百醜千拙草

何とかやっています

週末の一杯

2022-04-05 | Weblog
ウクライナ情勢、毎日入ってくるニュースは西側メディア経由という点を差し引いても、ロシア軍の攻撃は度を越えているようにしか思えません。後ろ手にされた民間人が殺された遺体が転がっている映像や、病院への攻撃映像をみると、これはロシアが言うようなウクライナ政府の自作自演やウクライナ過激派による犯行とは思えません。シリア内戦の時も同様の情報が錯綜していましたが、今や簡単に直接証拠が得られて伝播する時代です。
これらをみると、現場の暴走だけでは説明できないように思います。これでは、戦略的に着地点を考えて攻撃を行なっているとはとても思えません。プーチンは、ひょっとしたらとんでもなく無能で愚かなのではないかという最も安易な仮説に飛びつきたくなりますね。

さて、どうでもいい話。
最近は仕事も減速モードに入り、家族も現在長期出張中、残りの人生の時間も限られているということで、ほぼ唯一の楽しみが週末の一杯のビールです。一週間、仕事に出るのも週末のこの一杯を美味しくするためであります。それで、美味しくて手頃な価格のものを手に入れて楽しんでいます。手頃というのは結構重要なファクターです。幸いビールでワインではないので、そう心配はしていませんが、もし美味しいが高いものにハマって、引退後、毎日のように飲むようになったら、生活を圧迫しかねません。

ビールに関しては、大量生産品の低品質のものをのぞけば、アメリカのビールは美味しいと思います。随分前、はじめてサミュエル アダムスを飲んだときに、アメリカのビールの美味しさに感動して、以後、ちょくちょく飲むようになりました。昔のようには飲めないので、週末に一杯を味わいながら飲むだけです。そうなってからは、飲みやすさよりもより味わいの深いものが好みになって、ラガーではなくエール、特にIPAが好きになりました。

IPAはホップを大量に使うので、その香り高い苦味がいいのですけど、ホップの種類によって大きく風味がかわります。人気のものはCitra ホップと呼ばれるタイプを使ったもののようで、このホップに含まれる柑橘系成分の爽やかな風味が最近は特に好まれているようで、多くのクラフトビール メーカーのIPAはこの手の味のものが多いです。

最近飲んだ大量生産のIPAで、なかなか良かったと思ったのは、Lagunitasというカリフォルニアの会社の作った"Little Sumpin' Sumpin' Ale"というIPAです。
"Sumpin'"は"Something"が訛ったもので、"little sumpin' sumpin'" は、快楽をもたらすようなちょっとしたもの、という意味で、酒とか性行為とかクスリとかを暗示する言葉のようです。ちなみにこの会社は現在ハイネケンに買収された模様です。

このIPAの特徴は、大麦と小麦を半々で作っていることで、綺麗な透明感のある黄金色にきめ細かな泡立ち、IPAでありながらラガービールのようにスムーズ、しかししっとりとしたシルキーな口当たり、ユニークなホップのおかげで、果汁の添加は一切ないのに、パイナップルとグレープフルーツ系の風味が効いた爽やかな一品です。そのフルーツ風味も適度なバランスがあり、ときにあるグレープフルーツジュースにアルコールと苦味を加えただけみたいな味ではなく、非常に上品な飲み口。そして爽やかな香りの後にはIPAらしい苦味が余韻を残します。アルコール度数は7.5%、値段も大量生産品でお手頃。南国の夏の涼しくなりかけたころに海風に吹かれながら夕日を見ているというセッティングを脳内で想像しつつ、一杯を楽しみます。

この会社は季節限定ものも合わせると50種類以上のビールを生産しているようですが、二、三、他のものも飲んでみた印象だと、基本的にグレープフルーツ系の風味が強いホップを使った流行の味のものが多く、その中で最もバランスがいいのが、この"Little Sumpin' Sumpin' Ale"だと思いました。ビール評価サイトでは、スコアは100点中93、アメリカンIPA分野部門で119位、総合2911位。大量生産ものに限れば、5指に入るのではと思います。


同評価サイトのアメリカンIPA部門で最も人気が高く、より評価が高かったのが、同じくカリフォルニアのBallast Point Brewing Companyの"Sculpin
まだ飲んだことがないですけど、サイトによるとホップを5段階で加えるやりかたで、アプリコット、桃、マンゴー、レモンの風味をもち、カサゴ(Sculpin)のトゲの毒で刺すようなピリッとした苦味が特徴だそうです。欠点はLagunitasよりは高いのと流通が悪いので手に入りにくいことですか。

何千とあるビールの中で、もっとも不味いと評価されたのは、バドワイザー セレクト。スコア51。でしょうね。それからこのサイトでは、日本の大量生産ビールは総じてあまり評価は高くなく、最も評判がよかったのがアサヒの黒生で80ポイント。数ある日本のクラフトビールでは、評価されたものは限られていますが、その中では沼津にあるベアード ビール(Baird Brewery)のいくつかは高評価を受けており、駿河湾インペリアルIPAが87ポイント。それから伊勢角屋麦酒のIPAが84ポイント。

しかし酒税の関係で日本はビールが高いのが悲しいですね。アメリカで買えば、安くてまずいバドワイザーなら一本100円、Lagunitasでも一本150円程度、日本ではこの類のビールはその3倍はしますし。
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歴史の断片

2022-04-01 | Weblog
随分前に引き受けた学外学位審査員、学位研究の公開発表と試問会をするというお知らせが来ました。学外委員は学生の教育にも将来にも何の責任もないのに、学位授与の関係者というだけで、学生からは一方的に感謝され、遠方の大学ならそれを口実にタダで観光旅行もできるという役目です。(あいにく今はZoomで役得なし)というわけで、学位のための公開発表と試問の開催にあたって、先日、二度目の会合がありました。それに先立ち、学位論文の原稿が送られてきました。

ちなみに下はフランスで女性で初めて博士号をとったキューリー夫人の学位論文の表紙で、最近偶然ネットで目にしたものです。1903年6月、パリ大学理学部(現ソルボンヌ大)で発行されており、表紙には三人の学位委員、学長と二人の審査官の名前が書いてあります。学位論文は二部に分かれており、一部のタイトルは「放射性物質の研究」それから二部は「教授からの提言」となっています。どうも、学位研究の内容とそれに関する指導教官の意見書がセットになっているのが、当時のこの大学の学位論文のフォーマットのようです。

発行が1903年ですから、このキューリー夫人の学位審査に関わった関係者はおそらく全員もうこの世にはいないでしょうが、この黄ばんだ印刷物は、かつて若きキュリー夫人が、さわやかな初夏のパリで、三人の審査員を前に学位を防御した、というできごとの直接の証拠であります。

さて、送られてきたこの学生の学位論文は200ページ以上ある大作ですが、肝心のデータを見ると、これではちょっとマズいだろうという内容でした。私の専門分野というわけではないので、ひょっとすると分野が違えば基準も違うのかなあ、などと思っていると、その学生の指導教官の人から電話がかかってきて、この学生の研究態度とデータの問題について聞かされ、そして、そのことを学位審査会の講座長に訴えても、多少の問題はあっても学生は卒業させねばならないと言われるのだ、と愚痴られました。

そうこうしていると、また別の大学の共同研究者の人からも連絡があって、共同研究で論文にしようとしているプロジェクトを二年先の学生の学位論文の一部に加えたいので、こちらの倫理委員会の承認書を送ってほしいというメール。ついでにその学生が、なかなか思うように働いてくれないのだという愚痴が付け足してありました。シンクロニシティーですかね。この学生の人とはプロジェクトに関して、二、三メールをやりとりしたことがあり、大変優秀そうだったので意外に思いました。指導者と学生の関係というのは、嫁と姑のように色々あるのが普通と思いますが、例えてみれば、私は隣家のおじさんの立場、嫁姑問題に口を出すのは僭越というもので、私に愚痴られても、知らんがな、としか言いようがありません。

今では、学位の審査会は、その後のパーティーの前にやる儀式的なもので、予定調和の大団円に向けての最後はみんな笑顔でシャンシャンと終わるのが普通と思います。このようなケースは初めてで、指導教官の彼も多少、感情的にもなっているしで、結局、「学位授与や研究遂行上における定められた規則にしたがって対処すべし」と当たり障りのないアドバイスをしました。現実的な案として、学生とよく話して、学位試問を辞退または延期させればどうか、と言ったのですが、結局は、大人の事情(つまりカネがらみ)で学生を何としても卒業させねばならないと主張する講座長に押し切られたようです。

そして、本人を交えた試問前の委員会が開かれ、グダグダの会合は三時間におよび、いい加減うんざりしたころに、講座長が、学位審査は行われるべきだ、との鶴の一声で終了。それから数週間、先日、本番が行われました。確かに発表前の会合の時よりも見かけは改善していましたが、短期間で本質な問題が解決できるはずもなく。その後、一般聴衆に退出してもらって、発表者に委員がかわるがわる試問。私もちょっと二、三、意地悪な質問をしてみましたが、予想通りの反応。それから審査。審査と言っても、講座長が学位は与えると決めているので、私は黙って、その晩のご飯とビールのことを考えていました。

そして、この学生は、手続きがおわれば学位を与えられ、その問題のある学位論文は、指導者のサイン入りでその大学の図書館とウェッブサイトに残ることになります。将来、彼女がキューリー夫人のような有名人にでもならないかぎり、この論文は誰の手にとられることもなく、ひっそりと図書館の隅で埃を被ることになるのでしょう。しかし、これも小さな歴史の断片であるには違いありません。

学位は足の裏についた米粒で、放っておくと気になるが取ったところでどうということはない、といわれます。人間、死ぬまでの長い時間をつぶす気晴らしが必要なので、勉強したり、研究したり、働いたり、何かに挑戦したり、遊んでみたり、ブログを書いてみたりするわけでしょう。だからこそ一生懸命やらないと面白くないのでしょうけど、いずれにせよ気晴らしであることに違いはありません。
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トルコと日本

2022-03-29 | Weblog
ロシア ウクライナの停戦協議がトルコのイスタンブールでまもなく開始される予定です。

しばらく前からウクライナは「中立化」すると言いだしていました。これがウクライナの真意なのであれば、ロシアの建前上の意向に沿った大きな譲歩であると思いますし、ロシア側も戦争は早く収束させたいでしょうから、東部の独立に関してなんらかの合意がなされれば話はまとまるかも知れません。あまり楽観的になれませんけど。

