北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

小松基地 '16航空祭 in KOMATSU 白山女神の寵愛か台風16号下の天候回復 みよ堂々の制空陣

2016-09-20 22:47:52 | 航空自衛隊 装備名鑑
■小松基地航空祭二〇一六
 イーグルは白山の守り神菊理媛神、くくりひめ、に愛されているという話を聞きました。

 愛機を駆りて台風に、翼洗う荒天も、何ぞ遮るわが任務、敵空軍の真っただ中に勇む我らが精鋭機!民一億の守り担て、空切る翼鋭くも、みよ堂々の制空陣!、秋の航空祭シーズン到来となりましたが、これは台風の季節の到来をも意味する訳です。それでは、台風16号接近下で開催されました、小松基地航空祭2016についてお伝えしましょう。

 '16航空祭 in KOMATSU、昨日開催されました航空自衛隊小松基地の航空祭は、懸念された悪天候も奇跡的に回避され、来場者約7万2000名という盛況と共に終幕となりました。悪天候の危惧を乗り越えて集った来場者を迎えたのは精鋭F-15イーグル戦闘機尽くしの飛行展示と、悪天候の思わぬ贈り物、軌跡に沿った飛行機雲ベイパーを曳く情景でした。

 小松基地航空祭、北陸に位置し日本海側唯一の戦闘機部隊基地です。この小松基地航空祭、来場者の予測は、中々不明瞭でして、敬老の日三連休最終日、飛行教導群移駐、ブルーインパルス飛行展示、北陸新幹線開通、新特急ダイナスター運行開始、来場者を増やす要素が並びこの状況では来場者が15万名から20万名の大台に上る可能性もあったのです。

 日本海防空の要、と称される小松基地は1941年に帝国海軍舞鶴鎮守府が飛行場用地として取得し1944年に陸上攻撃機用飛行場として完成させた飛行場がその起源です。戦後は米軍が接収しましたが1955年より全日空が不定期旅客便の運航を開始、1958年に草創期の航空自衛隊の分遣隊が配置、同時に民間航空機を就航させる官民両用飛行場となりました。

 自衛隊基地としての小松基地は1959年に小松分遣隊を中心とした基地施設再建が本格化し、1961年に制式に小松基地が新編、1961年にF-86戦闘機二個飛行隊の移駐を受け第6航空団画創設されたわけです。1965年には超音速のF-104戦闘機運用を開始、1974年にはF-4EJ戦闘機を運用開始し、1986年には最強戦闘機F-15戦闘機が配備、今に至るところ。

 第6航空団は、司令部と飛行群第303飛行隊および第306飛行隊のF-15二個飛行隊に整備補給群と基地業務群が展開しています。加えて入間の中部航空施設隊から同第2作業隊、横田の航空戦術教導団から精鋭アグレッサーの飛行教導群が、入間の航空救難団から小松救難隊が、府中の航空支援集団からは小松管制隊および小松気象隊が派遣されています。

 イーグルの二個飛行隊を有する第6航空団、隷下の飛行隊をみてみましょう。第303飛行隊は1976年にF-4ファントムを運用する飛行隊として新編され、ドラゴンを冠する部隊で、F-86セイバー戦闘機を運用していました第4飛行隊の要員を基幹として編成されました。1987年には現在のF-15イーグル飛行隊へ改編、ドラゴンは記念塗装にも示されている。

 小松のイーグル、第306飛行隊は1981年にF-4ファントムを運用する飛行隊として編成、イヌワシが舞台マークとして描かれています。イヌワシはご当地石川県の県鳥、1997年にF-15運用部隊として改編されました。第306飛行隊はアメリカのトップガンと同様の、精鋭搭乗員の選抜と高度化研修を行うファイターウェポン課程の担任部隊となっています。

 飛行教導群、アグレッサー部隊、宮崎県新田原基地から今年小松基地へ移駐したばかりの精鋭部隊です。仮想敵機部隊として部隊は1981年に築城基地へ飛行教導隊として新編され、当時は超音速のT-2練習機を運用していましたが、1983年に新田原基地へ移駐、1990年に運用機種をF-15戦闘機へ転換し、巡回訓練に当たりました、自衛隊最精鋭部隊の筆頭です。

 今年の航空祭は、この飛行教導群小松移駐を受け、かなりの来客が予想されていました。昨年の来場者は14万7000名と全陸上自衛隊以上の来場者を誇り、航空自衛隊は今年の来場者を14万と予測していました。飛行教導群はアグレッサー部隊として、独特の迷彩を施したイーグルを駆っており、この迷彩目当てに新田原へ足を運ぶという方も多かったほど

 戦闘機部隊は広大な敷地を有しますが、開放されるのはエプロン地区という格納庫前の地区、この限られた会場に対し来場者が15万を超えますと、満員御礼、といいますか物理的に基地内の身動きが取れなくなるという可能性が、基地での撮影では地上展示機を撮影する以外は極力後方、格納庫付近から群集越しの航空機撮影、という選択肢しかなくなる。

 他方、難点は肝心の天候です、小松マジックは今回も実現するのか、それとも、基地側がゆるきゃら”晴レテル”君の威光を信じず、縮小開催という方針を示すのか、というところです。勿論、万一に備える防滴の準備は万全でして、ここで万一中止決定にでもなれば目も当てられないという状況でした。もっとも、開催しても飛行展示の可否は別問題です。

 天候偵察のF-15が持ち帰った情報は、視程5マイル、という非常に幸運な天候で、これにより航空祭の飛行展示が予定通り実施できることが画定しました。当初はこの転校偵察が最初で最後の飛行展示なのではと危惧したり、ブルーインパルス飛行展示も実施できないのではないか、という悲観的な予測は、しかし、小松ならば、という願いが通じたかたち。

 航空祭直前、0720時までは確かに降っていたのですよ、しかし0745時には雨が上がりました、1025時頃、若干雨滴が飛んできましたし、1315時にも飛んできたのですが、ブルーインパルスが水平系の飛行展示となった以外、予定通りに実施できました、これほどの天候回復は、かの、白山の守り神菊理媛神のご加護があったのかというほど。

