映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「あんのこと」 河合優実&佐藤二朗

2024-06-07 21:15:02 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「あんのこと」 を映画館で観てきました。


映画「あんのこと」河合優実が社会の底辺で彷徨う21歳の女性を演じるシリアスドラマである。「ビジランテ」など社会派の作品が多い入江悠監督作品で、佐藤二朗、稲垣吾郎が脇にまわる。「愛なのに」「少女は卒業しない」などでこのブログでずっと追っている河合優実がTV番組「不適切にもほどがある」で映画ファン以外にもブレイクした。テレビ番組が始まりしばらくして周囲の評判で見始めたが実に面白い。河合優実は1986年のツッパリ女子高校生を演じている。日本映画は、相変わらず辛気くさい題材ばかりだ。貧困家庭で育った少女のドツボぶりをここでも描いている。

21歳の主人公・杏(河合優実)は、幼い頃から母親(河井青葉)に暴力を振るわれ、学校にも行っていない。十代半ばから売春を強いられてきた。ある日、覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅刑事(佐藤二朗)と出会う。多々羅は杏になんの見返りも求めず就職を支援し、取材を進める週刊誌記者の桐野(稲垣吾郎)も刑事とともに杏を支えていた。新型コロナウイルスが蔓延しはじめて、杏が通う職場や学校の人の出入りが制限されて、居場所が失われてしまう。


実話に基づく社会の底辺を彷徨う少女があまりに悲惨な物語である。
いきなり,河合優実赤羽の昼飲み屋街こと1番街を早朝に歩いている映像が映し出される。いつも見る場所だと思った後で,茶髪の河合優実が覚せい剤を打つ男とラブホテルでカネの押し問答をしているシーンに移り変わる。小学校でスーパーの万引きを始めて、小学校で実質中退。漢字も書けない。12歳で男に抱かれ, 16歳で売春を始めるそんな生き方をしている少女がまだいるのだ。実際のモデルがいるとすると、悲しい。

母と祖母と暮らす団地は固有名詞こそ出ないが、赤羽の公営団地だ。親は金を稼がないと、娘に激しく暴力をふるい,自分は男と飲んだくれている。母と娘の関係は昨年見た「市子」と類似している。どうにもならない母親役の河井青葉が好演だ。ひたすら河合優実演じる娘を蹴り、髪を持って振り回す。もともとモデル系の美形で「私の男」や濱口竜介監督「偶然と想像」にも出ている女優だけど、団地のゴミ屋敷状態の部屋に住む出来のわるい女を巧みにこなす。


刑事役の佐藤二朗が適役だ。覚せい剤と売春でどうにもならない底辺の生活をしている主人公杏を救う面倒見の良い刑事だ。介護施設の仕事を用意して、同じようにクスリに毒された人たちのコミュニティも紹介する。DVでキツイ思いをしている人たちが無料で住む住居も斡旋する。1人の刑事以上の仕事をしている善人かと思っていたら、予想もしない展開に進み事前情報がないまま観た自分は驚く。


途中からは河合優実演じる主人公にとっては、まさに次から次へと災難が訪れる。コロナ禍に突入して,通っている介護施設では、非正規の社員は自宅待機になり,通っている夜間学校は休校になる。せっかく作り上げてきた人とのつながりが全てなくなってしまう。しかも,同じ共同住宅に住んでいる隣人の女性が幼い子供を突然主人公に預ける。そんな時助けてくれた刑事も目の前にいない。住所を伝えていないのに祖母の具合が悪いと母親が突然来て引き戻される。

この映画は主人公をとことん貶める映画だ。光が差さない映画としか言いようにない。
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映画「からかい上手の高木さん」永野芽郁&今泉力哉

2024-06-03 21:22:40 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「からかい上手の高木さん」を映画館で観てきました。


映画「からかい上手の高木さん」は、山本崇一朗の漫画を今泉力哉監督が永野芽耶主演で映画化した作品。今回初めて知った作品でもちろん原作は未読。何より今泉力哉監督の新作だとすぐ観に行かなければならない。前作「アンダーカレント」は、脚本にも恵まれた。真木よう子の好演で2023年公開作品の中でも、自分が好きな1つである。予告編を見て、海辺の街にたたずむ永野芽郁がいい感じに見えた。

島の中学校で2年生の担任を受け持つ西片(高橋文哉)は,教頭(江口洋介)から教育実習生の面倒を見てくれと依頼をされる。ちょうどその時昔の同級生の高木さん(永野芽郁)から電話をもらっていた。すると、学校内で3週間教育実習を受け持つ美術教員として高木さんに出会い西片は驚く。

中学の時同級生だった高木さんに西片はいつもからかわれていた。ところが、高木さんはパリに行ってしまう。密かに恋心を抱いていた西片は久々の再会に喜ぶが、自分の気持ちは胸の内にとどめていた。


永野芽郁はかわいくて,バックに映る小豆島の風景はきれいだった。ただ、ダラダラ感が強く残念だった。

今泉力哉監督の作品を見るときは,超絶長回しは覚悟しなければならない。それでも,前作「アンダーカレント」はいつもよりも脚本がまとまっていて、ダラダラ感が少なかった気がする。正直今回はちょっと間延びしすぎた

「愛はなんだ」では江口のり子の使い方がうまくストーリーが引き締まったが,「街の上で」は下北沢の若者を描くのに、気にくわない登場人物も多くダラダラ感が強すぎた。あんまり好きではない。逆に「猫は逃げた」展開が絶妙で好きだ。今泉力哉監督の作品には、個人的に好き嫌いがずいぶんでる。今回は映画としては凡長な感触を受ける。


もともと田舎の海辺の街の映画は風景は抜群に良いのに,ネタが少なく話の内容がいまひとつ盛り上がりに欠けるケースが多い。途中も、最近の日本映画に多い無駄に長い時間が流れていた。この映画もおもだった内容は映画が終わる30分前には終了していた。そこからが長かった。おそらくこの長回し部分については賛否があるだろうが,僕自身はやりすぎと感じる。

ただ、永野芽郁は彼女自身が持つ魅力を最大限に我々に見せつけてくれた。高橋文哉に向かって、いたずらっぽく微笑む姿も素敵だし,結婚式のシーンで,ブーケをめぐって、高橋文哉がプールに飛び込むシーンがある。追いかけてプールに入る永野芽郁がなんて可愛いことか。それについては感謝したい。


残念ながら,香川県に行ったことがあっても,小豆島には行ったことがない。途中で小豆島と言う固有名詞が出てはいない。小豆島からは高峰秀子の名作「二十四の瞳」を生んでいる。永野芽郁がロケで映し出されるそれぞれの場面は実に素晴らしい景色であった。登校拒否の少年と一緒に小さな山を登り、上から海を眺める景色の美しさは絶品である。
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映画「ミッシング」石原さとみ&中村倫也

2024-05-20 21:51:23 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「ミッシング」を映画館で観てきました。


映画「ミッシング」石原さとみ主演の行方不明になった娘を懸命に探す両親と事件を追うTV局との関係を描いた作品だ。「空白」吉田恵輔監督のオリジナル脚本である。ここのところ洋画にこれといった作品がなく、邦画を続けて観ている。「ミッシング」は後回しの予定であったが、石原さとみの熱演のうわさを聞き、とりあえず観に行く。

吉田恵輔監督作品は好き嫌いがあって、個人的には「空白」はイマイチで、負け続けるボクサーを描いた「BLUE/ブルー」と奇妙な三角関係の「さんかく」が好きだ。今度は気にいる気に入らないどっちに振れるかと思いつつ、映画館に向かう。

静岡の沼津、沙織里(石原さとみ)の6歳の娘が失踪する。預けていた弟と別れた後だった。夫(青木崇高)と共に街頭でビラを配り、懸命に捜している。TV局のディレクター砂田(中村倫也)は事件を取り上げ特別枠で放映される。しかし、娘の失踪時に沙織里がアイドルのライブに出かけていたことが判明して、ネットでは母親失格と中傷される。