思うに、大体、1/2ぐらいの人は相手が譲歩すると単純に喜んでそれを受け取り、1/4ぐらいの人は譲歩に見合うようなお返しをしようとし、1/4ぐらいは、その譲歩に更に付け込もうとするようです。ロシア側が相手の譲歩に付け込もうとして、自体を悪化させるようなことがないことを望みます。

ウクライナのNATO加盟の阻止と以前からウクライナ政府軍と独立勢力の間で紛争が起きていた東部の親ロシア地域の保護が、ロシアの本当の目的だとすると、この東部のウクライナ州の独立承認が最大のネックになる可能性が高いと思います。軍事的中立化に関しては、ウクライナにとって、現在のベストオプションでしょう。NATOに加盟するのは不可能であること、アメリカはいざというときに自国の得にならないことは何もしないということはウクライナ政府は身に染みたでしょうから。しかし、ロシアは中立化を承認するかわりにかなりの見返りを要求する可能性が高いだろうと思います。フィンランドの時は領土の割譲でした。それを思うと、ロシアの要求には東部の親ロシア地区の独立の承認は最低含まれるはずです。

ところで、北方領土に関して、その日本返還がありえない、というのは、なにもプーチンやロシア政府がケチだからという理由だけではなく、ロシア憲法によって領土の割譲が禁じられているからだと思います。つまり憲法によって縛られているので、たとえプーチンでもロシア政府であっても交渉を進めることはできず、前に進めるには、ロシアの憲法を変える必要があるということだと思います。憲法がアメリカや日本のように権力者の暴走を縛るためにあるものだとすると、ロシアが憲法を変えるためには、国民投票を行い、ロシア国民が改憲に合意しないとなりません。よほどの見返りがない限り、自国の領土を仮想敵国アメリカの属国である日本に割譲するためにそもそもロシア政府が改憲の動議を出すはずもないし、出したところでロシア国民が合意するわけがありません。早い話が、戦争のどさくさでロシアに盗られた北方領土を取り戻すには、もう一度、戦争をやって、ロシアに勝って力ずくで取り戻すしかないです。そして、それは今度は日本の憲法を変えないとできないことです。とすると、現実問題として、正式に北方領土を日本の領土することは不可能なので、憲法より下位レベルの法律の変更などで、日本の国益と関係者の利益(ビザなし交流など)を増大していくしかないのです。ご存知のように、今回の政府の安易なウクライナ支援によって、それさえも失われました。

さて、ウクライナ東部の独立承認がロシアの譲れない条件であるとすると、同様にこれは非常に厄介です。ウクライナの憲法がどう言っているか知りませんけど、自国の領土をやすやすと諦めるような国はありません。ここの交渉は簡単ではないでしょう。そして、ウクライナは当初の希望、NATO加盟とEU経済圏への参加、から大幅に要求を後退せざるを得なくなって、現在は、中立化できれば恩の字、悪ければロシアの軍事同盟国としてソ連時代のように西側との前線に立たされたうえ、経済に関してもロシアの属国状態、という辛い状況に立たされてしまう可能性があります。

さて、本題、今回の停戦協議が行われるトルコ。イスタンブールは黒海から地中海への水路の要にあり、ウクライナのクリミア半島に軍事拠点を持つロシアにとって非常に重要な地点です。そして、トルコは、黒海を挟んでロシア、ウクライナ両国と独自の関係をもち、特にウクライナとは非常に友好的な関係にあります。トルコはNATO加盟国、エルドアン政権は親米政権であり、完全に中立とは言えませんけど、仲裁役としてこの戦争の終結に一役買うことになりました。日本も軍事的にはアメリカの属国ですが、本来なら戦争放棄をした国として、仲裁役を買って出て、国際社会にアメリカの属国としてではない存在価値を示すこともできたのです。

しかし、誰も日本のそのような役割を期待していないし、日本もそうしようとしなかった。というのは、日本政府に国際的な信用が皆無だからです。敗戦後から現在に至るまで、アメリカの属国として、アメリカの言うことに唯々諾々と追従し、国外最大の米軍基地に法外な資金を出す。アメリカ大統領は日本に来るのに正規の入国手続きもせず、米軍基地から無許可で入ってくるのに咎めもしない。アメリカの属国だという評価が確立してしまっているので、世界第二位の経済大国であったときでさえ、国連の常任理事国には入れない (ま、第二次大戦の敗戦国なので、そもそも無理ですけど)。首相がコロコロ変わる国で誰も責任をとらず、責任の所在が常に不明な国。最近ようやく長期につづいた政権は腐敗にまみれ、交渉どころかまともに対話もできないレベルで、全てがやってるフリだけ。

日本が政治三流国から脱皮し、国際政治に貢献できるようになるには、マトモな人が国会議員や首相に選ばれることが不可欠です。建前上は民主主義、つまりは国民しだいということですが。
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自民党と政府が失ったもの

2022-03-25 | Weblog
あらら、いわんこっちゃない。
日本がウクライナに軍備品を送ったことを口実に、早速、ロシアは北方領土返還が前提となる平和条約締結交渉はしないと明言した、というニュース。

東京新聞 3・22

、、、岸田文雄首相は22日の参院予算委員会で、交渉停止通告について「断じて受け入れられない」と強く反発。「今回の事態は全てロシアのウクライナ侵略に起因している。日ロ関係に転嫁しようとする対応は極めて不当」と非難した。、、、日本側はこれまで、「4島返還」から「2島返還」に要求のハードルを下げ、経済協力をてこに交渉の進展を目指してきたが、誤算が続き、成果を上げられないまま、水泡に帰すことになる。、、、首相在任中にプーチン氏と27回の会談を重ね、現在の日ロ交渉の土台を築いた安倍氏は22日、「時間が取れない」として、記者団の取材要請に応じなかった。

ははは、皮肉が効いてますな。岸田さんも平和ボケですかね。戦争中にロシアの敵方を露骨に支援しておきながら、「それはそれ、日露関係は別問題」というの理屈は手前勝手としか言いようがありません。それは正論かもしれませんけど、正論がすんなり通るなら誰も苦労しません。「戦争は悪だ、だからやめろ」と正論を言って、やめる国がどこにあるのでしょう。敵を露骨に味方しておいて、一方で平和条約は結びたい、という態度を、ロシアの立場に身を置いて多少でも考えてみたのでしょうかね。

そもそも、最初から北方領土に関してのロシアの態度ははっきりしていたと思います。プーチンにせよロシア外相にせよ、これまで露骨に明言することはありませんでしたが、北方領土を日本に返還することはあり得ない、というメッセージは何度も発せられていました。それがわからぬほど日本政府は愚鈍ではないでしょう。つまり、与党政府はロシアの意図がわかっていて、これまでも単に交渉しているフリをしていただけです。さすがに記者もそうは書けないので「誤算」という言葉で誤魔化したのでしょう。アベは、プーチンとの信頼関係などゼロだったという批判に応えることがができないので当然のように逃げの一手。「日露交渉の土台を築いたアベ」、記者も書いていて苦笑いしたでしょうな。土台など最初からなかったのですから。

ま、ロシアにとっては、日本が安易にアメリカやNATO諸国に追従してくれたおかげで、いい口実ができて、これから先、アベのような男が国内向けのパフォーマンスをするために、二十回以上もロシアにやってきてはくだらない茶番に付き合わされることがなくなって、サッパリした、というのが本音でしょう。

アベが意味のないプーチン詣でをし、演説では「ウラジミール、君と僕は同じ未来を見ている、行きましょう、、、二人の力で、いっしょに駆けて、駆けて、駆け抜けようではありませんか」などというような鳥肌の立つようなポエムを本人の前で語って、プーチンを沈黙させるような真似をしたのは、北方領土や拉致問題という長年の解決困難な課題に取り組んでいるフリをして、それを国内の人気取りに利用するためでした。

日本人なら、アベのポエムを聞いて、大国の大統領相手に、理想を語り理想に向けて努力しているのだと好意的に見る人もいないではないでしょうが、普通の外国人は呆れたでしょうし、プーチンはうんざりしたでしょう。最初から「同じ未来をなど見ていない」のはお互いにわかっているだろうと。

そもそも、外交は戦争の代わりにやるもので、交渉の場です。握手と笑顔の裏でいかにお互いの利益を最大限にするかの駆け引きを行うのが外交というものでしょう。アベの「外交」という名の遊びは、税金を使って地球をぐるぐるして金をばら撒いて一緒に記念写真をとってもらうだけ。アメリカには下僕のようにこびへつらい、タフガイのプーチンにはポエムと接待、そんなもので交渉が進むわけがない。そして、アベが気持ち悪いポエムを語る理由をプーチンが察しないわけがありません。交渉どころかまともに対話もできないのに無意味に何十回も会いに来る理由は自分と話をするためではない、この男にとって外交とは単に日本国内向けのパフォーマンスに過ぎず、自分はダシに使われているだけなのだと。プーチンもいい加減イライラしていたのでしょう、三年前には、アドリブで「前提なしで、平和条約を締結しようじゃないか」と言い出してアベをおちょくり、外務省がアタフタするという事件もありました。いうまでもなく、「前提なし」とは、北方領土は返さないよ、という意味です。当然、日本政府もアベも「それはできない」と言う。その予想通りの返答を逆手ににとって、この時もプーチンは、平和条約には信用が大切であり、(申し出を断るのは)信用がまだ十分とはいえない(から、交渉はできない)とアベにトドメをさしています。

さて今回、岸田政権がウクライナへの軍備支援をし、ゼレンスキーに国会で演説をさせ、れいわ以外の国会議員が総立ちになってそれに拍手したことを、ロシアは渡りに船だと思ったことでしょう。日本が戦争相手のウクライナを手放しで支援することはロシアに対する敵対行為であるから、北方領土返還とセットとなっている平和条約締結の交渉はしない、という口実ができたわけです。つまり、この機会を利用して、ロシアは「正式に」北方領土は未来永劫ロシアのものであると日本に宣言したということです。

もしも、日本政府がウクライナとロシアの戦争に中立的立場を表明し、両国の紛争の終焉に向けて協力する、と言っていれば、ロシアはこの口実を使うことはできず、平和条約交渉に(すぐには)トドメをさされることはなかったのではないでしょうか。

