北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

LAW軽揚陸艦構想:30隻をアメリカ海軍が量産へ,渡洋作戦能力有し海兵隊“沿岸連隊”を支援

2020-05-21 20:13:35 | 先端軍事テクノロジー
■米海兵隊二〇三〇年代への挑戦
 アメリカ海軍の艦艇と云えば巨大な艦艇の大艦隊という印象ですが近年は小回りというものも併せて艦隊計画が進められています。

 LAW軽揚陸艦。アメリカ海軍が小型揚陸艦というべきものを模索しているようです。主として海兵隊の揚陸支援用にあたるもので、艦内に車両甲板を有するものの、ビーチング能力、海上自衛隊の輸送艦ゆら型のような艦首に観音扉状の揚陸ランプを設置し敵前に上陸するようなものではなく、ランプを船体後部に配置した支援船のような設計の揚陸艦です。

 LAW軽揚陸艦は30隻程度を量産する計画で、造船各社に提案書を要求している段階ですが、その設計はシーステート5という4m程度の波浪で運用でき、機動力は巡航速度14ノットで3500海里の航続距離を有し、乗員は40名以下で兵員75名程度の居住区画を有し、艦内に最低でも全長60mの車両甲板を有しM-1A1戦車などの重車両を輸送、というもの。

 アメリカ海軍といえば巨大なアメリカ級強襲揚陸艦やワスプ級強襲揚陸艦といった四万t級の、諸外国の航空母艦さえ凌駕する全通飛行甲板型船体のものや、二万t級のサンアントニオ級ドック型揚陸艦などがありますが、いわゆる支援任務的な要素、定期整備を終えた重車両の兵站拠点間の輸送や管理替による装備の輸送などにはいかにも大きすぎます。

 陸上自衛隊は現在、南西諸島防衛への独自の輸送船を検討中です。海上自衛隊の作戦輸送に用いる輸送艦ほど戦闘を念頭としたものではありませんが、現在、政府傭船の高速フェリーはくおう等、そして民間フェリーなどに間借りして訓練輸送などを実施しています。訓練輸送とは輸送訓練が輸送の訓練に対して北海道等訓練移動する為の機動、ということ。

 アメリカ海兵隊への支援用となる今回のLAW軽揚陸艦計画、細部を見てみますと、自衛隊向きの揚陸艦なのですね。輸送船ではなく揚陸艦としているために、港湾での役務に重点を置いていますがランプを有しており、そして航続距離も充分、日本海や太平洋での厳しい波浪にたいしても台風でも来ていない限り、十分対応でき、そして何より安価である。

 ウエストパックエクスプレスやスピアヘッド級遠征高速輸送艦、アメリカ海軍はオーストラリア製高速フェリーを軍事支援輸送用に活用していますが、用途としてはこちらにちかいもようです。ただ、LAW軽揚陸艦は建造費用を抑えることも併せて重視しており例えば商船設計を多用することで船体構造寿命を10年程度に妥協も要求仕様に盛り込まれました。

 フランクベッソン級輸送揚陸艦やラニーミード級支援揚陸艇、アメリカ陸軍も海軍とは別に独自の輸送艦を有しています、こちらは艦首に揚陸扉を配置しており、こちらを導入したフィリピン海軍などは戦車揚陸艦として活用していますが、アメリカ陸軍の場合は上陸作戦で先陣を切って動員する用途は考えておらず、やはり平時を中心に支援用、という。

 ラニーミード級であればアメリカ陸軍が横浜ノースドックに配備している様子がみなとみらい地区などから望見できます。1200t規模の使いやすそうな揚陸艇ですが、しかし港湾地区での役務作業を想定しており浄水施設や海水濾過設備を有しておらず、つまり手洗いや入浴など長期間の運用は想定していません。しかし、LAW軽揚陸艦の要求は少し厳しい。

 LAW軽揚陸艦、LAWというとM-72/66mm軽対戦車弾を思い出してしまう、この揚陸艦は上記の通り海兵など75名程度の便乗者を想定し、また航続距離も3500海里が要求されていますので、ハワイから横浜までの4020海里は直行できませんが、サンディエゴからハワイまでは2340マイル、つまりグアムなどを経由することで太平洋横断も可能となります。

 沿岸連隊。LAW軽揚陸艦のような装備が必要となっている背景には、アメリカ海兵隊が2030年代を見越して進めている部隊改編が挙げられます。この沿岸連隊とは一種の諸兵科連合部隊であり、戦車大隊などを全廃し統合、沖縄駐留第3海兵師団を大規模に改編し3個沿岸連隊へ改編予定となっています。もっとも第3海兵師団に戦車大隊はありませんが。

 海兵師団の沿岸連隊とはAAV-7両用強襲車やM-1A1戦車をもともと編成に内部化し海兵軽装甲偵察中隊や海兵大隊とともに一つの戦闘団単位を基本とする、いわばMEU海兵遠征群のような即応部隊の編成を常設化する、自衛隊の即応機動連隊を大型化したような編成です。これにより即応部隊の作戦単位が増加するのですが、即ち展開の細分化にもつながる。

 LAW軽揚陸艦と沿岸連隊。この整備の目的とすることは海兵隊の原点回帰といえるのかもしれません、海兵隊が船舶警備部隊から現在の水陸両用部隊となった背景には太平洋に1920年代から日本との緊張を背景に島嶼部の戦闘を重視する必要性が高まったためです。ただ、LAWや沿岸連隊は日本とは敵対せず寧ろ伍して、新しい脅威へ向けられています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【京都発幕間旅情】大井神社(静岡島田)天女羽衣流着伝説伝わる社殿は日本三大奇祭にて紡ぐ

2020-05-20 20:07:30 | 旅行記
■帯祭-島田大祭は三大奇祭
 東海道本線は日本の大動脈ですが、歴史の古さも日本有数のものであり沿線には美しい歴史を数多湛えています。

 大井神社。東海道本線島田駅から歩み進め十分、島田市大井町に鎮座しています神社です。旧社格は県社となっていますが戦後においては神社本庁の別表神社に列せられ、大井川の神霊を祀る神社となっています。同じ名の社殿は京都嵐山含め全国に鎮座しています。

 島田駅、東海道本線の拠点駅の一つで普通列車にてゆったりと東海道本線を散策していますと、島田行普通列車と巡り合う事があります。これだけならば単なる乗換駅なのですが、改札から指呼の距離に別表神社が鎮座していると聞きまして、一つ歩みを進めたしだい。

 日本書紀に記された大井川、その名は偉大な水と大きな水の流れを示す瑞祥地名でありまして、六国史によれば貞観7年の西暦865年、駿河国の大井川を大井神として従五位下の神階が贈られ、大井川の神格化が始ります。この頃に創建された社が大井神社の始まり。

 弥都波能売神と波邇夜須比売神と天照皇大神を祭神として祀る神社ですが、弥都波能売神 は水の神であり、波邇夜須比売神 は土の神であるとともに天照皇大神 は光の神、弥都波能売神を三柱の中央に祀る事が、この大井神社が大井川神格化を行った名残りといえます。

 境内は、東海道本線駅前の別表神社としては長大な参道と共に奥に拝殿本殿と清水をたたえた鏡池の情感とが不思議な気風を漂させ、しかし単に神格化された立地ではない事は境内の社務所に隣接した土産物屋が名物静岡おでんを熱々と煮込んでいる点に象徴的でした。

 天女羽衣流着伝説。大井川は中世以前の頃から流着伝説が残されていまして、榛原郡など太平洋にも近い大井神社よりも上流の立地に幾つか史跡と記録が残ります。そして、大井川は天女以上に気ままと思われるものでして度々その流れを換えました、水害ともいう。

