映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「イエスタデイ」 ダニー・ボイル

2019-10-16 21:12:39 | 映画(自分好みベスト100)
映画「イエスタデイ」を映画館で観てきました。

50年を超えるビートルズ歴の想いがあり、それぞれの場面で思わず涙してしまいました。
誰もビートルズを知らない世界になって、ビートルズの曲を歌ってスターになるという映画があること予告編で知る。監督は「スラムドック・ミリオネア」ダニー・ボイルである。好きな監督だ。躍動感のある映像で音楽だけでなくビジュアル的にも十分堪能できた。

生バンドのカラオケで歌うときも、車に乗りながらCDを聴くときもメインはビートルズソングである。映画でどんな曲がかかるんだろう。それが気になって映画館に向かう。ほぼ満員の席には自分と同じようなオヤジも多い。みんなビートルズが好きなんだな。エンディングロールの最後まで席を立たない人が多かった。


イギリスの小さな海辺の町サフォーク、地元のスーパーで働くジャック(ヒメーシュ・パテル)は、売れないシンガーソングライターである。親友のエリー(リリー・ジェームズ)がマネジャーになって献身的にサポートしている。ロックフェスティバルに出演しても観客は仲間内だけで、からっぽの会場の中を子どもが走り回っていた。もうだめかと思った夜、突如世界中で12秒間の停電が発生する。

暗闇の中、自転車に乗っていたジャックは交通事故に巻き込まれる。意識が回復すると、前歯が2本抜けむごい状態になっていた。仲間で快気祝いをして、新しいギターをプレゼントをもらった。


ふさわしい歌をということで、ジャックは「イエスタデイ」を歌う。いつもと違うその旋律に仲間はうっとりする。どうしたんだお前!誰もがはじめて聴いた歌だという。「ビートルズ」の名曲だよ、そんなはずはないだろう。自宅に戻ってパソコンでbeatlesを検索すると、出てくるのはbeetleだ。気がつくと「ビートルズ」は自分しか知らない世界になっていたのだ。

記憶を頼りにビートルズの曲をピックアップして、自分のセットリストに加える。演奏するとジャックの歌をじっくり聴いている人がいる。SNSでも注目され、線路際のスタジオでCDをつくることにもなる。徐々に注目されるようになり、大人気ミュージシャンのエド・シーラン(本人)から、来週モスクワに帯同してくれとワールドツアーの前座を依頼される。しかし、エリーは中学で数学を教えていていけない。別の友人ロッキーを帯同してモスクワに向かう。そこでエドに匹敵する注目を浴びて、アメリカ・ロスのプロデューサーに目をつけられるのであるが。。。


1.イエスタデイの想い出
ビートルズが来日したとき、自分はまだ小学生低学年だった。でも世間が大騒ぎだったことはよく覚えている。来日公演はテレビ放映された。司会がEHエリックだったことは覚えている。でも、前座が長くなかなか4人がでてこない。当時8時過ぎには寝ていたので、テレビで演奏する姿は見れなかった。ただ、当時としては最新のオープンリールテープレコーダーが家にあった。父はしっかり録音して、その後そのテープはずいぶんと聴いた。もちろんイエスタデイは演奏している。


シングルとしてのイエスタデイはあった。短い曲である。そのころ、兄上が音楽好きの小学校の友人の家でビートルズの4曲入りのEPレコードを聴いた。中にはタックスマンが入っていた。税務署の調査でしぼり取られたことがある自営の父はお気に入りだった。ビートルズが解散したあと、中学の友人の家でベストアルバム的な「オールディーズ」を聴いた。そこにはこの映画のキーワードになる曲がたくさん入っている。その後自分でも買ってもらって、イエスタデイが好きになったのである。

主人公ジャックがアコースティックギターを弾きながら「イエスタデイ」を歌うとき、涙腺がまず爆発した。なぜかわからない。このメロディライン何度聴いたかわからないけど、はじめて聴くような感動であった。

2.バックインザUSSR
ホワイトアルバムの1曲目である。いつも車の中で聴いている。二枚組で盛りだくさんの曲が入っている中で、いきなりポールが歌うロックンロールだ。じっくり聴いているとビーチボーイズ風のコーラスも冴える。これをロシアのコンサートで歌うという設定がおもしろい。色白のロシア美人に大うけだ。この映像でごきげんになる。君が生まれる前にはこの国もアメリカではUSSRと言っていたんだ。よく知っているねと話しかけられる。自分が若い頃、ソ連はオリンピックではCCCPというウェアを着ていた。ロシア語であろう。でも我々はUSAが何の略かを覚えるのと同時に、Union of Soviet Socialist Republic を覚えたものだ。


ほかにも今でも自分が生バンドカラオケで歌う初期のI saw her standing there とかビートルズの最後の全米ヒットチャートナンバー1であるLong and widing roadなどが印象的で心にしみる。

エンディングでようやくポールが歌うヘイジュードがでてくる。心にしみすぎてみんな席を立てないようだった。

3.ダニー・ボイルとリチャード・カーティス
ビジュアル的なセンスがいい。英国の町もロスも美しく撮られている。しかも、大きなコンサートが2度映し出されるが、これも臨場感あふれてすごい。今までのダニー・ボイルの実力からすればお手の物であろう。主人公はインド系の俳優を起用している。スラムドック・ミリオネアを撮ったダニー・ボイルならではの起用という気がした。


結局ラブストーリーである。子供の頃から腐れ縁で常に応援してきたエリーとジャックのつかず離れずの恋を描いている。ビートルズの歌には基本的にラブソングが多い。ラブコメディ「ラブ・アクチュアリー」、「ノッティングヒルの恋人」の脚本家リチャード・カーティスが一緒に組めば鬼に金棒といえる。どうオチをつけるかと思ったけど、いいんじゃないといった感じだ。



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映画「ある船頭の話」柄本明&オダギリ・ジョー

2019-09-19 05:44:52 | 映画(自分好みベスト100)
映画「ある船頭の話」を映画館で観てきました。


オダギリジョーの初監督作品である。山間を流れる渡し船をめぐって船頭と乗客との逸話を語っていく。主人公の船頭を柄本明が演じる。初監督となるオダギリジョーを応援してか、橋爪功、草笛光子、蒼井優、細野晴臣、永瀬正敏といった主演級が渡し船に乗る乗客として脇を固める。時代をくっきり浮き上がせるワダエミの衣装がよく、ワイドスクリーンをいっぱいに使ってのクリスファードイルのカメラは緑あふれる山間部を流れる川に浮かぶ渡し船を美しく映す。この映像のレベルは高い。

メリルストリームの「激流」ブラッド・ピットの「リバー・ランズ・スルー・イット」と川にかかわる映画とは相性がいい。徐々に情感が高まってくるこの映画もいい感じだ。



時代設定は明治から大正にかけて、映画がはじまってしばらくは、山間を流れる川に浮かぶ渡し船での船頭トイチ(柄本明)とお客さんとの何気ない会話を映し出す。船頭トイチは船着き場横の小屋に一人で住んでいる。村の少年源三(村上虹郎)は何とかとトイチにちょっかいを出して仲がいい。

ただ、主人公の心には1つの葛藤がある。町と村を結ぶ大きな橋が作られているのである。開通すれば、渡し船は乗らなくてもすむ。乗船客には建設に携わる横柄な土木建設会社の男もいて、トイチはおとなしく相手にしているが、内心は穏やかでない。

そんな渡し船に何かぶつかるものがある。人が流されてきたのだ。少女である。かすかな息をしておりまだ生きている。ずっと眠ったままだったが、薬草を使って介抱するとやがて目覚めた。名前は名乗らない。

そんな時乗船客から、上流の町でむごい殺人事件が起き女の子が一人行方不明といううわさを聞いた。トイチは心の中でつながりを感じたが、乗船客には知り合いから一時的に預かっていると少女(川島鈴遥)を紹介した。やがて、少女もトイチに心を許して、川辺の小さな小屋でお互い信頼しつつ暮らしていた。橋は徐々に完成に近づいてきたのであるが。。。


都会の喧騒とはちがう川辺の美しい風景を観ながら、人の好いトイチの対応をみていると、心が洗われる感じがする。次から次へといろんな人たちと会うのは、逆に固定した風景にもかかわらず、ロードムービー的な要素もある。バックもディグラン・ハマシアンのジャズのソロピアノで、しっとりしたムードにうっとりしてしまう。


ロケ地はどこなんだろう?とずっと考えていた。すがすがしい夏の風景から南の匂いも感じたが、どうやら新潟の阿賀のようだ。むかし、10月~11月にかけてか?社内旅行でバスに乗り、会津経由で新潟に向かった時がある。その時会津を抜けると雪が降ってきた。え!こんな時期にと思ったが、このロケ地あたりだったかもしれない。

小さな事件はいくつも起きるが、平穏無事に進んでいく映画かとラストの寸前まで思っていた。しかし、根底に流れるストーリーにはたくさんの伏線をつくっていた。それが、ある方向に暴走する。雪景色の中予想しなかった展開に驚いてしまう。


