映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「小説家の映画」 ホンサンス&キムミニ

2023-07-06 19:27:19 | 映画(韓国映画)
映画「小説家の映画」を映画館で観てきました。


映画「小説家の映画」は独特の作風をもつ韓国の映画監督ホン・サンスベルリン映画祭で銀熊賞を受賞した作品だ。韓国映画ってサービス精神旺盛で、ストーリーの逆転を楽しめる娯楽映画が多いのに、ホン・サンスの作品って真逆な気がする。軽い起伏はあっても意外性はない

言葉に頼らずに映像で見せるのが本筋とばかりに観客の理解能力を試すような映画が多くなってきたのと反対にセリフは多い。しかも、超長回しカットで構成される。日本で一般公開される他の韓国映画と比較すると、ホン・サンスって本国で受け入れられているのかな?と正直思ってしまう。

それでも日本の評論家筋の評判はいつも通りよい。不倫状態が続くプライベートでのパートナーであるキムミニと前作「あなたの顔の前に」超絶長回しショットを巧みに演じて自分を驚かせたイ・ヘヨンが出るとなると見逃せない。

長らく執筆から遠ざかっている著名作家のジュニ(イ・ヘヨン)が、音信不通になっていた後輩を訪ね、ソウルから離れた旅先で偶然出会ったのは、第一線を退いた人気女優のギルス(キム・ミニ)。初対面ながらギルスに興味を持ったジュニは、彼女を主役に短編映画を撮りたい、と予想外の提案を持ち掛ける。(作品情報 引用)

実際には街を見渡す展望台で映画監督夫妻に会う。以前ジュニが書いた作品を映画にしようとして別の作品を選んだ監督だった。3人で公園を散歩しているときに人気俳優を見つけて話をする。ここで映画監督と小説家の会話が噛みあわず、初対面なのに小説家と女優が2人で食事に向かう。そして、映画を一緒につくろうと意気投合するのだ。


ホン・サンスのスタイルはかわらない。
長回し中心の映像で、確かな演技力を要求する。朴正煕元大統領を連想する元来の韓国人ルックスのイヘヨンがこの映画でもメインに動く。ただ、モノクロ画面なので顔の輪郭はわかりづらい。よくもまあこんな長いセリフを覚えられるなと思ってしまう。さすがである。

いかにもスランプに陥っている小説家であるかのように時折ヒステリックになる。偶然あった映画監督の話をへし折る。イヤな女のムードも出すけど、後輩の本屋の店主や女優ギルスとの会話はスムーズだ。前作のように死が迫っている役柄のもつ悲愴感はない。ヘビースモーカーで時折喫煙するその雰囲気で何かの意味を持たせる。屋上でのタバコの一服が印象的だ。


キムミニを最初に観たのは宮部みゆき原作「火車」だ。その後、日本統治時代の朝鮮を描いたエロティックサスペンス「お嬢さん」での大胆な演技が印象に残った。いずれも日本に縁がある映画だ。一連のホン・サンス作品では常連である。人気俳優と共演するメジャー作品に以前のようには出演していない。不倫問題のせいだろうか?


この映画の中で、キムミニ演じる女優ジュニが最近出演していないことをもったいないと出会った映画監督が言う。すると、小説家のギルスが妙にケンカ腰に絡むシーンがある。小学生でもあるまいし、余計なお世話だと言い切る。これって最近の実際のキムミニにからめているセリフのような気がする。


なぜか最後だけキムミニのカラー映像だ。演技も脚本もレベルが高い作品だとは思う。
好きかと言われるとどうかなあ?
でも、ついつい観てしまう。
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映画「告白、あるいは完璧な弁護」

2023-06-27 19:23:23 | 映画(韓国映画)
映画「告白、あるいは完璧な弁護」を映画館で観てきました。


映画「告白、あるいは完璧な弁護」は韓国得意のクライムサスペンスだ。密室殺人の真犯人に絡むミステリーだというだけの予備知識である。スペイン映画のリメイクのようだけど、それなりに改変したという。映画館にあるポスターでキムヨンジンの顔が妙に気になっていた。「シュリ」で注目を浴びたあとしばらくは主要作品に登場してよく観ていた。もう50になる。韓国映画らしい意外性のあるストーリーを期待したが、十分に満喫できた。

この映画のストーリーは何を語ってもネタバレになりそうなので慎重にたどってみる。

IT企業の社長ユミンホ(ソ・ジソブ)が不倫相手だったセヒ殺害事件の犯人として逮捕収監されていたが釈放され自己所有の別荘に向かう。そこへ依頼を受けた弁護士ヤンシネ(キムヨンジン)が訪れて事情を確認しはじめる。ユミンホは自らは無罪だったと主張する。
それと同時に、セヒ(ナナ)と一緒にいた時に交通事故に巻き込まれていたことを告白する。セヒが運転している時に対向車とぶつかりそうになり、結局相手の車の運転手が障害物に追突して死んでいることがわかる。警察を呼べばいいものを不倫現場で巻き込まれるのを嫌がったセヒとともに事故処理をする。
この事故処理をめぐって事件が複雑になる。それがこのストーリーの肝になってくる。


お見事な韓国クライムサスペンスである。おもしろかった
基調となるのが、殺人事件の被疑者とされる社長と依頼を受けた女性弁護士との雪の中の山荘での対話だ。社長の独白に合わせての回想シーンが続く。先日観た「怪物」よりも黒澤明の「羅生門」に近いスタイルだ。意図的に観客を騙そうという意識が強く、「怪物」より緊迫感があっておもしろい。リメイクとはいえ、かなり練った脚本だ。

元々被疑者とされた殺人事件をたどると、謎の人物からユミンホ社長がホテルの一室に呼び出されていくと、そこに同じように誰かに呼ばれたセヒがいた。すると、目を離したすきに何者かに頭を打たれて意識を失う。目を覚ますとセヒが殺されている。その時通報を受けた警官が駆けつけ、ユミンホ社長が現行犯でつかまる。その時、入り口の鍵も、窓の鍵も閉まっている密室状態だった。

ユミンホの会社の弁護士が動いて釈放されたが、今後の裁判で無罪とするために敏腕女性弁護士を雇う。それがヤンシネで、どんな細かい情報でも教えてくれとユミンホからの聞き取りを始める。