 航空祭、思い起こせば2014年の美保基地航空祭は天候偵察の結果視程不良ということで飛行展示中止の決定が為されました、が、そのあと急速に天候回復の後もいったん中止の飛行展示を行う事は無く、という悲しい出来事もありました。海上保安庁の飛行展示のみ実施、C-1大編隊を期待していただけに、あの飛行展示中止の決定維持は残念でしたね。

 雨天は航空祭の天敵というべきものでして、視程不良ですと飛行展示が出来ません、2007年浜松基地航空祭は、サンダーバーズ来日という航空祭でしたので、悪天候でも可能な限りの飛行展示を実施してくれましたし2005年の岐阜基地航空祭は、OPフライトは晴天予定のまま、爾後は天候悪化を受け徐々に縮小、という展示を実施していました。

 小松マジック、天候回復となりました小松基地航空祭では、F-15戦闘機四機による天候偵察とオープニングフライト、第303飛行隊および第306飛行隊の機動飛行、飛行教導群を加えてイーグル12機大編隊、小松救難隊救難展示、F-2支援戦闘機機動飛行及び模擬対地攻撃、飛行教導群機動飛行、そしてブルーインパルス飛行展示まで全部を堪能できました。

北大路機関:はるな くらま
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ロシア軍T-14アルマータ戦車2017年より部隊配備開始【後篇】 ソ連時代戦車からの世代交代期す

2016-09-19 21:44:38 | 先端軍事テクノロジー
■ロシアの新世代戦車という意味
 ロシアの戦車開発ですが、その必要性はロシア軍部内やロシア政府でも認識され、技術開発は行われていたものの実現はしませんでした。しかし、これは必要ないとの判断ではなく、実施したくとも経済的限界から必要な性能を有する戦車を具現化出来なかった、という視点があります。

 我が国では90式戦車の量産が北海道限定で徐々に進み、新戦車として後の10式が開発される事となる2006年、T-90も新型のT-90Mが開発されています、これはT-90Sを発展させたものですが、冷戦終結と共に共産圏技術輸出規制が解消されたこともあり、フランスのタレス社と共同開発した熱線暗視装置搭載型火器管制装置が採用、ソ連製戦車は夜間戦闘能力が暗視装置の性能上低い、という欠点を過去のものとしました。2007年にはこれらの技術を応用しロシア軍向け戦車としてT-90Aが開発、エンジンを強化し変速機を一新すると共に車長用全周監視装置を新搭載したT-90Mも開発されました。

 さて、T-72ですが、T-90に座を明け渡すのではなく、2006年全面近代改修を受けてT-72B2が誕生しました。エンジンをT-90の同系統へ換装し強化し、暗視装置も熱線暗視装置へ換装、火器管制装置も併せて一新しています。2013年にはT-72B3、T-90のエンジンと火器管制装置に、一部車長用全周監視装置を搭載した改良型が完成しました。生産数は20000両、74式戦車の873両とは桁が全く違う空前の量産数を誇っていますので、輸出先での独自改修を含めれば、百花繚乱的な規模の改修と派生型が存在します。

 T14アルマータは、こうしたソ連時代から連綿と続く戦車技術開発の上に、無人砲塔を搭載し市街地戦闘における脆弱性を払拭し、共通車体アルアータから派生型として装甲戦闘車や自走榴弾砲を開発する方針が示され、新設計車体と新設計砲塔を持つ新戦車が開発される事となりました。特に、砲塔部分は各種センサーを搭載する無人砲塔構造を採用しており、乗員は車長砲手操縦手3名全員が車体前部の強化装甲区画に位置し、人命を最優先する設計を採用しました。ロシアの新世代戦車という意味は、無視できないものがあるでしょう。

 ソ連時代戦車からの世代交代を期す、新世代戦車に相応しい設計との事で、その前評判を実証する情報は現段階で収集中であり未知数ではあるのですが、火器管制装置等は完全に世代交代し、戦車戦闘での距離は最大で5km程度と大きく延伸したと発表もありました。加えてT-72系統戦車では自動装填装置の装填速度の低さなどが問題視されてきましたが、こちらも一新、2010年代に相応しい戦車を目指しています。無人砲塔を採用し戦車長は充分状況把握を行えるのか、共通設計車体により贅肉が増大しているのではないか、当面各種派生型を2300両量産する構想だが、現時点で高コスト化し、ウクライナ介入後の経済制裁下において量産し得るのか、大量のT-72/T-90を置き換え得るのかなど、疑問符も多い。

 ロシア国防省が17日までの報道発表にて、このT-14戦車の2017年からの部隊配備と共に新しい動画を公開した、とCNNにて報じられた際、いよいよ来るものが来たのか、と身構える気持ちではあったのですが、英語字幕と共にT-14が出てくることは出てきたのですが、映像の多くがT-72となっていました。CNNがイメージ画像を造り間違えたのか、ロシア国防省がロシアの新鋭戦車部隊イメージ動画、として配信したのかは未知数ですが、CNNサイトには“ロシア、新型戦車「アルマータ」の映像公開 来年に配備”と銘打って何故かでかでかとT-72の写真を呈示していた為、違う意味で衝撃を受けたのです。

 T-14の性能は未知数ですが、我が国周辺では、韓国、中国、北朝鮮、続々と新型戦車を開発しています。欧米諸国では冷戦終結後、新型戦車の開発よりは近代化改修に軸が置かれており、原型は1970年代後半から1980年代の戦車が大半であり、平和の配当、といいますか、冷戦後の大規模武力衝突という可能性の解消が反映されているものですが、我が国周辺を視た場合その限りではありません。実際に、計画通り配備が開始されるのか、動画の通りT-72M3と混成されるのか、こちらも未知数ではあるのですが、CNN配信動画のような、新しい改良型戦車の配備が始まる、最新改良型登場、ではなく、T-14は戦車の新しい世代を狙い投入された最新鋭戦車であり、その性能如何によってはアルマータショック、と呼ばれるような世界での装備開発体系への影響を及ぼす状況も考えられるものです。