視聴率を気にする局の上層部は、寸前まで娘と一緒だった沙織里の弟の証言に疑惑を持つ。上司命令で弟をテレビに登場させるように姉沙織里に依頼するが、SNSで犯人扱いされてしまう。

話自体に不自然さを感じて事前予想と異なる印象を持った。
石原さとみは好演だが、演じるキャラクターがイヤな女で好感が持てずまったく心を動かされない。むしろ、TV局のディレクターを演じた中村倫也板挟みの面倒な役柄をこなした印象をもつ。自閉症的な弟の存在も悪くはない。

舞台は静岡の沼津だ。人口20万程度の町の方が映画ロケはやりやすい。漁港のある沼津らしい海岸ぺりのシーンも多く、海辺の空気感もある。主人公の夫も魚市場に勤務している。ただ、こんな所で頻繁に誘拐事件が起きるのかな?といったそもそも論やSNSに振り回される住民がいるのかな?という疑問をもつ。「空白」の時も同じように思ったが、吉田恵輔監督が強引に話をつくっている印象をもった。犯人の存在を明らかにしない手法にも無理がある。

1.SNSによる誹謗中傷
事前情報では、SNSの誹謗中傷に翻弄される主人公という設定に思えたが、映画を観ると、それで落胆するような人物ではなかった。石原さとみが泣きわめいても常に強気でまったく何とも思っていない。途中でSNS上で中傷した人物を訴える場面があってもとってつけた感じを持つ。でも、SNS上に連絡先を伝えているためにイタズラする悪い奴が出てくる。

沼津に住んでいる主人公に愛知の蒲郡で見かけたとSNS上で発信。夫と蒲郡まで向かうが、途中で連絡がとれなくなる。挙げ句の果てにはアカウントがない。ひどい話だ。でも、こんな話はSNS上ではいくらでも転がっているかもしれない。

2.テレビ局の視聴率ねらいの取材
静岡のローカル局でしかも沼津、そんなに事件なんか起きるわけがない。少女の失踪事件でTV捜査網を張るなんて話はありえそうだ。ただ、それがエスカレートしていく。コンサートに行った時預かった主人公の弟に疑いの目が向けられているので、強引に嫌がる弟の取材をする。観ていてイヤなシーンだが、状況上仕方ない。TV局における視聴率への執着もテーマになる。


局の幹部と取材者との狭間にいるTVディレクターの存在は巧みにクローズアップできたと思う。地方都市では地元TV局に勤務する連中はエリートだ。中村倫也地方のエリートぽい雰囲気をかもし出していて適役だった。稚拙な若手女子社員特ダネに異様に執着心を持った男子社員との対比もいい。

被害者の親である主人公石原さとみがだんだんとTV局の言われるままになり、カメラ前で演技するようになる。印象に残るシーンとして、TV局が主人公石原さとみへのインタビューをしているときに、泣きながら答える石原さとみのセリフの中に「何でもないようなこと」と失踪事件を指すのを聞いたカメラマンがそれを訂正してやり直すシーンが気になった。


3,偽りの知らせ
もしかしたら、この映画のいちばんの見どころかもしれない。方々に手を尽くしてうまくいかない主人公の元に「お嬢さんが保護された」とTELが来る。歓喜して警察署にすっ飛ぶ2人のそばにはTV局のメンバーもいる。慌てて警察署に向かっていくと、対応する警察官からそんな知らせはしていないと。娘がいないで叫ぶ石原さとみが失禁している。ディレクターはその映像を撮るのを制止する。
蒲郡の件もそうだが、こんな悪さをする奴が存在するのかもしれない。最近のオレオレ詐欺の手口で電話番号を0110にして、相手を信用させるのがあるらしいね。何でこんなことやるんだろう。
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映画「湖の女たち」 吉田修一&大森立嗣

2024-05-18 10:10:40 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「湖の女たち」を映画館で観てきました。


2007年のある時から、観た映画の題名をずっと記録している。ちょうど17年で3333本となった。3が並んだキリのいい数字の記念すべき作品になる。

映画「湖の女たち」は、大森立嗣監督が,吉田修一の原作を映画化した新作である。この2人は自分が好きな名作「さよなら渓谷」でもコンビを組んでいて楽しみにしていた。関西の湖のほとりにある介護施設で起きた事件の犯人探しに動く刑事と施設で介護職に就く人たちとのやりとりを中心にストーリーが進む。スタートから夜明けの湖の映像が不気味である。ムードは決して明るくない。

湖畔にある介護施設で100歳の寝たきり老人が亡くなった。事件の捜査にあたった西湖署の若手刑事の濱中圭介(福士蒼汰)とベテランの伊佐美(浅野忠信)が死因を確認すると、故意に人工呼吸装置が外されていることがわかる。これは殺人だ。

圭介は伊佐美から強い指示を受けて施設の担当介護士松本(財前直見)に執拗な取り調べを行なう。圭介は取り調べで出会った挙動不審な介護士佳代(松本まりか)に接近していく。


一方、事件を追う週刊誌の女性記者池田(福地桃子)は、この殺人事件と署が捜査を中断した薬害事件に関係があることを突き止めていく。調べていくと亡くなった老人が隠蔽してきた恐るべき真実に絡むことがわかる。

単なる老人の殺人にとどまらない重層構造のストーリーである。
取り扱う題材が多い。独立して映画ができるいくつもの題材を一つの映画に盛り込む。

ただ,主役2人の偏愛の意味は最後までよくわからない。

吉田修一、大森立嗣コンビの「さよなら渓谷」はじんわりと心に沁みる作品だった。真木よう子も大西信満もよかった。同じようなムードだけど、ただ長いだけになっているシーンも多かった。余韻ではなく無駄な時間が多い気がする。

松本まりかには偏愛も絡んだむずかしい作品だった。水中のシーンも含めて体当たり演技で頑張った。浅野忠信は性格の悪いパワハラ刑事役で福士のアタマを何度もこづく。刑事の熟練度で対比をみせるのは古典的刑事映画の手法だ。


題材が多い。
⒈介護施設において看護師と比較して地位の低い介護士
介護施設内でも序列があり、看護士より介護士の方が給与が低い。老人たちも看護士が薬を飲めと言えば飲むが、介護士の言うことは聞かない。犯人の疑いも介護士に向けられる。

⒉自白を強要する刑事の執拗な取り調べ
ベテラン刑事(浅野忠信)のパワハラがひどい。でも、警察署幹部は目をつぶる。財前直見演じる介護士はたぶん違うと若手が言っても、ベテラン刑事は他にありえないと若手刑事から無理やり自白させようとする。ひと昔前は常識と思われた自白の強要で、介護士の目の前に押印署名用の書類を置いて書けと強迫する。介護士が交通事故で負傷した後も繰り返す。


⒊第二次大戦中の731部隊の人体実験と薬害問題
ベテラン刑事は死者が50人も出た薬害問題の捜査に以前あたっていた。ところが、薬害問題を揉み消そうとする政治家からの圧力で捜査が中断する。今回は、週刊誌記者池田が問題の匂いを嗅ぎつける。そして、今回亡くなった故人の妻(なんと三田佳子久々見た)からも取材もしていくのだ。戦前あった故人の秘密があらわになる。戦後間もない帝銀事件の真犯人は平沢某ではなく、731部隊関係だと言われてきた。ずいぶんと壮大な話に転化する。


⒋優生思想
相模原の障がい者施設で起きた大量殺人事件とそれを題材にした映画「月」では、ヒトラー並みの優生思想で、生きている意味のないとされる障がい者が大量に殺される。それらに発想を得たのであろうか?同じように「生産性のない人は不要」と思う人たちが出てくる。それは意外な人物だった。

ネタバレに近いが、介護士の佳代を犯人のように仕立てて、ずっと追っていって、2つの事実を追う。この映画は最終的に断定しない。でも、万人がそうでないかと思わせる形で締める。くどいが、主人公2人の戯れはなんでこうなるのかよくわからない。
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映画「不死身ラヴァーズ」松居大吾&見上愛

2024-05-15 18:30:08 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「不死身ラヴァーズ」を映画館で観てきました。