とすると、今回、直接の悪手を放ったのは岸田政権とれいわ以外の与野党です。しかし、この経緯をつらつら考えると、そもそもの原因は、アベがアメリカには下僕のように振る舞う一方で、ロシアに対しては、ロシアが自国の領土としている北方領土を、接待とポエムと多少の経済協力で分けろと言って交渉の用意もせずに何度もやってきては、プーチンをイヤというほどうんざりさせたのが原因でしょう。

ここでも、平和条約交渉の一方的な停止について、ロシアを非難するのは容易いですけど、ロシアに付け込まれる原因をつくったのは、アメリカの属国でありながら、表面だけはロシアに友達づらですりよるアベの中身のない外交であり、それに続く岸田政権の安易なウクライナ支援です。

そういう視点で今回のロシア-ウクライナの戦争も見てみれば、そもそもの原因はNATOのアグレッシブな東進を進めたアメリカそれに安易に縋ったウクライナ政府の不用心さと言えるのではないでしょうか。当事者同士はもうすでにどっちに理があるというレベルは超えてしまっていますから、中立の第三国しか、おたがいの話を聞いて仲裁する役目を担えません。日本は、今回、少しはあったそのチャンスを全面的にウクライナ側につくことで失い、ロシアに正式に敵国認定される口実を与えてしまったということです。

とすると、自民党は、ずっと人気稼ぎのネタにしてきた外交上の問題、北方領土と拉致被害を、岸田政権の浅慮な判断、つまり、この戦争においてウクライナ側に立つという表明と、先の自民党大会の演説で拉致問題を無視した、ということによって、同時に失ったと言えます。
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全体主義のプロパガンダ

2022-03-22 | Weblog
先日、子供が残していったものを整理していたら、ジョージ オーウェルの「動物農場」が出てきました。高校時代に読んだもののようです。

オーウェルは若い頃、スペイン内戦時、フランコによる独裁政府の反政府活動員として、マルクス主義統一労働者党に加わったところ、スターリン指導下の共産党による粛清に遭い、結果として反スターリン派の民主社会主義者になったとWikipediaにあります。動物農場に関しては、「報道の自由とロシアのスターリン主義と共産主義への痛烈な批判。人間の農場主へ革命を起こした動物たちが二人の指導者の片方により苛烈な支配をされる過程を描いた風刺小説」とまとめられてあります。

子供の持っていた版は、ピュリッツァー賞ジャーナリストであるRussel Bakerが
前書きを書いたもので、そこをパラパラと読んでみると、「動物農場」のウクライナ版が出版された時の前書きで、オーウェルは、スペインでの粛清の経験から、「民主主義国家の優秀な人々の意見が、いかに容易に全体主義プロパガンダにコントロールされるかを学んだ」と述べたそうです。

今の日本を見ていると、この言葉を人々は肝に銘じるべきだと思います。とくに、同調圧力が強く、長いものに巻かれて付和雷同するのが処世術とでも考えられている日本という国で、少数意見を主張したり、あるいは全体主義に注意すべきだと当たり前のことを言うだけでも、叩いて萎縮させようとする連中が山のように出てきます。自分の頭で自分の考えを練り発言する努力をするよりも、多数派に従う方がラクだからでしょう。考えなくて済みますからね。

全体主義を煽るステルス的なメッセージは子供のみるアニメにも危険なぐらい溢れています。アクションものは大抵、敵がいて、自分の同胞を攻撃してくるものと戦うという筋ですけど、「街や村の人々を守る」ために身を危険にさらして敵と戦うことが美徳のように描かれます。いまの与党の極右政治家はメディアを巻き込み、着々と抑圧的な全体主義、あるいは民主主義が非国民であった時代に向けて動いているように私には見えます。この空気はすでに広く一般国民にも広がりつつあります。

今回のロシア侵攻に関して、多くの日本人がロシアが独立国家に侵攻し戦争を仕掛け、多くの民間人が犠牲になったという一点をもって、ロシアが悪だから、ウクライナを助けないといけない、という単純思考をしているように感じます。そういう意見が多数なので、その意見は正しく、それに反対するものは「非国民」だとでもいうようないじめチックな雰囲気さえあります。そこには、なぜこの戦争が起こったのか、プーチンの目的とゴールは何か、この予想されたロシアの行動に対してなぜゼレンスキーは対処を怠ったのか、というような考察がかけています。さすがに、漫画のように「プーチンが人殺しと破壊に快感を覚える異常者で世界征服の野望をもっていたからウクライナに戦争をしかけた」と考えるような人はいないでしょう。侵攻については、議会で議論され、国民に対しては、プーチンは侵攻の前に一時間にわたるウクライナとロシアの歴史について演説をし、ウクライナ侵攻の理由を説明して、説得しようとしたのですから、この戦争には、少なくとも、ロシア議会が納得できるような論理と証拠に基づいて議論されるに値する正当な理由が(ロシアには)あったはずです。

また、ウクライナも一枚岩ではなく、大勢のロシア人やロシア人との血縁者が住んでいる国です。民主的な手続きを経て大統領は選ばれましたが、それは別に彼に国民生活に直結する政治の全てを白紙委任したわけではありません。いま、彼が西側諸国や日本で演説をして、軍事的協力を得ようとしているのは、冷静に見れば、彼がロシアの侵攻を防ぎ、ウクライナ国民の安全を確保するための施策を怠った結果であり、その責任の一端はアメリカや西側諸国にあると考えているからでしょう。ならば、ウクライナ国内には、大統領の西側への過剰な擦り寄りと対ロシア外交の失敗が招いた惨事であるという批判がウクライナ国内には当然あるものだろうと想像されます。その辺のあって然るべき議論や批判もあまり聞こえてきません。私が不気味に思うのは、メディアは単純に出来事を伝えてロシアの攻撃を非難する浅薄な報道に終始し、そうした根源的な事実や疑問に関する情報が(侵攻当初には多少みられたのに、今では)ほぼ議論されることもなくなっているように感じることです。ツイッターでは「ロシア悪、ウクライナ支援」の大合唱ですが、私はオーウェルの言う「全体主義のプロパガンダ」の匂いが強くなってきているのを感じます。

先日のアメリカ議会の演説で、ウクライナ大統領はno-fly zoneを再度要請しました。これはアメリカとNATOがウクライナ上空のロシア戦闘機を攻撃することを意味しますから、アメリカがウンというはずがありません。アメリカとNATO諸国は戦闘に,加わらず、武器や物資の供与でお茶を濁すつもりです。彼ら自身の利益、国益を考えれば当然でしょう。ロシアもこのアメリカやNATOの動きを見て、その意図を理解したはずです。これが普通の政府の考え方です。自国の利益を損なわないこと、それが優先です。

しかるに、日本は政治家が、与野党、前のめりでウクライナ側に立つという姿勢を示そうとしています。慎重なのは、共産党とれいわ。ロシアにとって、日本はアメリカの属国ではあっても敵ではなく、むしろアベのばら撒き外交のおかげで、カモであったはずです。今回の日本政府の安易なウクライナ支援の表明は、全体主義に流されやすい日本人のその傾向を刺激し、ロシアに要らぬ不快感を与えたかも知れません。下手をすると、ロシアは北方領土に日本の原発を標的にしたミサイル基地さえ建設し始めるかもしれません。日本政府は、まず自国の心配をした上で、ウクライナの心配をするのが順序です。しかし、安易にウクライナに防弾チョッキを贈ったり、ウクライナ大統領に国会で遠雑させることがロシアにどういうメッセージを送ることになるか考えているようには見えません。

戦争は絶対悪、ロシアが悪いと非難するのは 簡単です。そしてそれに同意しない人を批判するのも容易い。しかし、いくら日本やその他の国々が、「戦争は悪、ロシアは戦争をやめろ」と言ったところで、起こってしまった戦争を止めるのには役に立ちません。むしろ、第三国の政府ならば、戦争当事国の一方に安易に与するような行動をとることが、如何なる結果を産み、その国民や引いては世界の安全と利益にどういう影響が考えられるかを熟慮した上で、ウクライナ大統領の国会での演説やウクライナ政府への支援を考えるべきでしょう。

長くなっていまいました。全体主義が危険であるのは、多数派にのれば安全で、自分の頭で深く考える必要がなくラクだからでしょう。それで、感情に任せて容易に流され、あっという間にブレーキが効かなくなるのです。特に日本人にはこの傾向が強い。

宮沢喜一の言葉、保守とは立ち止まること、立ち止まって考えることだ、という言葉を思い出したいと思います。
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論文評価

2022-03-18 | Weblog
ようやく小さな論文がアクセプトされました。最初に投稿してから半年弱です。投稿時にBioRxivで公開されたものに比べると、リバイスの間に多少のデータが加えられて見栄えは若干よくはなりましたけど、要点には変化はありません。多少の見栄えのために、この半年の間に費やされた労力とコストと時間を考えると、つくづくアホらしいと思います。ま、暇つぶしができてよかったと思うようにしています。

この雑誌に発表するのは初めてですが、初めて経験したことの一つは、ツイッターでの拡散用の要点をまとめた図の作成と一行要旨の提出でした。私もツイッターで情報を集めるようになって、初めてこのツールのパワーを実感しました。毎日、何千と出版される論文の中から興味のあるものを探して要約を読むという作業だけでも大変ですけど、ツイッターで情報の発信源をいくつかフォローしておけば、一日に数分それを眺めるだけで、重要なニュースは受動的に入ってきます。いちいち検索サイトを立ち上げて、キーワードをタイプして、何度もクリックして目的地にたどり着くということを繰り返す能動的な作業は必要はありません。というわけで、ツイッター拡散用の図の作成にまた丸一日費やすことになりました。それから筆頭著者の人のインタビュー記事用の原稿と写真、これは本人に任せます。これもこの雑誌の面白い試みだと思います。論文の簡単な解説を裏話もふくめて著者にやらせるわけです。普通はフロントページでの議論に値するような論文はレビューアの一人が第三者の立場で解説記事を書くと思います。しかし、多分、このような専門分野に特化したマイナー雑誌では、フロントページに割く予算も解説記事を引き受ける人もいないでしょうから、かわりに筆頭著者に論文のポイントを説明させる簡単な論文紹介ページを設けたのだと思います。これは、読者にとっても、著者のモチベーションという点にとっても、雑誌にとっても良いアイデアだと思います。