 建治年間の西暦1276年、歴史的な大井川の大洪水が発生し、実はこの大洪水の前には大井神社は現在よりも遥かに上流に在ったと伝わります、これは上流で前述の榛原郡に大井神社旧社跡という石碑があり、また御神体として羽衣も榛原のあたりに祀られていたとも。

 島田大祭という、天下の奇祭があります。この祭事は帯祭とも呼ばれていまして、3年に1度、寅年と巳年と申年若しくは亥年の10月中旬に執り行われています。元々は元禄時代に嫁いできました花嫁が、大井神社に参拝し帯を奉納した事が始りというものなのですが。

 帯祭り、という祭事がなにか、羽衣伝説の名残りを思わせる様に感じなくもありません。しかし、この島田大祭は特徴的で、大名号列と見越し渡御に鹿島踊りという、時代祭と御輿に疾病祓いの舞踊を一つにまとめたような大規模なものでして興味深いものなのですね。

 日本三大奇祭というお祭り、この他は有名な山梨県富士吉田市の吉田の火祭、愛知県稲沢市の国府宮はだか祭り、と共に並んでいまして、この背景には大奴という、時代行列の山伏が全員、やっとこの大面を身に着けた大奴の姿にて練り歩くためという。境内に銅像が。

 大井神社は、伝統と共に大井川の河畔に歴史を紡いでいますが、同時に水害の影響も多く、慶長時代1604年には大井川決壊により一時高台に遷座しました、江戸時代には東海道島田宿の発展と共に幾度か遷座しています、現在地に遷座したのは元禄時代の1689年とのこと。

 静岡おでん。静岡県の郷土料理で格式ばったものではなく元々は駄菓子屋で数十円、平成初期にも十円に限りなく近い価格帯、駄菓子感覚で頂く煮込みです。実はビール清酒で名物を一献と思っていたのですが、境内のおでんは子供の社交場、断念し駅に向かいました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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宇宙作戦隊創設!自衛隊宇宙戦場に挑むSpace Operation Squadronを東京-府中基地に新編

2020-05-19 20:11:05 | 防衛・安全保障
■東京SOS,日米宇宙大作戦拠点
 宇宙大作戦、自衛隊も宇宙に臨む時代となりましていよいよ21世紀らしくなってきたという実感ではある名称です。

 Space Operation Squadron宇宙作戦隊。自衛隊初の宇宙監視部隊が昨日18日、航空自衛隊府中基地に新編されました。府中基地は2012年まで航空総隊司令部、航空自衛隊の本土防空にあたる総司令部が置かれていた基地であり、現在は航空総隊司令部と防空指揮群および作戦情報隊施設は横田基地へ移駐して、その利用する形で航空保安管制群や電子開発実験群などが置かれています。

 Space Operation Squadron。宇宙作戦隊はこの名称となったのですが、略して“SOS”です。もう少しどうにかならなかったのかな、とも。東京Space Operation Squadronか府中Space Operation Squadron、略して“東京SOS”となりますので、ゴジラ-モスラ-メカゴジラ、でも登場しそうな名称となっています。名称については後述する事としましょう。

 府中基地に宇宙作戦隊。宇宙作戦隊といいますと緊急時には大気圏外からの脅威に特殊なブースターを装着したF-15へASM-135/ASAT対宇宙ミサイルを搭載し成層圏まで急上昇、もしくはTSR-2戦闘機にポラリスミサイルを搭載して下地島に配備し宇宙からの挑戦を爆砕する、というような勇ましい印象を覚えられるかもしれませんが、そうではありません。

 自衛隊宇宙作戦隊は航空自衛隊の隷下部隊であり、新編時の人員は20名です。おお科学特捜隊日本支部の四倍の人数だ、と思われるかもしれませんが、当面はこの規模で行い将来的に100名規模の部隊へ拡張されるという。府中基地には飛行場はありませんのでジェットビートル的な航空機も配備されませんが、任務はやはり宇宙の脅威へ向けられている。

 宇宙塵が脅威です、宇宙人ではない。宇宙空間からの脅威、宇宙作戦隊の任務はこちらにも備えつつ、しかし宇宙空間における脅威へ対応することが主眼です。具体的にはキラー衛星やスペースデブリ、自衛隊は恒常的に衛星通信を利用しますし、内閣府には情報収集衛星などが管理されています。その上で、不審な動きを行う人工衛星や宇宙塵が脅威だ。

 ミサイル防衛などではアメリカ空軍および宇宙軍が運用する弾道ミサイル早期警戒DSP衛星などは、日本にとっては横田基地の日米作戦調整所よりいち早く弾道ミサイル飛来情報などが通知され、例えば北朝鮮が暖冬に核兵器と搭載した弾道ミサイルなどで日本を攻撃する際に、この情報が国家防衛システム、数十万の人命を直接左右する事となりましょう。

 人工衛星は攻撃目標ともなるため、このための情報を日本側も提示する必要があります。上記の20名では可能となることは限られているのですが、一方的に情報の受け手に甘んじるのではなく、日米をステイクホルダーとして情報を提示する窓口としても機能させる。宇宙作戦隊にはこうした目的も考えられます。そして宇宙からの脅威とは、もうひとつ。

 キラー衛星、これは1970年代から既に模索されていましたもので、写真偵察衛星などから有事の際、有事の際といっても此処でいう有事は小競り合いではなく世界大戦規模のものですが、こうした際に情報を秘匿するために故意に敵の偵察衛星に接触し破壊する人工衛星などがあります。不審な動きを行うこうした脅威を予め把握することが要諦のひとつ。

 宇宙戦争。映画のようですが手法は古い。先ずキラー衛星については宇宙条約により人工衛星は軌道が公表されており、この公表とは異なる軌道周回を行う衛星を感知する、これをビーム砲で撃破、とは決して行わず、一番古典的な対処法はキラー衛星が接近した場合には回避行動をとる、つまり逃げるが勝ち、という運用を無限の大宇宙で行うのですね。

 宇宙状況監視システム。宇宙作戦隊は上記の通り情報こそが武器です、しかし宇宙からの挑戦は平時には少なく航空自衛隊が当たる任務は宇宙からの脅威よりは中国大陸からの戦闘機や爆撃機などの脅威のほうが圧倒的に多い、このため、宇宙作戦隊はアメリカ宇宙軍やJAXAからの情報提供を受け、その情報処理を行い宇宙空間からの脅威に備えます。

 宇宙監視レーダー。航空自衛隊はJAXAやアメリカ宇宙軍に加えて独自の宇宙に向けたレーダーサイトを設置する予定で、山口県の見島分屯基地、航空自衛隊第17警戒隊のレーダーサイトですが、ここに宇宙監視レーダーを新設予定で、こちらは2023年に運用開始という。レーダーのほか、スペースデブリ監視には光学望遠鏡も非常に有用な設備とされる。

 重要な部隊の発足です。ただ、宇宙作戦隊、なんといいますか、もう少し名称はどうにかならなかったのか、と思う。宇宙作戦とはいいつつ監視が任務なのですから航空宇宙監視隊とか、軌道情報隊とか、航空宇宙情報作戦隊とか、別にやりようはなかったのかな、と。無限に広がる大宇宙を全て任務領域にできる壮大な名称で実員20名では、格好が、ねえ。

 無限に広がる大宇宙、さて。宇宙作戦隊という名称ではありますが、人員が100名規模で編成完結するとは思えず、おそらく将来の航空宇宙作戦団として宇宙作戦隊は先ず遠からず宇宙作戦群、そして群隷下に情報隊や宇宙電子監視隊が創設、続いて団編成へ進むのでしょう。そうするとSpace Operation Squadronは団編成に、ちょっと違うがSOS団の完成です。

