前稿から続く
■ 現在の建築設計の現場でかつての丹下さんと坪井さんのような関係を挙げるとすれば伊東豊雄さんと佐々木睦朗さん、ということになるでしょうか。
伊東さんの代表作「せんだいメディアテーク」をはじめ主要な作品の構造を佐々木さんが担当しています。佐々木さんの卓越した構造センスなくしてあの建築は実現しなかったと言っても言い過ぎではない、と思います。
ミースの箱をガウディが貫いている
「せんだい」をここまでシンプルに表現したかどうかは別としてこのような捉え方を示してみせたのは、ふたりの建築家に感心を持つ佐々木さんだったような・・・ 曖昧な記憶があります。その後、伊東さんが「オレはガウディを目指す!」と言ったと藤森さんが証言していますが、この宣言にも佐々木さんと伊東さんとのデザインを巡る議論が関係しているのではないか、私にはそう思えるのです。
「建築雑誌」の今月(8月)号に佐々木さんが「高度IT時代の構造デザイン」という小論を書いています。
**現代の構造デザインにおいて、自由、複雑、不定形、流動的、有機的といった特徴をもつ新しい3次元的な構造物の創造は、近代の呪縛から建築を解放し、建築という領域を拡張するうえで、今や国際的にもコンテンポラリィなテーマになりつつある。しかし、それを真に合理的に実現するためには、従来の経験的な構造デザイン手法にかわって、力学と美学とを統合した理論的な形態デザイン手法が必要である。**
この形態デザイン手法を既に確立し実用化しているのが、佐々木さん自身なんです。「建築雑誌」のこの小論には、佐々木さんの「ドーダ」がちょっと入っていますが、大いにドーダしてかまわない、と私は思います。「ぐりんぐりん」や「瞑想の森 市営斎場」のような自由曲面も佐々木さんが数理的な難しい力学理論を基にコンピュータを使って解析し最適解を抽出したことによって実現したのですから。
佐々木さんは学生時代は構造より意匠の方に惹かれていたそうです。坪井さんがそうだったように、佐々木さんも意匠にも感心が高くていろいろ意見を言うそうです。
コラボレーション、相手の領域にも関心があって自論を持ち合わせていることがその前提かもしれません。