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tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

野良に煙(けぶり)の立つ見えて…( by 柿本人麻呂 万葉集 巻1-48)

2015年11月02日 | 奈良にこだわる
 万葉集(一) (岩波文庫)
 佐竹昭広ほか校注
 岩波書店

本年(2015年)9月27日(日)、奈良まほろばソムリエの会の主催による「桜井の史跡巡りと講演会」が行われ、そこで奥村和美氏(奈良女子大学教授)による「桜井市の萬葉歌碑」という講演をお聞きした。歌碑に登場する万葉歌に関する様々な解釈(訓読)を比較しながら、その意味を読み解いていくという興味深いお話だった。そこで「最新の研究成果は、岩波文庫版『万葉集』(2013年刊の新版)に凝縮されています」とお聞きした。

早速書店を訪ねると、86年ぶりに全面改訂されたという文庫版は全5冊で各1,166円(税込み)、つまり合計5,830円。これはちょっとした「大人買い」になる。1ヵ月ほど逡巡していたが、思うところあって、やはり買うことにした。「せんとくんプレミアム商品券」(プレミアム20%)が少し残っていたので、それで一気に買ってしまった。

帰りの電車の中で第1巻の解説([解説1]万葉集を読むために)を読み、座席からズリ落ちそうになった! 学生時代から慣れ親しんでいた万葉名歌の読み(訓読)が変わっていたのだ! 下線部分をご注目いただきたい。

志貴皇子の歌(巻8-1418)
(旧)石(いは)ばしる垂水の上のさわらびの萌え出(い)づる春になりにけるかも
(新)いはそそく垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも

柿本人麻呂の歌(巻1-48)
(旧)東(ひむがし)の野(の)にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ
(新)東(ひむがし)の野(の)らにけぶりの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ

「いはばしる(=走る)」だから迫力があるのだが、それが「いはそそく(=注ぐ)」、「東の野」が「東の野ら(=野良)」、「かぎろひ」が「けぶり(=狩猟に関わる煙火)」に変わっていたのだ!

つまり最新の研究成果に従えば「かぎろひの丘」は「煙の丘」、「かぎろひを観る会」は「煙を観る会」になってしまうのだ。うーんこれはショックである。変更の理由は省くが、これにはちゃんとした裏付け(考証)がある。

※11/2追記 この「ちゃんとした裏付け」についてご質問をいただいたので、以下、岩波文庫(1)から抜粋して紹介する。「東(ひむがし)の野(の)らにけぶり(原文では「炎」)の立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ」の注釈によると《東の野に煙の立つのが見えて、振り返って見ると月は西に傾いてしまった》《(賀茂)真淵は「かぎろひ」を曙光の意としたが、その意の用例はなく、「かぎろひ」は陽炎の意。しかし、「み雪降る」冬の夜に陽炎は見られないだろう。しかも「かぎろひ」は「燃ゆ」と言い、「立つ」とは言わない。

今は、原文「野」を「野ら」と訓み「海女娘子塩焼く煙(炎)」の例を参照して、「炎」は「けぶり」と訓むこととする》《「けぶり」は狩猟に関わる煙火と理解できよう。「炎」は「ほのけ」「ほのほ」「とぶひ」と訓むとも可能》。つまり「炎」は従来のかぎろひ(=曙光)ではなく、狩猟に関わる「煙火」とするのが岩波文庫の見解である。

 万葉集と古代史 (歴史文化ライブラリー)
 直木孝次郎
 吉川弘文館


冒頭に「思うところあって」と書いたが、実は直木孝次郎著『万葉集と古代史』(吉川弘文館)を読み、新しい講演のテーマを思いついたのである。『日本書紀』や『続日本紀』ではなく、『万葉集』をテコに古代史を読むと、いろんなことが見えてくる。

これで10人ほどの歴史上の人物を紹介すれば、「万葉好きの古代史知らず」と「古代史好きの万葉苦手」の双方に分かりやすいお話ができると思いついたのである。その中で、上記のような訓読の変化も紹介すれば、きっと面白い講演になりそうだ。

さぁ、これからぼちぼちと岩波文庫版『万葉集』をチェックしてみよう。奥村和美先生、良いヒントをいただき、有難うございました!
コメント (2)
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