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20式5.56mm小銃報道公開:豊和工業製,島嶼部防衛等を主眼に現行の89式小銃の後継装備

2020-05-18 20:19:12 | 先端軍事テクノロジー
■89式小銃後継担う新小銃
 新小銃20式5.56mm小銃を報道公開、HOWA-5.56として開発され今年度予算に計上されていました新時代を担う最新型小銃の登場です。

 防衛省は89式小銃に代わる新小銃20式5.56mm小銃を報道公開しました。今回のコロナウィルスCOVID-19感染拡大さえ無ければ、四月下旬水陸機動団記念行事相浦駐屯地祭、もしくは7月初旬に実施されていたでしょう富士学校祭で公開されていたことでしょう。感染拡大が奇跡的に冬の第二波がなければ来年の空挺団降下訓練始めに期待しましょう。

 島嶼部防衛などを主眼に海水などでの防錆性能を考慮したとのことで、小銃全体の印象としては全面的に折畳式銃床を採用しコンパクトとしている一方、昨今の世界で潮流となっていますレイルシステム、照準器や照準補助装置とフラッシュライトなどを装着する構造を採用しています。ただ、重厚形状や機関部と握把の全体印象は89式小銃に似たおもむき。

 19式5.56mm小銃。さて、今年度予算概算要求にはこう命名されていましたので疑問に思われる方も多いでしょう、これは19式小銃が既に存在した、というお役所的な理由がありました。QBZ-19、中国人民解放軍の新小銃で先行して開発されたQBZ-17を短縮し2019年の中国建国70周年閲兵式にて公開、日中で同じ名称の小銃では紛らわしい、ということ。

 89式5.56mm小銃は2000年代のイラク派遣に際してクウェート国内で派遣隊員全員が砂漠の射撃場で1000発の射撃を万一戦闘に巻き込まれる懸念から実施、小銃に最も過酷という砂塵の中で作動不良を起こさなかった事から信頼性の高さを確たるものとしました。一方でこのイラク派遣を契機に自衛隊では戦闘射撃というものの認識が大きく転換しました。

 M-4A1カービン。同盟国アメリカ陸軍では長大なM-16A2小銃の後継として短いが取り回しやすいM-4A1が採用されるところとなりました。そして自衛隊では射撃場において400m以遠の標的を射撃する基本から自由射撃という近距離での遭遇戦に対応する戦闘射撃の重要性、市街地戦の視点から留意されるようになったのが2000年代の転換点のひとつ。

 M-27ISR。アメリカ海兵隊ではM-4A1への転換よりは遠距離戦闘を留意したM-16A2の維持が決断されています。自衛隊が89式小銃に望む400m以遠との戦闘をアメリカでは海兵隊が留意していたのですね。そしてM-4カービンを源流としたドイツ製H&K-HK416強化銃身型を分隊支援火器として採用し、M-249MINIMI機銃と二類型を構成していたのです。

 陸上自衛隊とアメリカ海兵隊、変な共通点ですがライフルマン重視のアメリカ海兵隊と軽装備の普通科連隊が編成の中心という陸上自衛隊は独自の火力として小銃に依存する比重が大きいという不思議な共通点があります。したがって400m以遠の目標との戦闘能力を維持しつつ、しかし、近接戦闘の取り回し、という矛盾する能力が要求されることとなる。

 レイルシステム。文字通り小銃のレールが載っているようなものですが、長射程と取り回し、二つの矛盾する目的を達する手段として、光学照準機やバーティカルグリップという取り外し式の握把というものがあります。光学照準機は89式小銃にも搭載可能ではありましたが、1980年代に複数の照準機を搭載する想定はなく、時代遅れ、となってしまいます。

 20式5.56mm小銃、ベルギー製FN-SCAR小銃とにているとの話題がありましたが、なにか89式小銃が採用されるさいにFN-FNC小銃が採用されるとの憶測記事が流れたことを思い出します。アメリカ製ブッシュマスターACR小銃ともにている印象はやはり89式小銃開発当時にアーマライト社製AR-18ライセンス生産の憶測が飛んだ話などを思い出す。

 西部方面普通科連隊、現在の水陸機動団などは取り回しを良くするために規格外のバーティカルグリップを特注し89式小銃の被筒、即ちハンドガード放熱孔にに装着することで効果を上げましたが、結果、被筒はそうした運用を想定しておらず、放熱孔にボルドで直付したグリップで光学照準機を乗せて重くなった小銃を振り回すことで被筒が欠損の事故も。

 89式小銃にレイルシステムを装備する新小銃も、技術研究本部、現在の防衛装備庁では一応検討されたようですが問題がありました、被筒などを再設計したとしても、この部分に圧力が加われば銃身の基部に負担が掛かり、正確な照準ができなくなるという。これはM-4A1でもM-16A2でも認識されているもの。そこでフローティングバレル構造が必要に。

 新小銃は国産です、被筒などに照準補助装置や握把やフラッシュライトなどを追加した場合でも重さは銃本体に掛かり銃身にぶら下がらない構造を採用することとなりました。もっとも、弾薬は5.56mm弾、6.8mm弾など幾つか研究は行われたという、しかし89式小銃と同じ弾薬を採用する事が決定されたため、内部構造は89式小銃に準じている、とも。

 豊和工業において国産開発された19式小銃。残念ながら機関部など内部はまだ公開されていませんが、89式小銃と機関部などが同設計であるならば、分解清掃などの教育面で相互互換性があります。小銃構造はPCのキーボードのように目を瞑っていても正確に操作できなければなりません、この点から国産を採用することにはある程度の意味があるのですね。

 64式小銃、陸上自衛隊では教育訓練部隊や後方職種は勿論、予備自衛官部隊でも完全に代替され、海上自衛隊や航空自衛隊へも順次89式小銃が入り始めています。20式小銃は全面的に89式小銃を置き換える方針とのことです。ただ、御世話になっている現職の方曰く、漸く64式小銃から89式小銃に慣れたばかりなのに、という時代の流れの速さも聞きました。

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【日曜特集】平成28年第1空挺団降下訓練始【11】中谷元防衛大臣の訓示(2016-01-10)

2020-05-17 20:16:56 | 陸上自衛隊 駐屯地祭
■大臣訓示と祝賀飛行
 平成28年第1空挺団降下訓練始の訓練展示はこうして完了しました、そして今朝一番に降下訓練塔から降下訓練体験を行いました防衛大臣の訓示です。

 第1空挺団降下訓練初めの完了と共に年頭に当たっての訓示、厳しい国際情勢と共に空挺団への期待を訓示しました。一般公開される自衛隊行事の中で防衛大臣が直接訓示するというものは、この習志野位ではないでしょうか。空挺団長以下中谷防衛大臣へ敬礼を行う。

 中谷防衛大臣が、訓示へ進む。中谷大臣は1990年以来議員奉職、第一次小泉内閣において第67代防衛庁長官を経験、第三次安倍内閣では再任され、今回の降下訓練始めを第14代防衛大臣として観閲、訓示を述べます。防衛大臣旗として五つの桜が並ぶ大臣旗がみえる。

 中谷防衛大臣による、第1空挺団降下訓練初めの完了と共に年頭に当たっての訓示、厳しい国際情勢と共に空挺団への期待を訓示しました。一方で政治には政府が自衛隊へ命じ、求める、厳しい任務へ臨む第一線へ必要な装備と補給を滞りなく行う義務があります。

 祝賀飛行へ。最初に四機のヘリコプターがこちらへ飛んでくる様子が。空挺団を支えたヘリコプター部隊は中谷大臣へ祝賀飛行を行う。観閲飛行の後に前期着陸して訓示を、という訳には航空機という特性上出来ない事から、編隊での祝賀飛行を行う事で代えています。

