◆基地機能完全麻痺からの復旧は想定外か
東日本大震災に際して、自衛隊の能力全般が米軍の能力に比べ、例えば無人航空機、例えば基地復旧能力といった面で限界があることを示しました。
しかし、想定外、という単語で片づけられがちな命題にあって、実のところ決して想定外とは言い切れない部分は中にはあったかもしれません。勿論、致し方ない部分は多分にあるということは認識しつつ、しかし、想定外と今後も言い逃れてしまうような可能性の種を摘み取る必要性は、あると考えます。
無人航空機は我が国の航空法体系を考えた場合、非常に運用が制約されます。特にRQ-4グローバルホークの導入は、その卓越した戦略偵察能力が自衛隊には必要性、特に北朝鮮の弾道ミサイル拠点を叩くうえで必要な情報をもたらすものですが、導入の展望は幾度も出されながらも実現には至っていません。
また、津波被害を受けた松島基地に対しては、これまで航空自衛隊では航空攻撃により破壊された滑走路復旧訓練は実際に500ポンド爆弾相当の爆薬を用いて破壊した滑走路の復旧を訓練しています。 ただ、全ての基地機能が破壊されるという想定は行っていませんでした。
ここで、有事の際に敵の航空基地を奪取して運用する、という運用体系に依拠した装備と訓練を行っていた米軍に多くを依存することとなりました。もちろん航空自衛隊は手をこまねいていたわけではありません、なんとか基地機能を復旧すべく可能な限りの漂流物の基地からの除去を行ったのですが。
こうした復旧への努力が行われた中でも、やはり余りに被害が大きく、米軍の輸送機からの作業物資展開という運用が出来なかったのです。第1空挺団の施設中隊であれば機材を空挺展開させ、復旧、ということはできたのかもしれませんが、当時の輸送機の運用体制と空挺団の展開から、もとよりこうした運用を想定していなかったことが実際の運用の限界に表面化した、と言えるやもしれません。
外征を考えていない、専守防衛という国是があるからこそ、こうした運用は文字通り想定外であったのかもしれません。もっとも、政府による防災訓練を行いつつも完全に想定外を言い訳とした我が国政府、そして想定していたはずであるにもかかわらず準備をおこっていた東京電力の想定外、こういった意図的と言える想定外と比べれば、自衛隊の想定外は言い訳の想定外と異なっている、といえるのですが。
ただ、想定することはできたのしょうが、優先度をそうとう高め財務当局を説得できなければ、政策として実現させることが出来ない、というのは偽らざる現状です。滑走路の補修と基地機能の復旧は、陸上自衛隊の施設団が総力を挙げたならば、ある程度素早くできたのかもしれませんが。
如何に統合運用が叫ばれる今日であっても、特に大震災への復旧が迅速に行われなければならない状況下、行うことはできなかったでしょう。即ち、自衛隊の空輸能力に限界があった、という単純な結論に帰結しがちな論理展開ですが、そう早合点することではなく、自衛隊の予算の範囲内で基地復旧の在り方、そしてそのための専用の部隊を創設すべきであった、攻めて検討はすべきだった、ということ。
しかし、輸送機部隊の展開する入間基地か小牧基地や美保基地、もしくは輸送ヘリコプター部隊が展開する春日基地か三沢基地周辺に、今回のような事態を想定した航空基地特設施設隊、というようなものを今後は新編し、ヘリコプターの吊下輸送、今後はこうした運用が考えられるようになるやも。
こういうのも冷戦時代、松島基地は北海道防衛の切り札的な位置にあり、特に北海道防空を担う千歳基地と本州北部の三沢基地、八戸基地についてはソ連戦闘爆撃機の戦闘行動半径に入っていたことから有事の際には松島基地を重要な拠点として用いる構想、そういう意味で切り札的な位置にありました。
これは必然的に千歳基地等の北方の航空基地は使用不能となるまでの攻撃を想定していた、という認識の裏返しでもあり、この点を重視して基地復旧の体制を構想することはできたはずです。そういう意味で部隊の編成と運用、整備を行っていたなら、想定外とはならなかったのでしょうか。
ここで強調しておかなければならないのは、航空自衛隊は航空自衛隊であって、米空軍ではありません。この重要性を認識しなければ、際限ない想定外への追求を行うことで、本来の防空任務を逸脱してしまう可能性がある、ということへの認識は忘れてはなりません。しかし、この範囲内で、航空自衛隊の任務の範囲内で考える必要があった。
専守防衛、この国是は立派ですし、国連憲章の精神にものっとったものです。ただ、我が国の場合はここが行き過ぎている、専守防衛という表題のみが重視されることで、想定外、としる、いやせざるを得ない部分が大きくなりすぎているのではないか、ここは大きな問題です。
言い換えれば想定外の理由に専守防衛があってはならないし、他方で想定外への備えが、基本的な防衛力を大きく超えるものではあってはならない、難しいところです。しかし、専守防衛という枠組みの中で実施された想定外への備えはありました、明日はこの点について少し考えたいと思います。
北大路機関:はるな
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