tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

第6回なら観光サロン「地域を元気にする観光まちづくり」

2011年08月04日 | 観光にまつわるエトセトラ
7/8(金)、恒例の「なら観光サロン」の6回目を開催した。今回の講師は株式会社インプリージョン事業開発部長で、大阪府立大学観光産業戦略研究所・客員研究員の母倉修(ははくら・おさむ)氏であった。演題には「コミュニティ・ベースト・ツーリズムのすすめ」という副題がついている。今回の参加者は24名だった。司会は南都経済センター主席研究員のMくん、以下の講義録は、長岡光彦さんが早々にまとめてくださったものだ。写真は、吉田遊福さん。まずは母倉氏からの自己紹介。

まちづくりや観光の仕事にたずさわってもう40年以上経ちます。私はもともと建築系で、都市計画の仕事をしていました。バブルの時代までは、住宅開発が主な仕事で、奈良県下でも大和郡山市の土地区画整理事業や奈良市の青山地区の住宅地開発などに携わりました。その後、株式会社JTBのグループ会社、㈱ジェイコムのシンクタンク部門に(現JTBコミュニケーションズ)に移り主席主任研究員を務め、「観光は実業、人が来てなんぼの商売」と気づきました。


母倉修さん

2004年、天川村(奈良県吉野郡)から高野山(和歌山県伊都郡)への「すずかけの道」を活用した地域活性化に取り組み、その後も、神戸や大阪で「ユニバーサルツーリズム」という障害者や高齢者向けのツアー企画、ユニバーサルサービス人材育成(ユニバーサルサービスアカデミー)などの事業にかかわっています。

従来からあるバリアーフリーツアーは、介護者やヘルパーの旅費負担などもあり、@30万円以上の高額商品になります。日本の福祉政策ではいままで障害者は家に閉じ込められ、旅行どころではありませんでした。私がかかわっているユニバーサルツーリズムは、必要な時、必要な場所で旅行サポートサービスを提供する取組みです。これにより、旅行費用を低く抑えることができ、多くの障害者、高齢者等が旅行に出かける機会を創出するこができます。現在、神戸を中心に、沖縄や東京、旭川等を結ぶネットワーク化にも取組んでいます。



また、超高齢社会を迎えている我が国では、旅行だけでなく物販、飲食、公共サービス等の接客サービスの現場で、障害者、高齢者等に対するサービス提供が拡大してきます。これに対して、現在、ユニバーサルサービスアカデミーと言う事業に取り組んでいます。いわゆる、サービス事業者向けの研修ビジネスで。障害者、高齢者等の一般的な機能特性や対応の方法のスキルUPに加えて、障害者、高齢者等が自らPower Point等を活用して自分の思いを伝える技術を身につけ(将来は講師派遣できる程度まで)、研修講師として人材育成を行うことにも力を入れています。2009年には、「水都大阪2009事業」として「OSAKA旅めがね」という案内人が2時間かけて地元を案内するツアーを生み出すコミュニティ・ベースト・ツーリズムの基礎づくりも手がけました。
  
大阪には山梨県に勝るとも劣らない5か所のワイナリーがあり、ブドウの大生産地です。おいしいイタリアンのお店を用意し、ワインツーリズムの切り口で「食と観光」をつなぐ事業も手掛けています。また、2011年は、兵庫県朝来市(あさごし 旧和田山町など)にある竹田城跡(日本のマチュピチュ=ペルーといわれるすごい石垣が残っている)を活用した観光まちづくりによる地域活性化事業のお手伝いをしています。千里から月に1~2回、朝来市での会議に参加するために出向きますが帰宅は12時近くになり大変ですが、地域の人たちとの会議は楽しいものです。

インプリージョンでは、年間10万人程度の着地型観光で大阪を訪れるお客様を扱ってきていますが、観光は事業者の論理だけで進めてはいけません。地元と一緒に進めること、地域を主体として作り上げていくことが大切ですね。



その後、Power Point資料(この資料は、母倉氏が尊敬し、昨年、若くして亡くなられた阪南大学前田弘教授作成の資料をベースにしている)に基づき、解説していただいた。高度な内容なのに、あくまでソフトな語り口で、分かりやすく説明してくださった。

