縄文時代の土偶。日本の考古学は明治時代から始まるが、一般には女神像と言われることが多い。国宝の土偶などほれぼれするものもあるが、例えば巻頭の東京都の子抱き土偶を見ると、まず、この像をご覧になった多くの方は、母の子に対する無条件の愛や子の母に対する無条件の信頼を思い出したりし、深い感動を覚えるのではないだろうか。そして、それが約5000年前、つまり150世代とか200世代くらい引き継がれていることを知ると、さらに感動するかもしれない。
しかし、この像をじっくり見ると、何か変な部分がいくつか見つかる。ある考古学者は、単なる女神像ではなく人間以外の生命体=精霊もかたどっているのではないかと言われていたが、たしかにそういう見方もあるかもしれない。
もともと、神仏の像は人智の及ばぬものとし、偶像崇拝に疑問を投げかける先人も多い。一方、日常の中で信仰を求める場合に像や聖所をまったく否定するのも厳しすぎるという意見もあろう・・。縄文時代の像は土偶の他に岩偶、そして有機物で残らない可能性が高い木偶もあったと思う。そして、昔も像に対する何らかの拒否感も働いた可能性もあり、例えば土偶は長い縄文時代の中で、地域や時代により現れたり、消えたりしている。人間が作る像の難しさを長い歴史の中で感じさせられる。
巻頭の子抱き土偶は、5100年前ごろの像と言われている。同じく5000年前ごろにはユーラシア大陸の西のメソポタミアやエジプトには文字があり、宗教活動が記録され始めている。しかし、日本列島では文字が使われてないため、像に見る角度の図像で物語を伝える方式が当時盛り込まれていたのではないかと私は推定している。そして、それにより何らかのメッセージ(感動)が伝わる。その全体像はまだ研究中であるが、当時のストレートな図像表現と喜怒哀楽の感情の対話にとても興味を覚える。
さて、今日は喜怒哀楽、湧き出す感情について考えてみよう。技術的にはかなり進んでいたのに、何か良く分からない土偶を作る。それは考え方によるが感情表現に重きがあったのかもしれないと思う。日本の文化を振り返ってみると、例えば源氏物語は西暦1000年ごろのものだが、長編小説としては最古に数えられる。万葉集も8世紀くらいに成立したと言われるが、4000以上の和歌が含まれるというのは驚異的である。そして、テレビを見たりすると今でも俳句や和歌は人気がある。
私は心理療法の研究も随分やったが、湧き出す感情というのは、非常に意味がある。巷では政治家同士がつかみ合いの喧嘩になるような動画があったりするが、湧き出す感情をそのまま行動に移せばそうなってしまうのが人間なのだろう。しかし、その感情をじっくりと時間をかけたりし、その時点で最善の解釈をすると思いがけない世界が新たにはじまったりするものだ。自然に触れる中で、ふと湧いた感情をじっくり精査し味わっていくと、とんでもない発見をしたりする。それが俳句であり和歌になることもあれば、ニュートンのリンゴやアルキメデスの風呂だったりすることも。
湧き出す感情は生命体の内部からほとばしるものであり、世にある常識や規範を越えた真実の声かもしれない。耳を澄ませて内部からの声をきく大切さを忘れてはならない。
現在縄文時代のエッセーを連載しています。WebマガジンAMOR「縄文時代のイキイキ生活」。こちら
2/10 五感と縄文時代
この記事は「生き甲斐の心理学」ーCULLカリタスカウンセリングの理論 ユースフルライフ研究所主宰 植村高雄著 監修2008年第3版 を参考にしています。
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森裕行