西側メディアが、シリアのアサド政権崩壊をポジティブな出来事として報道する一方で、現地の今後に明るい未来は見えません。アラブ諸国は、基本的にすべて独裁国家であります。独裁と民主主義には、どちらにも長所と短所があり、いずれが良いかは、その背景や文化や価値観に依存するでしょう。「アラビアのロレンス」で描かれたように、アラブ社会で、個人の単位ではなく、「一族」の単位、「国家」の単位での存続が優先される場合には、民主主義ではやっていけないでしょう。民主主義的な軍隊というものが存在できないのと同じ理由で、軍や隊、一族として生き延びるには、統制のとれた行動とトップダウンの命令系統が厳密に維持される必要があり、個人(民衆)の自由は制限されます。
話がそれますが、日本の地域医療の崩壊の理由も大学医局の独裁権力が崩壊し、医師、医局員の民主化が進んだからと解釈できると思います。 大学医学部は都会にあり、都会を離れたくない医師を医局が強制的に地方医療に従事させることができなくなった結果、医師の偏在が起こり、地方の医療崩壊を招くことになったと思います。
故に、独裁主義が悪で民主主義が善であるというのは、あくまでコンテクストに依存していると思います。「民主化」を理由に、アメリカが他所の独立国に介入するのは、介入のための口実にすぎません。前回紹介したアサドの言葉にあるように、そもそも、われわれが与えられている「民主主義」というのは、時々の選挙で、用意された候補者に投票するぐらいの程度のものでしかありません。しかも選挙戦を戦うには多額の資金が必要です。そういうお金の支援のある「選ばれた」候補者しか、国民には選択肢がない。自前で資金を都合している共産党か、市民の支援で成り立っているれいわ以外は、物的、人的資本をもつスポンサー、資本家団体や宗教団体がバックにおり、結局、その候補者は投票した民衆の意思ではなく、バックの団体の意思を尊重します。 つまり、誰に投票しても一般国民の意思は二の次です。その証左が貧富の差の増大であり、消費税であり、被災地の切り捨てであり、過疎地の棄民政策です。現在、日本を含む西側の民主主義というのは、すでに羊頭狗肉で、実質的には資本家と権力者による独裁主義に過ぎないと言えましょう。
話を戻して、実際、イラク、リビア、ソマリア、スダーン、、、と、アメリカが「民主主義」を建前に、武力と策略によって政権の転覆を実行してきた国々がその後にどういう混乱に見舞われたかを見れば、シリアの未来も想像がつくというものです。一方で、TVや新聞では、アサド政権下のダンジョンで拷問を受けた人が解放されて苦難を語ったとか、民主化運動が実を結んだとか、というanecdotesが報道され、シリアの独裁政権の終わりを讃える論調で報道されています。もちろん、独裁で抑圧された人々や民主化を求める人が喜ぶのはわかりますが、結局は、その本質は、シリアという国が消滅し、アサドが、他所から来た別の搾取者(イスラエルとアメリカ、トルコ)のプロキシ(アル カイーダ)によってとって変わられるというだけのことで、国民の苦難はむしろ悪くなるであろうと思われます。下にあるように、アサド後のシリア政府の中心となると予測されるHTSは、国連認定テロ組織アルカイーダであり、彼らは、現在激化しているイスラエルによるシリア爆撃をさせるがままにしており、シリアの資源を保護しようとする気配はありません。また、イスラム過激派である彼らは少数派であるキリスト教者の弾圧も始めているようで、民衆が望む「平和で安全な民主主義国家」の実現どころか、シリアという国そのものの消滅、つまり東側はイスラエルの領土となり、北から西はトルコとアメリカによる石油利権の餌食となることを目指しているかのようです。
さて、今後のシリアについては、数日前のイギリスの中東専門家で政治家であるGeorge Gallowayのチャンネルでシリア のジャーナリスト、Richard Medhurstが状況を説明していますので、紹介します。
George: まずは、Richard、君と君の家族に、 君の国が滅んだことに弔意を示したい。
Richard: その通りだ。、、、事態は刻々と悪化している。、、、祖国は死んだ。それにしても西側メディアが行う「White-washing」は興味深く見ている。、、、HTS (政権を奪取した反アサド勢力)はアルカイーダだが、他に37の団体が動いている。彼らがどのような規則に則って動いているか知らないが、公けに暴力を振い、処刑を行っているのは現実だ。、、、、例えば、キリスト教徒の迫害が起こっている。これはアサドの問題ではない。、、、(イスラム過激派がアサド政権を倒したということで)シリアの多様性が滅んだという問題だ。間違いなく悲しむべき事態だ。
Geroge: また、領土の問題もある。シリアの一部は深く分断され、新オスマン帝国皇帝のエルドアンとアメリカが支援するクルディスタン労働者党の支配下にある。そして、トルコとイスラエルの侵攻によって、シリアは地理的にも滅んでしまった。
Richard: その通りだ。、、、これは2回目、いや3回目だ。、、、トルコはシリアの北側を2019年から支配してきて、そこはHTS(アル カイーダ)の根城となっていた。そして、アメリカとNATO国であるトルコはユーフラテス川より東の石油を搾取してきた。シリアの高地、ゴラン高原はイスラエルに占拠されてしまった。今回、ダマスカスを占拠した反アサド勢力は、シリアの利益を守ると宣言したにもかかわらず、イスラエルとは戦おうともせず、イスラエルがシリアの軍事施設を破壊し、土地を略奪するがままに任せている。、、、、そして、イスラエルがシリアの軍事資源を破壊つくした後では、次に誰が政府を運営するかに関係なく、シリアは独立国家としては存在できない。、、、、イスラエルが現在行なっているシリアの軍事施設への爆撃は史上最大のものだ。そして新政府となる人々はそれを止めようともしない。
Geroge:、、、、結局のところ、シリアはどうなってしまうのだろうか?
Richard:、、、(アサド政権下で)シリアにトドメを刺したのは経済制裁で、それはトランプが課したものだ。シリアの1/4の収入は石油だが、ここ何年にもわたって、利益はアメリカに盗まれてきた。(こうした状況のために、シリアは経済的に極めて苦しい状態に陥った。)、、、今後、何が起こるかは予言できないが、起こるとすると、何らかのクーデターだろう。、、、、、そして、アメリカやイスラエルに加えて、アルカイーダを支援してきたトルコの役割を忘れるわけにはいかない。
George:、、、トルコはアメリカやイスラエルと協調しているのか、独立して動いているのだろうか?、、、
Richard:彼らはNATO加盟国であり、共通の利害もあるが、トルコはクルドを弱体化させたいという固有の欲求があり、独立した目的もあるだろう。、、、シリアは地理的、政治的にイラン、レバノン、パレスティナ、イラクを結んでいる。トルコは(パレスティナのジェノサイドに反対するような)そのポーズと裏腹に、イスラエルに石油を供給してその軍事行動を支援してきた。トルコにとってはこれらのアラブ諸国(抵抗の枢軸)を結んでいるシリアをイスラエルが潰すことは国益に叶うことなのだ。、、、、数年前ではなく、なぜ今、アサドが倒されたのか、それはイスラエルがガザ、レバノンと順番に潰して行く計画だったからだ。そして、イスラエルが次に狙っているのはイランだ。
George: あるいは、イランの前にイラクかも知れない。映画で見たようにISISがトヨタの車で砂漠を超えて、マイノリティーの多いイラクの第二の都市Mosulを占拠するのかも知れない。、、、、
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