映画「不死身ラヴァーズ」高木ユーナの同名恋愛漫画の映画化。「ちょっと思い出しただけ松居大吾監督がメガホンを持つことで気になる作品だ。あの映画が好きだ。主演の見上愛と佐藤寛太はあまりよく知らない。「青春18×2」観て以来、ラブストーリーが急に見てみたくなった。映画ポスターで主演は小松菜奈かと思ったら,見上愛だった。2人はよく似ている。

長谷部りのは幼い頃生死をさまよう病気をしたときに,ベットで同世代の少年甲野じゅんと出会い,思いがけずに回復してしまう。


やがてりの(見上愛)は中学生になり、甲野じゅん(佐藤寛太)と再会する。陸上部員として苦楽を共にして「好き」と打ち明けた時、突然じゅんが目の前から消えてしまう。高校生になってからも音楽部に所属するじゅんと出会うがまた消える。やがて大学に進学したりのが部活勧誘を受けてじゅんに再び再会した後で、じゅんが病気を抱えていることを知る。

ほのぼのとしているムードでも一途なラブストーリーである。
田舎町が舞台でのんびりとしたムードでストーリーが進む。エンディングロールで山梨県上野原市がロケ地とわかるが近くに水量の多い川が流れる緑あふれる場所だ。甲野じゅんが住む家は和風の古家だけど雰囲気がある。大学に入ると海辺の家だ。それも含めてロケハンには成功している作品だ。

見上愛小松菜奈に似ている。カエルのような顔をしている。一途な愛情を保つりのにぴったりの愛嬌のある女の子だ。実は出演作を見るとこれまで見てきた映画が多い。あ、そういえばあの時出ていたのかと思ってしまう。今まで存在を意識した事はなかった。ある男性のことを思い続ける、まさに愛の肯定だ。ロマンチックな話だけど、そこに難病の存在で変化をつける。


そもそも人が目の前から消えてしまうなんてありえない。まさに漫画チックなファンタジーだ。成長していくたびにじゅんに出会う。まさしく反復だけど、予想通りに進む寸前で若干の変化をつける。この辺りのかわしはうまい。あとはりのと同級生の男の子田中の使い方も上手い。途中から行きつけのバーのマスターになる。普通なら三角関係になるのにならない。徹底的に恋愛の肯定を追求する一方で、男女間の友情も追う二股がめずらしく成功する。


あとは最後の主題歌澤部 渡(スカート)「君はきっとずっと知らない」が良かった。
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映画「あまろっく」 江口のりこ&中条あやみ&笑福亭鶴瓶

2024-04-20 21:13:19 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「あまろっく」を映画館で観てきました。


映画「あまろっく」は江口のりこ主演の尼崎を舞台にした人情コメディーである。監督は中村和宏。私の妻は尼崎生まれで、小学校高学年までそこで育った。以前一緒に尼崎に行った時,阪神尼崎駅近くの古典的な商店街に驚いた。昭和にタイムスリップしたかのようだった。妻の生家の近くの風景が,映るので、気になっていた映画である。加えて、自分は江口のりこのファンで「ソロ活女子のススメ」が特に大好きだ。早速映画館に向かう。

京大を出て大手総合研究所に勤めていた主人公近松優子(江口のりこ)は現在39歳、会社で理不尽なリストラにあって尼崎にある実家に戻った。母(中村ゆり)は既に亡くなっていて,町工場を営む父親近松竜太郎(笑福亭鶴瓶)と一緒に住むことになった。ある日、父親から再婚しようと思ってると聞き承諾したが,連れてきたのは20歳の早希(中条あやみ)だった。市役所に勤める早希は育った家庭環境もよくなく、一家団欒に憧れていた。3人の共同生活が始まる。


ストーリーは単純にはいかず、面白かった。
たまにこういう日本映画を観るのはたのしい。演技巧者の江口のりこや笑福亭鶴瓶は、当然安定感があるが,中条あやみも、この2人を相手に堂々とした演技を見せてくれる。よかった。もし仮に本当に同じようなことが起きるなら,誰もがびっくりするだろう。娘優子は年齢相応の女性を連れてくると思っていた。最初は連れ子かと間違える。お嫁さんになった早希は一生懸命優子に近づこうとするが、なかなか受け入れられない。

やがて,大きな異変が起きる。父親の竜太郎が突如亡くなってしまうのだ。この映画は3人の生活を描いていくのかと思ったら,唐突に亡くなるのだ。結局2人で住むことになる。様々なできごとが起きていく。

しかも、竜太郎が亡くなっていたにもかかわらず,早希は妊娠してしまうのだ。


江口のり子演じる優子は、子供の頃から周囲と馴染めない性格であった。会社に入っても同様である。できない男を罵倒する。京大出のエリート社員だったにもかかわらず,リストラにあってしまう。近所のおばさんの息子が30代で、同じ京大出の独身ということで,お見合い話が出てくる。ボート部の選手だった優子の姿を知っていたお見合い相手が,裕子に関心を示す。この恋の行方も見どころの1つである。


飄々とした江口のりこのキャラは「ソロ活女子のススメ」に通じるものがある。長身の江口のりこに引けをとらないモデル出身の中条あやみの2人が並ぶと周囲が小さく見える。


バックに映る尼崎の風景は,いかにも庶民的で親しみが持てる。竜太郎が町工場の社長で、鉄工所や竜太郎が通う銭湯なども大衆的だ。昭和の匂いをプンプンさせる商店街も何度も出てくるし,阪神尼崎駅も登場する。観光名所の1種として尼崎城というのがある。今回は尼崎城で優子がお見合い相手とデートするシーンが何度も出てくる。あまろっくというのは、台風などでの水害に悩まされてきた尼崎を守る水門である。工場のベテラン工員役が佐川満男と知り、懐かしくなったが、訃報に接して驚いた。
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映画「一月の声に歓びを刻め」 カルーセル麻紀&前田敦子&三島有紀子

2024-02-12 17:36:38 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「一月の声に歓びを刻め」を映画館で観てきました。


映画「一月の声に歓びを刻め」は女流監督の三島有紀子が、幼児時代の性暴力体験に関するトラウマに基づき企画した作品だ。一線級の俳優が集まり、北海道、八丈島、大阪で3本の短編映画を撮る。三島有紀子監督の「幼な子われらに生まれ」荒井晴彦の脚本ということもあってか実に良かった。ただ、その後の監督作品「ビブリア古書堂の事件手帖」「Red」はストーリー自体に気にくわない場面があった。何気なく見たこのポスターの名前にカルーセル麻紀とある。ずいぶん久しぶりだなあと感じつつ映画館に向かう。

雪降り積もる洞爺湖の湖畔の家で一人暮らすマキ(カルーセル麻紀)が長女(片岡礼子)夫婦と孫と4人でおせち料理を食べながら新年を祝う。しかし、会話にはわだかまりがある。それは6歳で性暴力を受けて亡くなった次女の存在があったからだ。父親はその後性転換して女性になっていた。 

八丈島で牛飼いをしている誠(哀川翔)のもとに娘の海(松本妃代)が5年ぶりに帰郷した。妻は交通事故で亡くなっている。海はお腹が大きくて妊娠しているようだが、何も言わない。ただ、海岸で一人泣いていて海の様子がおかしい。誠が海のいない部屋に⼊ると⼿紙に同封された離婚届を見つけてしまう。


大阪の堂島、れいこ(前田敦子)は元恋人の葬儀出席で大阪に戻る。葬式帰り、鉄橋の下で悶々としていると、レンタル彼氏をしている男(坂東龍汰)に誘われる。名刺の名前に吸い寄せられそのまま男とホテルに入っていく。そこで、幼少期性暴力にあったトラウマで元恋人と向き合いきれなかった自分を回顧する。


久々に観たカルーセル麻紀の怪演に圧倒される。必見だ。
洞爺湖周りの雪景色が美しく、湖畔の家での家族の団欒のシーンでは、きめ細かくおせち料理の数々が美しく映し出される。老いてグレーヘアの少し変貌したカルーセル麻紀宇野祥平、片岡礼子との食卓での立ち回りがどこかおかしい。亡くなった片岡礼子の妹の存在は徐々にわかっていく。女性として生きてきた父親を、娘は今も受け入れていない。ツライ親子関係だ。

家族が帰った後カルーセル麻紀が一人で次女を憂うシーンや一気にニューハーフ系の濃い化粧に化けるシーン、雪降り積もる湖畔を歩きながら嘆き悲しむシーンが圧巻だ。10年ぶりの映画出演だというカルーセル麻紀が各種主演女優賞を受賞してもいいと感じる。改めて1942年生まれと確認して驚く。なぜなら、彼女と同世代の自分の元上司が近年次々と亡くなっているからだ。今の若い人はカルーセル麻紀を知っているだろうか。


自分が小学生の頃、当時はオトコ女なんて言われていたカルーセル麻紀はレアな存在だった。親に隠れてこっそり見るエロ系番組では常連で、TVのショーでスカートをハサミで切られる場面が50年以上たつけど脳裏に浮かぶ。モロッコでアソコを切った後、何かというとTVで見かけた日本のニューハーフのはしりだ。今回はカルーセル麻紀に出演をオーダーした三島有紀子のキャスティングの勝利であろう。すごい!