さて、少し前、学術論文の出版と評価について、従来の発表方法、つまり、商業雑誌などに投稿してピアレビューなどの評価を受けた上で論文を発表するという形、ではなく、まずpreprintでオンラインで出版し、それが評価を受けれるようなシステムにするべきだという話を書きました。今回の論文にしても、ピアレビューの間に要した半年の時間と労力に、それだけの意味があったとはとても思えません。結論は何も変わらず、主にコスメティックな部分が改善しただけです。

雑誌での発表は、限りある紙面に載せるための取捨選択が行われるので、論文に優劣をつけ、研究を評価するシステムとして代用されており、ゆえに研究者は雑誌のインパクトファクター (IF)を気にします。だからこそ、雑誌社はIFをあげ、人気を得ることで多くの出版料を集めるというビジネスが成り立ちます。先日、論文レビューの依頼がきた聞いたことのない雑誌はIFが5以上あるというので、見てみると、掲載されているほとんどの論文が総説論文で原著論文が見当たりません。そういうことか、と思って依頼は受けないことにしました。この総説論文を多く載せて引用回数を増やし、IFをあげるという雑誌の戦略は多分、Cellなどが始めた手法だと思います。雑誌にしてみれば、一旦、IFをあげてしまえば、自動的に質の良い原著論文を集めることができるようになり、それがさらにIFの上昇に寄与するというわけでしょう。こうしたIFエンジニアリングとでも言うべき手法でIFを気にする研究者を操作してビジネスに繋げるわけで、IFのわりに掲載論文の質が悪い雑誌というのにしばしば見受けられるようになりました。

先日、Qeiosという団体から興味深いメールを受け取りました。BioRxivに発表された私の分野に関連するある論文を評価してほしいという依頼です。この団体はどうも、オンラインで研究成果を発表する研究者の補助をすることで、商売をしているようです。preprint論文でフィードバックを得ることで、正式な雑誌投稿に際して原稿の改善に役立てるという目的なのでしょう。レビューは実名でBioRxivの論文サイトのコメント欄につけてほしいという依頼でした。ビジネスとして成り立っているのでしょうか?

しかし、こういうpreprint論文のレビューアを探して、論文の評価づけをするサービスを第三者の独立機関が受け負い、資金配分機関、例えばNIHや文科省などが、それを研究者の評価に考慮すると言えば、preprintで公開ピアレビューは広く成り立つと思います。これだと迅速に発表されたpreprint論文が、雑誌社のビジネスの影響を受けずに、低コストで評価を受けることができる思います。つまり、雑誌社を通じた論文出版と研究者の評価を切り離すことができ、その間に費やされる多大な時間と費用と労力が節約できると思うのですが、どうでしょう。
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絹の靴下

2022-03-15 | Weblog
ウクライナ情勢、泥沼の消耗戦になってきていますが、ロシアはどこを落とし所と考えているのでしょうね。現政権を潰して傀儡政権を立てたとしても、国民が納得しないでしょうし。双方ともに停戦を目指しており、双方ともに歩み寄りがありそうなので、遠からず、妥協点にいたりそうには思いますが。

ロシアが先に手を出したのでロシアが一方的に責められていますけど、事の発端はアメリカと西側諸国のアグレッシブな東方への勢力拡大ではないしょうか。この構図はパレスティナ問題とも類似性があるように思います。第一次対戦中、パレスティナでは、ロシアやヨーロッパで迫害されていたユダヤ人のイスラエル建国を、イギリスは金銭的な見返りと引き換えに焚き付ける一方、その裏でアラブの独立もこっそりと支援、結果としてこのユダヤとパレスチナの対立と紛争が激化し、現在に至るまで続行中です。この二枚舌は米英のお国芸で、第二次大戦以降もアメリカは第三国間同士の対立を煽っては、それを利用して金儲けをしてきました。

今回の戦争も、西側に入って「いい暮らし」をしたいと望むウクライナの欲求を利用して、アメリカがウクライナの脱ロシア化を焚き付け、武器を売り込み、西側化を煽ってきた結果ではないかと思います。ロシアが言うように、西側諸国とウクライナはロシアが国防上許容できるギリギリの線を、ロシアの意向を無視して超えてしまったのでしょう。いずれにせよ、結局、苦しむのは、地理的に東西の間に置かれた小国の人々です。

ウクライナの気持ちは理解できます。しばらく前、「フィンランド化」の話を書きましたけど、ウクライナが最初から、妥協してフィンランド化を選んでいれば、こうならなかったかも知れません。思うに、ウクライナはEU圏で豊かな生活を享受するフィンランドが羨ましかったのでしょう。しかし、ロシアに跪くのは嫌だった。NATOの一部となることで、西側とアメリカの庇護を得て、ロシアに跪くことなく、西側の一員となって、豊かになりたかったのでしょう。

ロシアは軍事大国ではありますが、経済的にも人口的にも、もはや大国とは言い難いです。むしろ製造業は弱く、世界に先駆けて開発したコロナワクチン、スプートニク5号も、自前で大量製造ができず、製造を外注する始末。経済の多くは天然資源の輸出に頼っているという状態。

一方、フィンランドはロシアに隣接しながらも、EU経済圏に属し、一人あたりのGDPで比較すると、ロシアよりもはるかに豊かな国です。2020年のデータだと、フィンランドは世界13位です。一方、ロシアは66位で、国民一人当たりの経済規模はアメリカの1/6、フィンランドの1/4と言うレベルです。(ちなみに日本は24位)ロシアの経済力は人口割でみれば他のソ連諸国の多くよりもまだ低いのです。そして、ウクライナと言えば120位、そのロシアのさらに1/3しかありません。

ウクライナは肥沃な農業地帯を持ち、優秀な人材もいるのに経済的に苦しんできました。ソ連時代の核やチェルノブイリなど負の遺産も多く残されています。地理的に近く、ロシアとの関係においても共通点があるにもかかわらず、フィンランドと現在のウクライナの差は大きいです。片や、EU経済圏で、国民一人あたりでみれば世界でもっとも豊かな国の一つ、一方は、ソ連時代からの負の遺産に苦しめられ、世界でも下から数えた方が早いぐらいの弱い経済に喘ぐ国。ウクライナがフィンランドのように豊かになりたいと思うのは当然でしょう。

それで、1957年のMGMミュージカル映画、「絹の靴下 (Silk stockings)」を思い出しました。これはFred AstaireのMGM最後の映画で、見どころはCyd Charisseの踊りです。下にリンクする「赤のブルース」の踊りのシーンの前では、パリでの仕事のあとすっかり西側の生活に魅了されたソ連政府職員がロシアに帰ってから再会し、甘美なパリでの思い出に耽り、「退廃的な」西側風の音楽を演奏し始めるという部分があります。その後に続くロシア風の振り付けを交えたCharisseの踊りは圧巻です。

この映画は、これよりさらに20年前につくられたグレタ ガルボ主演の映画「ニノチカ」を元にしたものあり、「絹の靴下」が意味する西側の物質的な豊かさに憧れるロシア人を描き、抑圧的で官僚主義なソビエト時代のロシアを皮肉っています。

この映画のように、ウクライナも幸福を追求したいと願っていたに違いありません。おそらくクライナは強く感じていたのです。共産主義の理想も死に、貧しさだけが残された、オラ、もうこんな村、イヤだ、と。EUに入って豊かになって、銀の匙で食事をし、絹の靴下を着けるのだと。フィンランドにできて、自分にできないわけがないのだ、と。これまで、我慢に我慢を重ねてきたのだ、もうロシアの言いなりにはならないのだ、と。

しかし、ロシアは力ずくで侵攻し、反ロシアを煽り続けてきたNATOもアメリカも口先だけで動かない。西側とロシアの間で、ロシアにはいじめられ、西側には利用され見捨てられた、泥沼の戦争の中で、幸福な未来は遠のくばかり。

Silk Stockings (1957)


ついでにNinotchikaでの上に相当するシーン、Back in the USSR

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忘れてはならぬもの

2022-03-11 | Weblog
深刻な事態が続くウクライナ情勢ですが、情報がロシア側の主張とウクライナおよび西側の主張に大きな隔たりがあって、どう判断していいものかこまります。原発や病院への攻撃があったという事実は間違いないようですが、事実を客観的に報道できる者がいない以上、当事者の証言に頼るより他なく、結局は「藪の中」状態です。チェルノブイリの電力喪失に関しては、ロシア国防省は「ウクライナの民族主義者が原発の変電所や送電線を攻撃した」と主張し、ロシア関係当局がベラルーシの支援を受けて電力供給を再開させる方針という話。また、マリウポリの小児病院がロシア軍の爆撃を受けたということで、戦争法、ジュネーブ条約の重大な違反としてロシアが攻撃されていますが、これに対してもロシアは、「同病院は以前からアゾフ大隊(Azov Battalion)などの過激派によって占拠されていた。これらの集団が妊婦や看護師、職員を追い出した。配置されたウクライナ軍部隊が攻撃していると説明、小児病院爆撃は偽ニュースであり、情報テロに等しいと表明した」とのこと。

ウクライナ側にとれば、ロシアの非人道的な行いや国際法違反があったのなら、それを広くニュースにすれば国際社会からの圧力を加えるのに有効と思われますが、ロシア側の病院を攻撃する動機がわかりません。80年前の東京大空襲ではあるまいし、意図的に市民を攻撃してプレッシャーをかけて、ウクライナの降伏を促すというような、勝ったところで、ロシアとウクライナの双方に禍根を残す手段をロシアがわざわざ取るとは思えません。太平洋戦争の時は人種の違う日本人は邪悪だから殺してもよいという理屈が通ったかもしれませんけど、今回は同胞間戦争ですしね。

いずれにしても、ロシアが先に手を出したという事実は動かしようはありませんから、国際社会はウクライナの言い分をより信じるのでしょう。しかし、数日前から、ウクライナも限界に達しつつあるのか、妥協点を探り出しているようです。ウクライナにとってみれば、本来の目的はEU圏に入ること、NATO入りはそのための安全保障。そもそも内紛が進行中の国はNATO入りは無理ですし、NATOもウクライナに手をだしてロシアとやりあうのは御免なので、ウクライナがいくら切望してもNATO入りは不可能です。ウクライナはこれを交渉の手段に使って、軍事的に中立化すること、それから東部二洲のウクライナ人の権利保護を条件に自治区化を認めるあたりを落とし所にロシア側に歩み寄るのではないでしょうか。今回のことで、ウクライナの西側諸国、アメリカに対する不満も急激に増大しているようですから、この戦争が終わった後もウクライナの困難はまだまだ続きそうです。