数々の名画に出演してきたオダギリ・ジョーの底力を感じた。自分の好きな映画に加えたい。

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映画「ロケットマン」エルトンジョン&タロン・エガートン

2019-08-25 19:23:25 | 映画(自分好みベスト100)

映画「ロケットマン」を映画館で観てきました。


待ちに待ったエルトン・ジョンの伝記映画である。すぐさま観に行くしかない。
1970年代前半全米ヒットチャートマニアだった自分が、その当時いちばんひいきにしていたのがエルトン・ジョンである。5枚目のアルバム「ホンキー・シャトウ」は比較的ロック雑誌でも評判よくレコードを何度も聞いていた。その中でもいちばん好きだったのは「ロケットマン」だ。こんなにきれいなメロディってつくれるのかと感動した。ヒットチャート的にはそんなには上位にはいかなかった。でもこの当時一番好きな曲だった。

その曲を題名にしたことだけでも興奮している。映画はもちろんよかった。最初の場面で「ロケットマン」が出てきたときからうきうきである。エルトンジョンが上昇気流に乗っているときの曲が次から次にミュージカルタッチで流れて、実にごきげんな至福の時間を過ごせた。


映画はアル中患者の寄り合いみたいなところに、エルトンジョン(タロン・エガートン)独特のド派手な衣装を着てうつろな目をしてヨレヨレで現れるところからスタートする。そこでアル中、ドラッグ、セックス好きを告白する。そして妄想のように少年時代のエルトンジョン(本名レジー・ドワイト)が映し出されて子供頃の映像が映し出される。

父母と祖母との4人の家庭だったが、ジャズ好きで性格の悪い父と自由奔放な母は仲が悪く父は家を留守することが多い。家庭はうまくいっていない。そんな中、ピアノに関心を持ったレジーはレッスンを積み、王立の音楽アカデミーに通うようになる。ただ、母の浮気で父母は離婚、母は恋人と再婚する。黒人R&Bのバックバンドでレジーはキーボードを弾くようになる。その時に黒人アーチストからデビューするなら本名でなく芸名でプレイした方がいいよとアドバイスを受ける。

作曲と歌しかできないエルトンに詩人のバニー・トーピン(ジェイミー・ベル)と出会う機会ができる。これはまさにすばらしい運命だ。やがてレコードプロデューサーへ売り込む。そこでのちのヒット曲になるような曲をピアノで弾く。決していい評価ではないが、なんとかアルバム3枚を一年以内で発売してもいいよと言われる。芸名エルトン・ジョンとしてのスタートである。コンサートでは、ド派手な衣装とジェリー・リー・ルイスばりのホンキートンクピアノのパフォーマンスで大人気である。

それからは上昇の一途である。ヒットチャートにも登場。ただ、その後マネジャーとして付き合うジョン・リードと男色の付き合いに引き込まれる。人気がでるにつれ、付き合いも派手になりアル中やドラッグ中毒になる場面など、おきまりの転落が続く。


1.エルトンジョンとの出会い
1971年ころは10代の若妻を描いた映画がはやっていた。日本でも関根恵子演じる「おさな妻」が大映最後のヒットとなる。日本でビージーズの主題歌「メロディフェア」が大ヒットした映画「小さな恋のメロディ」は中高校生にすさまじい人気だった。

そのころ同じようなテイストで「フレンズ」という映画があった。14歳と15歳の少年少女の恋愛と妊娠出産を描く。この映画で音楽を担当したのがエルトン・ジョンである。そこで初めて知る。そのころの愛読雑誌「ミュージック・ライフ」でエルトン・ジョンが初来日した記事を読んだ記憶がある。「僕の歌は君の歌」(YOUR SONG)を聞くとなんていい曲だと思った。これは今でもそらで歌える。二枚目のアルバムを購入すると同時に常にチェックしていた全米ヒットチャートでエルトンジョンをマークするようになる。


2.クロコダイル・ロック

つい先ごろ見た映画「アルキメデスの大戦」に出ていた小林克也のDJで全米ヒットチャートを紹介するFM番組があった。一緒に聞いているエルトンジョンが好きな同級生がいた。毎週聞きながらいつエルトンジョンがトップになるのか友人と待ちに待っていた。「クロコダイルロック」がヒットチャートの上位を急上昇するのに大興奮して、ついにトップをとった時中学の教室で友人と抱き合った思い出がある。「ダニエル」、「ティーチャーアイニードユー」などいい曲が続き「ピアニストを撃つな」 (Don't Shoot Me I'm Only the Piano Player) というLPの出来が抜群だと思う。もともとジェリーリールイスをまねて「Whole Lotta Shakin' Goin' On」をロックンロールタッチのピアノを弾きながら歌う彼の真骨頂が出てきたのだと思う。
ピアニストを撃つな+4


3.Saturday Night's Alright for Fighting
実はGoodbye Yellow Brick Roadのアルバムを聴きながら、このブログを書いている。レコードでは二枚組だった。品川の家にはまだそのレコードが置いてあるが、今はCDで。
黄昏のレンガ路(グッバイ・イエロー・ブリック・ロード)


最初特殊音からはじまり、長めのドラマティックな曲からスタートする。当時アルバムにこういうロングバージョンの曲を入れるのがはやっていた。次は「Candle in the Wind」ノーマ・ジーンことマリリン・モンローを偲んだ曲だった。ダイアナ妃が亡くなった時、この曲をダイアナ妃に捧げるとして歌って世紀の大ヒットとなったのは記憶に新しい。その次の「ベニー&ジェッツ」もずっと聞いていると味があり好きだったが、ヒットチャート一位になるとは思わなかった。でも一番いいのはGoodbye Yellow Brick Roadだね。この映画でも印象的に使われている。前作に比較するとロックンロールからレゲや正統派バラードなどいろんなジャンルが楽しめる。最高傑作であることは間違いない。


序盤戦で若き日のレジー少年がGoodbye Yellow Brick Roadからの最初のシングルカットの曲Saturday Night's Alright for Fightingを歌いだし、ミュージカルモードで歌うのは実にごきげん。もちろん「クロコダイルロック」の場面も「ホンキ―キャット」も抜群、自分には忘れられない映画となった。
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映画「暗殺の森」ジャン=ルイ・トランティニャン&ドミニク・サンダ

2019-07-15 07:30:27 | 映画(自分好みベスト100)

映画「暗殺の森」は1970年公開のイタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチ監督の作品
暗殺の森
ベルナルド・ベルトルッチ


日本公開は1972年である。公開後しばらくして名画座で何度も公開されるうちにカルト的に有名になっていく。第二次世界大戦中、ムッソリーニのファシスト党時代に大学の講師をやっている主人公が新婚旅行でパリに行く際に、イタリア国家当局から睨まれているパリ在住の恩師の殺人を依頼されるという話である。「男と女」の主演で有名な名優ジャン=ルイ・トランティニャンが冷静沈着な暗殺首謀者を演じる。この映画では何といってもドミニク・サンダの美貌が見ものだ。



第二次大戦中のイタリア、大学で哲学の講師をしているマルチェロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、婚約者であるジュリア(ステファニア・サンドレッリ)と新婚旅行に旅立つ準備をしていた。その際、マルチェロは国家当局より反ファシストでパリに亡命しているマルチェロの恩師であるクアドリ教授(エンツォ・タラシオ)に接近するよう命令が下った。そして政府のエージェントとしてマニャニエーロ(ガストーネ・マスキン)が同行することになり、パリに着く直前にクアドリ教授の抹殺に手をかすよう要請された。


パリに着いたマルチェロはクアドリ教授に連絡をとったが、教授には教え子マルチェロの記憶はなかった。それでもアポイントをとり、妻ジュリアとともにクアドリ教授の家を訪問した。その際、クアドリ教授の若妻アンナ(ドミニク・サンダ)と出会った。数日後、両夫婦は中華料理屋で会ったが、片隅にはマニャニエーロが隠れていた。夕食の後、四人はダンス・ホールへ行き踊りにふけった。一目会ってアンナに魅かれたマルチェロはダンスをしながらクアドリ教授がアンナを置いて一人で外出するようにアンナを誘導しようとした。

マルチェロは、マニャニエーロに、明日はクアドリ教授が車で一人ででると教えた。ジュリアとアンナをベルサイユにとどめようとしたのだ。しかし、翌朝マニャニエーロが電話で教授がアンナも同乗したことを知らせてきた。二人が乗った車をマルチェロとマニャニエーロの車が追った。やがて森に近づいた。一台の車が停車していることに気づき、教授が車を降りたところを待ち構えていた男たちがいるのであるが。。。

奥の深い映画である。1回見ただけではわかりづらい重層構造だ。脚本も担当するベルナルド・ベルトルッチはいくつもの逸話を重ね合わせていく。脇役のセリフもすべて意味を持つ。それに加えてバックストーリーとしてマルチェロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)の少年時代に犯した殺人の話を織り交ぜる。これ自体が後半戦に映しだされるシーンに意味を持たせる。話を単純にせずにじっくりとストーリーを固めていくのはお見事だ。

