熊本の夏は西風だといわれる。私が昔仕事でかかわった古いお宅は、西に庭を設けてもみじ等の木々を配し、その庭に打ち水をし、庇を深く出して日を遮り、廻り縁の障子を開け広げて風を入れて居られた。
軒端につるした風鈴が、庭の木々を通して吹く風をとらえて涼し気に鳴っていた。
クーラーがお嫌いといわれるご夫妻は、籐の敷物を敷き詰めた部屋で、浴衣を召されて団扇で風を送りながら「怪しからん暑さですな」と仰っていた。
その時は面白い言葉だと思って調べてみると、「怪しからぬ=普通ではない」という意味もあり、大いに納得をしたことであった。
もう30年ほどの前の話だが、夏の暑さも今日のようにはなかったように思う。
その後古文書に親しむように成ったら、夏の不快な暑さの事を「怪しからぬ暑さ」と表現していることを知った。
30年前には使われていた言葉だが、まだ通用するのだろうかとふと思った。