前々回の続きですが、医療のコストとサービスのバランスをどう取るかということをちょっと考えてみました。医療コストを下げる最も効果的な方法は、医者の数を減らすことであるのは間違いないと思います。20年前、医師過剰時代の到来を見越して、医学部の定員削減を国は行ってきました。現在の、特に地方においての医師不足という問題は、医師の絶対数の減少よりは、国が研修医制度を変更した結果としての医局制度の崩壊が地方医療を破壊したために起こった、というのはおそらく正しい解釈なのでしょう。つまり、従来、大学医局に権力が集中していて、その権力を背後に丁稚奉公的医局制度という医師の派遣業務があったからこそ、地方医療が成り立っていたということが、行政には十分認識されていなかったということだと思います。地方の医療をみると、少なくとも医師の数は減少し、病院は統廃合し、医療コストはおそらく減ったと思います。しかし、医者の数が減って、困るのは、必要な時に医者に診てもらえないという点です。
現在、医師不足の地方病院で、医師が疲弊しているのは、医療の必要な人のケアに加えて、必要でないのに病院に来る人に対処する必要があるからであろうと思います。病院に何らかの問題を抱えてやってくる患者さんの中で、病院が何らかの役に立てるケースは、おそらく1割にも満たないでしょう。残り8割は病院に来ても来なくても、あまり大差ないケース、残りの1割は、ひょっとしたら来ない方がマシなケースであろうと想像します。つまり、その来なくてもよい、あるいは、来ない方がよい9割のケースの人の何割かでも、病院に来ないようにしてもらえれば、患者を減らすことによって医療コストを削減し、相対的医師不足を解消することが、理論的には可能です。一番の問題は、患者さんの側が、病院に行くべきか、行かないでよいのか、という判断が容易にできないということでしょう。また、病院に行かなくてもよいだろう、と考えていても、とりあえず安心のために行く、周囲がうるさいから行く、という人も多いと思います。病院に行って、検査でもして、ある限定的な問題に対して「だいじょうぶですよ」と医者が言ったからといって、本当にだいじょうぶかどうかなど、誰もわからない、ということを一般の人は余り深く理解していないのではないでしょうか。医療側は、患者さんが医者の言うことを素直に信じてくれる方が当然やりやすいわけです。「だいじょうぶ」とか「何かあったら連絡しなさい」と言ってくれる医者を患者さんは好きだし、医者の方もそのように言えば、患者さんは喜んでくれますし、かかりつけで来てくれる患者さんは経営上大切ですから、ついそんなことを言うのだと思います。「だいじょうぶ」と言われてだいじょうぶでなかった例も、何かあっても連絡がとれない例も、沢山あります。患者さんの側にもっと、現代医学、現代の医療の現実、とりわけその限界についての、もっと正しい認識が広がり、そしてもっと医学の知識があれば、何か問題がおこった場合に「病院に行かない」という選択をする人が増えて、病院は、本当に医療が必要な人たちに時間をさくことができるようになるのではないかと、理屈の上では考えられます。
現在、医師不足だから医師の数を増やすというのは、長期的に、職業としての医師の利益の問題、その後にやってくるであろう医師過剰問題を必然的に孕みます。職業医師の数を増やすのではなく、病院にやってくる患者を減らすのが正しい方向でしょう。そのためには、一般の人の医学知識の増進を図らねばなりません。「医師はそもそも、治る病気しか治せない」という当たり前のことが、一般常識となれば、医療への過剰な期待も下がり病院へ来る患者さんの数も減るであろうと思います。そのためには、教育を変えねばなりません。かなり深いところまで踏み込んだ医学、保健教育を義務教育化し、なんらかの実地訓練を高校卒業後ぐらいででも、義務化するというわけにはいかないでしょうか。戦争が必要だった時代に徴兵制があったように、国の繁栄を保つには国民の健康は不可欠です。そのためには、例えば二年間の医療教育と実習を国民全員に義務化するような事はできないでしょうか。義務化でなくとも、医療教育やトレーニングを受けた人には健康保険を割引するとか、資格試験を設けて何らかの資格を与えるとかの特典をつけて、その教育に対するインセンティブを引き出すことはできるのではないかと思います。国民の多くを医者にしてしまえば、医師という職業が成り立たなくなるはずです。医学部の定員数を5割増やす、みたいな政策は必ず破綻します。いっそのこと、5割ではなく、500割ぐらい増やせばよいのです。もし実現できたら、医療問題はかなり解決するでしょう。医学部である必要もありません。医学教育を国民全員に行い、患者の医学知識を増やすというレベルを越えて、患者を医療者化できれば、病院へくる患者数は減ると思われます。現実問題として、医療、保健を国民全員に実習つきで教育するのは、ちょっと不可能かも知れません。誰が教育するのか、その教育の場をどう確保するか、という問題は解決困難です。それに、医師という職業で収入を得て来た人は安易には賛成しないでしょう。しかし、現在、一般市民の医療に対する期待と、医療側が実際に提供できるサービスの間には、かなりのギャップがあると私は思います。そのギャップの存在を一般の人は正しく認識していないと思います。ですので、医療の現実に対する客観的な情報を一般の人に知ってもらい、認識度を高めることが、医療の供給と需要のインバランスの解決のみならず、実は医療の質を向上させることにもつながると私は思います。医師不足への長期対応として、一般学校教育における医学、保健教育の強化という案を聞いたことがないのですが、様々なパーティの利害がからむのがその理由でしょうか?バカげた案と一蹴する前に、この教育効果を想像してみて下さい。多くの国民が医学、ヒト生物学の知識を持つということは、日本の経済発展を考えても、多大な投資効果を生むであろうと思います。外国に医療技術サービスを売るというビジネスも可能でしょう。名付けて、一億総医療人計画、どうでしょうか?