一方で、ツイッターのラインからすでにウクライナ関係のニュースの扱いが徐々に薄れつつあります。人々の興味の移り変わりは早く、人はすぐに新しい現実に順応し、昔を忘れていくようです。

現に、今日で11年目にしか過ぎないのに、福島原発の爆発はすでに過去のものとなりつつあります。あの大量の汚染水や汚染土の問題も話題に上らなくなりました。福島の核燃料の取り出しには数百年かかり、その間も汚染は現在進行中で、今年から汚染水は海に流され、多くの避難民が取り残されているというのに。

忘却することがなければ、人間は気が狂ってしまうでしょうが、忘れてはならないものというのはあって、戦争はその一つだと思います。その戦争に至った歴史を学び、きっちりと総括して、責任の所在と原因を明らかにして、国民で共有することが必要なのだと思います。日本は敗戦後、アメリカ主導で東京裁判が行われ、そして復興にあたって、アメリカによって戦後民主主義と憲法が導入され、社会の形が与えられました。

日本人が自身によって戦争を総括したわけではなかったことが、責任の所在をうやむやにして、現在の改憲論者や核武装論者が跋扈する状況を生み出したのではないかと私は思っています。結果は、A級戦犯が戦後日本の首相としてアメリカの間接統治の手先として働くことになりました。仮に当時の日本が民主主義国家であって、日本人が自らの手で日本側の戦争責任者を裁いていたら、そうはならなかっただろうし、その孫が国会でウソを吐き続け、モリカケ桜のような恥ずべき行いをし、プーチンには徹底的にバカにされて北方領土返還を永久に不可能にし、途上国に出向いてはカモにされ、経済政策は大失敗し、パンデミックにあたってはマスク二枚で誤魔化そうとして冗談のネタにされるような、そんな悲劇は起こらなかったでしょう。

日本人の気質として、問題の原因をつきとめ責任の所在を明らかにするよりは、昔のことは水に流して「終わりよければすべてよし」と丸く収めることを好むのだと思いますけど、この波風たてずやりすごすことを優先する態度が、結局、問題を直視することを拒否し、結果、その解決や予防への教訓を学べず、考えなしに付和雷同し、赤信号をみんなで渡っては全滅するような愚かな過ちを繰り返す原因になっていると思います。

アベやその近辺の核武装論者に欠けているのは、日本という国は唯一の被爆国であり、最大の原発事故をおこした国であるという自覚とその意味についての理解ではないかと思います。今回のロシアの攻撃をみれば、普通の想像力のある人なら、50基以上も国内に無防備な原発が乱立している日本は戦争になれば必ず負けるということが想像できないわけがありません。それをアメリカに発射ボタンを預けたままで核シェアリングすれば防げるなどと正気で考えていたら気が狂っています。だいたい、核シェアリングって何ですかね?アパートを二人で借りるのじゃあるまいし。さすがにそこまでバカではなくて、核武装には裏に真の目的があるのでしょうけど、何といっても、マスク二枚で世界的パンデミックを乗り切ろうとしたようなレベルですから、マジもんかもしれません。それに、ウクライナはソ連時代の核兵器をシェアリングしてますけど、ピンチですね。

脱線しました。われわれは80年前の戦争も福島原発事故も、それがどのような原因でおこり、そしてどういう結末を生んだのかということを忘れてはならない、ということが言いたかったのです。

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戦争法

2022-03-07 | Weblog
今回、ロシア軍がウクライナの原発施設を攻撃したというニュースが流れています。ロシア側はウクライナの自作自演だと主張。ロシア軍は電力供給を奪い、兵糧攻めにする計画なのか、あるいはロシアのいうように、ロシアへの国際的非難を高めるためのウクライナの芝居なのか、ニュースからはよく判断はつきませんけど、総合的に考えて前者だろうとは思います。

原発の攻撃は「戦争法(戦時国際法)違反」であると非難が多く見られます。法律は人々、団体、社会などの間でのコンフリクトを軽減するために上位に設けられているものだと思いますし、それを守るための強いの強制力や罰則がなけれ法律違反を抑制する効果は乏しいでしょう。強制力のない場合に法は確信犯には意味がないです。

現代の戦争において戦争法に違反した際の罰則は経済制裁しかありません。しかし、対立する側と経済圏で独立している場合であるとか、経済制裁を罰とも思わないような独裁者なら、効果は薄いでしょう。

そもそも、戦争法とか国際法という言葉に違和感を感じるのは、戦争は、直接暴力によって相手を屈服させるために行われる無法なものであり、この法が無法なものに関する法であるという理由でしょう。勝ったものが正しいのが戦争というものですし。

しかし、戦争は無法に行われるわけでも、不条理でもありません。仕掛ける方は、論理に基づく大義をもって戦争の必要について、兵士や国民を説得する必要があります。一定の手続きを踏み、段階を踏んで、暴力の行使に至るのですから、本来、長期的それから短期的目的に見合うような戦争のやり方を選択するはずです。とすると、戦争のやり方そのものは、戦争の大義とは別に、「誤ったやり方」があり、それを法として明らかにしておくことは意義があります。

ちょっと調べてみると、古代から戦争のやり方にはいろいろ決まりがあったようです。思うに、昔から戦争は何らかの問題を解決するための直接的方策であったわけで、その解決によって戦争を仕掛けた方に大きな損害が及ぶようなやり方では意味がないと考えたからでしょう。

Wikiによると、例えばユダヤのトーラーには、戦争でやってはいけないことなどが決められていたようです。例えば、戦争で木を伐採しないといけない場合でも、実のなる木は切ってはならない、とあるそうです。多分、戦争に勝ってその土地を手に入れもそれを荒廃させてしまったのでは意味が乏しいからだったのでしょう。他にも、いろいろと戦争においての制限があって、それは戦争を仕掛ける側が、自らに対して課すルールであったようです。こうした歴史的な戦争の目的を振り返ると、原発への攻撃はやってはならないことであると戦争法で定められている理由も明らかです。

ですので、ロシアの原発への攻撃が本当であったとして、戦争法を無視し、本来の戦争によって達成する目的から外れた行いに手を出してしまうことの意味は重大です。これは、追い詰められたプーチンが正気を失いつつあるという読みに合致します。そうではなく、もしKGBスパイ出身のプーチンが正気でやっているのなら、さらに危険であると思います。

戦争という無法手段に頼るということは、国際的な意見に反する行為、最後の手段をあえて選んだというわけですから、勝ってはじめてトントンの収支、負けるか引き分けならば、おそらく先に手を出した側のその責任者は重罰を受けることによってダメージの軽減を図るしかなくなると思います。とすると、プーチンは精神的に相当、追い詰められて、勝つためには手段を選ばない、というレベルに達している可能性は想像できます。

キエフの早期掌握に失敗したプーチンは、すでに、どういう形であれこの戦争が終わったらタダではすみますまい。というよりも、プーチンの失脚か急死以外にこの泥沼化しつつある戦争が終結するシナリオが見えません。ひょっとしたら、プーチンは、すでに拳銃自殺したヒトラーに自らを重ね合わせているのかも知れません。

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フィンランドの決断とプーチンの終わり

2022-03-04 | Weblog
ロシアのウクライナ侵攻、分単位で変化する情勢は流動的であり、まだまだ帰趨が読めませんが、当初の予想をはるかに越えて泥沼化したということだけは言えるでしょう。

前回、ウクライナが「フィンランド化」を拒絶して、ロシアと全面戦争になったことに触れましたが、その直後に、スウェーデンについで、フィンランドもウクライナ政府側に武器の供給を表明したというニュースが出ていました。このスウェーデン、フィンランドというNATO非加盟国がウクライナ支援を表明したことの意味は大きいと思うのですが、このことをメディアはあまり議論していないようなので、素人の床屋政談を。

これら二国は軍事的にはNATO非加盟ですが、経済圏としてはEUに属しています。そして、ウクライナは、旧ソ連国で(プーチンによれば、ベラルースとともにロシアと一体である)のにもかかわらず、新政府の大統領は政治経験のないユダヤ人コメディアンのゼレンスキーで、西側に接近し、EU入りとNATO入りを望んで、西側の軍事拠点を提供する意思さえ見せました。かつてはソ連のバルト三国も共産圏多くの国もすでにNATO加盟国ですから、こうした経済的、軍事的な西側の勢力拡大の中で、ウクライナ新政府が示した露骨な西側へ接近をプーチンが黙って見逃せるはずがありません。私はこの点で、ウクライナ大統領の経験不足に付け込んだアメリカの未必の故意を感じざるを得ません。少なくとも、中国はそう解釈していました。ゲスな話をすれば、今回のようにヨーロッパへのロシアからの天然ガスの供給が止まって代わり天然ガスを売って市場を拡大するのは誰か、自分は手を汚さずウクライナに前線でロシアと戦わせて武器を売りつけ、あわよくば軍事拠点を手に入れて得をするのは誰か、ちゅーことですね。

こういう目でみると、ロシアのウクライナ侵攻は、日本の真珠湾攻撃とも重なります。日本が追い込まれて開戦に活路を見出すしかなくなったと同じく、ロシアも西側のあおりとウクライナ政府のロシア離れを危機的状況と捉えて、ウクライナに侵攻せざる得ない状況に追い込まれたのでしょう。今のロシアは戦況を有利に導こうとして、神風特攻隊なみの異常な攻撃性をみせています。大きく異なる点は、日本は当時、追い込まれて闇雲に勝ち目のない戦争をしかけたが、ロシアは圧倒的に勝てる状況と読んで先制攻撃をしかけたにもかかわらず、その読みがはずれたということでしょうか。いずれにしても、これらの戦争で大きく傷つくことなく、得をするのがアメリカという点は共通しています。

話がずれましたけど、何年も前からロシアは中国、インドなどのBRICS諸国ととEUに対抗する経済圏を構築しようと努力をしてきました。しかし、ソ連崩壊以後のロシアの凋落は明らかです。プーチンが「強いロシア」をスローガンを掲げるのも、ロシア国力の凋落に加えて、アメリカ、NATO諸国の勢力拡大に非常な危機感を覚えているからでしょう。事実、ロシアはフィンランドに対しても先月の始めに、NATO加盟をしないようにとの通達を出しています。かつてなら、言うまでもないことをわざわざ念押しする事態になっていたのです。フィンランドやウクライナがNATOに加入し、ウクライナがEUに取り込まれるという事態が起こることを、プーチンは許すことはできません。しかるに、ウクライナ新政府は状況を理解してか、いないのか、アメリカの煽りにホイホイ乗って、プーチンを挑発し、この事態に繋がったと考えられます。いずれにせよ、追い詰められていたのはプーチンの方です。

