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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

鎮西26 西部方面隊実動演習、北部東北方面隊増援受け島嶼部防衛訓練を完了

2014-12-03 23:56:59 | 防衛・安全保障
◆鎮西26 生地演習は前年比倍 
 朝雲新聞などによれば先月26日までに西部方面隊実動演習鎮西26が完了したとのこと。

西部方面隊実動演習は我が国において行われる陸上自衛隊の訓練としては最大規模のものとなっており、今回の訓練は近年の島嶼部防衛訓練が沖縄県において行われていた中で、近年中国からの対領空侵犯措置任務等における中国からの国籍不明機接近の増大を受ける鹿児島県島嶼部を背景にこの鹿児島県島嶼部を訓練地域とした点が特色として挙げられるでしょう。

 西部方面隊を中心に北部方面隊及び東北方面隊からの転地演習参加部隊、更に中央即応集団等の支援を受けて実施された今年度の演習は1万6500人が島嶼防衛を演練したものとなりましたが、重ねて昨年の倍の生地活用が行われたと陸幕長からの発表があり、MLRS多連装ロケットシステムの輸送艦からの運用試験や新鋭装備である機動戦闘車の試験参加など特筆すべきものが多い演習でした。

 生地演習とは演習場以外の国有地や民有地などでの演習を行うもので、NATO演習や米韓合同演習などの報道によくある民家や農地の近くでの戦闘訓練などはこの生地演習にあたります。自衛隊ではレンジャー訓練などが生地演習に活用されており、長距離行動訓練や協同転地演習の戦略機動もこの一環に含まれるといえるものですが、鎮西26 西部方面隊実動演習では上陸等両用戦訓練が島嶼部において実際に行われています。

 実戦的な運用を想定するならば生地演習の重要性は、特に専守防衛を国是とする我が国において、防衛戦闘の第一線となる可能性の高い地域において実際に演習を行うわけですので、意味は大幅に違ってきます。更に当然住民理解が最大限得られていることが実施の最低条件となるため、この環境が整うことは防衛力を単なる装備や練度以上の面で大きい、と言えるでしょう。

 島嶼部防衛において、この生地演習をどの程度行えるのか、という部分はさらに重要な意味を持つところとなります、何故ならば自衛隊の演習場は沿岸部に確保されている地域が北海道の浜大樹海岸など非常に限られているため、着上陸等の訓練を実施することができる環境は新たに演習場を設定しない限り、生地演習を行わなければ練度を高める事はそもそもできません。

 実のところ、自衛隊草創期を見ますと揚陸艦、現在の輸送艦に呼称変更する以前はこうした艦船から特車、現在の戦車を島嶼部へ上陸させる訓練などが行われ、近所の小学校が授業を休講として社会見学に上陸訓練を見学する、という牧歌的風景もありました。こうした環境が戻ってきた、ということ。

 更に生地演習の重要性は新たに沖縄県と鹿児島県島嶼部へ警備部隊やミサイル部隊が配置される島嶼部防衛強化に関する一連の施策に対して、自衛隊施設を新設する余裕があったとしても離島にはこれら部隊が充分に訓練を行える演習場環境を整備する事は出来ません。すると、生地演習を行う他なくなるのです。

 こうした生地演習により能力を高めているのが第4師団隷下の対馬警備隊です。対馬には警備隊の対馬駐屯地のほか、海上自衛隊の監視部隊に航空自衛隊のレーダーサイトが置かれているのですが演習場はありません。ここで対馬警備隊は生地演習を行える住民理解を得る事で非常に厳しい訓練環境を防衛正面となるであろう対馬全域に演習可能な地域を確保でき、結果、対馬警備隊は小規模部隊ながら陸上自衛隊を代表する有数の精鋭部隊としてかぞえられ、今に至る。

 自衛隊が島嶼部防衛を行うためには、新編される水陸両用部隊が全国で皆無に近い揚陸訓練地を補うには生地演習の可否が重要となり、新編される南西諸島防衛部隊が島内で確保できない演習用地を確保するには生地演習の可否が練度そのものを左右します。そのために、生地演習を展開可能な住民との関係を構築し、維持することの重要性が大きくなってきます。今回の鎮西26 西部方面隊実動演習が培った事例を活かせるよう、注力が必要です。

北大路機関:はるな
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コメント (2)
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