 AH-64D戦闘ヘリコプターを先頭に二機のAH-1S対戦車ヘリコプターとUH-1J多用途ヘリコプターが一機、確かUH-1J多用途ヘリコプターは二機と地雷敷設の機体が参加部隊にいたはずですが、他の支援等で展開しているのでしょうか、若しくは不測事態準備なのか。

 AH-1S対戦車ヘリコプターは96機が導入されたのですが、後継のAH-64D戦闘ヘリコプターは13機で調達終了、弾道ミサイル防衛の為の予算捻出を、性能不足という云いがかりで塗布しました。これが性能不足ならばアフガンやイラクでの破竹の戦果は何なのだろう。

 CH-47JA輸送ヘリコプターが三機重なるような構図で、チヌーク三兄弟、というところか。よくみますと1機がJA型で残る2機はJ型ですね。川崎重工では延命改修に併せて、CH-47JのCH-47JA相当への近代化改修も継続的に行っています。まだまだ使う機体だ。

 輸送ヘリコプターの五機編隊、これで人員275名を空輸できる規模です。軽装甲機動車ならば吊下げ空輸と機内収容で10輌、機内には高機動車も入ります。救急車や消防車さえも、治具さえ取り付けるならば空中機動させる事が可能、大規模災害にも常に活躍しています。

 南海トラフ巨大地震や首都直下型地震の懸念が残る中、特に輸送ヘリコプターは重要です。あの2011年東日本大震災においても、孤立地域救出から救援物資輸送に福島第一原発原子炉放水、果ては民心安定という成果まで出しました、全自衛隊で最も重要な機体の一つ。

 第1空挺団火消し部隊の出動だ。火消し部隊というと何か緊急展開部隊的な強そうな響きが残るのですが、こちらの火消し部隊は野火に備えるもの。過去に充分刈っておいた筈が疑爆筒の火花が引火し迫力ある状況になった事が、火消し部隊は重要だ。消防ともいう。

 中谷防衛大臣の訓示が訓練展示終了と共に開始されますので、訓練参加部隊は習志野訓練場の域内から急いで式典会場へ集合してゆきます、一方で火消し部隊は小火が火事となる前に火消しに向かう、こう書くと地域紛争の鎮圧に向かうような表現となるのはきのせい。

 87式自走高射機関砲の撤収、迫撃砲小隊の隊員が点呼し式典会場へ向かう準備を行う、とともに火消し部隊が焦げていそうな枯草へ片端から水を。この背負い式個人消火器材は山林火災に用いるもの、稀にサバイバルゲームで携帯放射器代わりに水掛に使うのもいる。

 空挺隊員が続々と集結する。戦闘防弾チョッキと小銃を装備し完璧な擬装を行っている方々は先ほどまで訓練展示に参加していた方、略帽と戦闘服だけの方々は来賓誘導や会場警備と式典案内等、支援に当っていた空挺隊員のみなさま。車両の擬装はどれも完璧だ。

 89式装甲戦闘車、富士学校の装備ですので車輌地区へ集結し、整備補給を追えて後に滝ヶ原駐屯地へ戻ります。この車体かMLRS基部の車体、再生産できるならば、これに16式機動戦闘車の砲塔を載せて装軌機動戦闘車、と出来ないか、少し考えてしまいましたね。

 10式戦車、皆さん真剣に集まって無数の写真を撮影しているので当方もカメラを取り増しますと、ご近所の方から、珍しい車両なのですか、と聞かれてしまいました。あ、いや、これ、“戦車を、洗車”と多分皆さんがカメラを向けている理由を説明しますと、引かれた。

 関西では戦車を洗車の写真等は鉄板ネタだと思うのですが、千葉の人は笑いに冷淡というのか、真面目な方が多いのでしょうか。でも駒門駐屯地祭や練馬駐屯地祭では戦車を洗車する様子などは中々見れませんし、一発ネタとして使える被写体が在れば、撮りますよね。

 機動戦闘車、本邦初公開となりました。報道公開以外で、ですが。この時点ではまだ16式機動戦闘車ではなく装備実験隊が評価試験を行う単なる機動戦闘車です。快晴の青空の下で最新鋭の代名詞というべき陸上自衛隊の新装備が、心なしか輝いているように見える。

 機動戦闘車は車体形状や増加装甲が微妙に各車両で違う、というもの。アメリカ軍のストライカーMGSを見た事がありますが、不思議と砲塔も大型ですし、車幅等はこちらの方が大きいのに専用設計という事で車体は全体的な印象としてコンパクトな印象を受けました。

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【映画講評】War of the Worlds/宇宙戦争(2005)【3】第3師団vs火星人-大阪決戦

2020-05-16 20:15:27 | 映画
■脅威下の冷静な判断と対処
 新型コロナウィルスCOVID-19世界流行禍さえ無ければ今頃は千僧駐屯地祭ではあったのですが、外出もできませんで今週は第3師団が映画で多分活躍する話題を。

 宇宙戦争の火星人が地球に大量に送り込んだトライポッドは強力な熱線を発し頑丈なシールドに守られています、これで無敵のような気がするのですが、あくまで映画の演出の都合というものでして、実際にトライポッドは弱点が多い。映画では“大阪では何体か倒した”という台詞が在りましたが接近戦を強要するならば自衛隊は十分対応できるでしょう。

 大阪といえば第3師団です。トライポッドは強力な装備ではありますが映画が公開された2006年、第3師団も近代化改編を受けています。シールドと熱線、トライポッドは旧陸軍がフィリピンや沖縄で見上げたアメリカのM-4シャーマン戦車のように強そうではありますが、しかし、通信や運用の面で稚拙な面が多い、其処を突く戦術こそが勝利を勝ち取る。

 シールドに弱点はないのか。シールドを可視光線が透過しているのですからレーザー光線などは確実に貫通するのでしょう、しかし、2005年当時の自衛隊に戦車を撃破できるようなレーザー砲は装備されておらず、ミサイル照準を妨害する航空機自衛用レーザーが試験中という程度でした。残念ながらこの装備は第3師団には配備されておらず装備庁どまり。

 自衛隊には特定通常兵器禁止条約を遵守するために配備されていないのですが、ダズラー幻惑妨害装置というものがあります。これは眼球に有害なコヒーレント光を照準装置や人員に照射し照準や航空機などの操縦を妨害するものです。そこで、トライポッドに本体部分にダズラーを照射することで、相手を失明に追い込むことも可能なのかもしれません。

 さて。自衛隊には、ダズラー幻惑装置にあたるものを有していませんのでシールドを透過して火星人を無力化する事は出来ません、ただ74式戦車が測距用に用いているルビーレーザーは目に有害である為、戦車中隊単位で一斉に長距離から測距レーザーを照射するならば効果があるやも。現用戦車はアイセイフレーザーを採用している為、逆に古い方が強い。

 しかし、74式戦車のルビーレーザーも既にアイセイフレーザーへ置き換えられているということ。どうせ相手は人間ではないのだから、火星人が人間であったとしても非戦闘員大量虐殺という国際法上の強行規範ユスコーゲンスに反している相手故に多少荒っぽい方法は許されそうなものですが、ルビーレーザー測距装置が換装されているのでは使えません。

 音響で指揮を執っている、トライポッドは重低音の音響で攻撃開始を合図している事から無線が無い可能性を前回示唆しましたが、ここは逆に市街地や農村部であれば防災用行政無線の拡声器を応用する事で、攻撃行動に用いる轟音、音響を流して特定地域へ誘導することもかのうなのかもしれません。要は誘導した上でシールドを無力化できれば、よい。