そして、ウクライナ侵攻が始まり、ことを見守っていたフィンランドとスウェーデンは、ロシアの苦戦に驚き、追い詰められたプーチンの状況を理解し、ロシアがかつての力を失いつつあることを確認したスウェーデンがまずウクライナ支援を表明し、そして翌日フィンランドもそれに続いたということだと思います。つまり、フィンランドは「フィンランド化」を脱する好機であると事態を評価したのでしょう。

ニュースには下のようにあります。

北欧フィンランドの政府は2月28日、ウクライナにライフル銃や対戦車兵器などの武器を供与すると表明した。非同盟国で武力紛争で中立政策をとってきたフィンランドの今回の対応を受け、ロイター通信は「政策の転換を意味する」と指摘した。同じく中立政策をとってきたスウェーデンも27日、ウクライナに対戦車兵器5000基を供与すると発表していた。

フィンランドはかつてスウェーデン、それからロシアに支配された歴史をもつ小国であり、独立後もつねにロシアに主権を奪わかねない状況に置かれ、中立を保ちロシアの敵ではないことを示すことよって独立を保ってきた国です。喩えてみれば、家族の生活を守るために、イヤなパワハラ上司にもゴマをすり、頭も下げ、雨にも負けず風にもまけず、いつもヘラヘラ笑っている、そういう戦略でしたたかに生き延びてきましたのです。それが、武器支援とはいえ、中立を捨て、ウクライナ政府側、つまり西側に立つとの意志を明らかにしたということを、ロイター通信は政策の転換であると指摘したのでしょう。ということは、フィンランドは、ウクライナはロシアの思い通りにはならないことを確信したに違いありません。そして、フィンランド人は、現ウクライナ軍を80年前の自身の姿と重ねたでしょう。80年前のスターリンによる攻撃の際も、フィンランドは数日で陥落すると思われていたにもかかわらず、フィンランドは抵抗し、そして一年におよぶ戦争の末、領土の一部と引き換えに独立を維持したのだそうです。

長いものに巻かれるしかなかったフィンランドは、戦況から西側とウクライナ政府に分があると判断し、パワハラ親父との決別のチャンスに賭けたと解釈できます。そしてパワハラ親父を跳ね除けようとするウクライナ軍の姿に損得なしの共感を覚えたのかも知れません。

とすると、もしロシアがあと数日のうちにキエフを掌握するか、満足する条件で停戦合意に達することができなければ、この戦争は長く続いて、双方に大きな犠牲を出したあと、ロシア国内からの批判に耐えきれなくなったプーチンの失脚に伴って終息するのではないでしょうか。独立国の内政に干渉し、軍事侵攻したのですから、西側諸国や国連が圧倒的多数でロシアを非難するのは当然ですけど、いくら外から非難しても止まりません。プーチンもそう非難されることも、戦争が罪ない大勢の人々の生活と生命を破壊する悪であることも十分承知の上で始めたのですから。止めることができるのはロシア人の声であり、その声は日に日に大きくなっています。
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プーチンの誤算

2022-03-01 | Weblog
ウクライナのロシア侵攻、当初、戦争被害者は一般人を含めて数万人の規模になると予測されていました。この数字は、ロシアが侵攻開始後、キエフを掌握するまでに必要な軍事行動に伴うものとして算出されました。その前提は、ロシア軍は侵攻後、数時間、長くても1-2日でカタをつけるだろうとの予測の上になりたっていました。私もそういうことになるだろうと思っていました。しかし、意外なことに、事実はそうはなっていません。

日曜日、ツイッターで内田樹さんは、次のようにツイートしていました。

たぶんプーチンのシナリオは(1)電撃的にウクライナ軍を撃破(2)キエフ占領(3)大統領逮捕(4)傀儡政権樹立(5)傀儡政権によるロシアとの平和条約締結と東部独立承認(6)反ロシア派市民の大量国外脱出、というものだったと思います。それを48時間以内くらいで仕上げるつもりだった。
 国際社会が安保理で議論している間に事実上の領土併合を終えてしまえば、欧米は軍事介入できない以上、それぞれの国益優先で足並みが乱れる。計算外だったのがウクライナ国民が果敢に抵抗しているということとロシア国内世論が味方をしてくれていないこと。
 ふつう戦時大統領に対しては熱狂的に支持率が高まるものですが、そうなっていません。プーチンが一番恐れているのはロシア国内で「この戦争には大義がない」という世論が広まることでしょう。この機に乗じてプーチンの側近の中から「背中から刺す」裏切者が出てくるかも知れません。、、、、

私もほぼ同意見です。ウクライナ軍の抵抗とロシア国内の世論に関しては、プーチンもロシア議会も、かなり大きく過小評価していたのでしょう。プーチンは出鼻で失敗り、方向転換を余儀なくされつつあります。停戦交渉は当初、ウクライナはNATO加盟国であるポーランドでの開催を希望しましたが、結局、ロシア同盟国のベラルースで、イスラエル首相の仲介で実現し、現在進行中です。両者の要求の差があまりに大きので、おそらく不調におわると思われます。しかし、プーチンはすでに失敗の恐怖を感じ始めているでしょうから、ひょっとしたら条件のすり合わせの合意が起きて停戦が実現するかも知れません。

現ウクライナ政権には飲めない条件でしょうけど、東部二州の独立をウクライナが認め、NATOとアメリカと距離を置く「フィンランド化」を約束すれば、(「フィンランド化」はロシアから独立を守るために小国のフィンランドが採った中立戦略で、当初、フランスがウクライナに提案したものですが、ウクライナ政府が拒絶しました。これについては、のちの機会に触れたいと思います)多分、ロシアは引くと思います。フィンランドと同じくNATOに加盟せず、中立的立場にあったスウェーデンは、今回、はじめてウクライナ軍支持のために武器供給などの支援を決めました。ウクライナの武力支援を行なって、ロシアのキエフ陥落を阻止し、ロシアとウクライナが停戦して交渉をせざるをえない状況を作り出すためでしょうけど、キエフ陥落が長引けば市民の被害も増えます。

さて、先のツイートのように、プーチンの読み間違いは、ウクライナ軍の抵抗とロシア国民の反戦を過小評価していたことだと私も感じます。ロシア市民に今回のウクライナへの侵攻への積極的な支持が乏しいどころか、反戦争デモがロシア各地で起こっているという状況は、グローバル化した現代で、かつての冷戦中と異なって、人々が国家に求めるものも人々の意識も変わったということを示していると思います。プーチンは、その時代の変化を読みきれず、自分の若い時の経験がそのまま通用すると思ってしまったのかも知れません。

昔の知り合いで、スウェーデンに住み、スウェーデンとモスクワで二つの研究室を運営しているロシア人がいます。小国のスウェーデンからの研究費は限られている一方で、福祉国家なので研究員には手厚い待遇せざるをえず、研究室の運営が苦しいので、こうして二カ国で研究費を集めてプロジェクトを分散しているのです。去年のクリスマスに、思いがけず電話をくれて他愛ない話をして、それなりに元気でやっているようでよかったな、と思ったのです。今回の制裁措置でモスクワの研究室運営が困難になっているのでは、と思ってメールしてみました。彼はペレストロイカとソビエト崩壊後の最悪の時期に学生時代を過ごし、大学を終えたあとロシアを脱出しました。西側で生きるロシア人として複雑な思いがあった中で起きたこの事件です。返ってきたメールは下のようでした。

「思いやり深い言葉をありがとう。私はこれらのニュースに動揺し、ショックを受け、破壊され、押しつぶされそうです。戦争は常に恐ろしいものであり、受け入れがたいものです。しかし、今回の戦争は同胞戦争であり、あり得る限り最悪のものです。
 私と妻は、ただ心配しているだけでなく、プーチンが私たちの人生を、ロシア人が他の国と同じように普通の人々であることを示すための20年にわたる努力を破壊したと思っています。
 私のモスクワの研究所は、東西を結ぶもう一つの大きな努力の結晶でしたが、それは一日で破壊されました。私はプーチンを憎みます。バルコニーに「戦争反対」のポスターを貼っただけで刑務所に入れられるような抑圧的な国ですから。しかし、私はこれがプーチンの時代の終わりであることを願っています。子供を無意味に失った母親は、世界で最も強い力です。
ご自愛ください」

普段は、陽気で困難を笑い飛ばすようなタイプの彼が、これほど強い感情を出してプーチンを批判するとは驚きました。また市民の抵抗がプーチンの強権的なロシアを終わらせるだろうと考えているようです。西側で働くロシア人としては、今回の戦争は迷惑な話ではすまない話です。戦争が普通の市民に与える影響には何一つプラスのものはありません。

「戦争が絶対悪である」ことに異論はありません。そして、これはプーチンであってもそう考えているはずです。しかし戦争はなくなりません。わかっているのにやめられない。その理由は個々に特有の理由があるせよ、結局は、人間の欲と恐れと疑いの心が原因なのだろうと思います。その感情に理屈がついた場合に戦争は理性によって正当化されるのでしょう。プーチンは8年前のクリミア併合の時から今回のことを想定し、その意義も勝算も計算した上で、周到に侵攻を決断したと思いますが、八年は短いようで長い月日、肝心のロシア国民の気持ちの変化を図り損ねたのかも知れません。
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ウクライナ危機のこれから

2022-02-25 | Weblog
この二日で一気にウクライナ情勢はレッドゾーンの危機に達してしまいました。

今回、ロシアがウクライナのドネツクとルハンシクの独立を独自承認し、ロシア系住民の保護を建前に「平和維持軍」を侵出させたことを以て、アメリカと西側諸国は、非難、経済制裁を発動しました。アメリカの金魚のフン、自民党日本政府も追従。ま、国際社会はだれも日本政府を相手にしていませんが、ロシアと関係のある日本人や日本と関係があるロシア人にとってはいい迷惑です。
 西側とアメリカの動きはプーチンは十分にシミュレーションしているでしょうから、すべて想定内。軍事行動は東部の独立承認国の範囲はあるかにこえて、ウクライナ各地で開始、すでにキエフにおよんでいるという話ですから、多分、あと数時間でウクライナはロシアが掌握したという宣言がでるでしょう。そして、西寄り現政府をパージし、新ロシア傀儡政権を新たに建てて、ウクライナ全土をロシア下に抱き入れることになりそうです。