そこで交通事故が起きたことを話す。実際には両方の車両がぶつかっているわけではない。ユミンホが警察に電話すれば済むことだ。でも、不倫発覚を恐れた女の方が回りくどいことをする。その時、セヒが運転していたユミンホの車も動かなくなっていた。通りかかった親切な人がたまたま自動車整備をしていて修理をしてもらう。修理が済んで、整備工の家でごちそうになっている時、衝撃の発見をしてしまう。

もう少し話を進めてもいいのだが、この辺りにしておく。


観客に錯覚を起こさせる映画だ。裁判で有利になるために、何でも話してくれというヤンシネ弁護士はユミンホから徹底的に聞き込む。そして、ヤンシネ弁護士なりの推理も働かせた作戦も教授する。この辺りがすべて再現映像になる。こういうことなのかと思ったその後で逆転、そして逆転だ。よくもまあ考えたものだ。

「告白、あるいは完璧な弁護」「最後まで行く」と同様に一つの交通事故にとんでもない背景があったことがわかり、それと密室殺人事件とをつなげていく。複雑な内容なのにわかりやすい。これもおもしろかった。韓国映画のストーリーは奥が深い。ネタが多い。
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映画「不思議の国の数学者」チェ・ミンシク

2023-04-29 21:56:44 | 映画(韓国映画)
映画「不思議の国の数学者」を映画館で観てきました。


映画「不思議の国の数学者」脱北した数学者と高校生とのふれあいを描いた韓国映画だ。数学者をメインにした映画にはおもしろい映画が多い。大好きだ。今回は韓国得意のクライムサスペンスで名を売ったチェミンシクが主演で、久々に見るような気がする。いつものようにワルを演じる訳ではない。

全国で上位1%に入る成績のいい生徒が集まる名門高校に通うジウ(キム・ドンフィ)は数学が苦手であった。ふとしたきっかけで夜間警備員ハクソン(チェ・ミンシク)に数学の能力があることがわかり、夜の誰もいない教室で教えを請うことになる話だ。


やさしい肌合いをもつ中年数学者と高校生の友情を描いた作品だ。
先日新作「Air 」を公開したばかりのマットデイモンとベン・アフレックのコンビの名作「グッドウィルハンティング」小川洋子「博士の愛した数式」のエッセンスが盛り込まれている。そこに韓国教育事情と格差問題、南での脱北者の扱いなどをからませている。全体に流れるムードからは、いつもの韓国映画のドギツさは感じられない。脚本も手がこんでいるわけでもない。観やすい映画だ。

⒈警備員に高校生ジウが近づく理由
ある時、ジウが寮の仲間とつるんで酒を飲もうと買い出しに出た時に夜間警備員のハクソンに捕まってしまう。ジウは寮を追い出される羽目になり、夜ふらついているとハクソンに出会って泊めてもらう。その時に数学の宿題を手元に置いてうっかり寝てしまう。授業にでると何故か書いてある宿題の答えを答えると正解だ。しかも、他の答えも含めて全問正解だ。これってあの人民軍と呼ばれている警備員が解いたのか?

父親を子供の頃に亡くして、シングルマザーに育てられたジウは生活困窮者の特別枠でレベルの最も高い高校に入った。数学の点数が上がらないので担任から転校を勧められている。ハクソンも立ち話を聞いてその事情がわかり、ジウを夜間の誰もいない部屋で指導することになったのだ。


⒉韓国高校生事情
ジウが通う高校は共学である。日本では、東大合格ランキング上位で共学というと渋谷幕張、日比谷くらいだと思ったら、関西の西大和学園も共学のようだ。だからあんなにレベル上がったのか。共学で女子生徒もいないとストーリー立てがやりづらいかもしれない。お金持ちの娘の同級生女子をキャスティングに加えることで味付けしているのは悪くない。

今は東大でも推薦で入学する時代だけど、この映画では内申にこだわっているようだ。韓国の受験戦争が厳しいというのは有名だけど、推薦枠で進学するのも重要視されるのであろうか?また、数学の成績にかなりこだわっている印象を受ける。


⒊脱北の数学者
脱北者の映画って割と多い気がする。どちらかというと、ワル系か格闘能力とかが優れているという方向になる。理数系の才能を持った脱北者の設定は初めて観た。映画「グッドウィルハンティング」マットデイモンは大学構内の清掃員で、大学の教授がみんな解けないだろうという数学の問題を黒板に書いたままにして、それを誰もいない時に清掃員のマットデイモンが解いてしまうという設定があった。似たようなものである。これはこれで構わない。

この数学者ハクソンは未解決問題で有名なリーマン予想の証明を出しているということになっている。すごい数学者というのがジウにもわかるのだ。ただ、半島初のノーベル賞を受賞する可能性があると映画内のTVニュースで言っているが、ノーベル賞に数学がないのを知らないのかなあ?数学はフィールズ賞だし、しかも年齢制限もある。これは大きなミスだな。


⒋オイラーの等式
小川洋子原作「博士の愛した数式」ではオイラーの等式にずいぶんとこだわった。この数学者ハクソンも同様だ。確かに美しい式だ。黒板に書かれる数式その他は、オイラーの公式を求める時の証明をアレンジしたみたいな匂いがした。高校の数学IIIから大学に入ってすぐ学ぶ解析のレベルかもしれない。日本がゆとり教育に転向した頃に、もしかして高校数学のレベルも韓国は上がったのであろうか?数学は北では兵器の道具になり、南では大学進学の道具使われたというハクソンのセリフがあった。

映画の中での校内試験のテストで、女の子が書いている解答をみるとメラネウスの定理のような式を途中までかいて途中で終わってしまった。こういう初等幾何系の問題は日本でも中学から高校程度だろう。問題の設定も疑え、途中経過にこだわるという数学者の教えの趣旨はもちろん悪くない。でも、数学が苦手というのであれば、暗記数学にこだわっておった方がいい気がするけどね。久々、80過ぎて野口悠紀雄先生が勉強法の本を書いたけど、あえて「数学は暗記」と書いてあった。自分も学生時代に数学は得意な方だったけど、肝心なところで失敗した。暗記数学を知らなかったからだと思う。当然高等数学レベルは違うけど。Q.E.D.が連発されているのをみて、受験生時代に若き長岡亮介がよく使っていたのを思い出した。