 音響誘導。映画ガメラ2では飛翔する多数の小型レギオンを電磁波に向かう特性を利用し電波送信所におびき寄せAH-1S対戦車ヘリコプター多数で一挙に制圧する描写がありましたが、実戦でも2015年からのウクライナ東部紛争にてロシア軍がウクライナ軍の野戦通信を遮断し、私物携帯電話に偽の集合命令を発しまして集まった所を砲撃した実例がある。

 シールド、防御力の高い戦車への攻撃方法として、2008年南レバノン戦争では世界でもっとも防御力の高いイスラエル国防軍のメルカヴァ4戦車に対して、道路脇の中層建築物を爆破して戦車に倒壊させ押しつぶす、という戦術が用いられました、可能でしょうか。ただ、トライポッドは15階建のビル相当、巨大な建築物で押しつぶすのは難しそうです。

 地雷。2003年イラク戦争では世界最強とよばれたアメリカ陸軍のM-1A2戦車が機雷で爆破されました、対戦車地雷には相当高い防御力を有するM-1A2戦車ですが、地雷よりも遙かに大きな機雷、本来船舶を狙う、これを地面の下に埋め込むことで爆破していました、結果、55t以上ある戦車の15t以上ある砲塔が吹き飛び、全壊する、威力を痛感させられました。

 92式対戦車地雷はどうか。考えますとトライポッドは地面に脚部を接して機動しています、地面にシールドを張っていません、言い換えれば対戦車地雷を敷設された場合は防ぐことが出来ない公算が高い、92式対戦車地雷は作動すると高熱のジェットが1500m程度まで吹き上がり、戦車の底部を破壊するものです、83式地雷敷設装置により迅速に敷設できる。

 弱点を突くのは地雷だ。2006年大久保駐屯地祭、京都府の駐屯地ですが、第3師団隷下の第3施設大隊も駐屯していまして、思い返しますと2006年の大久保駐屯地祭では92式対戦車地雷を仮設敵が敷設していたのですね、そう、あの地雷を使えばトライポッドを撃破できたのではないか。実際、夜間攻撃などに探照灯を用い、音響で合図するなどをみて第3師団ならば着想しそう。

 指向性散弾地雷、自衛隊が対人地雷の光景として導入したスウェーデン製FFV013管制地雷ですが、これも有用かもしれません。本来は大型筐体を利用し飛行場など重要施設防御用に運用、ヘリボーン強襲等を仕掛けた敵をヘリコプターごと撃破するものですが、遠隔操作により150mまで有効破片を散布する、これを上に向けて敷設する選択肢もあります。

 大阪に出現したトライポッド、第3師団は応急出動のかたちで第36普通科連隊や第37普通科連隊が64式対戦車誘導弾や87式対戦車誘導弾、自走106mm無反動砲で攻撃を加えるものの、シールドを貫徹できず苦戦を強いられるでしょう。しかし、上記の通り見ればわかる明確な弱点が存在するのです、恐らく師団はここで柔軟に対応を切り替えたはず。

 第3特科連隊、2005年当時は特科隊ではなく特科連隊の編成でした、この特科連隊によりFH-70榴弾砲を用い、広範囲に白リン弾を投射、煙覆します。その間に施設大隊83式地雷原敷設装置を用い数百の92式対戦車地雷を敷設、踏んだ瞬間からトライポッドは倒れ、行動不能となったトライポッドは普通科隊員が近接戦闘に持ち込み火星人を銃剣で始末する。
す。しかし、こうしたとおり弱点はある、そして暗視装置や通信の重要性を理解していない火星人は、技術力は多少高くとも戦争にかんする戦術や戦略というものを持ち合わせていなかったのかもしれません、ここが最大の弱点であり、そもそも戦争を繰り返す人類には勝てなかったようにも思います。

 映画宇宙戦争はHGウェルズ氏の原作の通り、部隊は現代であっても火星人は終盤に地球でのウィルスに冒されあっさりと死滅します、つまりトライポッドはNBC防護装置や気密室さえ有していなかったのですね。映画では終盤に示された為、冒頭にこの弱点が分っていたならば化学兵器使用も真剣に検討されたのかもしれません。催涙ガスだけでも効く。

 さてさて。一見困難で厳しい状況にあっても、見方を変えるだけで勝機や解決策というものは数多ある、これが“宇宙戦争”における自衛隊と火星人の激戦を考えた上で導き出しました結論です。他方で現実世界は喫緊の課題が新型コロナウィルス、死者30万で治療法は現在ありませんが脅威下の冷静な判断と対処としまして、在宅、この一点でも未知のウィルスは防ぐことができる、のですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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COVID-19,出口戦略!国家緊急事態宣言39県解除とポストコロナ世界での米中対立激化懸念

2020-05-15 20:12:21 | 国際・政治
■複合要素,疫学命題と国際対立
 VID-19,国内での感染が激化していました一ヶ月前、中国空母が沖縄県島嶼部を初めて通過した際にCOVID-19は疫学を越えて世界政治の問題へ広がった事を認識しました。

 緊急事態宣言39県解除、昨日政府は特定警戒8都道府県を除く39県を警戒解除としました。31名が新たに感染した、本日1831時NHK報道です。東京では新たに9名が感染したとの事ですが一日の新規感染者数が10名を下回るのは東京では3月22日以来とのことで、国内は717名の死者が出ており、改めて危険を痛感する一方、出口が見えてきました。

 日本では感染抑制の兆しが見えてきましたが世界は感染拡大の渦中にあります。死者30万2468名、世界での死者数は30万を越えました、そしてピークアウトはまだ先であり、ワクチン普及までは第二波第三波が来年と再来年に北半球と南半球を襲う懸念があり、やはり死者数は100万単位、1959年アジア風邪の死者300万、その再来さえ懸念されるもの。

 しかし、新型コロナウィルスCOVID-19は別の要素で大きな不協和音を醸成しつつあります、アメリカのトランプ大統領は中国のコロナ情報非開示を激しく非難し、米中国交断交の可能性を示唆しました。自然発生の疾病ではありますが、コロナ以前より生じていた対立構造というものを激化させる、とてつもない副作用の懸念、その背景を視てみましょう。

 米中関係の悪化、ポストコロナの世界を考える場合にグローバリゼーションの後退は少なくとも短期的に避けられないこととなるでしょう、いや現実面としてグローバルな人とモノの移動そのものがコロナウィルス感染拡大防止観点から、恐らく全ての主権国家が2019年1月の時点と比較して何らかの制限措置を執っている為、その兆候は明白といえます。

 国家間対立、考えすぎと思われるかもしれませんが、忘れてはならないのはコロナCOVID-19は単なる引き金であり、その前の世界において既にレジームチェンジ、国家間の規範や公序にかんする変容が生じており、この対立要素があった点、そこをコロナウィルス、これによる幾つかの変容要素が劇的副作用を及ぼす、こうした理解が必要でしょう。

 バイラテラル関係、世界の知的財産権の中心としてのアメリカと世界の工場としての中国、2000年代に急速に進んだグローバリゼーションは改革解放の進んだ中国が巨大な労働市場、特に人件費の低い優位性を活かして世界経済を牽引した時代でした。知的財産ともう一つは流通、この二つをアメリカが確保することで相互互恵の関係が構築できた、ということ。

 1980年代日米貿易摩擦を筆頭に、知的財産権と製造能力、この二つを有する工業国、第二次世界大戦からの日本と欧州の復興はこう作用しまして、相互互恵とはリカードの学説程度には認識されていても結局は競合相手という構図があったわけですが、2000年代のバイラテラル関係は相互互恵と文字通り相互補完のかたちで具現化できたといえるものでした。

