ちょっと小耳に挟んだどうでもよい話。
最近、British Medical Journalにビデオゲームのやり過ぎで、指の皮膚に障害をおこした女児の例が報告されたそうです。ビデオゲームのコントローラーのボタンの押し過ぎとのことで、不謹慎ながら、猿になんとか、という諺(?)を思い出してしまいました。携帯電話、インターネット、TV、薬、などなど、昔なら中毒になるものは、酒と煙草とギャンブルとXXぐらいでしたが、今はものやテクノロジーがあふれかえっていて、快感中枢を刺激するための小道具にはこと欠きません。危ない世の中となったものです。しかし、そういう私もコンピューターの前に座っている時間は十年前の十倍ぐらいにはなっているはずです。幸い、酒も煙草もギャンブルもXXもしませんし、携帯電話もビデオゲームも持っていないので、正気を保っております。
このニュースで思い出したのがつい最近、Science かNatureの小話欄で知った、「Cello Scrotum」という病気で、同じくBritish Medical Journal に1974年に John Murphyという人によって報告されました。「チェロ陰嚢症」とでも訳すのでしょうか、この病気は、バイオリニストの頸椎症やフルート奏者の顎関節症と同様に、チェロの弾き過ぎによって起こる陰嚢の炎症であると報告されています。ところが、最近、著者の妻であるDr. Murphyが、あれはウソだったと告白したとのことで話題になりました。34年前の殆ど誰も知らないような冗談をなぜ今更、告白するのか、本人たちの真意は知りませんが、年をとって、昔の悪さを後始末せずにほっとくことができない気持ちは、なんとなく分からなくなくもないです。 インターネットでみつけた記事によると、そもそもこの冗談は、クラシックギタリストの乳首の炎症(Guitarist’s nipple)の報告を読んだMurphy夫妻が、これはきっとウソに違いないと考え、悪ノリで、チェロ陰嚢症をでっちあげて、投稿したところ、出版されてしまったということらしいです。冗談を真に受けられたいうわけで、昨今はやりの論文捏造とはちょっと趣を異にしますが、こういう冗談はいけません。以前、飛行機の機内で、手荷物の中身を聞かれた日本人が、冗談で「爆弾」と言ったために、飛行機が緊急着陸して、大騒ぎになった事件がありました。冗談を言うにも場所をわきまえるべきです。この場合は幸い大きな問題に至ることはありませんでした。無論、大した反応もなく、1991年には、チェリストでもある皮膚医が、チェロを弾き過ぎて陰嚢炎を起こすというのは考えにくい、との批判的意見をアメリカ皮膚科学会誌に表したぐらいらしいです。
この冗談のきっかけになった、クラッシックギターの弾き過ぎで起こるとされる、ギタリスト乳首炎は、Dr. Curtisという人が同じく1974年にBritish Medical Journalに報告したとなっていますが、最近、同誌に発表されたMurphyの告白文によると、Dr. Curtisにクリスマスカードを送ったところ、本人はギタリスト乳首炎について何も知らなかったそうで、これも誰か別人が仕組んだ冗談ではないかと書いてあります。これらの記事はPub Medに収載されていますので、興味のある方は、Cello Scrotumでサーチしてみてください。オリジナルの報告はretractされました。
しかし、BMJはそれなりに権威ある臨床系雑誌なのですから、ギターの弾き過ぎの乳首炎とか、チェロの弾き過ぎの陰嚢炎とか、エディターももう少し慎重に審査できなかったのだろうか、と思ったのですが、よく考えたら、エディターが冗談とわかっていなかったはずはない、と思い直しました。冗談を間に受けられたのではなく、これはプラクティカルジョークのプラクティカルジョーク返しだったに違いないと思います。結局、一杯喰ったのは、34年前の冗談の告白をせざるを得なくなったMurphy夫妻だったのかも知れません。
付記。
BMJに掲載された、Guitar nippleとCello scrotumの全文をコピーしておきます。これを読むと、エディターはやはり真面目な医学情報と思って掲載したのかも知れません。それにしても、この「I am, etc.」という結びの句は何でしょうか?今まで、知りませんでした。
Guitar Nipple
Sir, I have recently seen three patients with traumatic mastitis of one breast. These were all girls aged between 8 and 10 and the mastitis consisted of a slightly inflamed cystic swelling about the base of the nipple. Questioning revealed that all three were learning to play the classical guitar, which requires close attention to the position of the instrument in relation to the body. In each case a full-sized guitar was used and the edge of the soundbox pressed against the nipple. Two of the patients were right-handed and consequently had a right-sided mastitis. When the guitar-playing was stopped the mastitis subsided spontaneously.
I would be intereseted to know whether any other doctors have come across this condition. I am, etc.
P. Curtis Winchesther.
Cello Scrotum
Sir, Though I have not come across "guitar nipple" as reported by Dr. P. CUrtis (27 April, p. 226), I did once come across a case of "cello scrotum" caused by irritation from the body of the cello. The patient in question was a professional musician and plyaed in rehearsal, practice, or concert for several hours each day. I am, etc.