八丈島の物語は、5年ぶりに実家に帰ってきた娘が懐妊していて、その娘が結婚したことも親に告げずに離婚届を持ってきて慌てるという話だ。ちょっとした短編小説を読んだような後味をもつ。ここでの八丈島とその周囲を映し出すカメラワークは抜群で、じっくり映像素材になるシーンをストックするために長く島に滞在した感じがする。三島有紀子監督の映像センスを感じる。


三島有紀子自らの体験にダブらせるのは三島の故郷大阪を舞台に前田敦子が演じる短編だ。作品情報を読むと、大阪を舞台にした同作のロケハンで三島有紀子が訪れた場所で、偶然事件の犯行現場に遭遇したらしい。これもすごい話だ。そこで自身の過去を映画にすることを決意したようだ。

この映画だけモノクロだ。何か意味があるんだろう。やたらとを映すが、女性器を連想させるため?前田敦子がこの映画ではメインなんだろうが、正直なところこの短編がすごく良いとまで思わなかった昔の哀しみを表現するための長回しは三島有紀子自らの考えだろうが、ちょっと間延びした印象を持った。


カルーセル麻紀が雪の中演技し終わった後で太地喜和子から声をかけられたそうだ。人智を超えた記事があった。大酒のみの仲間だったのだろう。こんな台詞がカルーセル麻紀は似合う。なぜか昭和の怪優が復活した。一世一代の芝居だ。
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映画「市子」 杉咲花&若葉竜也

2023-12-20 21:42:53 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「市子」を映画館で観てきました。


映画「市子」は突然失踪した同居人女性は他人だったことがわかって、彼女の過去を追いながら現在の行方を探るミステリードラマだ。ここに来て主役での起用が増えている杉咲花と若者の偶像を描く作品で活躍する若葉竜也の共演。監督脚本の戸田彬弘監督作品を観るのは初めてでオリジナル作品だ。

予告編で、結婚を申し込んだのにその女性が別人だったという設定は分かっていた。ただ、それだけではストーリーの全容はわからない。昨年公開の死んだ夫が別人だった「ある男」をとっさに連想する。若葉竜也が毎度常連の今泉力哉監督の新作に出ずにこちらにかけたのかとも思いつつ映画館に向かう。

市子(杉咲花)が同棲している長谷川(若葉竜也)からプロポーズを受けて喜んでいる。ところが、市子は長谷川が帰宅する前にアパートを飛び出して行方不明になる。その長谷川を後藤刑事(宇野祥平)が市子の写真を持って訪ねてくる。そして、あなたの暮らしていた女性は市子ではないと言われあぜんとする。警察が捜査を進めるとのと同時に、長谷川は市子が歩んできた道筋を追いかけていく。



構成力に優れたミステリーだ。
時間軸をずらしながら、市子の歩んできた道筋を追っていく。途中でこの映画の結末がどのようになるのかよめないミステリー要素がある。映像から目が離せない。それぞれの場面に軽い伏線を残しながら、真実に迫る。俳優陣の演技もいいけど、巧みに構成して編集をまとめた戸田彬弘監督をほめるべき映画だ。予想外によくできている。もっと評価されてもいい。

時間軸は小学校時代、高校生時代、そして現在と3つの時代をめぐっていく。

小学校時代にすでに母親(中村ゆり)はシングルマザーで、夜は飲み屋で働いている。市子は小学校時代から普通ではない。カネがないので万引きもしてしまう。同級の友人とのお付き合いで、仲良くなったり、ケンカしたりするエピソードに伏線を散りばめる。それがのちのちの謎解きにつながっていく。

高校時代からは、市子を杉咲花が自ら演じる。市子の付き合っている男、市子を慕う男子の同級生母親のもとにたむろう男たちとの関わりが映し出される。シングルマザーの母親はいかにもという感じで男出入りが多い。そこからある事件につながっていく。


いくつもの時代を巡るエピソードで、少しづつ市子のこれまでの人生がわかっていく。市子はTVのニュースで白骨遺体が発見されたことに敏感に反応して家を飛び出す。でも、少しずつ謎が解けても肝心の市子が最終どうなっていくのかがわからない。どういう形でストーリーに区切りをつけるのかドキドキしながら追っていた。

杉咲花は身近にどこにでもいそうな女の子だ。高校生役を演じてもあまり不自然さはない。シングルマザーにまとわりつく変な男との微妙な関係を巧みに演じる。「法廷遊戯」でも殺人に絡んだが、むずかしいシリアスドラマを平気な顔をしてこなす。起用しやすいタイプなので来年も出番は多いだろう。


若葉竜也現代若者の偶像を描くには欠かせない俳優だ。失踪して探していく中で、刑事だけでなくむかし市子が関わり合った同僚、同級生、市子の身内など色んな人と交わる。探す側なので出番がむしろ杉咲花より多いかもしれない。今泉力哉監督作品などで超絶長回しをこなしているので、演技には安定感がある。

特に中村ゆり演じる母親と会う場面がよく見えた。徳島の海辺の町での場面は、海辺のロケーションも含めて肝となるシーンだ。ここのところ、シングルマザーがでる映画が多く、人気女優が次々と堕落したシングルマザーを演じている中でも美形の中村ゆりに実際にいそうな水商売独特の匂いを感じる。杉咲花に漏らすあるセリフにドキッとする。

もともとは舞台劇として設定した「市子」とは言え、今回は登場人物が住む寂れたアパート、むかし市子が住んだ古めの団地小学校校内ベイサイドなどロケーションが主体でリアルな空気を感じさせる。


エンディングの前まで、結末がわからなかった。最後はディテールを語らずにある人物を映し出した。
これでいいのではないか。
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映画「隣人X 疑惑の彼女」上野樹里

2023-12-09 08:17:37 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「隣人X 疑惑の彼女」を映画館で観てきました。


映画「隣人X 疑惑の彼女」は小説現代長編新人賞を受賞したパリュスあや子の小説「隣人X」を、上野樹里と林遣都の共演で映画化した作品だ。もちろん原作は未読。映画ポスターの上野樹里には、30代半ばの凛々しさがあって素敵だ。気になる。

「スウィングガール」上野樹里に注目した後も三木聡のカルト映画「亀は意外と速く泳ぐ」「陽だまりの彼女」などが好きだ。いずれもファンタジーとまでいかないが、異類との交わりの要素をもつ。この映画にもその匂いを感じて映画館に向かう。

ある日、日本は故郷を追われた惑星難民X の受け入れを発表した。 Xは人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだ。 X は誰なのか?日本中でX を見つけ出そうと躍起 になっている 。

スクープがとれない鳴かず飛ばずの週刊誌記者の笹(林遣都)が「X特集」の取材班に起用される。各取材記者にX 疑惑リストが配られて身辺を調べるよう指示される。笹のリストには良子(上野樹里)と留学生のリン(ファン・ペイチャ)の2人のリストがあった。2人は同じコンビニで働いていた。笹は正体を隠して宝くじ売り場で掛け持ちで働く良子に近づく。