北大路機関:はるな くらま
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ロシア軍T-14アルマータ戦車2017年より部隊配備開始【前篇】 CNN二つの衝撃報道

2016-09-18 20:28:42 | 先端軍事テクノロジー
■T-14戦車2017年配備開始
 T14アルマータ,2017年より部隊配備を開始する方針のようです。ロシア国防省が17日までの報道発表にて、このT-14戦車の部隊配備と共に新しい動画を公開した、とCNNにて報じられました。

 T14戦車、戦後一貫して戦車開発を継続している我が国から見た場合でも、革新的な技術が盛り込まれた新戦車ですが、しかし、CNN動画を見ますと若干疑問符が。ロシアはT-90主力戦車のマイナーチェンジ型を次々と開発してきまして、特にチェチェン紛争やシリア内戦介入を始め様々な実戦での経験を反映させたT-90シリーズですが、T14アルマータは設計を一新し、戦闘室を車内へ統合化した設計を採用しています。2015年に対独戦勝70周年記念行事に姿を現し、その特異な形状が大きな話題となりました事はNHKBS海外ニュースなどご覧の方、ご記憶の方も多いでしょう。

 本土の戦車はいまだ74式戦車が主力であり、T-14は49tと軽量であるため、着上陸等を示唆する恫喝へは、脅威度の高い戦車とも言えます。ただ、今回ロシア国防省が発表した動画には、対独戦勝パレードへ示された車体とは砲塔形状車体形状ともに大きな差異があり、こちらが量産型、という事なのでしょうか、2013年から配備が開始されたT-72シリーズ最新型T-72B3と共通点が多い、といいますか、T-72B3そのものといいますか。CNNに公開された動画は51秒間のもので、25秒あたりには確かにT-14の動画が出てくるのですが、冒頭の静止画以外、動いている戦車の映像はT-72のものが、T-80の映像も含まれています。

 新型戦車配備開始は衝撃的報道ですが、添付画像がT-14ではなくT-72であったのは第二の衝撃です。ロシアの戦車と云いますと普段駐屯地祭では絶対見ない事ともあって分かりにくいのですが、T-72戦車は1974年より部隊配備が開始されまして、先行するT-64の技術に依拠、世代としては我が国の74式戦車と重なるものがあります。この当時、ソ連軍の主力戦車は115mm戦車砲を有するT-62であり、T-72は125mm戦車砲を採用、当時西側諸国の主流派105mm戦車砲であり、105mmと125mmという打撃力の格差、更にT-72は自動装填装置を採用しているもので、当時はスウェーデンのSタンクStrv.103戦車等自動装填装置を備えた戦車は限られており、東西冷戦時代の情報管理体制もあり、謎の新戦車という位置づけでもありました。

 74式戦車、T-72戦車は比較的新しい印象があるのですが74式戦車と同世代の戦車である訳ですね。さて、同時期の我が国の主力戦車である74式はエンジンの仕様変更や砲身部分改良と操縦用暗視装置換装に砲尾部安全装置追加等、量産と共に改良は限られた範囲内となっていましたが、T-72は早速T-72Aとしてレーザー測距装置や微光増売暗視装置等搭載型を開発、続くT-72Bでは主砲発射対戦車ミサイル運用能力を付与し長距離打撃力を獲得、T-72BVとして爆発反応装甲を追加し対戦車火器への脆弱性を払拭、輸出型も開発されています、この能力向上は軽視できません。

 T-72はその輸出型が、湾岸戦争においてアメリカ軍M-1A1主力戦車に対し大敗を喫しました。ソ連軍戦車はT-72の後、ガスタービンエンジン採用など画期的な技術を含むT-80を完成させましたが、整備性の問題、その後のソ連崩壊により製造部品の少ない部分をウクライナ製部品に依存したT-80へ、新生ロシア軍での評価が定まらず、一方、T-72は湾岸戦争においての惨敗が世界に強い印象を残してしまいます。元々、ソ連製戦車は、自国向け、最良の衛星国と呼ばれた東ドイツ向け、東欧ワルシャワ条約機構加盟国向け、北朝鮮向け、中東親ソ連諸国向け、第三世界向け、とダウングレードされてゆくのですが、この湾岸戦争の敗北はダウングレード車両とはいえ、悪い印象を残しました。

 T-90,元々はソ連軍向けT-72BMとして、T-80戦車の砲塔技術をT-72に導入する新戦車が開発されていまして、T-72BUとして部隊配備が行われる運びとなっていましたが、湾岸戦争での敗北を受け、T-72では縁起が悪い、という事からT-90という新呼称が冠せられることとなりました。ソ連崩壊後の経済混乱と共にT-90は輸出市場において活躍する事となってしまいましたが、T-90を大量に輸入したインド軍より高評価を受け、改良型T-90Sが開発されています。比較的安価ですので、一挙に数を揃える事も出来る。こうして、冷戦時代にソ連軍が開発した戦車をロシア軍は丹念に改修し、2000年代を迎えました。もちろん、T-95戦車計画等新戦車模索と技術開発は行われ、同時にドイツ製レオパルド2戦車中古取得案やイタリア製チェンタウロ戦車駆逐車の参考導入案等も、検証されたといわれますが、ソ連崩壊後の経済立て直し状況下、実現はしていません。

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ホルムズ海峡、米海軍とイラン高速艇の蜂群スウォーム戦術に視るグレーゾーン事態対処方式

2016-09-17 22:32:12 | 国際・政治
■中東要衝のグレーゾーン事態
 ロイターコラムにて”コラム:米海軍、イラン高速艇の「群れ」どう打ち負かすか”というコラムが掲載されていました。ホルムズ海峡におけるイラン海軍によるアメリカ海軍への小型舟艇による挑発行動ですが、真剣な脅威として受け止めるべきとの声が上がっています。