1.映像の美しさとカメラ
アパートメントは古いが、その他の公共建築物は天井が高くその空間は独特の雰囲気を持つ欧州的建築物だ。その背景と出演者を映し出す名カメラマン・ヴィットリオ・ストラーロの腕がさえる。地中海に面するイタリア国境の町ヴェンティミーリアでの海を背景としたカメラアングルに思わずうなる。やがて、パリの街に移り、色彩設計がかわる。どんよりとした「くもり」ではなく、決して明るくはないブルーを基調にした色合いだ。


アカデミー賞撮影賞をなんと三度も受賞という腕前でいまだ現役を引退していない。「カフェ・ソサエティ」や「女と車の観覧車」といった近年のウディ・アレン作品で腕前を披露している。最終の森のシーンでは手持ちカメラで駆けまくる。「仁義なき戦い」での乱闘を映し出した手持ちカメラ映像のような臨場感がでている。

2.ドミニク・サンダの美貌
映画が始まって約一時間は婚約したマルチェロ夫婦にスポットをあてて、ドミニク・サンダは出てこない。映画「ジョーズ」で約1時間以上サメがその姿を現わせないのと同じである。パリに着き狙いを定めた教授の自宅を訪問したときに初めてドミニク・サンダはその姿を現す。当時22歳の彼女は実に美しい。その後、バレエスタジオでの指導でみせる美しいボディが素敵だ。そしてマルチェロと接近したとき、一気にバストトップをあらわにする。初めてその姿を見たとき、日本人の若者はどんなに興奮したか。我々が学生だった頃、パルコの宣伝でドミニク・サンダがでていて、熱狂的に支持されていたものだ。


3.ダンスホールでの2人のダンス
ジュリア(ステファニア・サンドレッリ)とアンナ(ドミニク・サンダ)の2人がダンスホールでタンゴを踊るシーンがある。いつになくドミニク・サンダのノリが大胆になる。まさに美の共演だ。すばらしい。ジュリアが着替えようとしたときに侍女のようにアンナがセッティングする場面がある。その際、アンナがジュリアのドレスをまくり上げレズビアンを思わせる動きをする。この当時、さすがにあれ以上の映画表現はできないのかもしれないが、性器を吸っていると十分に想像させる何かがある。


新婚としてのマルチェロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とジュリアが途中イタリアとフランスとの海辺の国境であるヴェンティミーリアの町に寄りながら、フランスに向かっていく。その列車の中でジュリアが恥じらいながら自分の性体験を語る。そして、二人が列車のコンパートメント席で愛を交わすシーンとなる。あとで考えると、このセリフにも意味があるようだ。これはこれで興奮させる何かがある。
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映画「迫りくる嵐」ドアン・イーホン&ジャン・イーイェン

2019-01-23 19:00:13 | 映画(自分好みベスト100)
中国映画「迫りくる嵐」を映画館で観てきました。


久々にいいサスペンスに出会えたという新作でした。宣伝文句には「殺人の記憶」、「薄氷の殺人」に続く本格サスペンス映画となっている。両作品とも自分の好きな映画である。とにかく雨の続く映画である。工場のある華南の町という設定、色合いもどんよりしたムードがひと時代前の中国を象徴するようだ。映像に絡む音楽も中華的なサウンドの匂いを込めながらじんわりと心に響く。主役のドアン・イーホンは好演、恋人役のジャン・イーイェンが色っぽく映画のレベルを上げている。それにしてもドン・ユエ監督の長編デビュー作品というのも、近年の中国映画のレベルアップを示すものと感じる。傑作だと思う。


1997年。中国の小さな町の古い国営製鋼所で保安部の警備員をしているユィ・グオウェイ(ドアン・イーホン)は、近所で起きている若い女性の連続殺人事件の捜査に、刑事気取りで首を突っ込み始める。警部から捜査情報を手にいれたユィは、自ら犯人を捕まえようと奔走し、死体が発見される度に事件に執着していく。 ある日、恋人のイェンズ(ジャン・イーイェン)が犠牲者に似ていることを知ったユィの行動によって、事態は思わぬ方向に進んでいく…。果たして、ユィに待ち受ける想像を絶する運命とはー。(作品情報より)

いきなりある男性を映す。どうも長年の懲役を経て釈放されるようだ。主人公のようだが、いったいどうしたんだろうというところから始まる。若い女性の殺人事件が続くという展開で、謎解きだということはわかるのであるが、この主人公ユィは刑事なの?あまり基本情報読んでいないんでわからない。でも名探偵だねと言われているところを見ると、素人か?やがて保安係として工場で表彰されるシーンで初めて工場勤務とわかる。

余分な説明は少ない。主人公には「傷だらけの天使」萩原健一に対する水谷豊のような弟分がいて、実地検分をしたり、公安当局のベテラン刑事の捜査にちょっかい出しながら興味本位で私的捜査を続ける。


やがてクライムサスペンス特有の犯人追跡劇が始まる。犯人の顔は見えない。あやしい男がいる。工場の中で追いつめる。おきまりの列車操車場での追跡劇だ。首を絞められてあやうく殺されそうになる。何とか耐える。それでも追いかけるが捕まらない。暗礁に乗り上げそうになるのであるが。。。

1.雨が続く
いわゆる韓国クライムサスペンス映画で死体が見つかるのは雨のシーンが多い。どんよりした一時代前の中国郊外の風景に雨が似合う。それがずっと続いていく。そこに組み合わさるのが、感情を揺さぶる音楽だ。これがいい。黒澤明監督の「七人の侍」の戦闘シーンや小津安二郎監督の「浮草」の雨降る中の中村鴈治郎と京マチ子がののしりあいシーンなんかを想像する。「薄氷の殺人」は具体的には明示されていないが東北地区のハルピンが舞台で、雪景色が印象的だった。ここでは最後の最後に雪が降る。華南でもこの年は大雪だったという。


2.ジャン・イーイェン(江一燕)の美しさ
主人公の恋人である。いかがわしいネオンのある場所の二階に住んでいる。そこにいると階下からお客さんだよと呼ばれる。娼婦がよく持つ小さいポシェットを携えて、お客のところへ向かう。ところが顔には殴られたと思しきあざがある。客が悪いのか?仕切る黒社会が悪いのか?なかなか大変なようだ。彼女の希望は香港で美容院を持つということ。主人公はその夢をかなえてやろうと地元で店を出してあげる。美容院というより散髪屋で男も刈ってもらう。しかし、それが間違いのもとであった。


ジャン・イーイェンがきれいだ。「薄氷の殺人」でも女主人公の魅力が際立った。ここでも同様に男はどちらかというとドンくさいが、中国女優のレベルアップが今もなおされているのがよくわかる。最近の銀座クラブの売れっ子ホステスもこんな顔立ちのタイプが多い。最後に向けては意外な展開に戸惑った。

3.謎が多い。
こういう作品だけにネタバレ厳禁であろう。それにしても映画を観終わった後にも謎を残す。もともとナレーターや余計なテロップはなく、ストーリーはつかみづらい映画だ。いくつかのシーンを経てようやく概要がつかめてくる。観終わった後、他の人のブログを見て、へえそういうことなの?と思うようなシーンも多い。

映画自体意外な展開で進むが、特に最後に向けて、もといた工場が解体されると聞いて工場に向かい、昔からいたという老人に会う。その時の会話がよくわからない。謎である。恋人のイェンズが言った言葉の意味も??これって観客に推理させるということ?レベルが高い。

薄氷の殺人(字幕版)
極寒の中国で次々起きる殺人
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映画「寝ても覚めても」 東出昌大&唐田えりか

2018-09-02 17:54:35 | 映画(自分好みベスト100)
映画「寝ても覚めても」を映画館で観てきました。


予想外の展開に余韻が残ってしまいました。
柴崎友香の原作の映画化で、カンヌ映画祭に出品、東出昌大が一人二役という情報だけで映画館に向かいました。もちろん原作は未読で。先入観なしで、ストーリーを追った。途中まで、それなりの起伏はあったが、比較的平坦に進む。それが一転、あっと驚かされる。近来にないおすすめのラブ・ストーリーである。

泉谷朝子(唐田えりか)は大阪の川ぺりで鳥居麦(東出昌大)と運命的な出会いをする。2人は付き合うようになり、友人の岡崎(渡辺大知)や春代(伊藤沙莉)とともによく遊んでいた。買い物に行くといって夜帰ってこなかったり、麦は突発的な行動をとることがあった。そうして、急に行方をくらましてしまうのであった。


2年後、泉谷朝子は麦への思いを断ち切れないままに上京し喫茶店で働くようになる。朝子はある会社の会議室へコーヒーを届けにいくと、恋人鳥居麦に顔がそっくりな丸子亮平(東出昌大一人二役)と出会い驚く。いきなり、朝子は麦と語りかけるがちがう。それ以来、2人は街で何度も出くわすようになる。ぎこちない態度をとる朝子に惹かれていく亮平。真っ直ぐに想いを伝える亮平に、戸惑いながら朝子も惹かれていく。しかし、朝子は亮平に元恋人のことを告げられずにいた。

