■ この手の新刊は一応チェックする。『新・都市論TOKYO』集英社新書
著者のひとりは建築家の隈研吾さん。隈さんといえば六本木のサントリー美術館や吉永小百合さんが出演している薄型テレビのCMに使われている竹の空間(中国は万里の長城の麓のリゾート施設)の設計者。バブル期には今にして思えば信じられないようなポストモダンな建築も設計しているが敢えてその作品は挙げない。
もうひとり、清野由美さんは都市開発やライフスタイルなどを取材しているジャーナリストとのことだが、知らない方。
ふたりは汐留、丸の内、六本木ヒルズ、代官山、町田そして北京を訪ねる。そこで交わす建築・都市論。隈さんの発言がなんだかおとなしくて面白みに欠ける。六本木のミッドタウンについては、清野さんの**とっても洗練されている。とってもスタイリッシュである。とっても居心地がいい。とっても安全だ。で、それがどうしたの?**という発言に対して沈黙の後、さらっと**東京論をミッドタウンで締めても意味はないと思います。(後略)** と交わしてしまっている。で、締めくくりの都市として北京に誘ってしまう。東京論だったはずじゃ・・・。
隈さん、人生守りに入ったのかな。
■『江戸の大普請 徳川都市計画の詩学』タイモン・スクリーチ/講談社 読了。
江戸は京のコピーとして計画されたと著者は指摘する。長い歴史と文化を誇る京。ナンバー2に甘んじていた江戸は富士山、そう不二の山を都市計画に取り込むことによって新たな京としてのステータスを得たのだという。これはなるほど!な指摘。
京の三十三間堂を模したお堂が江戸にも造られたそうで、広重が描いた「深川三十三間堂」が載っている。この浮世絵は『謎解き広重「江戸百」』集英社ヴィジュアル新書にも、もちろん載っているが、そんな事情があったとは・・・。
『謎解き広重「江戸百」』に掲載されている「深川三十三間堂」
著者は日本美術史、江戸文化論を専門とするロンドン大学教授。広重の「名所江戸百景」などの浮世絵や江戸文学を注意深く読み解いて独自の江戸論を展開している。
富士山を江戸の都市計画に取り込んだという指摘・・・。建築家の槇文彦さんがかつて指摘していたことを思い出した。『見えがくれする都市』鹿島出版会(SD選書)は1980年に刊行されている。槇さんが事務所のスタッフと共に都市の構造を論じた名著だ。
**周囲の山は場所の位置関係を知るうえで重要なランドマークであり、なかでも富士や筑波は江戸名所図絵に見られるように、町の遠景に数多く描かれている。(中略)日本には古くから周囲の山を生けどって借景とする造園手法があった。(中略)こうした庭づくりの感覚が江戸市街地の町割にも生かされたのではないかと思う。**(若月幸敏)
「江戸の大普請」とは論考の「厚み」が違う。やはり遠い異国の歴史・文化を研究することには様々な点でハンディがあるのだろう。
『見えがくれする都市』 再読したい一冊。
■ 昨日行なわれた大学入試センター試験の国語の問題文「住居空間の心身論/狩野敏次」にこの本からの引用があった。
■ 市民交流センター(応募案)
市民交流センター(最終案)
■(仮称)市民交流センターの実施設計が終ったと数日前に新聞が報じていた。模型が塩尻市役所向かいの総合文化センターのホールに展示されていることを知って、早速行ってみた。
この審査は一般公開された。当日私も会場でプレゼンテーションを聞いた(当日のブログにそのときの様子を書いた)。
伊東豊雄さんの事務所のOB、柳沢潤さんの当選案はPC版の薄い壁柱をランダムに配置して(但し向きは直行軸に沿っている)床を支え、構造的に成立させると同時に、その壁柱によって空間を構成するという案だった。このようなシステマチックな構成は審査員長だった山本理顕さんの好み、このことが当選につながったのだろう。
その後、基本設計の段階でワークショップが何回か開催されて、部屋の配置などが検討された。
当初案では、屋上に箱型の住戸がいくつも配置されていたが、プログラムの変更によって最終案では無くなっている。屋上の雰囲気がだいぶ変わった。
4つの大きな吹き抜けはこの計画案の空間的な魅力だったが、最終案でもきちんと残っている。設計者はこの空間には最後までこだわったのだろう。
プロポーザルの審査の際、図書館は無柱空間が望ましいという見解を図書館の専門家が述べていた。壁柱の数が当初案より減ってすっきりしているのはあるいはこの指摘を踏まえてのことかも知れない。
構造的にはPC版の壁柱と床との接合部をどのように処理するかがポイントだと私は応募案を見て思ったが、実施設計ではどのように扱ったのだろう。各階同じ位置に配置していることは模型を見てわかったが、構造的な詳細までは読み取れなかった。
施設の愛称を募集していたので、模型の前の投票箱に1案投じた。見学の機会がもしあれば是非参加したい。