 イランとアメリカのホルムズ海洋での緊張は歴史が長く、この海域の警備専用にアメリカ海軍は過去にペガサス級ミサイル艇を投入した程です。八月には挑発行為が顕著な形で行われたとの事で、その件数は四度にも及びました。しかし、この挑発行動、中東は物騒で大変だなあ、と安直に受け取るだけではなく、これは我が国も直面するグレーゾーン事態の一例であり、戦争に至らない方法により安全を確保しつつ挑発行為を排除する施策を考えてゆくべきなのではないでしょうか。

 ホルムズ海峡はペルシャ湾産油地帯と世界を結ぶ国際重要海峡です。挑発行動、23日にアメリカ海軍駆逐艦ニッツェに対し革命防衛隊の高速ボートが100m圏内に接近し周囲を蛇行する挑発行為を実施、24日にはアメリカ海軍哨戒艇テンペストとスコール周辺を高速艇3隻が挑発行為を行い、この内1隻が衝突経路を執って突入してきたため、機関砲による威嚇発砲を行う事となったようです。この群れで米艦艇に対する挑発行為を行う事を、スウォーム戦術と呼ぶとのこと。

 イラン海軍は、キロ級潜水艦、ロシア製の比較的運用実績のある装備を若干数維持していますが、レーダーなどの電装品や水上戦闘艦などの性能面で、アメリカ海軍と正面から戦う能力はありません、実質、海上自衛隊は勿論、韓国海軍と比較してもかなりその能力は低いといえるでしょう、北朝鮮海軍と比較してもまだ低い可能性があります。そのなかの挑発行動ではありますが、一方で狭い海峡でテロ攻撃的な行動を行った場合の戦果は別です、機雷敷設やロケット砲攻撃などを狭い海峡において実施されれば、これは真剣な脅威となりかねません。

 しかし、イランの洋上における行動の最たる問題点は、指揮命令系統が海軍と革命防衛隊に分かれており革命防衛隊の位置づけが必ずしも国防上の政治行動と連動しているわけではないため、何をするかが分からない、という部分が挙げられるでしょう。更に、特攻攻撃に近い挑発行動を執った事例が、イラン国内外において継続的に実施し、さらに、小型航空機と舟艇とさえ呼べないジェットスキーなどを挑発行動に用いている為、戦争に至らない段階において対処行動に限界が生じている、こうした問題点が挙げられるでしょう。

 ロイターコラムでは、この種の攻撃は長らくイランとアメリカとの摩擦関係を象徴するように実施されており、アメリカは海兵隊攻撃ヘリコプターを臨時搭載する事により対処してきた、と紹介しています。陸軍第160特殊航空連隊のAH-6特殊作戦ヘリコプターや海兵隊のAH-1W攻撃ヘリコプターを搭載し対応してきた事例がありますが、ここに新たに提示される装備が、ハイドラ70ロケット、陸上自衛隊のAH-1S対戦車ヘリコプターにも搭載されている世界標準のロケット弾です。

 2007年に開発されたハイドラ70ロケット弾の精密誘導型APKWSが、多数のイラン舟艇への対抗策として考えられるほか、レーザー兵器という選択肢もあるとのこと。多数の舟艇に対しては、現在運用中のMQ-8無人ヘリコプターへAPKWSを搭載し運用すれば、無人機である為常続的警戒能力を有している他、APKWSは軽量であるため限られた搭載能力に対しても多数の弾薬を搭載出来る事となります。

 多数の舟艇を用いて同時攻撃を加える場合でも、米海軍は大量のP-8洋上哨戒機やP-3C哨戒機を運用しています、これら哨戒機や電子戦機を複合的に運用し、不審な行動を執る船舶とそうではない船舶を航路から選別すれば、勿論、ホルムズ海峡は世界有数の過密海域でもあるのですが、米軍艦艇の航行を阻害する船舶、海峡封鎖などの敵対行動を執る船舶に対する制圧ならば、技術的に不可能ではないでしょう。

 その一方、留意すべきは、南西諸島における警戒監視任務において、現在ホルムズ海峡で進展中のイランによるアメリカに対する挑発行動と同様の状況が、中国による我が国島嶼部への挑発行動へ影響を及ぼす可能性があります。漁民などを海上民兵として運用した事例は中国には国共内戦時代から常套手段として用いられており、所謂グレーゾーン事態として挑発行動の激化などは当然考えられるものです。ホルムズ海峡におけるアメリカによる、戦争行為に至らない抑止行動の施策、参考とすべき部分もおおいのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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平成二十八年度九月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2016.09.17/18/19)

2016-09-16 23:27:53 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 自衛隊関連行事,と共に現在南方を進む台風の動向が気になります、ここ数週間毎週末に台風が接近する中いかがお過ごしでしょうか。

 今週末最大の注目は小松基地航空祭、石川県小松の航空自衛隊小松基地にて開催される航空祭は19日と連休の最終日に行われまして、小松基地へF-15二個飛行隊を有する第6航空団に加え、新たに宮崎県新田原基地より精鋭飛行教導群が配置され、我が国最大規模のF-15基地となりました。航空祭ではブルーインパルスも飛行予定、天候が非常に心配ですが、小松マジックと、晴天に恵まれる事も多い航空祭です、いろいろな意味で注目といえるでしょう。

 横田基地日米友好フレンドシップデイ2016、航空関連行事としましてはこちらも注目です。アジア太平洋および米本土から、年度によっては在欧米軍の航空機も参加しまして、陸海空自衛隊機も参加、飛行展示はほぼ空挺降下など限られたものですが、C-130J輸送機の配備が行われ、在日米軍司令部、第五空軍司令部、航空総隊司令部が置かれる我が国防空の要衝の一般公開です。入場には旅券や本籍地記載免許証等何れかの提示を求められる場合がありますのでご留意ください。

 陸上自衛隊関連行事は、今週末、本州で二行事、九州で二行事、となっています。秋田駐屯地祭と桂駐屯地祭で、秋田駐屯地は第9師団隷下の第21普通科連隊が駐屯している駐屯地です。桂駐屯地は京都市内唯一の駐屯地でして、中部方面後方支援隊本部と隷下部隊である第107全般支援大隊や第103不発弾処理隊及び中部方面輸送隊、加えて関西補給処桂支処等が置かれています。