5年後、亮平と朝子は共に暮らすことになる。亮平の会社の同僚・串橋(瀬戸康史)や、朝子とルームシェアをしていたマヤ(山下リオ)と時々食事を4人でとるなど、平穏な日々を過ごしていた。ある日、亮平と朝子は出掛けた先で大阪時代の朝子の友人・春代と出会う。7年ぶりの再会に、亮平の顔を見て春代は驚く。麦とそっくりなので。大阪で親しかった春代も、麦の遠縁だった岡崎とも疎遠になっていた。その麦の現在の消息を朝子は春代から知ることになるのであるが。。。


1.唐田えりか
唐田えりかは久々に登場する逸材である。まだ20歳、今回は20代後半の設定と思しき世代まで演じる。ナチュラルメイクで、際立った清涼感を持つ。あえて言えば、若かりしときの深田恭子が近いであろうか?今回は比較的控えめな女の子を演じていくが、突如として大胆になる。このときの意外性あるパフォーマンスに将来性を感じる。今後、引っ張りだこになる可能性が高い。どちらかというと男性の保護本能をくすぐるタイプで、一般女性が陰で意地悪しそうなタイプかな?
映画では2人の友人役に対照的な女性を起用して補っている。



2.突然現れる同じ顔

映画を観ていて、一人二役の東出昌大が出てきたとき、いくつかの映画を思い浮かべた。ヒッチコック「めまい」キム・ノヴァック演じるいったん自殺したはずの女性にそっくりな女性がジェームズ・スチュワート演じる主人公の前に姿を現すシーン、「かくも長き不在」で戦争に行って行方不明になった夫が突然「第三の男」のヒロイン、アリダ・ヴァリ演じる妻の前に長い時間を経て現れるシーン。

要は同一人物じゃないかという連想をさせたのだ。実は映画の終盤に向かうまで、そういうことなのかと思っていた。その時、突如行方不明だった麦(バク)の存在がわかる。ここからがこの映画のヤマである。こういうもっていき方をするのか?と正直びっくりしてしまう。まさに肩透かし。これは観てのお楽しみであるが、その展開には驚いた。すごいと思わせる。

最後の余韻、これもよかった。もちろん、東出昌大は好演である。
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チリ映画「ナチュラルウーマン」ダニエラ・ヴェガ

2018-03-07 19:14:15 | 映画(自分好みベスト100)
チリ映画「ナチュラルウーマン」を映画館で観てきました。

すばらしい映像美を見せる作品である。いやー今年は豊作だ。
恋人を失ったトランスジェンダーの女性歌手が、偏見や差別に負けずに生きていく姿を描く。ここではチリの首都サンティアゴを舞台に、なめるようにカメラが主人公の姿を追っていく。ストーリーの流れをつくるそれぞれの映像カットが練られてつくられている。スペインのペドロ・アルモドバル監督の作品を思わせる色彩感覚あふれる映像には、セバスティアン・レリオ監督によって丹念につくられたそれぞれのカットに対する思い入れがにじみ出ている。トランスジェンダー映画という偏見を持たない方がいい。すばらしい映像を楽しむことができる。

主人公のトランスジェンダーの女優ダニエラ・ヴェガは脱ぐとバストのふくらみが男性のようにも確かに見える。それでもしばらく見ると本当の女性のようだ。この映画では主人公以外の第三者どうしでの映像というのが少ない。ほとんどダニエラは出ずっぱりである。存在感が強い。まるでサンティアゴ観光案内のように市内のいたるところを徘徊し、その風景をバックに彼女を映し出す映像にムードたっぷりの音楽が絡む。邦題は「ナチュラル・ウーマン」としたが、これは映画の中で流れるアレサ・フランクリンの名曲からとったものであろう。この映像作りにチリ映画のレベルの高さを感じる。

アカデミー賞外国映画賞受賞は当然と思われるすばらしい出来だ。

ウェイトレスをしながらナイトクラブで歌っているマリーナ(ダニエラ・ヴェガ)は、年の離れた恋人オルランド(フランシス・レジェス)と暮らしていた。


マリーナの誕生日を中華レストランで祝った夜、自宅のベッドでオルランドは突然体調不良を訴える。意識が薄れ階段から転落したあと、病院に運ばれるがそのまま亡くなってしまう。最愛の人を失った悲しみにもかかわらず、病院の医師と性犯罪担当の女性刑事は、マリーナに犯罪の疑いをかける。そこにオルランドの元妻ソニア(アリン・クーペンヘルム)がやってくる。ふたりで暮らしていた部屋から追い出され、葬儀にも参列させてもらえない。しかも、容赦のない差別や偏見の言葉を浴びせられるのであるが。。。。

いきなり南米アルゼンチンの国境にある世界三大名瀑の一つイグアスの滝がタイトルバックに映し出される。ウォン・カーワァイ監督のゲイ映画「ブエノス・アイレス」にも映し出されるこの滝は、マリーナと亡くなった恋人が一緒に行こうとしていた滝だ。

ナイトクラブで軽快なラテンミュージックに合わせて歌うマリーナの姿やディスコで2人抱き合って踊る姿や中華レストランでの会食姿をまず映し出す。そのあと美しいサンティエゴの夜景を見渡せるマンションに移り、2人が抱き合う。その姿がスタイリッシュだと思っていた時に一気に暗転する。


監督は主人公に次から次へと容赦なく試練を与える。ひと通り疑われた後、全裸姿を刑事や医師の前にさらされたり、強い偏見をもつ元妻や息子たちのいじめにあう。そこでも絶えずマリーナの姿は映像から外れない。そして、1つ1つのカットを見るたびごとに、それぞれのカットが意味をもつことにうなってしまう。こんなに多くの種類のカットに魅せられることはそうはない。構想力豊かな監督である。すさまじい突風のために前傾姿勢をとって前に進もうとしてもなかなか進めないなんていった映像も楽しめるが、それは序の口


しかも、撮影とスクリーンの中の構図が巧みである。ワイド画面をうまくつかって昼も夜も魅力的なサンティエゴの街とマリーナを同化させる。すばらしい!



日本題にもなったナチュラルウーマンアレサフランクリンのスマッシュヒットだが、もともとはキャロルキングの作曲、世紀の大ヒットアルバム「タペストリー」でも自ら歌っている。これはこれでいい。You Make Me Feel のセリフが耳について離れない。

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映画「シェイプ・オブ・ウォーター」サリー・ホーキンズ

2018-03-04 19:30:02 | 映画(自分好みベスト100)
映画「シェイプ・オブ・ウォーター」を映画館で観てきました。

素敵な映画である。
話すことができない1人の独身女性が、異形の生物と恋に落ちていく話というとちょっととっつきにくい印象を持つが違う。60年代前半の冷戦時代の時代設定で、スパイ映画的緊張感をもちながら、ムーディーな音楽や美術で恋愛をうつくしく映し出す。「ET」のような優しさをもつ映画だ。監督脚本ギレルモ・デル・トロの手腕が光り実にすばらしい。

1962年、映画館の上にあるアパートメントで1人暮らしをする聞くことはできるが、話すことができない障がいをもつイライザ(サリー・ホーキンズ)はアメリカの秘密機関で深夜掃除婦をやっている。同僚の(オクタビア・スペンサー)や隣人の売れない画家(リチャード・ジェンキンス)と仲よくしている。イライザはある時、仕事場の水槽の中で異類の生き物が暴れているのを見てしまう。何かと思っていたら、仕事中にその生き物が水槽から姿を現す。ゆで卵を食べさせてあげながら、手話をするとその生き物が真似をするではないか。イライザは隠れて水槽のある部屋に行き、食べ物をあげたり音楽を聞かせたりするようになる。


一方、そこで働くストリックランド大佐(マイケル・シャノン)はアマゾンで神のようにあがめられていたその生き物を連れてきたが、何かというと反発するその生き物を手なづけられずに指をかまれたことに腹を立て虐待していた。しかも、生体解剖するように上司と打ち合わせしていた。時は冷戦時代、その秘密機関にはソ連のスパイも科学者ホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)として働いていた。そのロシア人も生き物に興味をもち、生き物が生体解剖にならないように、イライザが脱出をたくらむのを手伝っていたのであるが。。。


1.60年代前半のアメリカ
主人公は映画館の階上のアパートにいるという設定で、看板や映写する「砂漠の女王」などの映画が映る。テレビでは白黒の画面で人気コメディを映している。時代設定をよくつかんだ美術がいい感じだ。しかも、この映画のアレクサンドル・デスプラによる音楽はその時代を反映するイージー・リスニング的で映像にピッタリあっている。アンディ・ウィリアムズの「夏の日の恋」なんかが流れる。ラストエンディングロールにも歌われるボーカル曲「ユール・ネバー・ノウ」がよくて、なかなか席を立てなかった。