ちょっとしたきっかけで強引に良子を食事に誘った後も、笹は積極的にアプローチするとともに距離を縮め良子の素性に迫る。そうしているうちに恋心が徐々に芽生える。しかし、Xだと示す決定的証拠が見つからない。編集長(嶋田久作)からは記事になるネタを出せと結果を求められる。クビ一歩手前だ。笹は契約社員でカネがない。スクープを取るために,良子の実家に行って両親に会うことを決意する。


次にどうなるかが読みづらい。
世間の諸問題をいくつも含んだ物語の構造で、意外性もある映画であった。


SF的な展開を予想したが,さほどでもない。非現実の世界を描くことは少ない。原作者パリュスあや子フランス居住で、イスラム系難民の話題から原作の発想を得たという。それを監督脚本の熊澤尚人がかなりアレンジしているようだ。しかも、上野樹里と監督がディスカッションした結果、セリフも都度書きかえて脚本にしているという。なるほど良くできているのもうなずける。

主人公良子(上野樹里)は、田舎に両親がいる36歳独身の1人暮らしの設定だ。感情の起伏が少ない。女性っぽい女々しさはなく泣いたりわめいたりしない。セリフは淡々としている。同世代の女性の目線で作り上げた物語に不思議なリアル感を感じる。

映画は、週刊誌記者の目線で物語が展開していく。スクープがとれない契約社員のダメ週刊誌記者が,世間で話題になっている宇宙から来た移民者Xの謎を明かす取材班に運良く加わることができた。功を急いで良子に焦点を絞って、ないふり構わず近づいていく。

もともとはスクープをとることしか考えていなかったのに、ずっと近づいていると徐々に恋愛感情が生まれる。ただ、いかんせん金がない。祖母の施設費用も払えなくて追い出されそうだ。編集長からも責められる。窮地に立たされて、好きになった良子の両親からXだという証拠をとることで解決しようとする。記者としてXの正体を暴くのと、恋愛を成功させるのはトレードオフだ。複雑な立場に頭を悩ませながらも功を急ぐ林遣都が上手い。自分が同じ境遇だったらきっと発狂しているだろう。


ずっと前から好きな上野樹里が30代半ばになってグッといい女になった。
かわいさで売る初期の作品も良いが、少し大人になって撮った「陽だまりの彼女」上野樹里が抜群に良い。中学の時いじめられっ子だった女の子が突然美しくなって目の前に現れる。そんな設定も良かった。そんな1人のファンとして30代半ば過ぎた上野樹里をここで再度見直す。ストーリー展開だけでなく、セリフまで提案するというのは、若くして数多くの作品に出演して映画を知り尽くしたからだろう。渡辺淳一の「失楽園」をはじめとして、素敵な女性主人公に30代半ば過ぎの女性が多い。また、彼女の出演作が観たい。


この映画を観て、反省しなければならないことがあった。Xの疑念を持たれた台湾留学生リンが登場する。学業に専念したいが、生活のためにコンビニと居酒屋の両方でバイトする。言葉が不完全なので、顧客の要望に応えられない時がある。映画では繰り返し登場する。それもテーマになっている。原作者パリュスあや子日本育ちでフランスに移住するあたりで似たような苦労をしたかもしれない。

最近街中では、留学生のバイトを見ることが多い。確かに、たどたどしい言葉は聞こえずらいし、意思疎通を図りにくい。この映画では登場人物がかなり留学生をバカにしている場面がでてくる。ただ、自分を振り返ってそれに近いことをしていなかったのか?自分は絶対に違うとは言い切れないと思い、同じような場面に出くわしたら、こちらから目線を落として助けてあげねばならないのかと感じた。
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映画「朝がくるとむなしくなる」唐田えりか&芋生悠

2023-12-07 19:06:53 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「朝がくるとむなしくなる」を映画館で観てきました。


映画「朝がくるとむなしくなる」唐田えりか主演の新作でつい先日「こいびとのみつけかた」で主演を張っていた芋生悠が共演している。女流監督の⽯橋⼣帆がメガホンを持つ。2人の注目の若手女優が共演というのが気になる。瑞々しい2人である。サイン会兼ねた舞台挨拶付き上映に行った人うらやましい。

コンビニでバイトしている希(唐田えりか)は営業の仕事に疲れて会社を辞めたあと、1人暮らしで平凡な日々を送っている。たまたま、来店した加奈子(芋生悠)は中学の同級生で、希に声をかける。中学の時加奈子が転校して久々の再会だったが、それぞれの心の悩みを語り合う。

唐田えりかと芋生悠の2人の魅力的な若手女優を観に行くためだけの映画である。
これも低予算の映画であろう。先日「こいびとのみつけかた」の時もそうだったが、それよりも予算が少なさそう。コンビニや居酒屋など身近な所だけでロケをしている。コンビニの店員が芋生悠から唐田えりかに代わっただけで同じようなものだ。

ストーリーに大きな起伏がない。いろんな映画賞にエントリーしていると書いているけど、監督もさすがにずぶと過ぎる。悪いけど、そのレベルの映画ではない。でも、唐田えりかと芋生悠は魅力的なので許せる。


都会で就職したが、営業の仕事に疲れて辞めて悶々とバイトしながら暮らす女の子ってこんな気持ちを持ちながら暮らしているというセリフが続く。芋生悠も派遣社員の役だ。

大学新卒も一般職での募集は少なく、ほとんど総合職かつ営業でスタートの場合が多い。入社したては希望に満ちて元気がいいけど、すぐに夢破れ辞めていく。女性がやろうと思ってもたいていは脱落する。今の世の中には、この映画の唐田えりかみたいな女の子が多いと思う。

ただ、コンビニのバイトだけで家賃払って暮らしていけるのかな?別にマンションでなく普通のアパートでも都内周辺で家賃7万以上にはなる。この映画の設定では、会社を辞めたことは親には言っていない。生活の不足分がもらえる訳でもない。同じような境遇で、女性が付くスナックやラウンジには昼仕事してバイトしている女の子が東京にはわんさかいる。そうでないと生活できない。そう設定した映画をつくったほうが現代で考えると自然だと思う。そんな唐田えりかも見てみたい。


それにしても唐田えりかはかわいい。濱口監督「寝ても覚めても」で初めてみてから追いかけている。東出昌大に引っかかったのは運がなかった。世間のバッシングを浴びて気の毒だった。おそらくは、女性に嫌われがちの警戒されるタイプだろう。この映画での独白を聞きながら、あの低迷時期の彼女を想い、ジーンとくる。マスコミやへんな女にいじめられてかわいそうだったね。

でも、のような美人がいても唐田えりかを口説く東出の気持ちはほとんどの男たちはよくわかるだろう。毎日、高級フレンチばかり食べていても、シンプルな和食が食べたくなるものだ。ただ、「寝ても覚めても」以降の主演作品はイマイチ。作品に恵まれてほしい。映画への予算が大きい韓国映画界に進出という記事もあり、それもいいかもしれない。


芋生悠は素朴な感じがよかった「ソワレ」で注目して「こいびとのみつけかた」で主演を張り、それも観に行った。彼女もかわいい。唐田えりかとは仲がいいらしい。もうちょっと、レベルの高い映画で2人の共演が見たい。
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映画「ほかげ」

2023-12-02 09:44:38 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「ほかげ」を映画館で観てきました。

映画「ほかげ」は戦後のまもない時に懸命に生きようとしていた人たちを描く塚本晋也監督の作品である。朝の連続ドラマ「ブギウギ」で主演を張る趣里がクレジットトップとなるが、実際には子役の塚尾桜雅が中心である。謎の男森山未來にも絡んでいく。感想は書きづらい。

女(趣里)は、 半焼けになった小さな居酒屋で1人暮らしている。体を売ることを斡旋され、戦争の絶望から抗うこともできずにその日を過ごしていた。空襲で家族をなくした子供(塚尾桜雅)がいる。 闇市で食べ物を盗んで暮らしていたが、ある日盗みに入った居酒屋の女を目にしてそこに入り浸るようになり…。(作品情報 引用)