日本や米国のメディアは西側からの解釈をもとにしているので、軍事侵攻であって、ミンスク合意を踏み躙るとロシアを非難。一方、ウクライナ政府に近づいて武器を供給し西側に引き入れ、ロシア系ウクライナ地域に武力行為をしかけ、ロシアに軍事的脅威を与えているのはNATOとアメリカであるとロシア側は考えているようです。

他の国のメディアの論調をみてみました。

例えば、イランのメディアによると、ロシアの独立承認以後、ウクライナ東部のドネツクとルハンシクからロシアへ向かう難民の数がそれまでの数日間と比べて減少しており、その理由に同地域へのロシア平和維持部隊派遣への期待と安全面の向上が挙げられている。とのことで、これは、長らく続いてきた西側寄りのウクライナ政府軍と親ロシアのこの地域との紛争が、2014年ミンスク合意による停戦合意後も解決にいたらず、紛争が継続してきたため、住民の多くがロシアに難民として避難していた状況であったのが、ロシアの介入を受けて収まってきたということです。

また、中国は、一方的な対ロシア制裁を非難。「ロシア・ウクライナ間の緊張の扇動者であるアメリカが今後、どのような役割を果たすか、彼らが何してきたのかを注視する必要がある。戦火を抑えず、この戦火に油を注いだとして他者を非難することは無責任で倫理に反する行為である、アメリカはウクライナへの武器送付を続けることで、常に恐怖感を拡大してきた」とアメリカを非難。

双方に言い分はあるでしょうが、アメリカがこれまで世界中でやってきたことを考えるとごもっとも。

当のウクライナでは、ロシアがウクライナ東部に「特別軍事作戦」を開始したことをうけ、ウクライナ議会の議員は西側による見せかけのウクライナ支援を批判し、「西側によるウクライナ防衛の保証はどこか?」と疑問を投げかけたとのこと。

これまでアメリカ、西側が武器をウクライナに売って政府を西側に引き寄せてきたのに、実際にロシアが領土で軍事行動をおこしたら、口先の批判と経済制裁だけでお茶をにごしていると、裏切られた気持ちにはなるのでしょうな。

トルコは23日、プーチンと首脳会談。ロシアのこの二国の独立承認は認めないとしたものの、黒海を挟んでウクライナ、ロシア両国とは隣国関係にあり、双方と独自の関係を持つトルコは、中立的立場で解決を望んでおり、NATOの対応に期待するとの話。

前回、この事件が将来的に中東に戦争をもたらすのではないかという妄想を述べたわけですが、その中心となるであろうイスラエルは、ロシアの動きにはかなり敏感に反応しています。私の妄想をイスラエルの人はもう少し現実味をもって妄想しているようで、二日前の次のイスラエルの新聞記事から、長いので断片的に少し。

米露間で第三次世界大戦や核ミサイルの応酬が起こることはないとは思うが、月曜日の夜から、ウクライナに関するにらみ合いは、間違いなく、1962年10月のキューバ・ミサイル危機以来、世界の安全保障において最も危険な時を迎えている。、、、今回のウクライナ侵攻の意味は、空間的にも時間的にもウクライナをはるかに超えたところにある。、、、プーチンは頻繁に「NATOの拡大」論とウクライナの軍事同盟への加盟を、彼の関連する不満と正当化として持ち出した。そのため、西側諸国は、プーチンの主張にも一理あると信じ始めた。
、、、アメリカは試されているのだ。そう、危機がドンバス地域を超え、中露の暗黙の枢軸形成の一部であることを認識しているのだ。そして、「アメリカの秩序」が挑戦されていることも認識している。
、、、うまくいけば、アメリカにとってもう一つの厄介な頭痛の種であるイラン核合意の締結と相まって、アメリカの信頼性とリーダーシップを回復することになる。しかし、バイデンは、自分がロシアに対処するために選ばれたのではないこと、そしてウクライナの解放者として再選されることはないだろうということを、最初に認めることになる。

わかりにくい言い回しですけど、イスラエルの新聞にこの記事を書いた人はこれをキューバ危機に例えるほどの事態であると考えており、バイデンにはこの危機を乗り切ることはできないだろうと考えているということでしょう。

この揉め事が長引けば長引くほど、アメリカとロシアとの対立は自然とエスカレートし、世界的核戦争に至る可能性は現実味を帯びてきます。キューバ危機の時と違って「強いロシア」を掲げるプーチンは自ら引くわけにもいかず、バイデンも振り上げた拳を降ろせぬまま、事態は悪化していくでしょう。

ひょっとしたら、この対立の平衡を崩すのは、イスラエルのもつ危機感なのかも知れません。
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ウクライナ侵攻と世界大戦

2022-02-22 | Weblog
近頃、あまり明るい話題がみあたりませんな。ここしばらく関心の的になっているのが、ロシアのウクライナ侵攻の可能性。NATOに対するロシアの対抗策ということです。当初は2月16日、それから冬季オリンピックの終了時に侵攻すると予想されておりました。とりあえず、それは回避されたようですが、現在もロシアはロシアとベラルースで軍事演習を継続。8年前のウクライナのクリミア半島のロシア併合のことも念頭にあるでしょう、バイデン政権は警戒をとかず、強い口調でロシアを牽制しつづけています。クリミアはロシア軍事的重要拠点ではありましたが、その併合はむしろ多数派のロシア系住民が望んだという事情もあります。それで、今回もロシアはウクライナのロシア系住民の保護を口実に侵攻するとアメリカは考えているようです。事実、クリミアほどではないにせよ、ウクライナの東南部はロシア系が多く、ロシア語が主に話されている一方、北西部はウクライナ人が主です。

クリミアは黒海を渡りイスタンブールを経由して水路で地中海にアクセスするために便利な軍事拠点であり、8年前のクリミア併合と今回のウクライナ侵攻は戦略的に繋がっていると思われます。

ニュースによると、今回のロシアの軍事演習では「艦艇から巡航ミサイルや極超音速巡航ミサイルなどを発射する演習を実施し、東へ数千キロ離れたカムチャッカ半島の目標を狙い、ロシア北西部とバレンツ海の潜水艦から弾道ミサイルを1発ずつ発射した」そうです。また、ロシアのラブロフ外相は「この地域におけるロシアの主権を無視すれば、欧州大陸だけでなく、世界の安定に逆の効果をもたらす」と語った、とのことです。記事では深く解説されていませんが、この演習内容や外相の言葉が、私には、かなり不吉に聞こえます。

ウクライナ周辺地域のロシアの権利の保護が目的ならば、なぜ、ロシアは長距離ミサイル、しかも潜水艦や艦艇からの発射演習をしたのでしょうか。ロシアが船を使って長距離ミサイルを打ち込むとしたら、相手は当然、アメリカを想定しているはずです。加えて、ラブロフ外相の言葉は、より直接的に世界大戦の可能性を述べたものです。つまり、今回のロシアの軍事行動は対アメリカがその線上にあり、アメリカ側も当然ながらロシアとの武力衝突をリアルな可能性として感じているということだと思われます。

戦争というのは為政者にとっては何かと都合のよいもので、国内の不満を逸らせ、非常事態を口実に、火事場泥棒的に国民の権利や財産を取り上げ、国債を踏み倒し、ナショナリズムを煽って、権力の拡大を図ることが同時にできます。日本では、アベ一味らが、怪しい口実を並べては、内閣の独裁権力の獲得を目指して、緊急事態条項を手始めに着々と歩をすすめ、露骨に最終段階の憲法にまで手をつけて、自由に戦争ができる形を作ろうとしています。彼らにとって戦争はただの口実ですから、いざ世界大戦が始まった時にバスに乗り遅れて、その機会を逃さないようにしたいのでしょう。

ロシアにおいては、特に「強いロシア」をスローガンにナショナリズムを煽るプーチンにとって、複数の意味でウクライナ侵攻は魅力的なのではないでしょうか。近年はアフガニスタン、イラク、かつてはベトナムに朝鮮戦争などなど、第三国への軍事介入では、アメリカは第二次世界大戦以後、ずっと失敗の連続で、国外への軍事介入を縮小させているアメリカは、今回のロシアのウクライナ侵攻に対しても直接の軍事介入はするつもりはないし、ドイツはそもそもウクライナを通じて供給されるロシアの天然ガスにエネルギーを依存しているので、ウクライナを戦場にしたくないというわけで、アメリカ、NATOは動かず、ロシアが侵攻すればほぼ瞬時にウクライナはロシア支配になると思われます。侵攻のタイミングを伺っているのは、ウクライナ制圧後のことを考えているからででしょう。アメリカは軍事介入はしなくても経済制裁は課してくるので、その問題を現政権が処理できるかどうか、そういったことのシミュレーションをやっているのではないでしょうか。

さて、ロシアがウクライナを押さえ、西側からのNATOとアメリカに対して軍事的緩衝を得た場合に、将来的に何が起こり得るのか、ちょっと妄想してみました。

最近は、話をあまり聞きませんが、数年前の一時期、イランの核開発の動きに対して、アメリカがイランに経済制裁を課したり、ネタニヤフ政権のイスラエルがかなり強硬な態度に出ていました。無論、イランの核開発は表向きはエネルギー対策ということですけど、核兵器が目的なのは間違いないでしょう。イランが核兵器を保有したい理由も核保有国であるイスラエルとの力関係の平衡をとるのが主目的の一つではないかと想像します。このイスラエル対イランの対立はネタニヤフの昨年の退陣を受けてやや緩和したように思われますが、ネタニヤフは復活を目指しているという話ですから、数年後にイスラエルの対イラン姿勢がどう変化するかはまだまだわかりません。イスラムとユダヤとキリスト教徒の共通の聖地であるエルサレムがバレスティナにある以上、イスラエルとイスラム系国家との間に宗教的摩擦は無くなることはなく、イスラエルもイランやその周囲のイスラム世界も、いわば一触即発の状態で睨み合っている状態と思われます。