 しかし、コロナ前の世界、いや2010年代には中国が独特の商業慣行とともに知的財産権や商標権についての独特の解釈とともに製造業を進め、次第に独自の技術体系を構築することで必ずしも相互互恵の構図は成立しにくくなりました。さて、商業慣行などについては多分に価値観、政治文化というべきもの、哲学まで反映されやすいものがあるものですが。

 不協和音はこのあたりから特に公正という面で摩擦を引き起こしています。ただ、米中を比較しますと、中国は胡錦濤時代こそ中国だけで一つの世界、という独自の政治文化を醸成する、世界の主流から乖離したとしても世界から中国が孤立したとの認識を中国から世界が孤立しただけと置換することは可能でした、しかしそれも現在では成り立ちません。

 世界の工場として成長を果たした中国はグローバリゼーションという枠組みに依存していることは確かであり、例えばいま進められる習近平時代の一帯一路政策などはグローバリゼーションへの依存度の高さを如実に示している事例といえましょう。こうした枠組みの中で、政治的ではなく感染拡大防止という視点からグローバリゼーションが後退したらば。

 グローバリゼーションの後退、この観点は勿論コロナウィルスを筆頭とする疾病の感染拡大の危険性が払拭されるとともに、もともとがコロナウィルスという非国家間対立の要素により醸成されたために自然に解消するとみるべきなのですが、こうした疾病世界規模の感染拡大脅威が再来しないという確証は自然醸成されると楽観視するべきではありません。

 さて、いわば疾病は一時的影響と考えた場合でも恒久的な枠組み、レジームチェンジというような規範の変容まで影響するのでしょうか。これはサプライチェーンという概念が多国間国際分業を、トヨタの東南アジアにおける生産方式として説明される事が多い、ここに再編強いる事でいわば一国完結型に回帰することで前提は大きく変わる点を認識すべき。

 多国間国際分業の枠組みは、自由貿易の前進により醸成された、いわば自由競争の収斂としての成果です。しかし、これは多国籍企業が確実なサプライチェーンの維持を主権国家から提供されるという前提によってのみ成り立つ概念であり、疾病対策という理由ではあっても基幹部品一つの生産が停滞する事で重大な影響が及ぶことは想定外といえました。

 多国籍企業は国家間の自由な移動というものが維持される前提に依拠しているもので、また、コロナ以前の世界を俯瞰するならば幾つかの疾病拡散という要素はありましたが、湾岸戦争のような規模の武力紛争など、国境の封鎖という懸念は国際公序に依拠した有志連合諸国により回避し得る、いわばステイクホルダーへの協調で解決できたものなのですね。

 COVID-19の特殊性というものは、世界政治の一体した行動であっても多国間国際分業を維持させるサプライチェーン網を、つまり自由な人とモノの移動を感染防止とともに維持させることが不可能である、という厳しい現実でした。ここで各国は産業と経済を保護するためにはサプライチェーンを手の届く範囲内に完結させる必要に迫られる、ということ。

 保護主義的措置、なるほどコロナ以前の社会と国際公序では、例えば国防、例えば先端技術保護、また極論で食料安全保障、軍事技術転用については軍備管理、こうしたものを例外として保護主義については逆行する要素として考えられていました、しかし産業保護は政策決定者には支持層の雇用確保を含め一要素でもあり、矛盾した慣行があったといえる。

 保護主義と自由貿易、なるほど労働者の視点からは前者を進める政治への支持はあり得るのでしょうけれども消費者の支持としては自由貿易により安価なモノが得られる優位性も大きく労働者と消費者が兼務されている限り矛盾した行動が生じ、これが均衡を導き出せる政治を有権者は求めていたといえます。しかし、ここでコロナ、という新要素が加わる。

 自由貿易が、取引先の諸国で都市封鎖が行われ必要な部品が供給されないならば製品を製造することができません、故に自由貿易が遮断された状況では消費者であるまえに労働者が雇用を維持されないという危機に晒される、ここでサプライチェーンの再編が求められる、ということ。一国完結のサプライチェーンならば影響の拡大だけは回避できましょう。

 武漢。今回のCOVID-19が感染源として中国国内であったことが状況を悪くしました、世界の工場であるとともに医療資材や衛生資材の最大供給国である中国は、上掲の商慣行により中国国内で生産されている世界各国との合弁企業による衛生資源を全て緊急事態の名目とともに接収し、感染拡大防止につとめた、仕方ないとは云え、この影響は後に引く。

 衛生資材や医療資材とともに中国国内での大規模な都市封鎖により世界のサプライチェーンへ部品が供給されない状況、中国政府は可動可能な工場だけでも稼働させ影響極限かを努力する様子は国営メディアにより強調こそされていましたが、結局、世界規模のサプライチェーンの破綻という状況を醸成してしまった構図です。背景に感染拡大防止を置いて。

 結果論ですが、日本ではいち早く工業生産再開にはサプライチェーンの再編が必要との認識が経済団体と政府からほぼ同時期に示され、例えば中国依存度の高い医薬品原料などから順次日本本土回帰を進めています。これは2011年の尖閣沖巡視船破損事件とともに実施されたレアアース対日輸出禁止に際しての代替製品製造よりも対応は早いものでした。

 グローバリゼーションの後退はアメリカでは、コロナ以前からトランプ政権がその必要性を保護主義的な施策から必要としていましたが、保護主義へ懐疑的な支持層からも、いざというときにアメリカの工業力が麻痺する、というトランプ政権の保護主義への概説を、実際いざという時に際してサプライチェーンが麻痺したことで懐疑の前提が覆ったかたち。

 しかし、前述の通り一帯一路はじめ中国はグローバリゼーションへの依存度が高く、サプライチェーンを各国が自己完結に収斂させた場合、結果として切り離される構図となります。そして間の悪いことに、中国へ経済制裁とサプライチェーン再編というものの手段と結果が重複しており、各国が経済制裁ではないとしても、結果は似たものとなってしまう。

 ポストコロナによる国際対立は、複合要素により醸成されるため、一つの処方箋が全ての問題を解決できないことが対立の根本要素を解消できない点に隔靴掻痒があります。中国への経済制裁は行いませんし中国と友好を進めたい、しかしサプライチェーンが崩壊した場合に備えて国内回帰を行う。共通点は資本引上げを行うこと、これでは対立が萌芽する。

 コロナ禍を再来させないために障壁無き疾病の疫学研究へ武漢の門戸を開く。中国政府の求められる要素はここにあります。例えばアメリカとオーストラリアは独自のCOVID-19起源への調査研究を明示しました。アメリカは武漢研究所の漏洩疑惑から、オーストラリアは純粋な疫学的視点から。しかし中国政府はオーストラリアに対し経済制裁を発動した。

 オーストラリア政府は陰謀論や対中制裁の意図はなく純粋に疫学的な最初の患者を画定し、ウィルスの起源へ迫ろうとしているのですが、同国が輸出の35%を中国に依存する牛肉を突如全面禁輸するという施策を中国が示したのでした。これではアメリカでの中国陰謀論を助長し、同時に疫学的に不確定要素が残りサプライチェーンを再起動実施はできません。

 ポストコロナの社会では、こうした複合要素の問題、疫学的な研究を政治が拒否し、政治が意図せざる陰謀論も含め助長させ相互不信が醸成する。ここが新しい政治対立、世界政治への分断へ繋がる懸念があります。この視点から、少なくとも中国は疫学的側面からの門戸開放宣言を行うならば、中国には憂慮する点も無く、対立構造を一時的に払拭できるかもしれません。

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令和二年度五月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2020.05.16-05.17)