趣里が出ている場面は舞台劇のようだ。居酒屋も兼ねている小さな小屋のセットで話が繰り広げられる。居酒屋の金主のような男に加えて、戦災孤児と金なしの復員兵の3人が登場する。本当は客をとってもっと稼ぎたいのに、孤児と復員兵が出入りして居座ってしまう。なかなか稼げない。戦災孤児は食糧を盗みに入り生き延びてきた。なぜか拳銃を持っている。カネを工面すると言っていた復員兵は徐々に精神が安定しない状態になる。

しかし、イザコザができて2人とも趣里の元を離れる。

そのあと少年は復員兵の負傷した男と行動を共にする。閉鎖的な舞台劇のような場面から、屋外に風景が移る。古い家と闇市のセットが登場する。復員兵にはある企みがあったのだ。


ともかく暗い映画だ。
戦後間もない時期で、しかもその中でも底辺を彷徨う人間を映す。明るいきざしは見当たらない。もともと期待しないで観た映画だが、観ている途中から身体中がどんよりしていく。自分にはちょっと合わなかった。気分の悪い時にはお勧めしない。

それぞれの俳優はむしろ頑張っている。特に、子役の塚尾桜雅の演技レベルは大人並みだ。少年がもつ純粋な目の輝きが際立つ。今後も子役として頻繁に起用されるだろう。「ブギウギ」のノリで趣里に期待した人は対照的な姿で肩透かしをくったかもしれない。でも趣里の演技にも見所があるし、森山未來もいつも通りでいい。瓦礫が残るこの町が回復していく姿をもう少し見られれば、少しは気が晴れたかもしれない。
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映画「愛にイナズマ」 松岡茉優&石井裕也

2023-10-29 17:10:22 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「愛にイナズマ」を映画館で観てきました。

映画「愛にイナズマ」は先日「月」を公開したばかりの石井裕也監督松岡茉優主演で描く新作ヒューマンドラマである。2作同時並行でつくったのだろうか?暗さの極致をゆく「月」とはタイプが違うのは予告編でわかる。ただ、松岡茉優や池松壮亮が大声をだしてケンカしているような印象はあまりよくない。

それでも、石井裕也のオリジナル脚本となると興味はわく。元妻満島ひかり主演の「川の底からこんにちは」で石井裕也監督を知ってから、作品によって好き嫌いがあっても追いかけている監督だ。先入観なく恐る恐る観にいく。

映画監督として名前がWikipediaにも載る折村花子(松岡茉優)は、プロデューサーの原(MEGUMI)の推薦で新作の監督を任せられる。新作は花子の実家について書いた脚本で映画歴の長い荒川(三浦貴大)が助監督につくことが決まる。ところが、花子のやり方に原と荒川がやたらとケチをつけるので、嫌気がさしている。そんな時花子は町を歩いていると、ケンカの仲裁に入ったのに殴られて倒れている男を見つけた。その後、バーでバッタリその男正夫(窪田正孝)に会う。正夫と同居する落合(仲野大賀)がたまたま花子の映画に出ることになっていて意気投合する。


その後、花子は自分のオリジナル脚本なのに監督を降ろされる始末に憤慨。実家の父親(佐藤浩市)に連絡して、実際の家族ドキュメンタリーとして映画を撮ろうと長い間疎遠だった長兄誠一(池松壮亮)や次兄雄二(若葉竜也)を呼び出し、正夫も連れて行ってカメラをまわす。

予想外によくできた作品だった。十分楽しめた。
予告編を観て良いなあと思った後、実際に観に行く。悪くはないけど期待ほどでもないことがある。昨年でいえば「ある男」や「死刑にいたる病」がそうだった。この映画は真逆で、予告編の期待を裏切ってよかった。出演者がよくわからずわめいていて家族再生の物語と想像できるけど、ごちゃごちゃしているなあと思っていた。自分と同じように感じてスルーした映画ファンがいれば悲劇だ。

基調になるのは松岡茉優演じる映画監督の成長物語である。前半戦は窪田正孝との出会いも語られるけど、ようやくチャンスをもらって這いあがろうとする健気な姿を映す。そこに石井裕也監督がたぶん実体験として感じてきた業界の暗部や映画づくりのエピソードを織り込む。これがリアルでいい。

主人公が葛藤する相手として、いやらしくMEGUMIや三浦友和のセガレを配置する。石井裕也が映画界で言われたことのあるイヤな言葉をセリフにしている感じがする。いじめられる松岡茉優応援したくなる気持ちになってくる。


加えて、コロナ禍で出没した道徳自警団的な少年を登場させたり、アベノマスクのことや飲食店が休業補償金でかえって潤う話などコロナ禍で経験したエピソードを盛り込む。われわれが昭和30年代の映画を観てこんなことあったんだと思うのと同じように後世の人たちはコロナ禍を振り返るかもしれない。

単なる家族再生の物語だけだったら、こんなにいいとは思わなかっただろう。映画界の裏話的要素が濃くでていい。だから退屈しない。池松壮亮や若葉竜也、佐藤浩市など石井裕也監督作品の常連をうまく脇に使って、監督と初コンビの松岡茉優と窪田正孝を引き立てる。いくつか疑問点はあっても満足できる。

⒈松岡茉優
花子は常にハンディカメラをもって外出先での一挙一動に目を配る。気がつくことがあると、左利きのペンでメモを走らせる。カッコいい。あとで何か使えることがあればと映画ネタをかき集める姿勢がいい。でも、家賃は滞納して督促がくるくらいの極貧生活だ。Wikipediaに映画監督として名前があっても、実質デビュー作。プロデューサーと助監督から、「あらゆる行為には理由がないとダメだ」と散々言われてめげるけど後がないから粘る

実家の父親とは疎遠。父から電話が来ても出ない。兄2人とは10年会っていない。それでも、自らの脚本で映画化が決まり準備していた監督を外されると、実家に乗りこみ、家族を撮っていくぞと父と兄にカメラを向ける。食肉工場で働いていた従順な正夫を実家に引き連れ挽回をはかる。思わず応援したくなる女の子だ。


働き方改革で日本人がみんな怠け者になりつつある中で、昨年の「ハケンアニメ」吉岡美帆のように仕事にがっつく女の子がメインになる映画って好きだ。

⒉池松壮亮
黒澤明に対する三船敏郎みたいな存在になりつつある石井裕也監督作品の常連だ。前半戦は松岡茉優の映画づくりに向けての話が中心で出番がない。今回は主役の兄役で脇に回るけど、後半に向けて徐々に存在感が高まる。池松壮亮は斜に構えた感じの会社社長秘書役で1500万するBMWを乗り回す見栄っ張り。妹の撮影になんで付き合うの?という感じから徐々に変わっていく。

主役のジャズピアニストを一人二役で演じる「黒鍵と白鍵のあいだ」が公開されたばかりだ。池松壮亮はピアノを練習して頑張ったにもかかわらず、残念ながら映画自体に欠点が多すぎた。しかも、一晩の話にしようとするのに無理があった。

ネタバレに近いが、最後に向けて池松壮亮の見せ場を用意する。個人的にはこのパフォーマンスを見て胸がスッとした


⒊佐藤浩市
今年は公開作多いなと思ったら、なんと8作目(Wikipediaでは9作)だ。自分より少し年下で同世代なのに頑張るねえ。殺し屋役だった「藤枝梅安2」では強い存在で恐怖感を増してくれた。おかげで映画に広がりができた。意外に流行らなかったが、自分は好きだ。

こうやって15年間ブログやっていると、佐藤浩市が主役を張った「KT」「ああ、春」なんて古い作品も取り上げている。三井住友信託銀行のCMなどで映画だけでなく露出度が高い。

もともと二枚目俳優なんだけど、「春に散る」「愛にイナズマ」いずれも白髪で登場して死にいたる病にかかっている設定だ。今回の方が、妻に逃げられて家族も近寄らず男一人で余生を過ごす情けない役。こんな役が続くと、同世代としては複雑な思いもする。ただ、家族の再生が実現しそうなのでまあいいか。


⒋窪田正孝と仲野大賀
食肉工場で働く飄々とした青年だ。ひょんなキッカケで花子と知り合う。地道に貯めたお金を金欠の花子に提供して、花子の思い通りに映画を撮らせてあげようとする。いわゆるいい人だ。宮沢りえが選挙に臨む「決戦は日曜日」の秘書役も宮沢りえの不始末を処理する良い人役で、気のいい奴って配役も多い。その反面で、「春に散る」では横浜流星と対決するアクティブなボクサーを演じた。斜に構えた男って池松壮亮が演じそうな役だったけど、うまくこなす。

石井裕也監督の「生きちゃった」で主役を演じた仲野大賀窪田正孝と同居する俳優志望の役だ。ただ、配役がもらえず結局自殺してしまう。この映画にはベテラン俳優の役で大賀の実父中野英雄も出演している。2人同時には出ないが、場面が近いので思わず唸った。石井裕也はあえて意識したのか?

