直木賞の候補作に三崎亜記の『失われた町』が選ばれた。この作品は友人にメールで紹介してもらった。
年末年始の読書、今回はこの作家の『となり町戦争』。集英社文庫に収められたのを機に読んでみた。
ある日突然となり町と戦争が始まる。戦火が上がるわけでもなく、市民は平穏な生活を続ける。だが町の公報紙には戦死者の数が載る。その数は次第に増えて行く・・・。見えない戦争。
**僕たちは、自覚のないままに、まわりまわって誰かの血の上に安住し、誰かの死の上に地歩を築いているのだ。ただそれを、自覚しているのかどうか、それが自分の眼の前で起こっているかどうか。それだけの違いなのではなかろうか。**
**戦争は、日常と切り離された対極にあるのではなく、日常の延長線上にあるのだ。**
小説のなかで語られるこの作家の戦争観。テレビが報じる「リアルな戦争」、それはお笑い番組と同様に一つのコンテンツに過ぎないのか・・・。中東では戦争がいまも続いている。イラクでは民間人が既に5万人以上戦死したという。そのことを全く意識もせずに続けられる僕たちの日常生活。先に示した三崎亜記の指摘はこの現実を突いて鋭い。
戦争体験のない作家が描いた戦争、この作品をリアルだと捉える感性が読者にあるかどうか・・・。