あとは音楽と数学の関係に言及しているのはよかった。元東京外語大学長のの亀山郁夫が書いた「人生百年の教養」で音楽と数学は学問的に近いと論じていたのを思い出した。
無数のおたまじゃくしをちりばめた五線譜は天才が知力の限りを尽くして組み立てた数式そのものである。音楽とは,文理横断的思考の賜物とも言える「学」なのです。(人生百年の教養 p43 )
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映画「別れる決心」タンウェイ&パクチャヌク

2023-02-20 05:09:14 | 映画(韓国映画)
映画「別れる決心」を映画館で観てきました。


映画「別れる決心」は韓国映画界の巨匠パクチャヌク監督の作品。中国から「ラストコーション」の演技で世界をアッと言わせたタン・ウェイを迎えているミステリー仕立ての映画である。評判が良いので注目していたが、タンウェイが韓国映画に出るのはどうして?と思っていた。今回は悪女を演じる。


役所の職員が岩山の山頂から転落死する事件が発生する。中国人の妻ソレ(タンウェイ)が、夫の死に落胆していない様子を見て、ヘジュン警部(パクヘイル)はソレが犯人ではないかと疑い取り調べをはじめる。ソレにアリバイがあり、捜査は一段落するが、ヘジュン刑事はスマホの解析である事実に気づく。同時にもう一度ソレを問い詰めるという話である。

比較的難解な映画である。
スマホの解析が捜査のポイントになっている。スマホ機能を巧みに使った現代のIT事情に即した話だ。この映画を理解するには2度以上観ないと難しいかもしれない。いったんアリバイで取調べが終了しているのに前半戦でスマホである事実がわかる。それでもいったんはそのまま無実となる。

意外にアッサリしてこんなもんかと思いきや、後半戦に入り一気におもしろくなってくる。まさに、映画の構造はアルフレッドヒッチコック「めまい」である。あの時は、一度は死んだと思わせたキムノヴァク別人になって再び姿を現すのには驚いた。この映画ではタンウェイはすぐは死んでいない。いったん捜査は終了していたので地方に異動していたヘジュン警部の前にソレが突然姿を現したのだ。しかも、また何か起こるのかと思ったら、起きてしまうのだ。


映画を観終わった後に、ネタバレサイトに行くと、え!こういうことだったのかと思うことばかりである。観ている最中には気づかないことが多い。数多くの伏線がいろんなセリフや行動に含まれているのだ。比較的称賛の声が多いけど、一度観ただけでみんなわかるのかな?と率直に思う。

⒈パクチャヌク
衝撃的だったのは名作「JSA」で、「シュリ」とともに韓国映画のレベルが高くなっていることを日本人にも知らしめた。ソル・ギョング主演でカンヌ映画祭グランプリを受賞した「オールドボーイ」の表現は残虐そのもので、日本占領下の朝鮮を舞台とした「お嬢さん」エロそのものである。米国映画デビューのサイコスリラー「イノセントガーデン」にもえげつない要素がある。


でも、この映画では、残虐、エロティックという表現はほとんどない。殺人が絡んでも韓国映画独特の残虐な場面はない。どうもそれは意識したようだ。「ベニスの死」でも使われたマーラーの交響曲で情感を高める。あくまで、刑事と被疑者の交情に焦点をあてるためなのだろうか。空間を感じさせるカメラワークは終始一貫してうまい。山と海の両方で見どころをつくる。

映画では「高級寿司」が会話のネタになり、実際に寿司の折詰弁当が出てくる。「お嬢さん」戦前の日本統治を話題にするくらいだから、パクチャヌク監督もそれなりに日本に関心を持っているのかもしれない。

⒉タンウェイ
アンリー監督「ラストコーション」ではトニーレオンとの絡みが本当にやっているのでは?と思わせるような激しい演技だった。あの当時から15年ほど経っているが、変わらぬ美貌を持つ。まさにサイコサスペンスとも言えるこの作品で、表情の変化だけでセリフなしでも何かをわれわれに感じさせる「悪女映画」の系譜に加えられる作品になった。


映画を観る前に、韓国映画だけど中国語で話すのかな?と思っていたら、韓国語のセリフをきっちり話していた。うまい下手は自分にはわからないが、韓国語を勉強したようだ。その上で、自動翻訳機に向かって中国語で話して、それを機械が韓国語で伝えるシーンがいくつかあった。今後はこういうハイテク機器の利用が増えてくるかもしれない。真意は母国語でないと伝わらないことも多い。最後に向けて、ディテールは違っても物語構造「めまい」と似ているので、キムノヴァクと妙にダブって見れてしまう。
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映画「パーフェクトドライバー 成功確率100%の女」 

2023-01-23 19:32:20 | 映画(韓国映画)
映画「パーフェクトドライバー 成功確率100%の女」を映画館で観てきました。


映画「パーフェクトドライバー」は「パラサイト」ソンガンホの娘役を演じたパクソダム主演のアクション映画だ。裏の車輸送請負人と言うと、ジェイソンステイタム「トランスポーター」ライアンゴズリング「ドライヴ」を連想する。いずれもスピード感ある娯楽の最高峰だ。ただ、今回のドライバーは女性。韓国系サスペンス映画のスリリングな展開を期待して映画館に向かう。ここでの悪役は人気TVシリーズ「マイディアミスター」の三兄弟の1人ソンセビョクである。メガネ姿でないので気がつきにくい。

車のスクラップ工場で働くウナ(パクソダム)は、裏の輸送ブツを途中の妨害をかわしながら確実に時間どおり届けるドライバーだ。賭博に手を染めた元プロ野球選手が国外脱出するにあたって、ムスコと一緒に連れ出そうとする。そうはさせないと裏の顔を持つ警察のチームリーダー(ソンセビョク)から狙われる。


いきなり、ウナのドライブテクニックを見せる。これがまたすごい。執拗に追ってくる敵を交わしにかわす。カッコいい。これって「トランスポーター」「ドライヴ」のスタートと一緒である。主人公の実力を見せつけて観客の目を引きつけるのだ。

この間の梨泰院の群衆パニックでもわかるように、韓国の大都市は新旧の街並みが入り乱れて細い道路が多い。舞台になる釜山の狭い路でのカーチェイスはスリリングだ。歴史ある欧州の都市でのアクション映画を観るような気分になれる。


でも期待したほどではなかった
「パラサイト」で社長の息子役だった少年を起用して主人公ウナと組ませる。多額のお金が入っている貸し金庫の鍵を持っているというのだ。それをめぐってのドタバタ劇が続く。


