透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「秋の街」 

2007-01-02 | A 読書日記

 

ここ数年善光寺へ初詣に出かけています。

昨年末から読み始めた『秋の街』吉村昭/中公文庫を往復の高速バスで読み終えました。吉村さんは闘病生活の末、延命治療を拒否し、自らの意志で人生を閉じました。

吉村さんの小説のテーマを一つに絞ることは出来ませんが、主人公が「自らの意志」で人生を切り拓き、強く生きる姿を描いた作品を何作か読みました。

『秋の街』には表題作ほか六編の短篇が収録されています。「花曇り」は、母にはなれたが妻にはなれなかった(昔流行った流行歌の歌詞のようですが)女性を小学生の息子 洋一の視点から描いた作品です。

父親はときどきふたりの住むマンションにやってきます。ある夜、洋一は父親が白いヘルメットに白衣をつけた三人の男に担架で運ばれてマンションから出て行くのを見ます。

葬儀に出かける母子(おやこ)、式には参列せず電柱の影から霊柩車を見送るふたり・・・。

「マンションを売って、ほかの町に住みたいのよ。よさそうな学校のある町をえらぶからね」

一人の息子と共に強く生きていこうとする女性、やはり吉村氏はこのような人を描くのが上手い、そう思います。


「ウェブ人間論」

2007-01-02 | A 読書日記

 

『ウェブ進化論』ちくま新書の梅田望夫と『文明の憂鬱』(文明批評エッセイ)新潮文庫の平野啓一郎、ふたりのウェブ社会をめぐる対談。

梅田さんはウェブビジネスを展開しているIT分野の知的リーダー。一方平野さんは作家、『日蝕』で芥川賞を受賞している。『顔のない裸体たち』は未読だが、ネット上に自分の裸体をさらす女性が登場する作品ではなかったか。全く違う立場からネット社会に関心を寄せる二人の対談は興味深いものだった。

リアル(現実)社会とネット社会の関係について、ブログを始めてから私も考えるようになった。リアル社会での知人・友人関係をそのままネット社会に持ち込んでいる面もある、つまりリアル社会と連続するネット社会という位置付け。

それと同時にリアル社会から切り離されたネット社会、ネット上にのみ築かれる他人との関係の意義もなんとなく分かるような気がしてきている。ふたりの間でこの辺りの議論も行なわれている。

また、グーグルを中心に進行中の壮大なプロジェクト、世界中の本を「全部」ネット上に公開しようという試みがもたらす影響、著作権の問題も含めて「本」はどうなるのかといったことに関する話題等々。

キッチリと相手の発言を踏まえて自分の考えを述べるというふたりの討論(こういう討論は少ない、相手の発言に関係なく持論を展開するだけというものが大半ではないか)、東京で二度に分けて行なわれたそうだが、それぞれ延々八時間以上にも及んだという。実に濃密な内容、年の初めに相応しい良書だった。