 九州の駐屯地祭は、久留米駐屯地祭と竹松駐屯地祭です。久留米駐屯地には第4師団隷下の第4特科連隊と第4高射特科大隊が駐屯していまして、FH-70榴弾砲や93式近距離地対空誘導弾及び81式短距離地対空誘導弾等が配備されています。竹松駐屯地は大村線沿線の駐屯地で、第2高射特科団隷下の第7高射特科群が駐屯しています、ホークミサイルの迫力の展示が凄い、とは足を運ばれた方のお話でした。

 さて、自衛隊行事、観閲行進撮影3mの攻防、攻防といっても周りとぎくしゃくする訳ではありません、この撮影位置でいいのか、3m右の方が、いや逆に3m左に移動した方がいいのではないか、と迷う事です。観閲行進は鉄道の編成写真の様に真正面にちかい位置から撮影した方が多くの部隊を一枚に撮影する事が出来るのですが、しかし本当に真正面に位置すると、逆に困る。

 観閲行進を完全に真正面に位置してしまいますと、先頭の一列しか写りません。実は艦艇の単縦陣等も真正面ですと最初の一隻しか写りませんので、10m20m単位の撮影位置の微調整が凄く重要になってきます、しかし、観閲行進が真正面になるか否かは、それこそ始まるまで位置が分かりませんので、予行の車両の轍等から勝手に推測するほかありません。

 撮影位置、轍から推測するのですが観閲行進の経路がアスファルトやコンクリートで舗装されていますとそれこそ勘に頼る他ない程、人が増えてくる前の時間帯にて3m右の方が、いや逆に3m左に移動した方がいいのではないか、と撮影位置を考えておかなければなりません。当方の写真には真正面からのものも多いのですが、それは、つまりそういう事です。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭

・9月18日:秋田駐屯地創設64周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/neae/akitasta/
・9月17・18日:横田基地日米友好祭2016…http://www.airliftmagazine.com/#home
・9月19日:小松基地航空祭2016…http://www.mod.go.jp/asdf/komatsu/
・9月18日:桂駐屯地創設62周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/mae/3d/katsura/
・9月18日:久留米駐屯地創設64周年記念…http://www.mod.go.jp/gsdf/wae/4d/kurume/main/
・9月18日:竹松駐屯地創設64周年記念…http://www.mod.go.jp/gsdf/wae/2aabhp/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関

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巨大災害,次の有事への備え 08:南海トラフ地震、四国京阪神中京東海の被災地をどう支えるか

2016-09-15 21:15:06 | 防災・災害派遣
■南海トラフの広大すぎる範囲
 四国京阪神中京東海の被災地をどう支えるか、初動72時間を支える一大輸送任務について。

 我が国では大規模災害に際しても秩序が維持され略奪行為が発生しない事は、東日本大震災、新潟中越地震、阪神大震災で世界に大きく報じられ先日の熊本地震に際しても秩序は守られました。窃盗事件や震災に乗じた空き巣事案などは確かに発生している事は警察庁資料等からも読み取れるため、民心安定への省庁間協力や自治体と住民の協力体制も構築されるのですが、暴動のような状況は発生しません。

 しかし、なぜ日本では暴動や略奪が発生せず、しかし海外の、米本土地域や南米、アフリカやアジア地域での災害現場において発生する蚊ですが、必要な物資が被災者全体に対して不足している、というものも一つの要因でしょう。こうした根拠あっての民心安定ですが今後の巨大地震では現時点で想定外の被害があったばあいに維持し得るのでしょうか。巨大災害、この中でも想定される南海トラフ連動地震が最大規模で発生した場合もこの秩序はどこまで守られるのでしょうか。

 四国京阪神中京東海地方、被災者の総数が文字通り桁違いの規模となります。第一に東名高速道路と東海道本線及び東海道新幹線が静岡県内において津波被害が直撃、津波は名古屋駅付近や大阪駅付近まで到達するものとの想定ですので、津波被害を受ける都市は、政令指定都市だけで静岡市、浜松市、名古屋市、大阪市、神戸市、此処には多くの需要港湾が含まれますので海上輸送にも影響が生じ、特定重要港湾でも太平洋側に面した港湾施設は復旧まで艀などを用いて応急的に使用するほか、荷役施設を使用する事が出来ません。

 大規模地震に際しては主要高速道路を災害復旧車両専用道として指定する事が現行法で明示されていますが、その道路そのものが普通となった場合、迅速に復旧するまで通行不能です。東日本大震災では非常措置として、通常の手続きを無視した協力企業の支援により迅速に復旧しましたが、この手続きに競争入札を実施しなかった為に随意契約として不正が指摘され検挙者が出ています。

 こうした反省から非常事態でも熊本地震では適正に実施され、結果的に最も納税者に負担が掛からない道路復旧が為されたものの、非常事態でも時間をかけ道路復旧したため、被災地の納税者は復旧しない道路のため、物資輸送の遅滞により被害を被りました、しかし明確な反省すべき要素がありながら、現在もこの当たりの非常条項を明示していません。

 物流の最小限度の維持を明確に達成する事により民心安定が維持されます。民心安定が維持され、治安が確保されてこその復旧基盤が構築され、この復旧の順路に沿って被災地は復興への端緒につくわけです。この為には、自衛隊の輸送力では被災者の数が多すぎどうにもなりません、補完的に活用した上で、平時の手続きを越えて、道路復旧と鉄道港湾補修、巨大な日本の民間物流機構を回復させる必要がある。

 例えば武力攻撃事態法に基づく指定協力企業をそのまま徴用のかたちで有償動員するならば、少なくともこの種の競争入札による遅滞という問題は生じないでしょう、がこうした施策は現在まだ行われていません。一方、東日本大震災では東北本線及び常磐本線が津波被害と原子力災害により不通となった為、日本海縦貫線へ迂回する鉄道貨物輸送が展開されました、この方式ですが南海トラフ巨大地震にはどの程度適用されるのでしょうか。