深みを持たせようとして、ドライバーウナを脱北者に仕立てる。主人公を追う国家組織も横ヤリに存在させる。方々に入り乱れたアクション劇も見せつけてくれる。それにしても、イマイチのれなかった。色んなアクション映画の引用が多いのは仕方ない。ただ、ストーリーづくりのうまい韓国映画には珍しく脚本が全部読めてしまう意外性がないのが自分には弱いところだったかもしれない。
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映画「非常宣言」 ソ・ガンホ&イ・ビョンホン

2023-01-09 09:56:02 | 映画(韓国映画)
映画「非常宣言」を映画館で観てきました。


映画「非常宣言」はバイオテロに遭遇した旅客機のパニック映画である。韓国の2大スター、ソン・ガンホとイビョンホンの共演である。カンヌ映画祭で主演女優賞を受賞したチョン・ドヨンが国交大臣役で加わる。予告編で,ホノルル行きの飛行機がウィルスをまき散らされパニックになる映像を見ていた。2大スターの共演ならそれなりのレベルだろうと推測して映画館に向かう。

仁川発ホノルル行きの旅客機に異常人物が搭乗する。事前に犯行予告をSNSにアップしていた。飛び立った飛行機の中にウィルスがまき散らされ乗客が次々と倒れる。犯人を捕まえたが,バイオテロと判明した段階でアメリカの当局から着陸の許可が出ない。被害は乗客ばかりでなく搭乗員にまで及び,機長も疾患して操縦不能となり飛行機は墜落しそうになる。

出来過ぎの展開であるが,娯楽として楽しめる。
飛行機という密閉空間はサスペンス映画の道具としては相性が良い。ハイジャックなどを題材にしてパニック映画として数々の名作が作られてきた。この映画はそれらに比べても、スマホやSNSのハイテクな題材を加えてネタが満載だ。しかも、不気味で変質的な異常犯罪者を登場させる。死に至るウィルスを旅客機という密閉空間に撒き散らす。コロナ感染に戸惑う現代社会に即した題材である。


どこにでもいるような若者の変質者は,犯罪の目的が金銭目当てではなく,ただ単に大量殺人を起こしたいだけである。序盤戦から空港内で不穏な行動を起こす。映画の中には不気味な雰囲気が漂う。団地の中の1室で人体実験をしてウィルスの効果を確認した上で,犯行に及ぶ。本人は生き延びるつもりはない。巻き添えにすることだけを考えている。普通じゃない。ただ,我々も安倍元総理事件を身近に体験しているので,こんな変質者が世の片隅にいる事だけはわかっている。


それにしても,次から次にこの旅客機は窮地に立たされる。ウィルス感染はもとより,長時間運行による燃料切れの不安,緊急着陸を要請した日本とアメリカからの着陸拒否,韓国に帰国しようとしたときの住民の着陸反対運動など次々と面倒な障害が出現する。以上に挙げただけではない。当事者を苦難に突き落とすことだけでいえば、これまでのパニック映画を大きく上回っている。出来過ぎのストーリーとは言え,いかにも,観客をドキドキさせようとする脚本のうまさが光る。それを映像に具現化させたのもすごい。墜落しそうになる機内の無重力空間のような場面には驚いた。

⒈ソンガンホ
熱血刑事役である。住民の通報で,テロの犯行予告が出ていることを知る。また, 異臭のする団地の部屋の捜索をして人体実験で殺された死体を発見する。被疑者が仁川発ホノルル行きの旅客機に搭乗していることがわかり,慌てて航空当局に飛行機を引き返すように要求する。でも、根拠がないと突き返される。飛行機はそのままホノルルに向かって進んでいる。ところが、その飛行機に乗って自分の妻がバカンスで遊びに行っていることを知りまた驚く。

途中で,犯人の素性が分かり,熱血刑事は証拠をピックアップしようと犯人が在籍した元会社に乗り込もうとする。きっちりした証拠に基づいた捜査令状を出せるわけではないので会社内には入れない。そこで押し問答が起きる。この辺の熱血刑事ぶりは「殺人の記憶」の頃のソン・ガンホを彷彿させる。


⒉イビョンホン
最初はアトピー疾患で悩む娘を連れている単なる乗客であった。ただ,娘につきまとう変人と空港で出会う。,旅客機でその男の搭乗を確認して,ウィルストラブルが起きた後で客室乗務員にあいつは怪しいと訴えるだけの乗客に過ぎなかった。ただ,副操縦士とは面識があるらしい。一体どんな存在だろうかと思っていた後で,機長のウィルス感染で操縦不可能となった時点で存在感を示す。実はもともと同じ航空会社の機長だったのだ。


2人のスターは,面と向かって共演はしない。1人は韓国にいて, 1人は旅客機の中だ。娯楽作品としてねられた脚本に加えて格の違う2人のスターを登場させるだけで,映画の水準が高くなった。
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映画「君だけが知らない」

2022-10-30 16:16:55 | 映画(韓国映画)
映画「君だけが知らない」を映画館で観てきました。


映画「君だけが知らない」は韓国得意のサスペンススリラー映画だ。監督脚本のソ・ユミン、主演のソ・イェジをはじめ出演者スタッフは知らないメンバーたちだ。記憶喪失になった妻が、夫の懸命な介護にもかかわらず妄想に悩まされ何が真実で誰が正義かわけがわからなくなる話である。妄想といっても、デジャヴ感覚で一瞬先に身近に起きる出来事がとっさに脳裏に浮かびあたふたするのだ。

この映画は予備知識を持たずに観た方が面白いサスペンスなので、説明は最小限とする。よくできている映画だ。

話の展開は落着の予測をことごとくはずす。
映画を見始めてから主人公の妻スジン(ソ・イェジ)と夫(キム・ガンウ)の立ち位置が少しづつ変わっていく。事故で記憶喪失になったスジンが夫の看病のおかげで退院する。人生をやり直すために2人でカナダに移住しようとしている。


そうしたときに、スジンは身の回りで起きる事故を直前に察知するようになる。自宅マンションの住人の小学生が交通事故に遭遇したり、同じマンションに住む少女が乱暴されるのを脳裏に浮かべて、大慌てで事件を回避しようとするのだ。