現在、医師不足の地方病院で、医師が疲弊しているのは、医療の必要な人のケアに加えて、必要でないのに病院に来る人に対処する必要があるからであろうと思います。病院に何らかの問題を抱えてやってくる患者さんの中で、病院が何らかの役に立てるケースは、おそらく1割にも満たないでしょう。残り8割は病院に来ても来なくても、あまり大差ないケース、残りの1割は、ひょっとしたら来ない方がマシなケースであろうと想像します。つまり、その来なくてもよい、あるいは、来ない方がよい9割のケースの人の何割かでも、病院に来ないようにしてもらえれば、患者を減らすことによって医療コストを削減し、相対的医師不足を解消することが、理論的には可能です。一番の問題は、患者さんの側が、病院に行くべきか、行かないでよいのか、という判断が容易にできないということでしょう。また、病院に行かなくてもよいだろう、と考えていても、とりあえず安心のために行く、周囲がうるさいから行く、という人も多いと思います。病院に行って、検査でもして、ある限定的な問題に対して「だいじょうぶですよ」と医者が言ったからといって、本当にだいじょうぶかどうかなど、誰もわからない、ということを一般の人は余り深く理解していないのではないでしょうか。医療側は、患者さんが医者の言うことを素直に信じてくれる方が当然やりやすいわけです。「だいじょうぶ」とか「何かあったら連絡しなさい」と言ってくれる医者を患者さんは好きだし、医者の方もそのように言えば、患者さんは喜んでくれますし、かかりつけで来てくれる患者さんは経営上大切ですから、ついそんなことを言うのだと思います。「だいじょうぶ」と言われてだいじょうぶでなかった例も、何かあっても連絡がとれない例も、沢山あります。患者さんの側にもっと、現代医学、現代の医療の現実、とりわけその限界についての、もっと正しい認識が広がり、そしてもっと医学の知識があれば、何か問題がおこった場合に「病院に行かない」という選択をする人が増えて、病院は、本当に医療が必要な人たちに時間をさくことができるようになるのではないかと、理屈の上では考えられます。
現在、医師不足だから医師の数を増やすというのは、長期的に、職業としての医師の利益の問題、その後にやってくるであろう医師過剰問題を必然的に孕みます。職業医師の数を増やすのではなく、病院にやってくる患者を減らすのが正しい方向でしょう。そのためには、一般の人の医学知識の増進を図らねばなりません。「医師はそもそも、治る病気しか治せない」という当たり前のことが、一般常識となれば、医療への過剰な期待も下がり病院へ来る患者さんの数も減るであろうと思います。そのためには、教育を変えねばなりません。かなり深いところまで踏み込んだ医学、保健教育を義務教育化し、なんらかの実地訓練を高校卒業後ぐらいででも、義務化するというわけにはいかないでしょうか。戦争が必要だった時代に徴兵制があったように、国の繁栄を保つには国民の健康は不可欠です。そのためには、例えば二年間の医療教育と実習を国民全員に義務化するような事はできないでしょうか。義務化でなくとも、医療教育やトレーニングを受けた人には健康保険を割引するとか、資格試験を設けて何らかの資格を与えるとかの特典をつけて、その教育に対するインセンティブを引き出すことはできるのではないかと思います。国民の多くを医者にしてしまえば、医師という職業が成り立たなくなるはずです。医学部の定員数を5割増やす、みたいな政策は必ず破綻します。いっそのこと、5割ではなく、500割ぐらい増やせばよいのです。もし実現できたら、医療問題はかなり解決するでしょう。医学部である必要もありません。医学教育を国民全員に行い、患者の医学知識を増やすというレベルを越えて、患者を医療者化できれば、病院へくる患者数は減ると思われます。現実問題として、医療、保健を国民全員に実習つきで教育するのは、ちょっと不可能かも知れません。誰が教育するのか、その教育の場をどう確保するか、という問題は解決困難です。それに、医師という職業で収入を得て来た人は安易には賛成しないでしょう。しかし、現在、一般市民の医療に対する期待と、医療側が実際に提供できるサービスの間には、かなりのギャップがあると私は思います。そのギャップの存在を一般の人は正しく認識していないと思います。ですので、医療の現実に対する客観的な情報を一般の人に知ってもらい、認識度を高めることが、医療の供給と需要のインバランスの解決のみならず、実は医療の質を向上させることにもつながると私は思います。医師不足への長期対応として、一般学校教育における医学、保健教育の強化という案を聞いたことがないのですが、様々なパーティの利害がからむのがその理由でしょうか?バカげた案と一蹴する前に、この教育効果を想像してみて下さい。多くの国民が医学、ヒト生物学の知識を持つということは、日本の経済発展を考えても、多大な投資効果を生むであろうと思います。外国に医療技術サービスを売るというビジネスも可能でしょう。名付けて、一億総医療人計画、どうでしょうか?