イライザがレコードプレイヤーをもってきて生き物に音楽を聞かせてあげるシーンが可愛い。

2.サリー・ホーキンズ
ウディ・アレン監督「ブルー・ジャスミン」ケイト・ブランシェットの妹役が印象的だったが、その他はあまり知らない。そんな感じで観たら、いきなりのオナニーシーンや肌を大胆にさらけ出す姿に驚く。話ができないというのはある意味セリフがあるよりもむずかしい。地味な掃除婦なんだけど、異類の生き物に徐々に魅かれていく。その心情が母性たっぷりに見えていじらしい。情感たっぷりである。ちょっと古いが異星人との交友を描いた「ET」にも通じる部分がある。


アパートの部屋を閉め切って、部屋中に水を貯めて裸で抱き合うシーンがいい。その階下の映画館への水漏れも含めて笑いを誘う。サリー・ホーキンズは水の中に長時間もぐるのでちょっとしんどかっただろうなあ。

3.魅力的な脇役
マイケル・シャノンは悪役が続くが、毎度のことながらうまい。60年代前半の家庭を描くのに美人妻と2人の可愛い娘と一緒の彼の生活が描かれるのがこの映画のミソ。個人的には「ドリームホーム」の不動産ブローカー役がいちばん性に合っていた気がする。似たような題名だが「ドリーム」に続いてギョロ目の存在感が強いオクタヴィア・スペンサーはここでは亭主の話とか他愛のないおしゃべりをいつも黙って聞いてくれる主人公をかわいがる役。これもまさに適役。

「スリー・ビルボード」もよかったが、個人的にはこちらのほうが好き。
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映画「スリー・ビルボード」 フランシス・マクドーマンド

2018-02-04 15:24:23 | 映画(自分好みベスト100)
映画「スリー・ビルボード」を映画館で観てきました。

これはすばらしい!傑作である。
1月の第2週にインフルエンザB型にかかってしまい、この1月は悶々とした生活を送ってしまった。まだ咳が止まらない。なんと映画館で一本も観ていない月というのは何十年ぶりだろう。そろそろと思ったところで、ホームグラウンドの映画館で大好きなフランシス・マクドーマンドの新作が上映していることに気づく。久々に映画を観たという実感にあふれた作品に出合う喜びを感じる。


レイプに会い娘を殺された母親が、警察の捜査が進まないことに腹を立て、さびれた道路に看板を立てる。町中に波紋を起こす。そして、母親、警察の署長、担当警察官の3人を中心にストーリーが進んでいく。こうなるかな?と連想するとそうならないで別の展開へ進む。善人と悪人の境目があいまいで脚本家が次から次へと我々を肩透かしにかける。意外性は常に厚みをつくる。そして意外性でそれぞれの登場人物が際立つ効果が生まれ、映像に感情流入してしまう。実にすばらしい映画だ。

アメリカはミズーリ州の田舎町エビング。さびれた道路に立ち並ぶ、忘れ去られた3枚の広告看板に、ある日突然メッセージが現れる。──それは、7カ月前に娘を殺されたミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)が、一向に進展しない捜査に腹を立て、エビング広告社のレッド・ウェルビー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と1年間の契約を交わして出した広告だった。自宅で妻と二人の幼い娘と、夕食を囲んでいたウィロビー(ウディ・ハレルソン)は、看板を見つけたディクソン巡査(サム・ロックウェル)から報せを受ける。


一方、ミルドレッドは追い打ちをかけるように、TVのニュース番組の取材に犯罪を放置している責任は署長にあると答える。努力はしていると自負するウィロビーは一人でミルドレッドを訪ね、捜査状況を丁寧に説明するが、ミルドレッドはにべもなくはねつける。
町の人々の多くは、人情味あふれるウィロビーを敬愛していた。広告に憤慨した彼らはミルドレッドを翻意させようとするが、かえって彼女から手ひどい逆襲を受けるのだった。(作品情報より)

1.フランシス・マクドーマンド
コーエン兄弟作品の常連であり、「ファーゴ」でアカデミー賞主演女優賞を受賞している。ジョエルコーエンの妻である。個人的には「あの頃ペニーレインで」で演じた主人公の母親役の演技が脳裏に焼き付く。ロッカーに同行する主人公に身を案じる少しヒステリックな母親の感情描写が絶妙にうまかった。この映画ではあの時の母親のキャラクターがかぶってくる。

娘殺しの捜査が進まないことへの腹立ちで母親が起こす行動はこんなものかもしれない。でも、やり玉に挙がった警察の署長も悪人ではない。周りも同情して、聖職者を送ったり、歯医者に意地悪させたりする。でもこのお母さんたくましい。そんなことは意にもとらない。それは「ファーゴ」にも通じるたくましさだ。ここでの演技でアカデミー賞2度目の主演女優賞をもらったと聞いても誰も全く不思議に思わないだろう。

2.アメリカの田舎町
アメリカの田舎町が舞台なので、こんなことってあるの?!と思わせることが多々ある。
まずは暴力描写が多いということ。最近の日本ではちょっとした教員の体罰でも大げさに報道されるが、ここでは民間人同士の殴り合いが日常茶飯事に出てくる。傷害でで訴えるなんて言葉は、田舎のアメリカでは存在しないものなのか?

フランシス・マクドーマンド演じる母親が警察に深夜電話しても誰もでない。留守番もいない。そんなことあるかしら?しかも、マクドーマンドはもっと悪いことをするが、犯人が特定されない。今の日本では至る所に防犯カメラがあって、一部始終をとらえるけど、アメリカってどうなんだろう。途中まで、この題材1980年代くらいかと思っていたら、ネットで検索なんて言葉もあるので、そうじゃなさそう。そのほかにも同じようなことがいくつかある。だからと言ってこの映画が陳腐なものに感じられてしまうことはないのであるが。。。

この映画をすばらしいものとしているのは、フランシス・マクドーマンドのうまさだが、それ以上に敵役となる警官、警察署長、元夫そしてその若き恋人の描き方のうまさであろう。ウディ・ハレルソンのうまさが光るし、ストーリーが進むにつれて敵役たちのキャラクターに変化が生じる。あれ!こうなるの?と思ってしまう動きがある。その変化の過程に思わず心を動かされた。そして、真犯人は誰か?という期待感をわれわれに抱かせる。そこでも逆転を与え、意外な手打ちでわれわれに想像力のテストをする。

最後の余韻も素敵だな

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フランス映画「あさがくるまえに」 カテル・キレヴェレ

2017-09-24 19:15:14 | 映画(自分好みベスト100)
フランス映画「あさがくるまえに」を映画館で観てきました。


ついに今年一番好きな作品に出合いました。当分の間おすすめと言える映画です。
心臓移植の話という先入観で映画館に入りました。ドキュメンタリー色が強いかというとそうでもない。それぞれの登場人物のキャラクターを丁寧に浮き彫りにする。セリフでというより映像で見せる。このあたりは抜群にうまい。

フランスの女流監督カテル・キレヴェレによる作品だ。フランス映画でも観念的なセリフが続く難解な映画ではない。映画音楽の名手アレクサンドラ・デプラによる静かなピアノの響きに合わせて、じわりじわり着実にストーリーをすすめる。心臓移植の手術を写すリアルな映像やサーフィンを映し出す映像だけでなく、ドナーが走らせる自転車やサーフボードの移動撮影も巧みである。しかも、それぞれのキャラクターに感情移入することができるので、今年もっとも好きな映画となる。

まずはル・アーヴルに暮らす17歳のシモンが彼女の家の窓から早朝飛び出してサーフィンに向かうシーンを映し出す。3人で楽しんだ後、車で帰る途中に事故にあう。少年は助手席にいてシートベルトをしていなかった。頭を強く打ってこん睡状態で病院に運ばれる。


知らせをうけた母親のマリアンヌ(エマニュエル・セニエ)は息子の惨事に驚く。夫は別居中だ。呼び寄せて主治医から一緒に話を聞くと、すでに脳死状態だという。移植コーディネーターのトマ(タハール・ラヒム)からシモンの臓器提供を持ちかけられた夫婦は、息子の脳死を受け入れることができず断る。

一方、パリでは、2人の息子をもつクレール(アンヌ・ドルヴァル)が、心臓の難病に苦しんでいた。容態は日に日に悪化し、臓器移植しか選択肢はないと言われている。女流ピアニストの元恋人のコンサートに行ったあと、レズビアンの彼女と2人で過ごし告白するが、若くない自分が他人の命と引き換えに延命することに悩んでいる。
そんな中、シモンの両親は臓器提供を受諾するのであるが。。。


1968年札幌医大の和田寿郎教授による日本初の心臓移植成功の時は、日本中大騒ぎであった。自分もまだ小学生だったが、あの時のことは今でも記憶に残る。でも、その反動も大きく、和田教授もドナーの死亡確認で窮地に陥った。和田教授と同じ大学に所属する作家の渡辺淳一もいくつか書いている。でもこの騒ぎで日本における心臓移植の進歩が遅くなったのは確かであろう。