スティーブンキング原作クリストファーウォーケン主演のデッドゾーンという映画がある。事故の後長い昏睡から目を覚ました主人公が一瞬先に起きる悲劇的出来事を脳裏に浮かべ事件を察知する。おそらく、トムクルーズ「マイノリティリポート」にも影響を与えている作品だ。

その作品のように、この映画は超能力的予知能力を示す物語になるのかと映画を観ていて思う。ところが、予言だけに焦点があてられるわけではない。脚本が映画を観ている誰もが催眠術にかけられた状態にするように巧みに導く。


色々と起きる事件に関して、ある人物が圧倒的に怪しいとする展開に持っていく。そこで自分はある結末を予想する。でも、逆転に次ぐ逆転が起きる。いつもながらの韓国サスペンススリラーの展開の見事さに黙って身を任せたい


終わって振り返ると、奥が深いきれいに伏線を仕掛け、こういうことだったんだと結論に導く。監督脚本のソ・ユミンの手腕に感心する。美人女優ソ・イェジにスキャンダルが起きて、2021年4月韓国公開にあたり、あたふたしたようだ。日本公開に持ち込めたことを喜びたい。
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映画「声 姿なき犯罪者」

2022-10-15 18:11:26 | 映画(韓国映画)
韓国映画「声 姿なき犯罪者」を映画館で観てきました。


映画「声 姿なき犯罪者」振り込め詐欺を題材にした韓国映画だ。韓国では年間7000億ウォン(約700億円)の振り込め詐欺被害があるという。ある意味社会問題になっているようだが、その巧妙な手口を題材にする。自分の妻が一瞬にして振り込め詐欺の被害者となってしまった元刑事が組織に潜入してカネを取り戻そうとする。

これはムチャムチャおもしろい。
日本でも振り込め詐欺が映画の題材になることもあるが、これほどの組織化した手法ではない。韓国の詐欺組織がコールセンターを中国瀋陽に設けてシステマティックに犯罪を繰り返す。集団で役割分担しながら、カネをせしめる。日本の犯罪グループには見せたくない映画けど、逆に堅気の人は必見だ。


⒈元刑事の妻が引っかかる
釜山建設現場で働くソジュンが、現場で作業員の転落事故に遭遇する。その際、ソジュンの妻のところに弁護士から電話が行く。現場で作業員が転落して、ご主人が警察に逮捕されている。今だったら示談で済ます方法があるので口座に入金してくれという電話だ。妻はまず夫に電話するが通じない。とっさにネットBKから指定の口座に入金する。

詐欺組織側は入金されたお金をいくつかの口座に振り替えて、お金をおろす係がバイクに分乗してBKで次々とキャッシュを下ろしていく。そのうちに、妻は夫と連絡がとれる。警察にいるわけでないのがわかり、慌ててBKに向かう。すでに口座のお金は出金されている。失意の妻は交通事故に遭ってしまう。

これだけではなかった。建設現場で働いている従業員の個人情報が抜き取られて給与未配の事態が出てくる。この建設現場には、振り込め詐欺グループの手下がいて密かに事件を仕組んでいた。しかも、事故が起きた段階に現場付近で通信障害が起きるようにして、当事者が外部と連絡取れないようにしてしまうのだ。


手際の良い手口をいきなり観て、思わずうなってしまう。こんなやり方は聞いたことない。おそらく、こんな感じで巧妙な手口が次から次に生み出されているのであろう。詐欺組織には新しい手口を考える企画チームもいるのだ。実際にそういう連中がいるのであろう。

⒉名門企業の合格者へのアプローチ
韓国は日本以上の格差社会で、良い大学を出て超名門企業に入ることに躍起になる。詐欺組織は高いお金を出して、名門企業のリクルートで最終面接までいった学生のリストを入手する。彼らは学費の高い大学を卒業するために、教育ローンを借入していることが多い。そこに目をつける。

保証会社のふりをした電話では最終面接合格したと学生に伝える。ただ、教育ローンを借入していると、信用調査で不利益を被る可能性がある。そこでそれを返済したことにするためにお金を振り込んでくれというわけだ。


引っかかる、引っかかる。韓国の大学の学費が高いのかどうかは知らないが、教育ローンを借りている学生は多いんだろうなあ。

2つの例を出したが、生活苦にあえぐ人たちがまるでドラマ「イカゲーム」のように詐欺組織で働かざるをえないこともあるだろう。念入りに振り込め詐欺の実態を取材した気配は感じられる。元刑事が詐欺組織に潜入してからのアクションを楽しむというより、こんな悪知恵ってあるのかを観るための映画だった。
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映画「モガディッシュ 脱出までの14日間」 キムユンソク

2022-07-04 18:26:36 | 映画(韓国映画)
映画「モガディッシュ 脱出までの14日間」を映画館で観てきました。


映画「モガディッシュ 脱出までの14日間」は韓国クライムサスペンスの名優キムユンソク主演の映画で、韓国では2021年で最もヒットしたようだ。リュ・スンワン監督ハジョンウ主演で南北のスパイ合戦に焦点をあてたベルリンファイルなどで作品を観ている。予告編では、南北の大使館員が睨みあっている時にソマリア紛争が起きるという映像で、アクションが凄そうというイメージを持つ。観てみると、予想を超える激しいアクションが続く。

1990年当時、韓国と北朝鮮はまだ国連に加盟していなかった。加盟のための賛成票を得るためには、アフリカ諸国の影響は大きかった。両国はソマリアに大使館を置いて、大統領府に向けてロビー活動を行なっていた。一方で、それぞれの情報を察知して妨害活動も行われていた。

そんな時、韓国のハン大使(キムユンソク)が自らの大統領へのアポイントをつぶしたことで、北朝鮮のリム大使(ホジュノ)にクレームをつけている最中に、ソマリアの反乱軍が決起して街は騒然とする。大統領の独裁政治に反発したクーデターで、各国の大使館にも被害がでる。


通信機能が遮断して本国にも連絡が取れない。そんな中、北朝鮮大使館にも暴徒が乱入して、館内はぐちゃぐちゃになり食糧も盗まれた。館員とその家族は脱出せざるを得ないが、頼みの中国大使館との連絡はつかず、やむなく韓国大使館に助けを求めに行く。北朝鮮の大使館員に恨みのあるハン大使は当然拒絶するが、結局大使館内に入れるのである。


予想通りおもしろかった。
激しいクライムサスペンスをつくるのがうまい韓国ならではの迫力あるシーンが最後まで続く。最終的には助かるんだろうと予測しても、絶体絶命のこの状態をどう乗り切るのか?ストーリーの先行きが気になってしまう。予告編では、南北対立の映像が出ていたので別の展開を予測していた。意外にも、この時代背景にしてはめずらしい南北が融和する流れになっている。

それにしても、日本の低予算映画ばかり観ていると、韓国映画って金かかっているんだろうなあと感じる。明らかに海外ロケでないとできない映画である。しかも、つぶした車は数えきれない。外国資本が入っているんだろうか?