2020-05-14 20:07:48 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 本日をもって緊急事態宣言が39県のみ解除され外出自粛要請も8都道府県以外は解除され新しい生活様式へ移行するという発表があります中、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今週末も行事はありません。五月中旬、例年であれば第3師団創設記念千僧駐屯地祭が兵庫県伊丹市で挙行されているところですが、本年は新型コロナウィルスCOVID-19感染症感染拡大を受け、四月初旬の時点で第3師団より師団祭の中止が発表されてしまいまして、更に新型コロナウィルス対策特別措置法に基づく国家緊急事態宣言延長により外出自粛が広く呼びかけられています。

 第3師団祭、土曜日の総合予行と日曜日の本番とが両日とも一般公開されまして、しかも総合予行では師団長と府県知事や来賓は代役ではありますが、副師団長以下全員が参加し観閲行進から訓練展示まで一通り実施、更に本番では招待者のみの特別席からも自由に撮影できるという、師団総員協力と師団広報の尽力が素晴らしい行事だけに中止は残念です。

 緊急事態宣言の39県解除が今夜政府により決定されると安倍総理は本日1800時に発表しました、特定警戒都道府県に指定されている京都府を含む東京都と大阪府に北海道など8都道府県については現段階では追尾できない感染事例と人口当たりの感染者数が懸念の範囲に在るとして今月21日に再度感染状況を見ての緊急事態宣言継続か中断解除かを諮問委員会に問うとのこと。

 さて懐かしの撮影機材の話題を。FUJIFILM-X20はFUJINON28-112mmレンズを採用しています。APS-Cならば35mm換算で28-112mmは、と計算したくなるのですが、これはコンパクトカメラなのですから焦点距離は35mm換算で28mmから112mmのズームレンズとなっています。マニュアルズームでレンズを引き出す事で電源が入りますから、撮影を即座に開始できる訳でもある。

 FUJINON28-112mmレンズは、目盛こそ28mmに35mmと50mmに85mmから112mmと往年のクラシックカメラ単焦点レンズの焦点距離を示していますが、マニュアルズームなのですから52mmでも83mmでも111mmでも好きに調整できます、この機能はズーム機能に縛りがあった従来のコンパクトデジタルカメラ各社の機種にもなかったものでした。

 FUJIFILM-X100という最上位機種、コンパクトデジタルカメラで10万以上という同時期の最上位機種では35mm単焦点レンズが採用されていまして、これはある意味思い切った事をしたなあ、と元々FUJIFILM-X100の購入は考えない故に客観的に視ていましたが、実はFUJIFILM-X20後継機種がX100の影響を受ける事となりますがこれはまた別の話し。

 FUJIFILM-X20はネオ一眼の系譜にある、と表現しましたが、最大の相違点はその筺体がコンパクトデジタルカメラの規模に収まっている点でしょう。一見大型に見えるのですが、FUJIFILM-X20とPowershotG-16の筺体規模はFUJIFILM-X20の方がやや幅が広いもののPowershotG-16の方が全高はやや高くなっています、即ち同程度の大きさ、ということ。

 CANONの描写性に慣れていますと、色合いの質感がFUJIFILMとCANONとでは当然違ってきます、これは微調整する他仕方ない物なのですが室内や薄暮に夜景と日中で全て毎度微調整は咄嗟の被写体を撮り逃す事を意味しますし、艦船に航空機と寺社仏閣に車両と鉄道や風景とポートレート、写りが全部違いますが描写性相違は容認する他ありません。

 EOS-7Dmark2やEOS-7Dは勿論、EOS-KissX7と比較しても操作性や描写性や拡張性全ての面でFUJIFILM-X20は全く太刀打ちできません、しかしFUJIFILM-X20は筺体が小型ですので一眼レフがカメラバックに収められている瞬間でも手に持って被写体との突然の出会いに備えられ、列車の窓べりや喫茶店の机上でも置ける大きさでは圧倒しています。

 次はポストコロナの話題を。自衛隊行事を撮影する際には、コロナ収束傾向が見えた場合でも鉄道旅行には冬の時代が続くのでしょうか。終息、つまり集団免疫が確立したのちにはこうした危惧は杞憂となるのかもしれませんが、その前の収束、即ち感染拡大は押さえられているがまだ小規模なクラスターが断続的に各地で発生している、という状況ではどうか。

 鉄道会社にはクルーズトレインのような客単価の高い列車を除けば、もっとも収益の中枢となるのは高い乗車率の列車であり、これが所謂”三密”を醸成してしまうのですよね。車両によっては大胆に窓を開放する改造によりある程度換気を良くすることはできるのかもしれませんが、利用客の視点ではなく鉄道会社の視点に立ちますと、厳しいでしょう。

 鉄道会社は路線維持、特にコロナ前から採算性の悪い赤字路線、末端部分から維持が難しくなるようにも思います。鉄道に対する現在の影響を見ていますと、それこそ感染拡大防止のための低い乗車率を勝利宣言のように見ていますが、固定編成の多い新幹線、そして都市部の在来線なども固定編成が多いのですが、乗車率に応じて効率化出来ない厳しさも。

 東海道新幹線は、安易に編成を短縮できない、技術的な問題が厳しい影響を及ぼしそうです。P編成、山陽新幹線ではもっとも短い編成として岡山と博多を結ぶ100系新幹線で4両編成というものがありましたが、東海道新幹線の16両固定編成は、赤字が、厳しそうにおもえてなりません。東海道新幹線の苦境はそのまま末端在来線維持へも影響しましょう。

 新幹線を考えた場合は思い切って普通車は座席を向かい合わせとしてパーテーションで区切ったセミコンパートメントのような、パーテーションが厳しければビニールカーテンでもカーテンでも良いのですが区切って、せめて乗車率を30%まで回復できるよう、新幹線では区切ってあって換気も行われるので感染の懸念は低い、と強調できる事が望ましい。

 鉄道は積極措置が無ければ移動需要は自家用車のほうに転換してしまうように懸念してしまいます。三列座席は一区画、二列座席は向かい合わせで一区画、”三密”を回避できる交通手段として復帰できるよう思えます。もっともカーテンは磁石などで即座に取り払えるようせねば乗車率が50%まで回復した場合、密室となってしまい、配慮は必要でしょう。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭

・今週末の行事なし

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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【京都幕間旅情】誓願寺(浄土宗西山深草派)新京極繁華街の不思議な総本山は落語発祥の地

2020-05-13 20:08:12 | 写真
■新西国三十三箇所札所
 京都と云えば古都というには近代的過ぎる、と批判がありますが、元々最先端都市を目指した街なのですからある種当然です、そして街中に千年の歴史が。

 誓願寺、阿弥陀如来を奉じる中京区新京極通三条下ル桜之町の寺院で新西国三十三箇所第15番札所となっています。天智年間は667年に建立されまして、天智天皇の勅願により造営された勅願寺です。元々奈良に在りましたが平安朝の頃、京都深草へと遷座している。

 新京極通りは京都一の若者の繁華街、という印象ですが、此処を散策していますと寺社仏閣非常多い事に気付かされます、その社殿本殿は多くが鉄筋RC構造故に余り歴史を感じないという方のお話しを聞くのですが、しかし実のところ丹念に調べますと歴史は凄く長い。

 浄土宗西山深草派の総本山、深草からは遠いし総本山にしては質素、最初は三論宗寺院でしたが興福寺法相宗に宗旨替、法然上人時代に浄土宗寺院となり、その弟子西山上人証空により浄土宗西山派が成立、更にその弟子円空立信が西山深草派を興し今に至る、という。

 総本山、元々浄土宗西山派は一つであり、誓願寺はその北本山でしかなかったのですが、1948年に浄土宗西山光明寺派と浄土宗西山禅林寺派と浄土宗西山深草派とに分裂してしまいまして、要するに寺そのものには収まりきらない程に複雑長大な歴史を有する訳ですね。