そんな心臓移植のリアルな映像が映し出される。実際の手術を映し出したのであろう。再度患者に移植して動き出す瞬間はなかなか感動ものだ。


1.映像で示すセリフにしない表現
この映画では、臓器提供する人、移植をする人だけでなくそれぞれのプロフィルを丹念に短い時間で映し出す。露骨なセリフで説明するわけではない。

特に印象に残ったのがドナーのシモンのエピソードだ。
以前から気になっていた同じ学校の彼女をずっと遠目で見つめ街中で声をかける。彼女は帰宅中で、山の上にある自宅に帰るためケーブルカー乗り場で別れる。シモンはそのあと自転車で懸命に坂を走る。山の上の停留所についたとき、彼女を出迎え感動させる。この間、余計なセリフはない。このエピソードでドナーであるシモンの心臓がいかに頑丈だということを示しているのではないか。実にうまい。


2.美しい映像
サーフィンのあと、風車がまわる田園風景を車を走らせる映像が美しい。そのあとアイスバーンに入り込み、事故に結びつくときのシーンもなかなかだ。シモンが自転車やボードで走る姿を移動撮影で撮るのも見事で撮影の巧みさも楽しめる。単に心臓移植の話だけでない。クレールのレズビアン話、別居して心離れている夫婦が再度結びつく話などディテイルにも凝っている。


いざ心臓を移植する際、手術中に移植コーディネーターがドナーの好きな波の音を聞かせる。素敵なシーンである。

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映画「LA LA LAND」 ライアン・ゴズリング&エマ・ストーン

2017-02-26 14:26:56 | 映画(自分好みベスト100)
映画「LA LA LAND」を映画館で観てきました。

これは最高!!です。
予想を上回る素晴らしい作品だ。


冒頭から渋滞の高速道路でのミュージカルタッチのシーンでまずは度肝を抜かれる。黒人女性の歌声からから始まって、色彩豊かな衣装で着飾った男女が止まっている車の上でジャンプしながら心地よいテンポの曲で踊りまくる。そこには渋滞の車で待っているライアン・ゴズリング&エマ・ストーンの主人公たちが映し出される。

冒頭のシーンでうーんいいじゃん!と思っていると俳優を目指すミアの部屋でのシーン。部屋はイングリッドバーグマンの壁紙だ。ポストプロダクションの活躍が抜群で、原色を基調にした色彩設計豊かな空間の中でのリズミカルなシーンが続く。すごくいいじゃんと思っているうちに映画が進み、素晴らしく心地よい時間を過ごせる。

この映画の予告を見たことがある人は多いだろう。こうやって映画を見終わると、それぞれのシーンがうまく加工されて予告編ができていることがわかる。ある意味、この映画の予告編の編集度はずば抜けていると映画を見終わって感じる。



夢を叶えたい人々が集まる街、ロサンゼルス。映画スタジオのカフェで働くミア(エマ・ストーン)は女優を目指していたが、何度オーディションを受けても落ちてばかり。ある日、ミアは場末の店で、あるピアニストの演奏に魅せられる。

彼の名はセブ(ライアン・ゴズリング)、いつか自分の店を持ち、大好きなジャズを思う存分演奏したいと願っていた。やがて二人は恋におち、互いの夢を応援し合う。しかし、セブが店の資金作りのために入ったバンドが成功したことから、二人の心はすれ違いはじめる……。(作品情報より)

毎回オーディションを落ちまくっている俳優の卵をエマ・ストーンが演じる。同じような俳優仲間とハリウッドの豪邸でパーティをして、プールで大騒ぎ。そんなことしているうちに駐車していた車もレッカー移動、まいったと思って深夜の街を歩くと、一軒のジャズクラブがある。気になりそこに入ると、1人のジャズピアニストが素敵なメロディを奏でているという構図で、2人は出会う。


その時ジャズピアニストであるライアンゴズリングは自分の思うような曲が弾けないことにいらついていた。周りは誰も聞いていないのに、客にゴマするようにクリスマスソングをピアノで弾く。ここでマスター(JKシモンズ)に逆らい、自作のメロディアスな曲を弾き語る。それを聞いていたのがエマストーンだ。でも言うとおりにしないライアン・ゴズリングは「FIRE!!」すなわちクビである。

実はこの2人は渋滞の車で一度出会っていた。そして、このジャズクラブで2人であい、その後エマ・ストーンは俳優たちのパーティでロックの演奏のバックをやっていたライアン・ゴズリングにまた再会するのだ。

恋の始まりはこういう偶然が何度も起こる。実際にもよくあることだ。その出会いを包む心地よい音楽が耳につく。最初にジャズクラブでライアン・ゴズリングが弾くメロディアスな曲が反復される。いろんな場面でアレンジを変え鳴り響く。この反復で主題曲が自分の脳裏に刻み込まれ、ハートが揺さぶられる。そして前半戦から飛ばしていく。その心地の良さにずっと気分がハイテンションになれる。

恋の行方はそんなに単純にはいかない。それもミソだが、脚本はびっくりするほど複雑ではない。ここでは現代ハリウッドの精鋭による色彩設計の良さとすぐれた美術および衣装そしてセンスのいい音楽を思いっきり堪能したい。


これから見る人も多いのでネタバレ的なことは今一度あとで加筆したいが、途中でちょっとだれ気味になった時点から最終につながり、ラストのジャズクラブで始まるシーンが素晴らしい!もしこうあったら?ということなのか、どっちが真実なのか?一瞬戸惑うが、こういうことなのかとわかり妙に涙がこぼれてきた。同性たる男への同情か?そしてそのあとのエンディングロールの間、誰も席を立たなかった。誰もが余韻に浸っていた。

ラ・ラ・ランド
ともかく楽しい
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映画「ザ・コンサルタント the accountant」 ベン・アフレック

2017-01-23 05:18:42 | 映画(自分好みベスト100)
映画「ザ・コンサルタント the accountant」を映画館で見てきました。

これは実におもしろい!!
作品情報を見ると、ベンアフレックの新作は会計士を演じているという。めずらしい設定だなと思って映画館に向かうと、なんと自閉症の異常に数字に強い会計士のようだ。それだけじゃない。ちょっとしたイザコザで命を狙われても敵を徹底的に始末する。おいおい、自閉症を取り扱った映画ってダスティンホフマンの「レインマン」をはじめとして色々あるけど、これだけ大暴れする映画はみたことがない。


この主人公はベンアフレックの親友マット・デイモン演じるジェイソンボーンのようにムチャクチャ強いけど、ストーリーも軽い伏線をいくつか置いて、日本人・東研作や芹澤家殺人事件といった「ゴルゴ31」のルーツ物のような描き方をする。自分にはムチャクチャ相性のいい映画であった。

アメリカFBIの幹部(JKシモンズ)が分析官メリー・ベス(シンシア・アディ・ロビンソン)を呼んでいる。彼女は名門大学出のきわめて優秀な分析官だが、捜査官にはなろうとしなかった。それには秘密があるのであるが、それにつけこんで幹部が彼女にある調査を依頼する。麻薬カルテルや武器商売などの裏社会の取引に1人の同一人物の男が絡んでいることが分かる写真が数枚あった。どうやら会計士のようだが、偽名で身元がわからない。その男の正体を突き止めてくれれば女性分析官の過去はもらさないという難しくいやらしい依頼だ。


田舎で開業する会計士クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)が義足を取り扱う大会社から使途不明金の疑いがあり、その会社のCFOから調査依頼を受ける。ウルフは会社側に過去15年分の会計資料を用意するように頼んだ。今回は信頼できる筋からの紹介でもあり、ウルフは社長(ジョン・リスゴー)からも直接頼まれる。資料が整っているはずの会社の会議室によると、徹夜で用意していた経理グループのディナ(アナ・ケンドリック)がいた。ウルフは猛スピードで資料に目を通した。しばらくして、ディナが立ち寄るとウルフから会計数字に関する疑問を打ち明けられる。その場にはCFOとともにウルフに依頼していた社長の妹が来ていてその話を聞いていた。


翌朝前日の続きを再開しようとすると、社長が来て昨夜CFOが死んでしまったので、調査は中断すると言われる。釈然としないウルフとディナであったが、その後ウルフは命を殺し屋グループに狙われる。その襲撃を交わしたあと、襲撃者に依頼者をばらせというと、ウルフとディナを狙えとなっていることが分かる。あわててディナを助けにウルフが向かうのであるが。。。

中東エリアのような猥雑な場所で、いきなり殺し屋が次々と標的を始末するシーンからスタートする。何これ?危機一髪な場面でスタートして、その謎あかしをゆったりするというパターンはよくあるけど、結果的にはこの映画もそのパターンだ。