 実際のところ非常に厳しいのではないか、と考えます。これは日本海縦貫線が北陸新幹線開通により第三セクター化されJRから経営分離してしまったためです。有事の際には通行したいところですが、熊本地震において同じく第三セクター化されていた旧鹿児島本線を直通した鉄道貨物輸送が実施されませんでした。

 結局延々と九州新幹線復旧まで人員輸送を断念し、鹿児島本線JR部分で最も被害の大きかった熊本県内路線が復旧するまでの期間は貨物輸送が停滞しました。南海トラフ巨大地震でも必要な法的措置が為されない場合、為されても政府が運行基盤の補助を行わない限り、被災地、京阪神中京東海地区全域が物資不足に悩まされるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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将来艦隊戦闘と巡航ミサイル【6】 AIP潜水艦あさしお方式船体延長による巡航ミサイル区画増設

2016-09-14 23:02:35 | 先端軍事テクノロジー
■トマホークVLS12基を増設
 AIP潜水艦あさしお方式での船体延長による既存潜水艦への巡航ミサイル区画の増設、これにより旧式化した潜水艦の巡航ミサイル潜水艦への能力向上と延命改修を同時に行う、こうした施策も考えられるでしょう。

 AIP潜水艦あさしお方式、はるしお型潜水艦あさしお、は1997年に潜水艦として竣工しましたが2000年に練習潜水艦へ種別変更すると共に、海上自衛隊が永らく導入への研究を進めていたAIP動力方式、非大気依存方式潜水艦の実験潜水艦へ転用するべく、船体後半部へAIP機関を挿入するべく9mの追加工事を実施しました。これにより全長は78mから87mへと延伸、満載排水量も3200tから3700tへと大型化しています。

 今回提示するのはこの船体延長工事を旧式潜水艦に対し実施し、蓄電池区角やAIP機関追加などではなく、UGM-109E,UGM-109H用VLS区画に転用する案です。潜水艦における巡航ミサイル用VLS区画ですが、これはアメリカ海軍のロサンゼルス級フライトⅡ攻撃型原潜が実施しているもので、ロサンゼルス級攻撃型原潜は12基のトマホークミサイルをVLSへ搭載しています。

 前述しました20発の魚雷及び対艦ミサイルの搭載能力の内、自衛用の4発を対潜魚雷とした場合、16発の巡航ミサイルを搭載可能ですが、ロサンゼルス級攻撃型原潜に範を取り、船体後部へAIP潜水艦あさしお方式でVLSを追加した場合、ここにロサンゼルス級攻撃型原潜と同数の12発を搭載すれば、28発のUGM-109E,UGM-109Hを運用可能です。場合によっては自衛用魚雷の数を護衛艦の対艦ミサイルと同数である8発まで強化し、UGM-109E,UGM-109H については24発を一つの単位として搭載する選択肢も考えられるでしょう。

 旧式潜水艦の転用ですが、海上自衛隊の潜水艦は550m程度の潜行能力を持つ、と考えられています。もちろん旧式化する事で一割や二割程度の潜行能力へ影響はあるでしょうが、潜水艦の潜行能力は元々安全係数を採っている他、仮に潜行能力が350m程度まで限定し運用した場合でも、潜水艦の戦略的価値はそれほど失われる訳ではありません。

 更に巡航ミサイル潜水艦として運用するのであれば、攻撃目標を3000kmという長大な離隔距離を隔てて投射できることから自らは哨戒範囲を離れて動く必要はそれこそ、知らずに接近する漁船からの回避を除けばあまり大きくは無く、動かなければ相手側に対し潜水艦の位置が暴露する可能性は限りなく皆無に近づきます。もちろん、船体延長改修を行うのですから必要な工事の期間、そして何よりも少なくない費用を要します。

 率直に言うならば、船体延長改修を行わず巡航ミサイル潜水艦として遊弋させるという選択肢がありますし、また延命するにしても、世界には40年近く運用、中には運用を相当制約し21世紀初頭まで第二次大戦壴の潜水艦を運用した事例や練習潜水艦や予備役として維持している事例もありますが、さすがにこれは例外的であり、運用期間には上限がありますので、船体延長改修の費用対効果については一概には言えません。

 他方で、新造時から余裕を持った設計としてVLSを搭載するべきか、と問われるならば、海上自衛隊の潜水艦は全て通常動力潜水艦ですので、大型化した船体に充分な航続距離を付与させる事は難しくなりますし、船体が大型化すればその分水中騒音が増大します、最初から巡航ミサイル用VLSを搭載する事はまだまだ、航続距離と静粛性の兼ね合いから一考の余地がありますが、老朽潜水艦の利用方法としては利点があるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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ミグ25函館亡命事件から40年【中篇】ソ連機北海道着陸,防空再建という喫緊の課題現出

2016-09-13 20:44:59 | 北大路機関特別企画
■防空再建という喫緊の課題現出
 ミグ25函館亡命事件は、その後の日本における防衛装備計画へ大きな影響を及ぼしました。

 ミグ25は函館亡命と第28普通科連隊による警戒が行われたその後、9月24日、日米共同調査というかたちで舞台を函館空港から航空自衛隊百里基地へ移します。技術研究本部による調査も検討されたようですが、アメリカ側からソ連機には中東戦争などでろ獲した機体を調査した経験上、戦闘喪失に備え自壊装置が精密機器へ装着されており、むやみに調査のために分解することは危険である、との助言が寄せられ、更に自衛隊には函館空港からミグ25を運び出す手段が空輸は当時最新のC1輸送機では不能、海上自衛隊の輸送艦など選択肢が限られていることから、アメリカ空軍のC5戦略輸送機の支援を受けることとなります。