⒈昨日の敵は今日の友
結局1991年に両国が同時に国連加盟することになるわけだが、この時期はお互い国連で自分たちを支持してもらおうと躍起になるわけだ。韓国から大統領の土産を持ってソマリアに入国した参事官が来たとき、地元の暴漢たちにお土産の入ったバッグを奪われる。結局大統領に会えないわけだが、現地に北朝鮮の大使が来ているではないか。やられたと韓国側が怒る


こんな関係だから、助けを求めて韓国大使館に北朝鮮の大使館員や家族が来ても受け入れるはずがない。でも、ここで貸しをつくればという側近の申し出に、ハン大使はやむなく中に入れるわけだ。でも、すんなり仲良くできるわけでない。ここからも激しい葛藤がある。ソマリアの抗争に巻き込まれた中で、どうやって国を出るか、とんでもない脱出劇があるのだ。

⒉ド派手なアクション
序盤戦から銃声が炸裂する場面だらけである。いかにもイスラム風という建物が立ち並ぶ中、ソマリアの反乱軍が大暴れで市民生活はぐちゃぐちゃにされる。そんなシーンが続いたあとで、大使館員と家族が脱出する場面に向かう。イスラムの礼拝時間に脱出しようと車を走らせたが、政府軍、反乱軍が入り乱れている中で攻撃を受けて、すごいカーチェイスを展開するのだ。


おいおい、これってどこで撮ったのか?まさかソマリアじゃないよね?と思っていたら、どうやらモロッコのようだ。昨年末公開されたモスルもど迫力だったけど、これもモロッコのようた。それにしても、よくこれだけのハチャメチャのアクションシーンが撮れるのかと感心してしまう。モロッコはイスラムが絡んだ映画ロケを一手に引き受けている感じだ。


チェイサー」「哀しい獣といった強烈なクライムサスペンスで存在感を示したキムユンソクも、歳を重ねておとなしくなった。若干コミカルな存在になってしまった。多彩なことができるいい男だ。
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映画「あなたの顔の前に」 ホンサンス

2022-06-29 16:53:18 | 映画(韓国映画)
映画「あなたの顔の前に」を映画館で観てきました。


映画「あなたの顔の前に」は韓国の奇才ホン・サンス監督の新作である。米国に移住したある元女優が韓国に帰国した1日の動静を描く。映画の雰囲気は予想された通りで、主演のベテラン女優イへヨンが演じる尋常じゃない長回しのシーンをつなぎ合わせて、ひとつの事実に向き合う。

長いアメリカ暮らしから突然、妹ジョンオクの元を訪ねて韓国へ帰国した元女優のサンオク(イ・へヨン)は久しぶりに家族と再会を果たす。妹の息子夫婦に会ったり、思い出の地を訪ね歩いた後で、彼女に出演オファーを申し出る映画監督とランチをしながら人生と向き合っていく話である。

映画を見始めて女性同士の他愛のない会話が多く、男が観ても面白くないなあと思っていた。ところが、彼女が向き合っているものが徐々にわかっていくにつれ、見る目が変わってくる。映画監督と出演交渉で会うお店の名前が漢字で「小説」である。映画監督との会話の中に「短編小説」のような作品を作ってみようというセリフがある。サンオクの長い人生を断片で切った短編小説を読むような気持ちで映画を観るといいかもしれない。


⒈向き合うことって何?
母親が亡くなってから、アメリカから韓国へは帰っていない。今さらどうしたの?と妹も感じている。一緒に住んでいた姉妹だけど、お互い遠く離れている。2人きりになり公園で長話をしたり、甥っ子夫婦がやっている店に行ったあと、子どものころ育った家がお店になっていてそこの店主とだべってその子どもと抱きあう。そして、映画監督からの出演オーダーを受けに向かう。

想い出の足跡をたどるサンオクを見て、韓国に戻った理由を想像する。そして、その予想が間違いないとわかるのは、映画監督と会話している時だ。もし自分も同じ立場になったら、同じような行動をとるかもしれない。そんな気がした。


⒉超絶長回し
今回のイ・へヨンの長回し演技は尋常じゃない。よくこんなにセリフが覚えられるものかと感心する。一度だけの長回しでなく、自分の妹役や映画監督役と何度も時間をかけて会話を交わす。別に演劇のような大げさな演技ではない。ホンサンスの世界は常に日常に接近している。

イ・へヨン朴正煕大統領に似ている一昔前の典型的な韓国人らしい顔だ。60を過ぎている。ホン・サンス監督にとって同世代であるイ・へヨンの起用は意味のあることかもしれない。

そして、映画監督から出演依頼を受ける場面では、何気ない会話から秘密の一部始終を映し出す。ホン・サンス監督作品に、若い女性が3人の男を翻弄するソニはご機嫌ななめという映画があった。主人公のソニが焼酎のボトルを次々と開けながら酔ってしまい、クダを巻くシーンがあった。この作品でも、映画監督と元女優の2人が徐々に酔ってくる長回しシーンがクライマックスになる。2人のセリフ展開はホン・サンスがじっくりと練ったものと想像する。


⒊友人の死(私ごとだけど)
この間の日曜に通夜があった。幼稚園からずっと少年時代一緒だった男の葬儀だった。高校時代から吸っているハイライトのせいには彼はしたくないと思うが、肺がんだった。がんが発覚して2ヶ月しかたっていないようだ。ここのところ毎年のようにヘビースモーカーの友人が亡くなっている。中学の同級生のLINEグループに長い間ありがとうと奥様が死後投稿して突然の死が判明して、友人が教えてくれた。

