載するT-53-L-703エンジンを設計したライカミング社を訴えるべきだとも思うのですが、それ以前の重大な問題があることを忘れてはなりません。
PL法は元来企業に対して弱い立場にある消費者を保護する目的を持っていますから、そもそも企業に対して国は弱い保護されるべき消費者とはならず、当然棄却されるものだと考えていたところ、東京地裁は先行する欧米の法律とは異なり、日本のPL法は消費者だけを対象としていない、という点から川崎重工に対して2億3000万円の支払いを命じる判決を出しました。 立法する国が弱い消費者としてPL法に基づき損害賠償を要求、少し構図が不自然に思うのは気のせいでしょうか。
PL法が定める消費者に国が含まれる、これは解釈として相当無理があるように見え、これが通るとするならば川崎重工としては防衛用航空機を無理な運用により事故が生じたとして国家賠償法による請求を行う、もしくは憲法29条の財産権に基づき国による賠償請求は無効という論理も通ることになってしまうのですが、どうでしょうか。 そして欠陥がある、という部分ですがどの程度の、また自衛隊の用法は通常の航空機とは異なる運用が為される、という部分を差し引いても明確な欠陥だったのか、関心があるところ。
もちろん、エンジン部分に重大な欠陥がある、という可能性は捨てきれませんが、こちらも程度の問題でしょう。このあたり、例えば製造した川崎重工にどの程度責任があるのかについて、もう少し情報を集めたいと思います。そもそも運用当事者と開発製造者の距離がある日本においては、仕様書以外の運用面での適合性は疑われる部分もあるのが実態ですし、これが通るならばそもそも一般に供される航空機とは全く次元の異なる用途である防衛用航空機に対して、参画することに対しては非常なリスクが生じてしまいます。
繰り返しますが、航空法に依拠して運用していた場合でも避けられないような明確な欠陥があった、というならば話は別です。しかし、こうした無理を通そうとするん防衛省側の論理に依拠すれば、先日の三菱電機への監査や、かなり前の富士重工戦闘ヘリコプター発注中断など、国内の防衛産業に対して無理難題を突き付けているように見える同じ防衛省、よく生産分担も納期も機体価格も性能も不明なアメリカ製戦闘機を決定したものだなあ、と驚くばかり。
そもそも、製造期間が不明確であり発注に一年空くこともある中、生産ラインを維持し下請け企業に対しても生産基盤維持を求め、こうした中でほとんど営利を求めることが許されず、維持費と人件費と貴重な工場の稼働率を最低限をさらに下回る中で維持されている、いわば企業の社会的貢献の一形態として、自腹を切っている状態です。この言いがかり的な要求というものは、保護すべき産業を逆に廃業か撤退に追い込む愚行であり、国としては防衛産業と手を切ってどう防衛を成り立たせる算段があるのか、非常に不可解、というのが正直な印象です。川崎重工としては防衛省に対して、防衛用航空機であっても、”危険な状態での使用はお止め下さい”と明記する以外自衛策は無いようにも思います。
北大路機関:はるな
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