1.「宝探し」からコミュニティ・ベースト・ツーリズムへ
○宝探しから商品化へ
○コミュニティ・ベースト・ツーリズム:出発地(発地)で旅行業者(代理店)が企画するパック旅行ではなく、到着地(着地、観光地)で地元の旅行業者などが企画する旅行商品
○発地で作れば販売規模が大きいので、安く仕入れて安く売れる
→マスツーリズムの基本形態
→品質が一定するが、画一的で飽きられやすい
○コミュニティ・ベースト・ツーリズムは、地域独自の特色で多様化した観光者のニーズに対応できる
→地元地域の様々な主体がステークホルダーとして関わりが持て、地域活性化の効果が期待できる
→商品の管理運営が難しい

2.まちづくりと「暮らしの価値」
○「まちづくり」の大変革の時代:ハードからソフト
○住みよさ・暮らしやすさの創造
・「この町・村に暮らしていてよかった!」と思えること
・「ずっと住み続けたい!」
・「子や孫、次の世代にも住み続けてほしい!」
・単に便利で快適なことではない?
・価値とは考え方、思い、願い?



3.まちづくりの主役は市民
○「暮らしの価値」は誰が創造するか?
→「価値の創造」は人それぞれ、人まかせにできない
→私にとっての「暮らしの価値」
○まちづくりの主役は行政・企業から市民へ
→市民(住民)自身が、まちづくりに参加し、主役になる時代
→市民参加の時代

4.まちづくりと観光の役割
○「暮らしの価値」を創造する方法は?
→地域資源(暮らしの資源・生活文化)の見直し(再発見・再評価):モノの見直し
→コミュニケーション(交流)の回復と創造:ヒトの見直し
○観光は地域社会の「モノの見直し」と「ヒトの見直し」に使える道具
→観光は「暮らしの価値」を創造する道具(方法)になる!
→観光の資源は地域の自然や文化
→観光は本来、地域資源に手を加えない(足しも引きもしない)
→観光は本来、地域資源の価値を再利用する方法
→観光は本来、人と人との間(交流)で生じる



5.「観光まちづくり」の時代
○まちづくりの古くて新しい手段として、観光が見直されている
○「住民がまちづくり」+「観光でまちづくり」
→担い手が変わる:行政や専門家から住民へ
→場所が変わる:産業主導から地域主導へ
→「する観光」から「つくる観光」へ
→「コミュニティ・ベースト・ツーリズム」へ

なお、母倉さんは、「コミュニティ・ベースト・ツーリズム」を以下のように定義されている。

(1)コミュニティ主体のツーリズムの展開
(2)民間事業者、NPO、市民団体などの地域コミュニティが主体となった商品の企画・販売
(3)来訪者と地域資源の間に案内人やガイド、達人等が介在し、来訪者と地域の人達との距離を縮め、人との交流から地域の魅力を創出
(4)エンターテインメント性豊かな案内により、体験や食事・買物等の機会を促すサービスを提供し、域内消費を誘発
(5)コミュニティの個性を活かしたツーリズム活動の展開




6.「コミュニティ・ベースト・ツーリズム」を進めるための観光の方法とは?
○暮らしの中で、世界に誇れる「価値」を発見する作業
○「点」の価値(一点豪華主義(国宝))から「面」の価値(多面主義)へ
→面:地域性(地域社会の時間と空間を利用する)
→地域における人と文化と自然との関係性
○その「地域性」、「関係性」は、そこにしかない!
○暮らしの中の「宝探し」

7.「宝探し」の方法
○隊員がフレームを念頭に、現地視察、ヒヤリングなどを行う
○地域の住民に対してアンケートの実施:「私の宝探し」
○現地調査やアンケートに基づき、地域資源の目録(宝の目録)の作成
○「宝の目録」に基づいて、「宝地図(マップ)」と「宝暦(カレンダー)」の作成
→宝地図:宝の空間配置「どこにあるか?」
→宝暦:宝の時間配置「いつあるか?」
○ポイント
・古いモノばかりでなく、新しいモノも宝になる
・よく知られた、公のものよりも、個人的な限定的なものも宝になる
・高いモノ、きれいなものよりも、安いモノ、汚いモノに宝がある
・形のあるものだけでなく、形のないモノ(伝説、事件、うわさ、におい、音など)も宝になる



最後に、母倉さんが現在手がけておられる「OSAKA旅めがね」という「地元案内人とゆく ほんまもん大阪ツアー」の紹介があった。詳しくは同ツアーのHPに譲るが、要点だけHPから引用すると