1.自閉症の主人公
いきなり相手に目を合わせない典型的な自閉症の症状を示す少年が出てきて、大量のピースをてきぱきパズルを組み合わせようとする場面がでてくる。確かに自閉症児はパズルが得意だ。うーんと思って見てみると、続いて出てくる会計士はその少年が大人になった同一人物のようだ。やたらに数字に強いエピソードが出てくる。映画ではダスティンホフマンのアカデミー賞作品「レインマン」で桁数の多い数字の難しい計算やカレンダーに異常に強い自閉症の主人公が全世界に強烈な印象を与えた。ラスベガスのカジノで、弟役のトムクルーズとブラックジャックで勝ちまくるシーンは痛快だった。


2.映画の自閉症エピソード
会計に不正があるとの推測で15年間の会計資料が集められ、調査をはじめる。部屋にこもり、数字をにらみ暗算で計算をしながら、数字を壁に羅列する。マジックで次から次へと書いていくのだ。そしてその数字を見ながら経理グループのディナに不正を疑えるおかしな点を理路整然と説明する。優秀なディナが数カ月かかってもできない分析を一晩でしてしまうのだ。


見ていてしびれるシーンである
「レインマン」
でも一部の自閉症患者が示す驚異的な能力を示すシーンが羅列されていたが、ここでも大きな桁の掛け算を一瞬にしてしまうシーンや、ハードロックの大音響の中で自虐的な行為をするシーンなどいかにも自閉症患者というシーンが次から次へと出てくる。銃が炸裂するアクションシーンもいいが、このあたりを見ている方がおもしろい。

3.ベンアフレック
親友マット・デイモンと組んだ名作「グッド・ウィル・ハンティング」から着実にキャリアアップしている。「アルゴ」でアカデミー賞を受賞し、直近では「バットマンvsスーパーマン」でもかなりハードなアクションシーンをこなした。個人的な好みでいうと、「ゴーンガール」やテレンス・マリック監督の「トゥ・ザ・ワンダー」の方が好きだ。

でもこの映画の方がもっと好き。「アルゴ」は締めくくりが絶対助かると歴史的事実なのでわかるけど、この映画は予想外の展開を含んでいてどうなるかわからないドキドキ度が高い。しかも、意外に湿っぽくなる部分もある。意外だけど、目がうるった場面があった。


4.魅力的な女性
バンパイア映画で名を売りジョージ・クルーニーの「マイレージ・マイライフ」でインテリ女を演じたアナ・ケンドリックも着実にいい映画に出ている若手女優だ。主演の「ビッチ・パーフェクト」は続編もつくられて大人気だけど、あれはちょっと。あとはウルフの正体探しに疾走する捜査官を演じるシンシア・アダィ・ロビンソンは初めてみるけど、アフリカ系としてはかなりの美女ぶりで、頭もよさそう。この子はこれから売れそうだ。


5.JKシモンズ
 

映画「セッション」での鬼ジャズ教師役はすさまじかったし、助演男優賞を軒並みとった。あの演技では当然だろう。


それを思えばここでの存在感はもう一歩、でもベンアフレック演じる会計士が会計調査をした企業から秘密が漏れることを恐れて徹底的に狙われるストーリーが続くのと一方で裏社会で巧みに泳ぐ会計士の存在を追わせる国家機密を握るFBIの動きが別線で続く。そこにはJKシモンズ演じるFBIのボスにとっての重要な秘密が隠されていたのだ。もともとは冴えない捜査官だったボスがある事件をきっかけにツキを取り戻す。その余談もおもしろい。ただでは帰らない。

アルゴ
ベンアフレックがアカデミー賞を受賞


レインマン
自閉症の男の数字能力に驚く、自閉症映画の代表作


ザ・コンサルタント
自閉症の会計士が格闘技にも優れる
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映画「THE NET 網に囚われた男」 キムギドク

2017-01-10 05:37:14 | 映画(自分好みベスト100)
映画「THE NET 網に囚われた男」を映画館で見てきました。
韓国の奇才キムギドク監督の新作、ヘビー級のパンチをくらったような重さがある傑作である。


系統としてはキムギドクが製作にかかわった北朝鮮の工作員が一般家庭に潜んで活動するという話の「レッドファミリー」と同様に南北朝鮮問題をとりあげている。日本公開では「殺されたミンジュ」に続くが、その間に福島原発事件に関わる話の「STOP」という映画があるらしい。どうもそれは3月に日本公開のようだ。

韓国映画は最終的に「チェイサー」キムギドク監督作品「嘆きのピエタ」など重い題材で、救いようのない結末に流れることがある。これも同様で、南北関係がこうなっている以上結末がハッピーになりにくい。途中どうなるのかハラハラすると同時に、やるせない感じを思った。映画館で鑑賞している周辺の女性はみんな途中からハンカチで目を押え泣いていた。

北朝鮮の寒村で、漁師ナム・チョル(リュ・スンボム)は妻(イ・ウヌ)子と共に貧しくも平穏な日々を送る.その朝も、唯一の財産である小さなモーターボートで漁に出るが、魚網がエンジンに絡まりボートが故障。チョルは意に反して、韓国側に流されてしまう。


韓国の警察に拘束された彼は、身に覚えのないスパイ容疑で、取調官(キム・ヨンミン)から執拗で残忍な尋問を受けることに。一方、チョルの監視役に就いた青年警護官オ・ジヌ(イ・ウォングン)は、家族の元に帰りたいというチョルの切実な思いを知り、次第にその潔白を信じるようになる。そんな時、やはりスパイ容疑で捕えられた男が、チョルにソウルにいる娘への伝言を託して、自ら舌を噛み切り息絶える。やがて、チョルを泳がせようという方針から、物質文明を極め人々が自由に闊歩する、ソウルの繁華街に放置される。街を彷徨う彼は、家族を養い弟を大学に入れるために身を売る若い女性と出会い、経済的繁栄の陰に隠されたダークサイドに気付く。何とか探し出したかの男の娘に伝言を告げ、ジヌが待つ場所に戻るチョル。


ところが、街中のチョルの姿を映した映像が北に流れ、南北関係の悪化を懸念した韓国当局は、チョルを北朝鮮に送還する。資本主義の誘惑を退け、晴れて祖国に帰って来たチョル。だが、彼を待ち受けていたのはいっそう苛酷な運命だった。(作品情報引用)


以下ネタバレありご注意

1.南北の対立
キムギドク「葛藤を抱える韓国と北朝鮮、その2つの国家のなかでひとりの男が苦痛を受け、非情な運命にさらされていく。状況設定がすでに残酷で恐ろしいもの。」
(作品情報引用)としている。本当につらい立場だ。まったく本意でなく国境を渡ってしまうと、脱北者のレッテルを張られてしまう。


主人公は北朝鮮よりも発展しているソウルの町を見るまいと目をつぶる。この設定は日本ではないが、もし先の大戦後ソ連の北海道支配を当時のトルーマン大統領とマッカーサー元帥が阻止しなかったら、現状の北方領土問題でもわかる通り朝鮮半島と同じような状況となったかもしれない。アメリカには感謝しなければならない。

2.公安当局の取り調べ
南北の公安当局それぞれに主人公は取り調べを受ける。南側の取り調べには反抗的な態度をとり、暴力もふるう主人公が一転自国の取調官にはいっさい逆らえないのが印象的だ。ご存じのように北朝鮮の幹部が将軍様の逆鱗に触れ、次々射殺されているのは日本でも報道されている。

それでもキムギドクは南北ほぼ同じような手法で取り調べているように描く。
それぞれの国を舞台にした取調室の光景は印象的だ。ナムチョルを尋問する両国の取調官たちが、まるで合わせ鏡のような態度をとることについて「どちらの国の人間にしろ、権威主義的で攻撃的、卑怯な側面を見せたかった」と述べ「シナリオ執筆段階から意識していたこと」とキムギドクは告白。(キムギドクインタビューより)
いずれも背後から話しかけるような設定で意識的にしている。

南側の取締官が暴力的で何としてでも主人公をスパイに仕立てて自分の手柄にしようというところや南側の責任者が失敗を恐れて強引にスパイに仕立てるのを抑え、マスコミにも注意を払うところが印象的だ。同時に南北両国の取調官にそれぞれ不正がある面を強調する。

3.リュ・スンボムとイ・ウヌ
主人公チョルは映画を見はじめてすぐに以前見たことあることに気づく。「ベルリンファイル」での北朝鮮公安監視員と韓国版「容疑者Xの献身」での主人公の数学者役はいずれもよかった。特に数学者役は日本版が元来二枚目の堤真一を持ってきたのに対し、まさにネクラそのもので福山に対応する探偵役がいない中主人公を巧みに演じた。でもここでの主人公役は南北問題に挟まれ行き場所のない姿になりきっているし、うまい!


