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桜と絵本と豆乳と

桃の節句、本に敬意を

2020年03月03日 | 読書
 桃の節句である。耳の日である。世の中騒がしいが、淡々と本を読み続けよう。今年は大人向け絵本から記録が始まったこともあって、読書冊数カウントはしていない。相変わらずの乱読ではあるが、一応のメモはとっておきたい。本に対するささやかな敬意としても。




 【針がとぶ】(吉田篤弘  中公文庫)

 誰かがこんなことを書いていた。吉田篤弘の本は「考える読書」というより「感じる読書」になる。なるほど。この作品もなかなかストーリーのつかみ難い短編集だった。完全な連作とも言えない七編のストーリーが、ある瞬間重ね合ったり、広げ合ったりしている印象がする。針がとんだLPレコードは、Beatlesのホワイトアルバム。針がとんだ箇所の中身を探すという行為が不必要になった世の中に、私達は何を探すというのだ。


 【昭和からの遺言】(鈴木健二  幻冬舎)

 この著は昨年発刊されている。この元アナウンサーの語り口ほど説得力を感じる、マスコミ業界人はざらにはいないだろう。そう作り上げられた人生の訳を垣間見たように感じた。戦時中の出来事を書き残している者は多いが、それを現在に伝えようとする熱を維持するのは難しい。それが出来たのは、幼少時から一貫してぶれない、真実を希求する学習心に思える。教育勅語の文体へ疑問を呈し、教師に殴られた出来事は象徴的だ。


 【自分のためのエコロジー】(甲斐徹郎  ちくまプリマ―新書)

 「エコ」と似て非なる語と考えていた「エゴ」。この二つは重なるという視点が新鮮に思えた。著者はマーケティングを仕事にしながら、環境との共生を考えてきた。「まず自分が気持ちよく暮らしたい」という思いを大事にするために、「エゴ合わせ」を具体的なテクニックとして披露している。私たちは、便利さによって豊かさが失われたという言い方をよくするが、その同時獲得を目指す、刺激的で戦略的な一冊だった。