原題:『Todos tenemos un plan』 英題:『Everybody Has a Plan』
監督:アナ・ピーターバーグ
脚本:アナ・ピーターバーグ/アンナ・コーハン
撮影:ルシオ・ボネリ
出演:ヴィゴ・モーテンセン/ソレダ・ビジャミル/ダニエル・ファネゴ
2012年/アルゼンチン・スペイン・ドイツ
人生をやり直す必要性について
主人公で医師のアグスティンは妻で作家のクラウディアとアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで何不自由ない暮らしを送っていたのであるが、結婚8年目にして子供が授からないために夫婦は養子縁組をしようとしていた。しかし何故かアグスティンは乗り気にならず、それが原因で夫婦は喧嘩をしてしまう。そんな時にアグスティンの目の前に現れた人物が一卵性双生児の兄のペドロだった。ペドロは自分が末期の癌であることを告白し、苦しさに耐えられないために持ってきていた拳銃で殺して欲しいとアグスティンに頼む。そして入浴中に吐血して苦しんでいるペドロを見かねたアグスティンは兄の頭部を無理やり浴槽に沈めて溺死させてしまうのであるが、このシーンの唐突さは、例えば、『愛、アムール』(ミヒャエル・ハネケ監督 2012年)においてジョルジュがアンナを窒息死させるシーンと比較するならば、動機の弱さを感じる。
おそらくアグスティンは兄になりすまして地元のブエノスアイレスの生まれ故郷ティグレに帰り、兄が営んでいた養蜂業で一人静かな生活をしようと目論んでいたのであろうが、地元に戻ってアグスティンは兄が犯罪グループに関わっていることを知ることになる。最初はグループのリーダーの言いなりだったアグスティンは最後には逃げることなく反旗を翻しリーダーと相打ちとなりロサに看取られながらボートの中で絶命してしまう。
それにしても分からないのは、実の兄を殺し、裕福な暮らしを捨ててまで地元に戻ろうとしたアグスティンの心理である。そこには幼少時代に受けた屈辱に対する‘リベンジ’という側面があったのかもしれず、それがアグスティンに子供を愛させない要因だと思われるのだが、兄弟の幼少時代が具体的に描かれておらず、アグスティンに同情出来ない。何よりも問題なのは帰宅してペドロの死体を見つけたクラウディアが‘夫’がベッドの上で‘溺死’していることに疑問を感じないことである。