イ・ウヌ「メビウス」の一人二役が印象的だ。最初主人公の奥さんの顔を見て気づかなかった。最後にヌードになり乳房をみてアレあの時の?と感じたが、常連になりつつある。最後に向けてずいぶんと切ないシーンだよね。





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映画「エブリバディ・ウォンツ・サム」リチャード・リンクレイター

2016-11-13 11:51:52 | 映画(自分好みベスト100)
映画「エブリバディ・ウォンツ・サム」を映画館で見てきました。

これはまさしく来た~って感じ
自分自身も大学生だった1980年を舞台にご機嫌な映画だ。


「6才のボクが大人になるまで」のリチャード・リンクレイター監督が野球推薦で入った大学生活の自分自身の体験をもとにつくった映画だ。寮に入って入学する直前のドンチャン騒ぎを楽しく描いている。1980年前後に大学生活を送った不良男子大学生たちには、日本人であっても何ともフィットする映画であろう。当時ディスコで流れていた音楽が映画で流れ続ける中、服装から遊びから何もかも当時の日本の大学生活に通じるアメリカのカレッジスタイルがいい感じだ。

でも昭和40年代前半の学園紛争時に学生生活を送った頭でっかちや最近の異常なコンプライアンス強化に頭を悩ませる大学生たちには受けないかもしれない。

野球推薦で入学することになった新入生のジェイク(ブレイク・ジェナー)は期待と不安を抱き、野球部の寮に入る。お気に入りのレコードを抱え、ジェイクが野球部の寮に着くと、4年生のマクレイノルズ(タイラー・ホークリン)とルームメイトのローパー(ライアン・グスマン)から歓迎を受けるが、寮生活をしている先輩方は野球エリートとは思えない風変わりな奴ばかりであった。


先輩たちはさっそく大学を巡るツアー案内をかってでる。女子寮に行くことから始まり、女の子たちの品定めをする。車で通りかかった2人組の女の子にアタック。強引なナンパは拒否られるが、ジェイクは同じ新入生で演劇専攻のビバリー(ゾーイ・ドゥイッチ)に一目惚れをする。


今度は地元のディスコに繰り出しナイトフィーバー!となるが店でいざこざを起こし、カントリー・バー(ホンキートンク・バー)で踊りまくったのであるが。。。。

1.黄色のラコステ
当時の六本木あたりのメローな曲を流すディスコにはサーフ系が主流だが、ラコステのポロを着ている男女もいっぱいいた。自分も持っていて、映画の中に黄色のラコステを着ている少年を見つけた時は、背筋がぞくっとした。自分は79年と81年にアメリカに遊びに行ったが、お土産には赤のラコステをせがまれたものだ。

ヒゲを生やしている。当時の大学生の流行だ。日米変わらない。それに加えてのアラレ系メガネは日本でもはやったし、このゴキブリのようなメガネをする流れは昭和を通じてだったと思う。映画の中で、口ヒゲが薄くしかはえずに先輩たちにからかわれているシーンは笑える。

2.ディスコ
自分の大学生活とジャスト過去進行形だ。ザ・ナックのヒット「マイ・シャローナ」がいきなり流れて気分がファンキーになり、ジャーマインジャクソンの「Let get serious」やピーチズ&ハーブの「Shake Your Groove」 なんか流れてくると、映画を見ながら身体も動く。サントラのCDが欲しいと思われる映画は久しぶりだ。


映画の中で大学側にあるディスコは伊豆の離島で即席につくられていたディスコみたいな印象をもつが、選曲は抜群だ。日本でいうと最初「キサナドゥ」という名前で「ナバーナ」に代わった六本木セリナ裏のディスコを思わせる曲の流れだ。フランス映画で中年がディスコで踊る「DISCO」という映画がある。アレも悪くないけど、このほうがいい。

カントリーの店は日本ではあまり学生は寄りついていなかったかもしれない。この映画のカントリーバーでのノリは最高だけど、あの当時であればアメリカ特有ではないか

3.飲酒と遊び
いきなり先輩たちがビールをもちこみ、新入生と乾杯する。当時であれば当たり前の光景だ。ところが、異常なコンプライアンスムードに日本は毒されている気がする。選挙権も与えたくらいだからいっそのこと、18歳で飲めるようにしたらいいのではないか。かわいそうだ。女を連れ込み、いきなり部屋でやりまくるシーンも出てくる。最近話題になった大学のサークルでの強姦騒ぎはちょっとそれとは違う。あれは飲酒とは独立した例外だと思うんだけど、自分の母校というのは残念。


大学生の遊びがポパイあたりの影響を受けたせいか、日米であんまり変わらないのが印象的、インベーダーゲームも出てきて、一番下まで来たら撃たないよと「名古屋撃ち」の話をしだしたのは笑える。余興でツイスターゲームもやったよね。

出演者は映画を数多く見ている自分でも、メジャーでない知らない奴が多い。そんな部分もいいのでは?実に楽しい快作だ。
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映画「オーバーフェンス」 オダギリジョー&蒼井優

2016-09-19 21:25:34 | 映画(自分好みベスト100)
映画「オーバーフェンス」を映画館で見てきました。「そこのみにて光り輝く」に続く函館出身で悲運にも自殺した佐藤泰志原作の映画化である。


呉美保監督、綾野剛主演「そこのみにて光輝く」は胸にしみる傑作であった。今回は「マイパックページ」、「苦役列車」山下敦弘監督がメガホンを取り、オダギリジョーの主演である。期待して映画館に向かったが、「そこのみにて光り輝く」ほどストーリーの浮き沈みは少ない。でも独特の後味はなんとも言えずよかった。

今年はなぜか函館に縁があり、6月と8月の2回函館に行った。昔は会社の事務所があったが、函館経済の衰退と同時に撤退。6月は同業者の重鎮たちと旅して、おいしい海の幸を楽しんだ。8月は家族で北海道新幹線に乗り連泊した。2年前にも旅したこともあり、函館の街に詳しくなってしまった。こうして函館の映像を見ると今まで以上に故郷のような親近感を覚える。

妻と別れ世捨て人のように故郷函館に帰った白岩(オダギリジョー)は、実家に顔を出そうとせず、失業保険を受けながら職業訓練校建築科に通い、大工になるための訓練を受けている。一癖も二癖もある同僚とも距離を置き、訓練校とアパートを往復するだけの生活を送っていた。ある日、同じく訓練校に通う代島(松田翔太)にキャバクラに連れていかれた彼は、聡という名の風変わりなホステス(蒼井優)と出会う。帰りがけ車で送ってくれた彼女に白岩は親近感をおぼえ、急速に2人は接近するのであるが。。。


蒼井優演じる聡は普通のキャバ嬢よりもかなり精神が不安定な女の子である。器用に付き合えないもどかしさを感情に表わす。オダギリ演じる白岩に何で別れたんだとしつこく聞く態度が、男性からすると、強烈でまわりくどい面倒くさい女性に見える。その感情の起伏の激しさをみせるところが映画の見どころだろう。それを受け止めるオダギリジョーの演技は落ち着いていて、男から見ると好感が持てる。でも何で泣きじゃくるんだろう。やさしさに胸を打たれたという設定かもしれないが、自分にはよくわからない。


⒈函館
市電が走る人口が30万弱から50万程度の都市の雰囲気って好きだ。ロケハンティングもうまく、何気なく市電が走るシーンを映像に組み込む。見事なカメラ構図だ。「そこのみにて光り輝く」が海岸線に沿っての映像だったのに対して、函館山のふもとの美しい坂や函館公園の遊園地、海を見るデッキなどを映像にとりいれているのもいい。


実際にこの映画に出ている飲み屋街を昼間に訪れると、さびれた感が強い。デパートなんかも同様のさびれ感だ。中国台湾からの観光客が急増すると同時に、北海道新幹線も函館まで通って経済的に落ちぶれた函館を観光で復興させるように見えるけど、まだまだだろう。ただ、この街は妙に相性が合う。

⒉印象に残るシーン
函館公園の中に遊園地や小さな動物園がある。そこを貸し切ってうまく映像化している。キャバ嬢の蒼井優は昼間は遊園地でバイトをしている設定だ。そこでオダギリジョーとケンカしたりくっついたりするが、なかなか味わいあるシーンもある。


また、蒼井優がめずらしく肌を見せる。実家の敷地内の離れに住んでいる。そこには風呂がないのか、昔式の台所で水道の水を身体にかけている。もちろん胸は見せないが、背中をあらわにする。今まで見たことがない。それ以外では、この映画はエロティックな雰囲気は少ない。あとは一癖も二癖もある訓練所の同僚を映しだす映像がいい感じだ。

⒊函館を舞台にした映画
高倉健主演の「居酒屋兆治」での倉庫街の映像が一番印象に残るが、日活映画では石原裕次郎と浅丘ルリコのコンビの「夕陽の丘」小林旭の出世作「ギターを持った渡り鳥」が先駆しているのではないだろうか。この映画でも函館の護国神社に向かう坂を映しだすが、50年以上も前になる「ギターを持った渡り鳥」でも同じ坂が映像に映し出される。


実に美しい函館の坂だ。今までの佐藤泰志作品と同様に人生に疲れ果てた男女をうつしだすので、裏函館というべきエリアの映像がこの映画でも出てくる。逆にその方がいい感じだ。

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