 調査は日本側を主体に、という我が国の強い主張から、アメリカ側が提案した横田基地での調査ではなく、航空自衛隊基地である百里基地において協同調査を行う運びとなります。もちろん、我が国へソ連より突きつけられた外向的圧力も非常に大きなものであったといわれます。実際、軍事行動の可能性も我が国周辺でのソ連機行動から大きくなっていたほか、最悪の場合、予てよりソ連側が準備しているとされた北海道北部への限定侵攻を実施する口実に、日本側にミグ25が維持されている状況が拡大する危惧さえありました。この緊張度は、現在の南西諸島の緊張とは比較できません。

 ソ連側の主張もあり、結果的にミグ25は日立港から、貨物船によりソ連へ返還されることとなりました。通関手続きを通らず我が国へ戦闘機が密輸された、と、平時の法制度では解釈される状況、更に、この戦闘機の手続きは一種の輸出となるため、武器輸出に関する特別の配慮が為された、ともいわれます。すると、日本の第二次世界大戦後の戦闘機初輸出事例は通産省の解釈では1976年ソ連へ超音速戦闘機1機輸出、となるのかきになることろですが、ともあれ、こうして緊張は解けたわけでした。

 しかし、ミグ25事件の余韻は非常に大きなものです。最新鋭戦闘機の領空侵犯を阻止できなかった防空能力、突発的有事にたい処する法整備の問題、大きな点はこの二つに収斂される。ミグ25は超音速戦闘機ですが、迎撃機です。従って、日本本土への第一撃に用いられる可能性は低いのですが、航空自衛隊のF4ファントム戦闘機は、低空飛行する航空機をレーダーで捕捉するルックダウン能力が限られていたため、次期戦闘機として、軽量安価なF16ファイティングファルコンではなく、高性能なF15イーグルの採用へ一つの影響を及ぼしたほか、低空侵入機を探知するべく早期警戒機が導入されることとなり、E2Cホークアイの導入が決定しました。

 E2Cの導入は、最初の機体が導入された後、順次増勢されてゆき、13機をもって飛行警戒航空隊が創設されました。E2Cを二桁導入したのはアメリカ海軍を除けば航空自衛隊くらいで、機体は全て三沢基地の航空援体に格納され、戦闘機以上に徹底した防護措置がとられています。実際問題、航空自衛隊ではより大型の早期警戒管制機であるE3セントリーを求める声がありましたが、その取得費用がE2Cの三倍以上と非常に降下であり、導入が見送られた経緯がありますが、掩体へ収容するにはE3は大型過ぎ、きめ細やかな航空警戒任務を遂行するにはE2Cは一つの最適解であったのかもしれません。

 F-15の導入は、日本本土への攻撃に際して増援の米空軍が展開するまで十日間程度の期間、千歳基地や三沢基地を拠点として緒戦を防護し、ソ連軍戦闘爆撃機の松島基地も含め北海道上空の航空優勢を確保するには、F-16では能力不足、併せて候補とされたF-14では費用面と稼働率や戦闘空中哨戒任務での飛行能力といった様々な視点から最適ではないとされ、最終的にF-15が導入されました、この時点では想像できなかった部分ですが、F-14は艦隊防空任務の空母航空団における比重の変化により除籍、F-15はアメリカ空軍でも大量の装備を搭載し機動性を両立できるとの性能が重視され、イーグル2040計画としてさらなる能力向上計画も示されており、現代でも十分通用する非常によい機種を選定できた、といえるでしょう。

 防空再建という喫緊の課題現出、ここへ我が国は早期警戒機の導入と次期戦闘機計画という具体的施策を以て対応しました。防空再建はこのようにして徐々に改善され、所謂奇襲事案を経ての本土への攻撃が行われた場合でも、その脆弱性を衝撃的な事件ではあっても事前に認識する事が出来、払拭する事が出来たという意味で、防空再建という喫緊の課題現出は上手く対処出来たといえるのですが、実際に有事の際には法的にどのように対処するのか、憲法上の問題と現実の問題とが拮抗し、法律面などでは課題を残す事となりました。

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防衛省平成二九年度予算概算要求の検証【2】 陸海空の主要装備調達要求の概略を視る

2016-09-12 22:07:28 | 北大路機関特別企画
■主要装備調達要求の概略
 防衛省平成二九年度予算概算要求検証、第二回は第一回の補足的な部分も含め考えてみましょう。

 第一回では装備品調達の部分を紹介しましたが、過去最大となる5兆1685億円が要求された割には、正面装備の調達の質が非常に薄い部分が気になります。火砲調達、99式自走155mmりゅう弾砲の継続調達ですが、従来の75式自走榴弾砲の運用が終了しましたので、完全更新後、特科火砲の増強を行うという施策でしょうか、もしくは定数割れの補填の可能性もあります。

 続いて本土特科部隊のFH-70榴弾砲は現在開発中の火力戦闘車が後継を担う事となります。とにかく、陸上自衛隊の装備は防衛大綱改訂に伴い戦車と火砲の定数だけは縮小しましたが、それ以上に除籍が進んでいますし他に調達しなければならない装備も増えました、現行ではその少ない防衛大綱の必要数を満たすにも不十分と云わざるを得ません。

 火砲について、これも考えさせられる部分がありまして、具体的には特科部隊は現在の統合機動防衛力では北部方面隊に集約される方針が示されています、この場合、火力戦闘車は西部方面隊方面特科部隊等少数調達で終わるのか、それとも99式自走榴弾砲を転用し得るのか、統合機動防衛力整備という過渡期の調達である為、関心事の一つといえるでしょう。

 120mm迫撃砲 RTの継続調達は、水陸機動団所要および機動連隊所要なのでしょう。車両関連ですが、16式機動戦闘車 33両、制式名称が公式文書にて初めて公開されました。10式戦車 6両、継続調達です。第2戦車連隊所要74式戦車及び西部方面隊所要、ということなのでしょうか、少数でも戦車生産維持には意味があります。しかし、戦車と機動戦闘車並列調達、少々非効率です。

