女帝・持統天皇について、このブログでも何回も書かせていただいたが、調べてみると2009年からで、もう8年あれこれ妄想しつつ、旅行や読書をしてきたようだ。
政治家として、大混乱の時期に日本の基礎を作るという天才的な仕事をし、万葉集にも優れた歌を残している。その歌の解釈はロジャースの人格形成理論の19の命題なみに難しいものもあり(時が経っていることもある)、いろいろな解釈がされている。しかし実に奥が深く、一流の小説家も取り上げていたりする。次の長歌も深く、坂東眞砂子氏が「逢はなくもあやし」(集英社文庫 2011年)で取り上げている。
やすみしし 我が大君の 夕されば 見したまふらし 明け来れば 問ひたまふらし 神岳の 山の黄葉を 今日もかも 問ひたまはまし 明日もかも 見したまはまし その山を 振り放さけ見つつ 夕されば あやに悲しみ 明け来れば うらさび暮らし 荒たへの 衣の袖は 乾る時もなし(万葉集 2-159)
天武天皇が亡くなってから読んだ挽歌なのであろうか・・・。長歌の最初の方では、神丘の黄葉を天武天皇と一緒に不思議な時間感覚の中で愛でているようで、永遠の魂の存在を信じている女帝が想い浮かぶ。しかし、歌の後半では夫が肉体的には亡び、既に五感・体感でかつての夫をとらえることができない現実に泣き崩れる。沢山の妻がいた天武天皇であったので、持統天皇は天武天皇にどのような情感を持っていたのだろうか、このあたりが小説家にとって腕を見せるテーマなのだろう。
私は最近、人の身体とは何かを考えることが多い。日本では宗教は信じないが、魂を信じる人は実に多い。私はひそかに縄文時代からの伝統だと思っているが。それは別とし、身体の方は母体の中で成長し、誕生し、全く無力な状態の中で一方的に愛されて(いろいろあるが)育てられる。やがて、五感・体感・知覚も成長し、愛すべき対象を持ったりし、生活をして、老いて亡くなる。
こうした身体は魂以上にこの世にあっては存在感があり(当たり前だが)。身体の五感・体感、知力をとおしてこの世を深く認識し、思考し、行動できる。そして、身体・肉体の死は、当然ながら魂を信じる者にとっても苦痛となる。時には魂を信じてはいても、大事な人の肉体の死が大きなこころの傷になってしまう。できれば肉体の復活もあり、再び会うことができないか、そういった心情がおこったりするのは自然だと思う。そして、その心情を大事にする宗教や哲学もある。縄文時代の宗教も、その系譜の一つかもしれないと私は思っている。
ところで、持統天皇の場合は、天武天皇と持統天皇のお二人が同じ御陵に埋葬されていることが、中世の文献で証明されている。それは、盗掘をしたものが見つかったからである。御陵の中には、天武天皇が古式にのっとってお棺におさめられ。一方の持統天皇が火葬で骨壺があったとされている(持統天皇は日本で初めて火葬された天皇である)。残念ながら、その遺灰は盗掘の際に捨てられたという。天武天皇が先にお亡くなりになり持統天皇が、全て埋葬を仕切ったと思われるので、この不思議な埋葬が何故行われたかを考えることは、当時の人間観や持統天皇の心理を伺う上で大きなテーマになるようだ。
大政治家でもあった女帝・持統天皇。ぞの人生は当時の政治的理想の実現を体現したものだったように思う。あるいは持統天皇自信の子や孫をも律令制の中で保護され、繁栄を続ける望みを残した人生だったと言えるかもしれない。人生の後半は最高権力者で、孫が天皇になった後も、亡くなるまで上皇で最高権力者であった。ある意味、ご自身の理想を現実化された珍しい女帝である。
理想と現実・・・このバランスを上手くとる人は幸いだが、時に理想と現実の混濁という心の歪みに陥るのも私たち人間である。冷徹で合理的な知性の持ち主の持統天皇は、晩年、壬申の乱で共に戦った人たちにお礼を忘れなかったという。その事実の中でも理想と現実の混同の人生を歩んでいたのか、そうでなかったのか決定することはできないが、このあたりを考えるのは、人間の愛とは何かを正常や異常とは何かを考える上でも重要だと思う。
分かりやすいって何? 6/10
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