幼稚園バスの同じ停留所で仲良くなった。小学校、中学校常に彼の方が成績は上で、途中自分が抜いた場面もあったが、一つのベンチマークになっていた。中学の卒業式の後彼の家で大酒を飲んで吐いて迷惑をかけた。高校時代から徹夜麻雀をずいぶんとやった。でも彼の父親は警察官だ。結局自分と同じ大学に通うことになったが、東大模試でも上位で合格ライン間違いないのに彼は落ちてしまう。彼が勤めた会社も名門中の名門だが、誰もがうらやむ超一流商社に内定していた。長男に海外に行ってもらっては困るとの母親の反対で勤めた会社に行くことになった。思いのほか出世はしていない。

自分の人生も後悔に次ぐ後悔であるが、あの時の選択は正解だったかときっと思ったであろう。でも、社内結婚だったので、商社へ行ったら、今の人生はない。若き日にはモテた彼が結婚した奥様はふくよかで、太めの息子と3人並んだ写真が不自然。でも、もともと意地悪い気性もあった彼が家族を大事にしているのがよくわかるメモリー動画を見て、60年近くにわたる交友関係のシーンが絵画のように浮かんでくる。

そんな想いを持ったあとこの映画を観て、自分自身のエンディングへの道を考えざるを得なくなった。
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映画「ベイビーブローカー」ソンガンホ&IU&是枝裕和

2022-06-28 17:45:19 | 映画(韓国映画)
映画「ベイビーブローカー」を映画館で観てきました。


「ベイビーブローカー」は是枝裕和監督が韓国でメガホンをとった新作である。カンヌ映画祭ではパラサイトで大活躍した人気者ソンガンホ主演男優賞を受賞していて、韓国映画の主演級が脇を固めている。是枝裕和監督作品はほとんど観ているし、好きな方だ。捨てられた乳幼児の人身売買が題材ということは分かっていたが、先入観なく期待感をもって映画館に向かう。

ある若い女性(IU:イ・ジウン)が赤ちゃんを教会にある安置ボックスの前に置いていく。その姿を張っている女性刑事(ぺ・ドゥナ)がパトカーから眺めている。その後、教会で働くドンス(カン・ドンウォン)とコンビを組むクリーニング屋を営むソンヒョン(ソン・ガンホ)の2人が赤ちゃんをひそかに連れ去る。子どもを必要とする親と売買取引をするためだ。

ところが、預けた女ソヨンが気が変わって教会に戻って引き取ろうとするが、見当たらない。それを見たドンスはややこしくなると感じて、ソヨンに事情を話して、一緒に良い引き取り手を探すことになる。それを現行犯逮捕を狙う刑事コンビが追跡するという話である。


確かにおもしろい。
伏線をばらまいて、途中で回収するセオリーに従っているにもかかわらず、ストーリーの最終場面の落ち着きどころは読みづらい。ただ、ものすごく期待していたことからすると、両手をあげてすばらしいというほどではない。5点はつけられず、4点プラスアルファのレベルだなあ。是枝裕和監督無難にまとめた感が強く、韓国クライムサスペンス特有の緊張感が少ない。刺激あふれるシーンや超絶ハプニングがない。自分にはそんな感じがする。ただ、その中でもIU(イジウン)は絶賛したい。


⒈IU(イジウン)
IUが韓国の若手アイドルスターであることをシリーズマイディアミスターをつい先日見て初めて知った。このドラマで大筋に大きくかかわる貧困育ちの派遣社員を演じた。これがまた実に上手かった。この映画では、いったん産んだ赤ちゃんを捨てた後に舞い戻り、ブローカーと引き取り手を一緒に探す旅に出る母親の役柄だ。IUのメイクは少し濃い目でいかにも日本の身近なオフィスにいそうなマイディアミスター」とイメージが違う。

天才的応酬話法を見せつけたマイディアミスター同様、ここでもトークが冴え渡る。乳幼児の買い手が値切ったり、分割払いにしようとした時に、相手に突っかかる勢いあるセリフに迫力を感じる。いかにも母親がもつ母性を感じさせるシーンも用意されている。ネタバレなので言わないが、2つの作品の役柄に1つ共通点がある。エグい話だ。今後もこういったサスペンス系での映画出演に期待する。


⒉ソンガンホ
この映画の登場人物はウソばかり話すインチキの塊のような連中ばかりだ。例えば、施設で育っていると兵役が免除されるとか、え!そうなの?というセリフが充満している。軍隊に行ったというが、実はその時は刑務所に入っているからとからかわれる。育ちが良いかどうかとウソをつかないかはあまり関係ないかもしれない。それでも虚構に生きるブローカーたちの育ちの悪さが各場面で強調される。

ソンガンホはカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞したけど、これまでのすばらしいキャリアからすると、びっくりするような立ち回りを見せるわけではない。むしろ相棒のカンドンウォンの方がいい味を出している気がする。脚本でソンガンホの存在感を強調するような展開でもないので、格の違いに功労賞といったパターンかな。


⒊ぺドゥナ
是枝裕和監督とは以前空気人形でコンビを組んでいる。この女性刑事というのもおもしろい存在だ。警察がそれなりに活躍しないとサスペンスはひきしまらない。子どもを教会に置いていく時点から、ずっとベイビーブローカーになるであろう男たちと、産みの親をマークする。まさに張り込みで、家には帰らないで、コンビの女刑事と現行犯逮捕するまで粘ろうとずっとにらみを効かせている。でも、ずっと張り込んでシャワーも浴びていないようだ。本当にこんなことできるかしら?とも思ってしまうが、まあいいか。

ぺドゥナ刑事おとり捜査で、高い金を出して子どもを引き取る夫婦に演技をさせたり、やりたい放題だ。でも、単純な罠に引っかからないのが、ソンガンホのブローカーたちだ。悪知恵が働くやつは、自分が悪事を働いているので、相手の悪さも見抜く。この掛け合いの知恵くらべは最終の結末を読みづらくする面でおもしろい。


ただ、1つ疑問なのは実の母親がいて、金銭で相手先の親に売却するってダメなことなのかしら?映画朝が来るも似たような気がするけど。これって人身売買というのと違う気もする。境目はブローカーの介在ということ?捨てられた子どもを売却するのはだめっていうことなんだろうなあ。
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「マイ・ディア・ミスター(私のおじさん)」イ・ソンギュン&IU

2022-06-18 17:18:16 | 映画(韓国映画)
「マイ・ディア・ミスター(私のおじさん)」は2018年の韓国ドラマ


仕事で関係する女性税理士と雑談しているとき、映画好きの自分に韓国ドラマ「マイディアミスター」を勧めてきた。Netflixに人気韓国ドラマはたくさんあるけど、「イカゲーム」しか見ていない。題名をNetflixに見つけたので、見てみるかとピックアップする。