中野英雄が自殺する証券マン役で出ていた「愛という名のもとに」は高視聴率で自分も見ていた。当時、バブル崩壊が表面化したころで、自分の後輩がいた大手證券ではバブル崩壊で住宅ローンが支払えない人が社内で百人単位で出たと言っていた。金利も現在より数倍高いし証券マン受難の時期だ。もっとも今のZ世代は生まれていないけど。
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映画「こいびとのみつけかた」 芋生悠

2023-10-28 07:10:33 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「こいびとのみつけかた」を映画館で観てきました。


映画「こいびとのみつけかた」は日本のラブコメディ映画。成田凌と清原果耶共演「まともじゃないのは君も一緒」監督前田弘二と脚本高田亮が再度コンビを組む。好きな映画なので、気になってしまう。主演2人はメジャーではないけど、ヒロインの芋生悠村上虹郎共演の「ソワレ」で素朴な田舎の女の子を演じた時の印象が残る。普通だったらスルーしそうなパターンだけど、名脚本家高田亮の存在も気になり早速映画館に向かう。

植木屋で働く杜和(倉悠貴)はコンビニの店員園子(芋生悠)のことがずっと気になっていた。どうやって接近したらいいかと妄想を巡らせる中、親方の大沢(川瀬陽太)や同僚の脇坂(奥野瑛太)に早く声をかけろよとせかされる。杜和に名案が浮かび、木の葉をコンビニからずっと一つずつ置いていく。園子が気づいて歩いていくと、公園で杜和が待っていた。そんなきっかけで2人は会うようになる。園子は何故か廃工場の片隅で1人で暮らしていた。ちょっと風変わりな杜和のことも園子が気に入ってくれたように見えたが。


いかにも低予算の質素なラブコメディだ。
清楚で可愛い芋生悠のような女の子がいつも通うコンビニにいたら、若い男子は誰しもときめくだろう。どうしようかと想う気持ちがうまく進まないのがこの手の映画には多い。でも、主人公の杜和がすぐあこがれの女の子と付き合えるようになる。おや、これってどう展開するのか?時間が余るぞとふと考えてしまう。

主人公は植木屋に勤めている。植木職人というより、剪定した葉っぱを拾ったり下働きだ。人とうまく話せないのを補うのか、ニュース記事の切り抜きをいつも持って突然相手に記事の話題を語る。レアアースがどうしたとか、グローバルな話題を唐突に持ち出す。場の雰囲気がまったく読めない。樹木の剪定に行ったお客様の家でもそんな話を奥さんにして、迷惑だと先輩に止められる。すると先輩に反発するのだ。自分がどうしておかしいのかわからない。

そんな主人公杜和を園子は嫌がらない。普通に受け止めるやさしい女の子だ。廃工場の中にいて、新聞紙を包んで人形を作ったりしている。変わり者同士気が合うという恋だ。「まともじゃないのは君も一緒」でも、成田凌を世間に疎い予備校教師という設定にして、お茶目な高校生の清原果耶とのチグハグなコンビを組ませていた。今回は主役の男女が両方変わっている。



結局、ある意外な事実がわかり急展開していく。ただ、そんなにビックリするほどのストーリーではない。気楽な短編小説を読んでいる感覚だ。芋生悠の魅力でギリギリもっている。最近は暗めの映画が多いので、普通にラブコメディをという気分には悪くない。

芋生悠が魅力的だ。こんなかわいい子と付き合えたら舞い上がっちゃうだろうなあ。「アナログ」波瑠がキレイだった。いわゆるご令嬢が着るような高そうな服を着て上品に話す。こういう子もいいけど、自分は芋生悠の普通ぽい清純さに魅了される。高校生が歌うようなさわやかな歌声で、自分の気持ちを歌詞にした歌を唄う。和歌山が舞台の「ソワレ」での素朴な感じ。その時よりキレイになった熊本出身である。宮崎美子、森高千里といった熊本出身の美少女は歳を重ねても魅力を失わない。同じようになってほしい前途有望な女優だ。


高田亮の脚本で「さよなら渓谷」「そこのみにて光輝く」そして「オーバーフェンス」自分のベストの中にはいる好きな作品だ。若くして亡くなった佐藤泰志の作品の映画化をはじめとして、原作のある作品を巧みに映画にまとめるのが上手。直近の阿部サダヲ主演「死刑にいたる病」も同様である。

「まともじゃないのは君も一緒」と今回の作品は一連の作品と若干タッチが違う。オリジナルのこれらの作品には世間ズレした変人の主人公を放つ。男女の際どいシーンがない。ラブコメディで楽しんでいる感じだ。ミニシアター作品には常連の宇野祥平、川瀬陽太、奥野瑛太に加えて前作の主演成田凌も含めて脇を固める。映画としては普通だが、後味は悪くない。
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映画「月」宮沢りえ&磯村勇斗&石井裕也

2023-10-19 18:11:48 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「月」を映画館で観てきました。


映画「月」は辺見庸の原作を石井裕也監督脚本で描いた新作である。原作は未読だが、神奈川の障がい者施設での殺傷事件をもとにしていることはわかる。障がい者施設で働く職員を宮沢りえ、磯村勇斗、二階堂ふみが演じて、オダギリジョーが宮沢りえの夫役となる。暗そうなイメージでどうしようかと思ったが、怖いもの見たさに映画館に向かう。底知れぬ暗さをもった作品であった。

重度障がい者施設で非正規雇用で働くことになった堂島洋子(宮沢りえ)は、著名な文学賞を受賞したこともある作家だった。夫(オダギリジョー)との間に障がいのある男の子がいたが、亡くなっていた。洋子はスランプに陥って書けなくなり、生活のために施設に職を求める。小説家志望の坪内陽子(二階堂ふみ)や絵を描くのが得意なさとくん(磯村勇斗)などの若者が施設の職員として障がい者たちの面倒を見る。

施設に入所してみると、障がい者の病気の度合いは想像以上にひどい。職員による虐待と思しき行為も見られる。さとくんはもともと面倒見がよかった。でも、周囲の患者たちへの行為を見るうちに、自力で生活のできない障がい者たちがこの世に存在すること自体良いのかと思い始めていた。

障がい者の扱いについて問題提起する重いムードの作品だった。
舞台となる重度障がい者施設は森の中にある。そもそも、重度でなくても障がい者施設は市街中心部にはない。映画のシーンで、夜暗くなってから仕事を終えて職員が帰ろうとするけど、真っ暗で大丈夫なの?と思ってしまう。暗い場所に蛇や小動物がいるのを月あかりだけで映す。室内の照明設計もホラー映画のような薄暗さだ。

俳優が障がい者になりきって演技する場面が中心でも、どこかの施設で撮った本物の障がい者を映し出す。家族の承諾はもらったのであろう。実際の患者を宮沢りえや二階堂ふみが面倒を見る一コマもあるので、リアル感が高まる。街の心療内科や精神科に通院する心の病にかかった一般の患者とはわけが違う。精神科患者のデイケア施設を描くドキュメンタリー映画「アダマン号に乗って」よりも症状はキツそうだ。入所して監禁されてから一気に悪化して、目で見ることも聞くことも身体を動かすこともできない患者もいる。扱いが難しい重度の患者だらけだ。