 また、96式装輪装甲車の来年度要求はありませんでした、96式装輪装甲車はこれから既存師団と旅団の改編で創設される機動師団と機動旅団には不可欠の装備であり、現時点で73式装甲車の退役と間もなく82式指揮通信車の大量除籍が始まります、数年内に今年度より開発開始となりました新型装甲車の大量配備が始まるのでしょうか。

 ミサイル関連の調達に関して、陸上自衛隊は11式短距離地対空誘導弾 1式となっていまして、これでは本土高射特科部隊の更新が進みません、巡航ミサイル防御用の重要装備ですのでこの調達の遅れは痛いです。中距離多目的誘導弾5セット、これも79式対舟艇対戦車誘導弾の後継装備、戦車縮小を前にその調達度合いは一桁違うほどといわざるを得ません。

 一方、艦艇についてですが、護衛艦建造が全くなされないという近年の趨勢が出ています、その分艦艇の延命予算は充分に出ていますが、逆にこれは定期整備の範囲で行われているものを計上しているだけでは、ともいえるでしょう。戦闘機としてF-35Aの6機が今年度予算に続いて要求されています。遅々とした規模ですが二年間の調達により暫定的な飛行隊を編成出来る事となります。

 この他、F-15戦闘機の更なる延命措置が計画されており、これにより主翼部分など老朽箇所の換装により長期間の運用に資する能力を整備し、更にレーダーの更なる新型化への改修、空対空ミサイル運用能力の強化などアメリカ空軍へ提案されているF-15-2040改修に連動した改修計画が示される運びです。

 その具現化はそもそもその改修計画が推進中であり具現化していませんが、今後の航空防衛力を考えた場合、長期間兎に角頑丈に運用寿命へ余裕を持たせたF-15の冷戦最盛期ならではの強度が活かされる事となるでしょう。一方で概算要求に盛り込まれなかった航空機に関して、哨戒ヘリコプター、救難ヘリコプター、新早期警戒機、以上三機種がありまして、特に早期警戒機については全体で1機、試験調達に近いものです。

北大路機関:はるな くらま
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9.11:アメリカ本土同時多発テロから15年 人の尊厳と自己実現を重視する国際公序の行方

2016-09-11 23:11:09 | 北大路機関特別企画
■世界はどう変わったか?
 本日はアメリカ同時多発テロから15年という鎮魂の日です。あの日から世界はどう変わったのでしょうか。

 アメリカ同時多発テロは、その後の対テロ戦争という新しい戦争形態の普遍化、中東地域における21世紀初頭から今日までに至る大きな混乱と秩序の再構築、その破綻と再構築の試みという大きな対立構造と共に、20世紀後半の東西冷戦に並ぶ、新しいイデオロギーの対立、宗教対立という古く、そしてまた新しい問題を再認識させる狼煙となっています。

 アメリカ同時多発テロ、アフガニスタンを基点とする国際テロ組織アルカイダにより、アメリカ本土の首都ワシントンDC,経済中枢ニューヨークの世界貿易センタービル等を複数の旅客機を同時にハイジャックし、体当たり攻撃を掛けるという卑劣な攻撃により戦端が切られました、これは破綻国家を基点とするテロ組織の危険性を世界に示したわけです。

 破綻国家を国家再建に導き、テロの温床を経済発展と民主主義の輪で包もう、こうした発想に対し、突き付けられたイスラム原理主義の主張は、イスラム教成立以前の原始的状態まで世界の文明を後退させ、その上で一から預言者が示した世界を独自解釈し思い浮かぶ世界が実現する事が可能となるよう、人類史をやり直す、と相いれないものとなりました。

 今日の視点から見た場合、同時多発テロを受けてのアメリカの坑道は致し方ない物であったといえるかもしれません。また、アルカイダの掲げた中東地域からのアメリカ軍の撤退は、イラク戦争を経て現在のオバマ政権により撤退が実現、彼らの要望が期せずして実現したのですが、生まれたのは軍事的空白と国家再建の空隙に乗じた破綻国家状態です。

 軍事的空白は、その後、現在進展中のシリア内戦とロシア介入に示されるようにアメリカが引いた分、ロシアという新しい勢力の中東展開という単なる転換が生じ、また、無政府状態の成立はアルカイダを上回るISILという新しい脅威の出現とテロの輸出という状態の悪化を招いたものとなります、軍事的空白の危険性を世界へ再認識させたものでしょう。

 一方、テロとの戦いに代表される装備体系への、アメリカ軍及びNATO加盟国の転換は、期せずしてレジームチェンジという可能性を示すものとなりました。具体的には、イラク戦争とその後のイラク治安作戦、アフガニスタン介入により、近接戦闘と耐爆車両や個人用戦闘装備偏重の装備改革、海軍は沿岸作戦、空軍は監視能力重視へ転換してゆきました。

 結果、FCS将来装備体系開発中止、将来偵察ヘリコプター計画中止、将来自走榴弾砲開発中止、DD21将来水上戦闘艦構想抜本的縮小、JSF統合打撃戦闘機計画の縮小と開発遅延、つまり重厚な大規模武力紛争へ対処する事を可能とする様々な装備開発計画が、海外派遣戦費と対テロ作戦対応への装備転換による予算不足から中止縮小見直し、となっています。

 レジームチェンジへ、というものは、欧米の装備転換に対し、中ロは従来型の重厚な装備体系を重視し、中国は経済発展と共に軍事力の投射能力を爆発的に増殖させ周辺国への軍事圧力へ転換し周辺国ほぼすべてと紛争状態に転換した他、ロシア軍は再建されクリミア併合や東部ウクライナ介入に中東進出等、平和秩序の根幹へ挑戦者が生まれたというもの。

 こうした予測不能な世界へと転換する引き金が、2001年9月11日の同時多発テロの発生でした。東西冷戦後、人の尊厳と自己実現を重視する新しい国際公序の普遍化が世界をより良くすると考えさせた事に対し、必ずしもそうではないとの認識が収斂し発生したものかもしれません、新世紀における世界の方向性を大きく変えてしまいました。本日は、この悲劇の犠牲者を心から悼み、末尾とします。

北大路機関:はるな くらま
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