 扇塚というものが山門のすぐ隣に位置していまして、この関係から芸能上達の御利益があるとは広く知られるところ、また、桃山時代の説法に独特語調を用いた事が落語発祥の地として本寺を挙げる事ともなっていまして、京都繁華街に在って広く崇敬を集めています。

 日快安楽庵策伝は落語の開祖といわれる、西山深草派法主55世は安土桃山時代から江戸時代初期の僧侶です。元々は岐阜金森定近の系譜で、美濃浄音寺から禅林寺永観堂に学んだ僧侶ですが、漫話と説法を取り入れた説教で庶民から朝廷まで慕われ、落語の始祖という。

 洛陽三十三観音霊場第2番札所であり、新西国三十三箇所第15番札所でもあり、洛陽六阿弥陀霊場第6番札所となっていますし、法然上人二十五霊場第20番札所を兼ねて、西山国師遺跡霊場9番札所に位置付けられ、真盛上人二十五霊場6番札所という、歴史長さゆえ。

 誓願寺はかつてダイエーが在った当たり、街中銭湯のお隣、と説明しますと簡単ですが、このWeblog北大路機関を運営開始した当時と比較しても随分と変わりました。この平成時代だけでも変わりゆく街に在る寺院は元々深草、京阪で10分程のところにあったのだが。

 太閤秀吉京都大改造、天正年間1591年に聚楽第と御所の周りに寺町を形成するという豊臣秀吉による応仁の乱以降の最大規模の京都再興事業において、誓願寺はこの新京極と寺町の地に遷座しまして、秀吉側室京極竜子の京極家の保護を受け一時は興隆を極めました。

 新京極通りは京都への修学旅行への定番であると共に、当方の世代ですと映画を観る際の定番でもありました、実は貴重だったオーケストラピケット付の東宝宝塚劇場や怪しい中古映画屋に隣接した小規模な映画館、今は薬局となってしまった佳作中心の映画館などが。

 寺社仏閣巡り、現代では歴史探訪の寄る辺という印象ですが、此処に新京極通りと寺町通りが整備された頃には娯楽と徳を積む中心という位置づけであったようでして、寺町界隈は寺社仏閣多く、いわば今も昔もこの地は娯楽の中心地だった、ということでしょうか。

 京都大改造の際には三重塔と方丈を並べたといいますが、天明年間に弘化年間と元治年間と三度の大火に巻き込まれ、明治維新と廃仏毀釈、明治政府の新京極通り拡張整備により寺域を削られまして今に至ります。そして歴史が残る、京都らしい寺院といえましょう。

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死を呼ぶ迷惑メール!ウクライナ軍を攻撃,ウクライナ東部紛争ロシア軍電子戦諜報戦の実態

2020-05-12 20:02:14 | 先端軍事テクノロジー
■電子戦争,自衛隊も対策を強化
 富士総合火力演習等において近年は電子戦やデータリンクを重視した展示が行われていますが、実際問題これは現代戦を左右する要素です。

 死を呼ぶ迷惑メール。なにか推理小説じみた表現ですが、このメールは実際にありました、そして単純なホラー小説や怪奇ものの映画では出ないほどの死傷者が出たという。このメールはウクライナ東部においてロシア軍から発信されました。今回、この死を呼ぶ迷惑メールの犠牲となったのはウクライナ軍、ウクライナ東部紛争でのロシア電子戦の戦訓です。

 ウクライナ東部紛争でロシア軍が奇策的な電子戦を行った、産経新聞が2020年5月10日付記事にて報道しました。手法はこうです、先ずロシア軍が広域電子妨害によりウクライナ軍の野戦通信網を完全に遮断します、こうしてウクライナ軍上級司令部と第一線部隊を指揮系統から切り離した上で第二段階、ロシア軍がウクライナ軍第一線へ偽メールを送る。

 ロシア軍からの偽メールであっても指揮系統から遮断されたウクライナ軍第一線部隊は、メールに新しい作戦計画が添付されており、もちろん多少は訝ったのでしょうけれども、虚偽命令で、添付された集結地にウクライナ軍が集まった時機とともにその地点にロシア軍が大規模な砲撃を実施、メールにだまされたウクライナ軍部隊に大損害が、というもの。

 ムルマンスクBNという、ロシア軍は数百km四方のきわめて広い地域のデータリンクを千km以上先から電子攻撃を行い無力化する強力な攻勢電子戦システムを有しています。ムルマンスクBNは大型トレーラ複数に50m規模伸縮式アンテナを搭載し、任意の地域へ展開させる。主に海上の敵艦隊データリンクなどをそのまま無力化、という概念の装備です。

 ロシア海軍の現有戦力ではデータリンクにより高度な連携を行うアメリカ海軍やNATO海軍には対抗できないという前提で、それならば電波通信網ごと広範囲にデータリンクを遮断してしまう、という概念の装備ですが、実際に2015年からのウクライナ東部紛争ではウクライナ国内での広範な電波通信やデータリンク、GPS電波など妨害無効となっています。

 ウクライナ軍の携帯電話メールアドレスなどをどのようにロシア軍が把握したのか、ウクライナ軍展開地域へのエリアメールなのかそれともハッキングやウィルスアプリ等によりウクライナ軍指揮官のスマートフォンに侵入し連絡先などを地道に手繰る手法が用いられたのかは不明ですが、これまでにないコロンブスの卵的な攻撃といえるのかもしれません。

 自衛隊は、例えば災害は県などにおいて携帯電話などが活躍しています。実際、通信機では山陰や錯綜地形により通信に隔靴掻痒の齟齬が生じることはあるようでして、その場合は民間インフラの活用、となる訳ですね。実際、自慢の広帯域無線機などはバッテリー駆動時間の不満などがありまして、災害派遣などでは携帯電話が手放せない、ともいう。

 しかし、自衛隊ではウクライナ東部紛争のような携帯電話に頼る状況は有事の際、特に武力攻撃事態では想定していない、ということではありますが、それでも指揮通信網が不随となっては何もできない、という厳しい認識から近年、電子戦装備や通信脆弱性の払拭に尽力しています。もっともこのしわ寄せが戦車やヘリコプターに及んでいるのですが。

 ただ、携帯電話については、ウクライナ東部紛争にロシア軍が介入を認めていない時点でロシア兵が演習中としてSNSに投稿した写真、ここにGPS座標データが載ったままとなっていて、介入していないはずのロシア軍の兵士がウクライナ国内からSNSを投稿していたと問題になりました。他、携帯電話でテロに失敗した事例もロシア国内、あるのですね。

 ドモジェトヴォ空港自爆テロ事件。ロシアは迷惑メールでテロが発生したことがありました、2011年1月24日にモスクワ州のドモジェトヴォ空港国際線ターミナルの入り口で自爆ベストを装着したカフカス独立派テロリストが自爆テロを行い、これにより37名が死亡する痛ましいテロ事件となりました。そして爆発はターミナル内ではなく入り口で起きた。

 国際空港を狙った事件は、しかしターミナル内ではなくターミナルの入り口付近で発生しまして、37名の尊い生命が失われたことは残念ですが、ターミナル内で爆発していたならば犠牲者は一桁多かったともいわれています。そして捜査の結果、自爆テロ用の自爆ベストは携帯電話で起爆させることも可能である、IED簡易爆発物のようなものだったという。

 携帯電話、ロシアの捜査当局はさらに捜査を進めた結果、自爆ベストに装着された遠隔起爆用携帯電話に、どうも迷惑メールが入ったことで空港内部ではなく空港入り口で爆発した可能性があるといい、当時ロシア首相であったウラジミールプーチン首相、現大統領は、恐らく迷惑メールが人に役立った初めての事例だ、と談話で述べたともいわれています。いやあ迷惑メール、恐いものですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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