この地は、聖書のもとになった歴史的出来事がおきた場所であります。聖書を予言の書として解釈する人々によりますと、Ezekiel書は次の世界大戦のことを述べていて、それはイスラエルとイラン間の緊張から引き起こされると解釈できるそうです。その解釈によると、イスラエルとイラン間で戦争が起きた後、ロシアはイランを支援することになります。結果、イランに加勢するロシア軍がその他東欧国およびエチオピアからなる連合軍を率いて中東に侵攻します。アメリカもイスラエルをイスラムとロシアに明け渡すのを許しませんから、イスラエル側に立って参戦、結果、イスラエル-アメリカ 対 ロシア連合軍による世界規模の核戦争になると解釈できるそうです。その時点でロシアはアメリカ本土を潜水艦からの核弾頭ミサイルを使って攻撃することになります。そう考えると、今回のロシアの軍事演習での潜水艦からの中長距離ミサイル発射は、来たる世界大戦で、地中海からのイスラエルへの攻撃および、太平洋、大西洋の潜水艦からの長距離ミサイルでのアメリカ本土都市への攻撃を想定してのことなのかも知れません。

この話が本当におこるとすると、素人考えでは、ロシアの中東へ侵攻には、まずウクライナをロシア側につけて、西からのNATOの動きを止めた上で、クリミアから黒海を通って地中海側に海軍を送る一方で、陸路ではコーカサスを通って南下し、聖地からユダヤを追い出すという名目で、イラン、イラク、シリアのイスラム圏を巻き込んで東側からイスラエルに迫り、東西から挟み撃ちにするのではないだろうかと想像します。

とすると、ウクライナをロシア側につけることはロシア連合軍の中東侵攻への第一歩であり、今回のウクライナ侵攻は来たる第三次世界大戦の序章なのかもしれません。
(という妄想でした。お付き合いありがとうございました)
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学術論文雑誌について

2022-02-18 | Weblog
この間の科学論文出版業界を皮肉った動画の続編がアップされていたので、紹介。


これは、主に税金を使って行われた研究成果の発表の場を提供している商業雑誌が、購読料、掲載料を研究者から集め、研究者の編集労力を無償で利用してビジネスをするアカデミア出版の不条理についての風刺ですが、こうした商業雑誌が年間、20 billion $レベルのビジネスであり、その利益率は40%にも上がり、グーグルを越えている、という話が出て驚きます。これが本当だとすると、あくどい商売にしか聞こえません。この場合はお客が納得して非常識な額の掲載量を払ってNatureブランドを買うわけですから、ぼったくりバーとはわけが違いますけど、Natureに掲載料を払うのは、銀座の一流店のホステスに貢ぐのと同じようなものでしょうか。普通の感覚では理解できない論文出版のビジネスに研究者がなぜ金を払うのか、と理詰めで問いかけられて、最後は涙目で、「金の問題じゃない」とつぶやかざるを得ないところが同情を誘いますね。

私、NatureもScienceもフロントページの記事が楽しみで購読していますけど、この二つの雑誌には基本的姿勢に違いがあると思います。Natureは商業雑誌、金儲けを目的の一つにしています。一方、もともとエジソンとベルの資金で始まったScienceはその後、非営利団体であるAAASが引き継いだ団体機関紙であり、基本的にはメンバーのための雑誌であって、メンバーシップ費を引くと購読料そのものもNatureより安いです。この違いを考えると、Natureは銀行、Scienceは信用金庫に喩えられるかも知れません。つまり、銀行は銀行の金儲けのために顧客と取引をするが、信用金庫は組合員の利益のために金融支援をするという目的の相違が、商業雑誌と非営利団体機関紙との関係に似ているように感じます。

主に税金をつかった研究が論文になるいう点からもアカデミアの論文は、大学紀要やPNASなどの非営利団体の機関紙、PLoSやeLifeなどの非営利雑誌、で発表されるのが望ましいと私は思います。日本からNatureに論文を載せれば、日本の税金が間接的にイギリスの一商業出版社に流れるのです。

Natureのフロントページの記事には購読料を払う価値があると私は思いますけど、Natureが学術論文発表の場である必要はなく、むしろ、サイエンティフィック アメリカンやニュートンやかつての朝日科学のような二次情報の発信にフォーカスした雑誌になった方が私にとっては嬉しいです。

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ビッグ エゴの時代の終わり

2022-02-15 | Weblog
このところ、アメリカのアカデミアで有名研究者のパワハラ、セクハラの不祥事が相次いでおりますが、今回のEric Landerの事件を元に、研究業界のこの問題について論じた記事を目にしたので、一部をDeepLしてみました。

The fall of Eric Lander and the end of science’s ‘big ego’ era (Eric Landerの転落と科学界の「巨大エゴ」時代の終わり)

バイデン大統領の主任科学顧問であったエリック・ランダーの辞任は、ある大統領の研究推進計画に対する打撃であるだけでなく、ある種の科学のやり方の死への行進の兆候でもある。それは「ビッグ サイエンス」ならぬ、「ビッグ・エゴ」とでも言えばいいのだろうか。

科学において、「ビッグ・エゴ」は必ずしも新しい現象ではない。しかし、ここ数十年の間に、学問的な議論に見られるような険悪な議論に対応でき、また、ゲノムのマッピングや細胞内の分子変化が癌につながる仕組みの解明など、ある種の科学的発見をするために膨大なリソースを集められる研究者の出現によって、この現象は大きくなってきた。

このような仕事を成し遂げるには、かつては人並み外れた個性と、科学の意味だけでなくそれを行うことの興奮を、一般人や寄付者、政治家に伝える能力が必要だと考えられていた。ランダーが得意としたのは、この世界であった。彼は何十年もの間、世界で最も引用される科学者の一人であっただけでなく、研究帝国を築いた管理者でもあったのだ。

このプロジェクトは、ノーベル賞受賞者であるジェームズ・ワトソンが中心となって進められた、最初のヒトゲノムの配列決定に向けた政府の取り組みであった。(E.O.ウィルソンはワトソンを「私がこれまでに会った中で最も不愉快な人間」と呼んだ。) 近年、ワトソンは人種差別的、女性差別的な発言で科学界の権威から勘当された。しかし、1990年代には、DNAの二重らせん構造の共同発見者として、まさに研究費の流れを作るために議会に呼ばれるような人物であった。

ランダーが関わった当時、彼は数学者で元ビジネススクール教授、マサチューセッツ工科大学のホワイトヘッド研究所で配列解析センターを立ち上げた人物である。、、、ランダーは、ホワイトヘッドにある大規模なDNAシークエンスセンターの監督を任されたが、官僚的な厳しい争いの末、これを新しい組織、MITとハーバードのブロード研究所(ちなみに、この組織は富豪のドナーの名前に由来する)に移したのである。そして、ランダーのリーダーシップのもと、ブロード研究所は、おそらく世界一の遺伝子研究の中心地となった。

、、、かつて遺伝子情報を自由に利用できるようにするために戦っていた時代には許されていた振る舞いは、現代のホワイトハウスでは許されなくなっている。彼が新しいキャンサー・ムーンショットやARPA-Hという政府内の新しい科学資金調達の仕組みを作ろうとしたことで、彼の昔の悪いやり方が蘇ったのだろう。もしかしたら、彼はいつだって嫌な奴であったのかもしれない。

、、、騒動の火種はたくさんあった。ランダーが遺伝子編集技術CRISPRについて書いた2016年の論文で、彼がブロードの努力を誇張し、後にノーベル賞を受賞したジェニファー・ダウドナやエマニュエル・シャルパンティエの貢献を最小限に抑えるかのように書いたことを、多くの科学者は、いまだに憤っているのだ。

ランダーの最近の行動がもたらす結果は、公的知識人としての役割を著しく低下させ、深刻な事態に至る可能性がある。すでに、米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)は、科学者の最大の集まりの1つである年次総会から彼を除名している。ランダーが次にどこに行くのか、また、ブロードに戻ることが歓迎されるのかどうか、疑問が残る。

、、、これまでなら公然と同僚をいじめたり見下したりしていた人たちも、自分の目標を達成したいのなら、もはや、そんなことはできないということを知ることになる。、、、ワトソンがついに完全に色あせたのは、2007年にイギリスの新聞に「黒人は白人ほど知的ではない」と発言してからだった。2019年に再び同様の発言をした後、彼は最後の名誉称号を剥奪されたのだった。
、、、、、
科学とは、結局のところ、野心と好奇心の上に成り立つものである。そのためにはエゴは必要だ。しかし、それはそれほど大きなものである必要はない。


というわけで、記事にもあるように、野心はエゴから生まれ、エゴは科学研究にかぎらず、人間の多くの行動のエネルギー源です。「自分が他人より優れた人間であると証明したい」という自己愛と自己顕示欲があるからこそ、彼らは必死に勉強して一流大学に入り、そして一流大学の教授や企業のトップを目指します。その目的のために強引なやり方で他人に犠牲を強いることもしばしばあります。しかし、それはもう許されません。

この手の典型的な野心あふれるビッグ エゴをもつ秀才連中と関わり合いになることが、私は少なからずありました。私はこの手の人々の発するアクというか毒気が苦手です。ツイッターでは、有名雑誌に論文が載ったとか、特大グラントを当てたなどという研究者のツイートが毎日ながれてきますけど、その短い文章のびっくりマーク付きのハイテンションなトーンから滲み出すエゴには時にウンザリします。基本的に野心的な研究者というのは自己顕示欲が強いものですが、一方で、そんなエゴの張り合いが、研究へのエネルギーになっているのは間違いないと思います。

しかしながら、かつてのように一部の成功者が強いリーダーシップを発揮して大規模プロジェクトを推進し、そのためには、彼らの独裁者さながらのエゴを野放しにして、人々が多少の迷惑を被るのもやむを得ない、という考えは許されない時代になりましたと思います。上下関係の構造が組織の機能に必要だった昔なら、愛の鞭やエッチな冗談と見過ごされたであろうものでも、今ではパワハラ、セクハラですから。という事情で、総じて、高齢の教授たちは、ランダーには同情的です。しかし、個人の権利は、国家レベルで達成される科学の成果よりも優先される時代です。私も目的を達成すること以上にとる手段が正しいことの方が大切だと思います。国家が科学技術の振興を図ろうとするのは、そもそもその国の人々の幸福に資するためです。しかるに、国の科学政策アドバイザーのランダーはその目的にもかかわらず、身近な数人の人々を直接不幸にしてしまいました。ホワイトハウスはそれを許さなかったのです。
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