○OSAKA旅めがねって?
OSAKA旅めがねは、継続的に地域コミュニティの元気を育むソーシャルビジネスです。着地型観光プログラムを通じて、大阪の真の魅力を再発見し、地域と参加者との交流機会を創出します。
→ほんまもんの大阪ツアー
従来の「コテコテ大阪」だけでなく、地域の暮らしに根ざした本物の魅力や物語を通じて、リアルで新鮮な大阪のイメージをつくります。
→地域活性化
大阪人自らがわがまちの魅力を発見し、外からの来訪者とふれあう仕組みを構築することで、持続可能な観光集客と郷土愛育みの循環をつくります。
→プロの案内人
エリアクルー(まち案内人)は、国内旅程管理主任者の資格を取得したプロのガイドです。独自の研修を重ね、名物案内人を輩出します。

○発足の由来
水都大阪2009"の開催を機に発足した「OSAKA旅めがね」。そのきっかけは、各地域の個々の動きでは、参加可能人数や、PRに限界があり拡がらない。一方、旅行会社では、知名度のある観光地のみで、「ディープなエリア」は商品化されず、既存の流通のみでは、本当のまちの魅力を旅人に伝えられないという想いからでした。どうしたらいいのか?その解決法として、自分たちでつくる・案内する・販売するというセットで立ち上げようと発足したのが「OSAKA旅めがね」です。

「OSAKA旅めがね」は、ユニークな体験型ツアーとして、マスコミなどでもたくさん紹介されている。トラベルニュース(10.7.15付)には「夏休みは親子で電車三昧ツアー OSAKA旅めがね」の見出しで《大阪の着地型観光プログラムを企画しているOSAKA旅めがねコンソーシアム(事務局・インプリージョン)では南海グループとコラボレーションし、電車三昧の夏休み親子体験ツアーを実施する。南海電鉄の特急ラピートに乗車し記念撮影をしたり、阪堺電車のチンチン電車車庫を見学する。同コンソーシアムでは「思い出に残る夏休みの自由研究のテーマにも」と参加を勧めている》。

《ツアーは「特急ラピートに乗車&チンチン電車洗車体験ツアー」。実際の乗車はもちろん、南海電鉄と阪堺電車の現役職員から電車に関する楽しい話を聞いたり、普段は立ち入れない阪堺電車の車庫でチンチン電車に乗ったまま洗車機を通ったりする。鉄道模型のジオラマが見学できる鉄道喫茶や堺のまち歩き、鉄道グッズをプレゼントするクイズなども楽しめる》《「電車が好きな男の子、実はまだ好きかものお父さん、そして電車好きなまま仕事をしているおじさん。それらをつなぐ、やさしい想いのツアーです」と、事務局のインプリージョン》。



以上、50分が経過したところで質問タイムとなった。真っ先に手を挙げたのは長岡さんであった。

長岡さん 奈良県下では少子化・高齢化が進み、活動する人も少なく、商店街がシャッター通り化するなど、疲弊している所があり、大阪などの巨大都市とは環境の違いがあります。このような環境でどう活動を展開させれば良いのでしょうか。

母倉さん 朝来市(兵庫県)も奈良とよく似た環境です。何人かのキーマンを探しましょう。30歳代から50歳代くらいの方で「何かをやってみよう」という人を。10人くらいまででワークショップを立ち上げ、月に1回、会議は午後7時から8時半までとし「とりあえずやってみよう」そこからのスタートです。
富田林は奈良の今井と同様に寺内町です。古い街並みが好きといった20~50代の女性たちが,パン屋、陶芸、小物ショップなどどんどん出店し、趣味で終わらせないビジネスが展開中です。

元ホテルマンYさん まちおこし、イベントにはリピーターが重要ですが、その点、旅めがねではいかがですか。

母倉さん 「OSAKA旅めがね」では、実勢3,000円の商品を980円の「お試し価格」で提供し、「必ずまた来てね」とリピーター獲得に努力しています。

上記Yさん (旅めがねの対象先である)鶴橋は焼き肉で有名ですが、大きくて強い店が独り勝ちしてしまって、町全体の活性化につなげるのは困難では?



母倉さん まちの魅力を知っていただくことが大切です。そのためには、まちでの滞在時間を長くさせなければなりません。そういう趣旨で、鶴橋ではキムチ作り体験を始めました。「独自の文化=地域の魅力」といってもよいでしょう。

西宮市のYさん 「OSAKA旅めがね」など商業ベースのお話が中心でしたが、(商売をしていない)地域住民のメリットは何でしょう?