J.M. Murphy Chalford, Glos
最近、British Medical Journalにビデオゲームのやり過ぎで、指の皮膚に障害をおこした女児の例が報告されたそうです。ビデオゲームのコントローラーのボタンの押し過ぎとのことで、不謹慎ながら、猿になんとか、という諺(?)を思い出してしまいました。携帯電話、インターネット、TV、薬、などなど、昔なら中毒になるものは、酒と煙草とギャンブルとXXぐらいでしたが、今はものやテクノロジーがあふれかえっていて、快感中枢を刺激するための小道具にはこと欠きません。危ない世の中となったものです。しかし、そういう私もコンピューターの前に座っている時間は十年前の十倍ぐらいにはなっているはずです。幸い、酒も煙草もギャンブルもXXもしませんし、携帯電話もビデオゲームも持っていないので、正気を保っております。
このニュースで思い出したのがつい最近、Science かNatureの小話欄で知った、「Cello Scrotum」という病気で、同じくBritish Medical Journal に1974年に John Murphyという人によって報告されました。「チェロ陰嚢症」とでも訳すのでしょうか、この病気は、バイオリニストの頸椎症やフルート奏者の顎関節症と同様に、チェロの弾き過ぎによって起こる陰嚢の炎症であると報告されています。ところが、最近、著者の妻であるDr. Murphyが、あれはウソだったと告白したとのことで話題になりました。34年前の殆ど誰も知らないような冗談をなぜ今更、告白するのか、本人たちの真意は知りませんが、年をとって、昔の悪さを後始末せずにほっとくことができない気持ちは、なんとなく分からなくなくもないです。 インターネットでみつけた記事によると、そもそもこの冗談は、クラシックギタリストの乳首の炎症(Guitarist’s nipple)の報告を読んだMurphy夫妻が、これはきっとウソに違いないと考え、悪ノリで、チェロ陰嚢症をでっちあげて、投稿したところ、出版されてしまったということらしいです。冗談を真に受けられたいうわけで、昨今はやりの論文捏造とはちょっと趣を異にしますが、こういう冗談はいけません。以前、飛行機の機内で、手荷物の中身を聞かれた日本人が、冗談で「爆弾」と言ったために、飛行機が緊急着陸して、大騒ぎになった事件がありました。冗談を言うにも場所をわきまえるべきです。この場合は幸い大きな問題に至ることはありませんでした。無論、大した反応もなく、1991年には、チェリストでもある皮膚医が、チェロを弾き過ぎて陰嚢炎を起こすというのは考えにくい、との批判的意見をアメリカ皮膚科学会誌に表したぐらいらしいです。
この冗談のきっかけになった、クラッシックギターの弾き過ぎで起こるとされる、ギタリスト乳首炎は、Dr. Curtisという人が同じく1974年にBritish Medical Journalに報告したとなっていますが、最近、同誌に発表されたMurphyの告白文によると、Dr. Curtisにクリスマスカードを送ったところ、本人はギタリスト乳首炎について何も知らなかったそうで、これも誰か別人が仕組んだ冗談ではないかと書いてあります。これらの記事はPub Medに収載されていますので、興味のある方は、Cello Scrotumでサーチしてみてください。オリジナルの報告はretractされました。
しかし、BMJはそれなりに権威ある臨床系雑誌なのですから、ギターの弾き過ぎの乳首炎とか、チェロの弾き過ぎの陰嚢炎とか、エディターももう少し慎重に審査できなかったのだろうか、と思ったのですが、よく考えたら、エディターが冗談とわかっていなかったはずはない、と思い直しました。冗談を間に受けられたのではなく、これはプラクティカルジョークのプラクティカルジョーク返しだったに違いないと思います。結局、一杯喰ったのは、34年前の冗談の告白をせざるを得なくなったMurphy夫妻だったのかも知れません。
付記。
BMJに掲載された、Guitar nippleとCello scrotumの全文をコピーしておきます。これを読むと、エディターはやはり真面目な医学情報と思って掲載したのかも知れません。それにしても、この「I am, etc.」という結びの句は何でしょうか?今まで、知りませんでした。
Guitar Nipple
Sir, I have recently seen three patients with traumatic mastitis of one breast. These were all girls aged between 8 and 10 and the mastitis consisted of a slightly inflamed cystic swelling about the base of the nipple. Questioning revealed that all three were learning to play the classical guitar, which requires close attention to the position of the instrument in relation to the body. In each case a full-sized guitar was used and the edge of the soundbox pressed against the nipple. Two of the patients were right-handed and consequently had a right-sided mastitis. When the guitar-playing was stopped the mastitis subsided spontaneously.
I would be intereseted to know whether any other doctors have come across this condition. I am, etc.
P. Curtis Winchesther.
Cello Scrotum
Sir, Though I have not come across "guitar nipple" as reported by Dr. P. CUrtis (27 April, p. 226), I did once come across a case of "cello scrotum" caused by irritation from the body of the cello. The patient in question was a professional musician and plyaed in rehearsal, practice, or concert for several hours each day. I am, etc.
J.M. Murphy Chalford, Glos