タイトルを見て、全国の戊辰戦争の戦跡や殉難者の墓を訪ねてきた私としては、避けて通れない書籍だと確信した。年に数冊、日本から取り寄せることができるその中の一冊に、迷うことなくこの本を選んだ。もし値打ちものなら、「戊辰掃苔録」の竹さんにも紹介しないといけない。
しかし、期待が高かっただけに、読み進めていくうちに期待は途端に落胆に変わってしまった。その理由は下記の3点に集約される。
- プロローグにおいて、国事殉難者は靖国神社を頂点としたピラミッド体系に整理されるとしている。本書は、それを具体的に証明するものかと思って読み進めたが、どうもそうではない。ところどころ、西軍の殉難者がカミとして祀られているとか、東軍の殉難者がホトケとして葬られているという記述が散見されるが、最後まで体系的な解説を読むことはできなかった。筆者にしてみれば、前著で言及済ということかもしれないが、前著を未読の読者にしてみれば、消化不良感が残る。
- 平成二十九年(2017)に野口信一氏が「会津戊辰戦死者埋葬の虚と実—戊辰殉難者祭祀の歴史—」(歴史春秋社)において、会津落城後の、西軍(新政府軍)による東軍戦没者への「埋葬禁止令」は、虚構であったと主張した。従来から定説となっている、東軍戦没者の遺体が放置され、埋葬されなかったというのは事実に反するとしたのである。本書では、「第四章 会津戊辰役と殉難戦没者」のうち、ほぼ一節を割いて会津城攻防戦の経緯を追い、戦没者の遺体が阿弥陀寺や長命寺に埋葬された経緯を解説している。だから東軍戦没者の遺体は埋葬が禁じられたのか、やはり野口氏が主張するように埋葬禁止は虚構だったのか、それについての著者の最終的な見解は明確にはなっていない。
――― 埋葬作業というものは、単純なものではなく、それを巡っては、様々な事例が考えられることに留意する必要があるだろう。今後の検討課題である。
として、本書で結論を出すことを避けている。プロローグにおいて「果たして「五〇年目の真実」とは、どうであったのか。本書では、こうした野口説を念頭に置きながら、再検討を試みるものである」としておきながら、「それはないだろう」という気がする。
- 結局のところ、本書において大半を占めているのは、出流山事件、梁田における戦闘、白河城攻防戦、二本松攻防戦、母成峠の戦い、そして会津鶴ヶ城攻防戦の経緯に関する記述である。けれど、これくらいの記述であれば、ほかにもっと詳しく描いている本はいくらでもある。特に新発見があるわけでなく、やや退屈であった。
本書の副題は「上州・野州・白河・二本松・会津などの事例から」である。メイン・タイトルと合わせると随分と長いタイトルであるが、タイトル、中身とも要領を得ない。結局のところ最後まで読んでも何が言いたいのか分からないものであった。
とはいうものの、白河市付近での建碑状況(表1)や会津西軍墓地での土佐藩埋葬者一覧(表2)、土佐藩の戊辰役殉国者墳墓一覧(表3)など、網羅的なリストが掲載されているのは有り難い。改めてこのリストと照合して、抜けがないか確認したところ、新潟県村上市の一部の墓地は未踏であることが判明した。いずれ新潟県内はもう一度回らなければならない。その日が待ち遠しい。
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