母倉さん 今回は、商業ベースのお話をしました。住民は「自分のまちの自慢・誇りを見つけだすこと」が大切です。私たちはヒントをお伝えする、お手伝いをするということに過ぎません。住民自身が、自分たちの暮らしの中から地元の魅力や価値を再認識し、汗をかいて地域の観光資源を磨いていくことが大切です。


吉田遊福さん(懇親会の席で)
     
質疑応答は以上である。このあとの懇親会でも、母倉さんへの質問は続いていた。今回は、堂々たる「観光産業」の戦略家のお話であった。母倉さんの「コミュニティ・ベースト・ツーリズム」(地域コミュニティをベースにした観光=観光による地域おこし)の5つの定義のうち、奈良に最も欠けているのが「④エンターテインメント性豊かな案内により、体験や食事・買物等の機会を促すサービスを提供し、域内消費を誘発」というところである。

これまでの奈良観光は、小難しくて「エンターテインメント性」に乏しく、入込客数ばかりに気を取られ「域内消費を誘発」することは二の次であった。この辺りは「OSAKA旅めがね」が参考になる。単なる見物だけではなく、「体験・食事・買物」をドッキングさせ、「滞在時間を長くさせる」戦略が必要なのだ。滞在時間が長いと、ジワジワと身にしみてその土地が好きになってくるのである。

京都に前泊し、朝早くから眠い目で大仏殿、そのあと石舞台、元気が出る午後にはUSJでおカネをぱあっと使って大阪泊、という修学旅行生をいくら誘致しても、決して奈良のためにはならない。正倉院展に来られるような客層(シニア層、娘さんを伴った中年女性、女性ばかりの小グループなど)に対し、1日でも長く奈良に滞在していただき、県下各地を巡っていろんな体験をしていただき、リピーターになっていただけるような戦略こそが必要なのだ。

百戦錬磨の観光産業のプロのお話は、大変スリリングであった。平城遷都1300年祭の成功で、県民は「地域の宝」には気がついた。あとはこれをいかにして観光資源として磨き上げていくか、域内消費につなげていくか、というところが目下の課題なのだ。

母倉さん、素晴らしいお話を有難うございました。観光サロンメンバーの皆さん、次回サロンも、どうぞお楽しみに!    
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なら燈花会2011は、8/5(金)~14(日)です!(Topic)

2011年08月04日 | お知らせ
奈良の夏の夜を彩る「なら燈花会(とうかえ)」、今年(11年)は8月5日(金)から14日(日)まで、時刻は19時~21時45分までである(雨天中止)。NPOなら燈花会のHPによると、《1300年前に都として栄えた奈良。広大な自然の中に古代日本のおもかげが今も残る。そんな奈良にふさわしい、どこか懐かしさを感じ、心を癒してくれるろうそくのやさしい灯り。『なら燈花会』はゆったりと時の流れる世界遺産の地、奈良に集う人々の祈りをろうそくの灯りで照らし出します》。
 
《1999年に誕生した『なら燈花会』。古都奈良にろうそくの灯りがとけ込み、人々の心にさまざまな感動を与えてきました。夏のたった10日間だけ、広大な奈良の緑と歴史の中にろうそくの花が咲きます。『燈花』とは、灯心の先にできる花の形のかたまり。これができると縁起が良いと言われています。『なら燈花会』を訪れた人々が幸せになりますように。そんな願いを込めてろうそく一つ一つに灯りをともします》。

印刷用マップ(PDF)はこちらなので、ぜひプリントアウトしてご持参いただきたい。開催エリアは8ヵ所あるが(浮雲園地・浅茅ヶ原・猿沢池と五十二段・浮見堂と鷺池・興福寺・奈良国立博物館・東大寺鏡池[13・14日のみ]・春日大社[14・15日のみ])、初めての方はあまり欲張らない方がいい。夜とはいっても蒸し暑いし、歩くと砂ぼこりが立つので大変なのだ。

ラクラクで楽しめるお薦めコースとしては、 JRまたは近鉄奈良駅から市内循環バスなどで「大仏殿春日大社前」下車。メイン会場の「浮雲園地」会場をひとめぐりしたあと、すべて徒歩で「浅茅ヶ原会場」→「奈良国立博物館会場」→「猿沢池と五十二段会場」→近鉄またはJR奈良駅へ、というルートがある。登り坂の部分はバスで、あとはのんびり坂を下りながら燈火を楽しめる、という仕掛けである。飲食スポットは駅の近くにある(もちいどのセンター街、東向商店街、三条通ショッピングモールなど)。以前、当ブログに書いた「なら燈花会の歩き方&食事処」も、ご参考に。

燈花会会場では、三脚が使用できない。また駐車場がないので、お車での来場は控えていただきたい。雨天の場合は中止となるので、天気予報にもご注目いただきたい。とにかく夏の奈良は、イベントが目白押しである。「ええ古都なら」などを参考に、のんびりと楽しんでいただきたい。
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