沢木耕太郎讃歌(?)も今回で終わりにしようと思います。
沢木氏はこれまで、あらゆるジャンルの、あらゆる人物や事象をルポルタージュしてきました。それはけっして有名だから取り上げたということではなく、有名・無名にかかわらず、あくまで沢木氏が書きたい意欲をかき立てられた対象であったということなのでしょう。
そうした意味で沢木氏の初期の作品「人の砂漠」は、ほとんど無名といえる人たちを取り上げた作品集で、私の好きな作品の一つです。
沢木氏はあらゆるジャンルをルポルタージュしてきたと先に書きましたが、そうした中でも彼が最も得意とするのはスポーツ分野ではないのか、と私は思っています。(ただ、それは単に私がスポーツ好きというだけのことかもしれないのですが・・・。)
事実、彼の作品にはスポーツを扱ったものがけっこうあるのです。思いつくまま列挙してみると、
◇「敗れざる者たち」 志半ばで夢やぶれたスポーツマンを描いた短編集
◇「一瞬の夏」 ボクサーのカシアス内藤と夢を追った一年の物語
◇「王の闇」 さまざまなボクシングチャンプの内側にせまったルポ
◇「オリンピア ナチスの森で」 ベルリンオリンピックの内側の真実に迫る秀作
◇「冠(コロナ) Olympic Games」 アトランタオリンピックの沢木流観戦記
◇「杯(カップ)World Cup」 日本・韓国WPを両国を漂流しながらの異質のサッカー観戦記
◇「カシアス 「一瞬の夏」以降のカシアス内藤を描いたカシアス応援記
このほかにも、短編で数多くのスポーツノンフィクションを手がけています。
そのスポーツノンフィクションの中でも、初期の沢木氏はボクシングに特別なこだわりをみせています。カシアス内藤と夢を追い続けたのも然りですが、彼はモハメド・アリ(カシアス・クレイ)やジョー・フレイジャーを追いかけて世界中を飛びまわってレポートしました。
そして私はその当時の彼の文章がことのほか気に入っています。
しかし、今再びあのときのような文章を望むことは無理なのだとも思っています。
それは彼が進化を続け、成熟さを増していることとともに、カシアス内藤のように可能性を秘め、かつ愚直なまでの人生を歩むボクサーに出会えていないだろうから・・・。
辰吉丈一郎も、亀田興起も沢木耕太郎にとっては関心外のボクサーでしかあり得ないのでしょう。
沢木氏が同世代のライターとして誕生したときから伴走することができた幸運を噛み締めながら、これからもずーっと彼を伴走していきたいと思っています。