あの事件がもとになっているなら、結末は見えている。韓国映画だったら、大量虐殺もえげつなく表現するだろう。ここでは残虐性の程度は抑えている。この映画は、殺人に及んだ施設従業員の狂気を見せつけるだけがテーマではない。障がい者施設に勤める人たちが月給17万の安月給でいかに大変な仕事をしているかを執拗に見せつける。その実態を石井裕也監督は示したいのであろう。

狂ったような大声を出したり、言うことを聞かない障がい者に虐待におよぶシーンもある。重度障がい者の面倒はたいへんな仕事なので、あの大量殺人事件の犯人のように優生思想に陥ってしまう職員が出てきてしまうことまで訴えている。

狂気の世界に踏み込む男の役を演じる磯村勇斗は若手の売れっ子だ。最近は「最後まで行く」「渇水」「波紋」と続く。もともと宮沢りえが入所した時の表情は温和で、絵が得意で紙芝居を障がい者たちに見せたりする模範的な職員だった。オマエは面倒見すぎでやりすぎだと他の男性職員に迫られる。でも、途中から急変する。一気に優生思想に陥る。自分には変わり方が不自然にも見えた。最後に向けての強行シーンは「八つ墓村」の殺人鬼が夜襲におよぶシーンにダブる


宮沢りえ、二階堂ふみ、いずれの職員も心に闇がある。宮沢りえ夫妻の子どもは生まれながらに障がいがあり、3歳になって言葉が発せないうちに亡くなった。言葉を話せない障がい者が自らの子どもにだぶる懐妊がわかっても複雑な心境だ。40歳すぎての出産では障がい児を生む可能性があると中絶を考える。それが優生思想によって重度障がい者を始末する行為とダブって混乱する。二階堂ふみには父親からの虐待の事実がある。小説を書いても認められない。


登場人物の心の闇のエピソードと障がい者たちへの対応をつなげるシーンが多い。全部示さなくて時間を短縮した方がいいのかなとは感じた。それにしても、考えさせられる映画だった。磯村勇斗の彼女が聴覚障がいなのに運転して、できるの?と思っていたらどうやら可能になったようだ。初めて知った。個人的には飄々としたオダギリジョーのキャラクターに好感をもてた。救いがないわけではなかった。
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映画「BAD LANDS バッドランズ」安藤サクラ

2023-09-30 17:20:23 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「バッドランズ」を映画館で観てきました。


映画「BAD LANDS バッドランズ」は振込詐欺を描いた黒川博行の小説「勁草(けいそう)」の主人公を男性から女性に代えた安藤サクラ主演の新作映画だ。原田眞人監督の監督脚本である。予告編の時からアウトローで面白そうだなという雰囲気がにじみ出ていた。「ある男」「怪物」安藤サクラよりも予告編で見るようなクセのある女が見たかった。大阪が舞台である。裏社会が絡む世界はやっぱり大阪が似合う。安藤サクラは東京人だけど、周囲の俳優に関西出身者を集めているようだ。飽きずに140分盛りだくさんの内容である。

電話で振り込め詐欺の被害者を呼び出し、カネをおろさせて、金の授受の場所を指示して「受け子」が受けとる。振込め詐欺チーム戦だ。被害者の元を警察が尾行しているかどうかを見極めて判断するのがネリ(安藤サクラ)だ。一方で警察側も日野班長(江口のりこ)率いる特殊詐欺対策チームをつくって、佐竹刑事(吉原光夫)を中心に詐欺グループを摘発しようと躍起だ。

名簿屋高城(生瀬勝久)は表向きホームレスを救済するNPO法人を運営していながら、振込め詐欺の親玉である。裏社会にも政治家にもつながっている。西成の貧民宿舎には元ヤクザの曼荼羅(宇崎竜童)も住んでいる。生活保護や医療補助金でもらったお金を高木が吸い上げる。ネリは血のつながらない弟ジョー(山田涼介)とコンビを組んで貧困ビジネスにも手を染めている。


ジョーは裏の仕事を依頼する賭博場の胴元(サリngROCK)から仕事を依頼される。ネリが急用で不在になったときに手本引賭博で大きな穴をあけて借りをつくってしまい、危ない仕事に手を染めた後に予想もできない行動に出る。

これはおもしろい。安藤サクラが冴える。
いきなり特殊詐欺グループの親玉高城とネリが振込め詐欺でカネの受領に着手する場面からスタートする。銀行にいる被害者がTELの相手から大阪の銀行から難波、天王寺、中之島と大阪の主要エリアを転々と移される。ネリたちは身を隠しながら、チーム戦で被害者を罠に落とそうとする。あちらこちら行けば、被害者もおかしいと感じるのは普通と思いながら「受け手」を指示する安藤サクラが動く。これは成功しない。警察がキッチリ張っていたのだ。いきなり緊迫した場面が続き目が釘付けになる。同時に、特殊詐欺事件での詐欺側、警察側の動きを見せつける。


そもそも俳優二世で血筋もいい安藤サクラなのに、堅気の役柄より下層社会にルーツをもつ女の方が似合う。傑作「百円の恋」「0.5ミリ」もその類だ。ネリはもともと育ちがよくない。ギリギリのところで彷徨って生きてきた。機転が効いて悪知恵がはたらく。明らかに腕力が強い男が迫る危機一髪の場面になっても動じない。すごいヒロインだ。

普通だったら、安藤サクラのワンマンショーになってもおかしくない。でも、周囲もいい仕事をする。登場人物は多い。配役が適切で、それぞれの役割分担を短いシーンで示す。脚本が簡潔なのでわかりやすい。それらの人物を大阪の街に放つ。メインの繁華街だけでなく、猥雑な裏筋通りにもカメラを運ぶ。ギャンブル好きで有名な黒川博行の原作なだけに裏賭博の鉄火場や賭け麻雀の現場、競艇場なども映し出す。エリア描写がキッチリしていると映画のリアリティが高まる。


内田裕也亡き後、元ヤクザのならず者なんて役を演じられるのは宇崎竜童に限られていく。NPOの下層社会相手のアパートに住んで、しかも身体はボロボロだ。でも、肝心な時に安藤サクラをフォローする。信頼できる男だ。ダウンタウンの時代、阿木耀子と一緒に楽曲を提供した時代、映画をかじり始めた時代それぞれを思い出しながらいい役者になったと感動する。天童よしみ特殊詐欺組織の親玉に起用する。いかにも大阪のめんどくさいオバサンのキャラだけにピッタリくる。


弟役の山田涼介もチャランポランな最近のワル役がうまい。行動が極端で姉のネリが尻拭いをする。度胸よくのりこんでいくのに怖気づくシーンが笑える。最近流行の仮想通貨系青年実業家を演じる淵上泰史も最近のワルらしい風貌だ。裏社会としっかり繋がっている。高級個室で会食しながら妖しい女に性的遊戯を強制する。しかも、DVが半端じゃない。こんな感じのやつが世の中で悪いことをしているのかもしれない。

すごい存在感だったのがサリngROCKだ。初めて見るけど、裏社会の女そのもので見ようによってはカッコいい手本引の賭博が繰り広げられている鉄火場の胴元であるばかりでなく、チンピラをヒットマンに仕立て裏仕事を手配する。主要人物の動きなどの裏情報は誰よりも早く耳に入る。最後に向けても、金の精算で抜け目ないところを見せる。今後の活躍に期待だ。


江口のり子は自分が好きな女優だけど、ここではひょうひょうとした警察の係長を演じる。その下の吉原光夫演じる刑事がリーダー的存在だ。この映画は警察側の立場で特殊詐欺に対抗する動きを見せているのがいい。昨年「冬薔薇」が高評価だったが、警察側がまったく語られていないのが大きな欠点だった。「太陽がいっぱい」ヒッチコックの「見知らぬ乗客」を書いたパトリシアハイスミスは自らの著書で刑事ができる犯人への対処の暴力的限度は難しいと書いている。警察小説をいくつも書いている黒川博行なら信憑性ある警察の仕事を書けるかもしれない。

ラストシーンも良かった。いくつかのシーンでわれわれに迷彩を作ってわからないようにする。
これだけ悪いことをしても、主人公を応援したい気持ちにする。
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