主役はアカデミー賞作品パラサイトで豪邸の主人役だったイ・ソンギュンである。全16話だし、一回あたりが1時間20分近くある。映画一本観るのとあまり変わらない。これは全部見るの無理かな?それでも、見始めるとおもしろいイ・ソンギュンの部下役の影のある派遣社員がいい味出していて、気がつくと毎日少しづつ見続けて16話終了した。

大手の構造設計の会社サムアンE&C で部長をしているパク部長(イ・ソンギュン)の元に、5000万ウォンの商品券が送られてきた。処置に困って机に入れたが、翌朝見当たらない。最終的に見つかるが、その紛失にはパク部長の部下のイ・ジアン(IU)が関わっていた。しかも、この商品券送付には社内の派閥争いによる足の引っ張り合いが関わっているようだ。社内の派閥と出世競争、不倫、貧困、借金取り立て、映画制作の暗闇など全16話20時間を超えるストーリーには題材は数多い。

⒈イソンギュン
構造設計のエンジニアで既存建物の安全性を確認する部門の部長だ。妻は弁護士事務所を主宰している。妻も現社長のトも同じ大学のサークルで一緒だった。家庭を顧みないパク部長に不満がたまっている時に、妻が現社長とくっついてしまう。不倫である。妻がこんなことになっているとは知らない。後輩の社長から見るとパク部長は目ざわりだ。社長やその茶坊主の役員を中心に攻撃を受ける。

パク部長は三人兄弟の次男である。兄は無職で妻に愛想尽かされている、弟は期待された映画監督だったが結局挫折して、実家に母親と2人住んでいる。ドロドロとしたストーリーと合わせて、掃除屋をはじめた2人兄弟にもスポットをあてる。軽いコメディ仕立てにもしているし、下町の人情モノのような肌合いもある。


宮部みゆき原作火車を韓国で映画化した作品、刑事役で出演したクライムサスペンス映画最後まで行くイソンギュンは知っていた。特に「最後まで行く」はドキドキもので韓国クライムサスペンスでオススメ作品だ。その後パラサイトで再び再会しておりなじみ深い。IUに裏があるけど、イソンギュンの役には裏がない。善人というのが似合うキャラなのかも?

⒉IU(イジウン)
パク部長の部に派遣社員で来た女の子イジアンを演じる。両親はいない。話ができない祖母を引き取っている。母が浪費でつくった借金が多額で、闇金融の男から取り立てにあっている。容赦なく、暴力も振るわれている。このあたりの暴力表現はきつい。パク部長が受けとった5000万ウォンの商品券を持ち去り、返済に充てようとしたがやめる。何で商品券が送り付けられたのか会社が大騒ぎだ。

他人と交わるのが苦手な孤独な派遣社員である。当初から地味だけど味のある演技をするなあと感心する。上司であるパク部長だけでなく、パク部長を追い出そうとする社長にも接触して、金銭報酬を得て盗聴もする。不幸なもとに育ったから、人生の荒波にさらされている設定だ。


ここでの見どころの一つに、IUの応酬話法のすごさがある。このドラマを通じて、社内の同僚上司や借金取りからひどいことを言われる場面が多い。どんな時でも、へこたれずに言い返すセリフがお見事で良くもまあ適切な言葉を選んでいる。脚本書いた人は悪知恵がはたらく。このドラマでの演技はかなり評価されるべきだと思う。

実は何も知らなかったけど、韓国でIUというのは10代の頃からとんでもない大スターなんだね。来週公開のソン・ガンホがカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞した「ベイビーブローカー」にもIUは出ている。楽しみだ。

⒊緊迫感と予告編
社内の派閥と出世争いと不倫がキーになる。人間関係がドロドロしていて、暴力が振るわれる場面も尽きない。韓国クライムサスペンス風に緊迫感がでて思わず息を呑む場面も多い。画面分割の手法を多用する。それぞれの当事者がどう動いているのかを画面を分割して、同時に映すこの手法は緊迫感を高める。貧困と借金取りの物語はこれまで随分と韓国映画で見てきたけど、苦しめられているのが、華奢なIUなんで何故か気になり飽きないのかもしれない。


それぞれの回ごとに、次回の予告編で肝になる場面が出てくる。実際に次の回に出てくる場面なんだけど、ドキドキしてしまうシーンが多い。ストーリーの先行きが気になる。TVシリーズの楽しみなんだろう。でも、TVシリーズはずいぶんと時間とるなあ。さすがに疲れた。

ずっと見ていると、劇中の挿入歌のメロディが仕事をしていても耳について離れないし、舞台になるオフィスの構造まで目に焼き付く。そんなものかな?これを見たことで義理も果たせたんでシリーズものはもう当分やめよう。

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映画「狼たちの墓標」

2022-06-11 06:10:36 | 映画(韓国映画)
映画「狼たちの墓標」を映画館で観てきました。


映画「狼たちの墓標」は韓国映画だ。日本のクライム系を2本連続で観て、クライムサスペンスの宝庫である韓国系が気になり新宿に向かう。出演者に馴染みはないが、新興勢力が利権を得ている町の組織に立ち向かうという設定がおもしろそうだ。観てみると、クライムサスペンスではなく純粋なヤクザ映画だ。昭和40年代の東映のヤクザ映画を現代韓国風に少し洗練させて撮ったというような作品である。

平昌オリンピック直前の韓国のリゾート地で、開発の利権をめぐって地元を仕切っていて警察とも繋がっている組織に、圧倒的武力で対抗する新興勢力が話し合いよりも暴力で解決して勢力を拡大しようとする話だ。

いきなり漂流船で死体を食い切って生き延びている男を見せつける。どんな意味かと思うけど、その男の残虐さを物語るつもりなんだろう。そして、しばらく経った後で、見た感じは優男に変貌しながらも、やることが義侠の世界を逸脱した新興勢力の親分を映画に放つ。

⒈冷徹で強い主人公
悪役は理屈のない暴力的で残虐な男の方が映える。ここではいかにもヤクザらしい面構えをした男でなく、普通にどこにでもいそうな若者風だ。スーツに刃物を忍ばせていつでも攻撃できるようにして、容赦なく相手に襲いかかる。圧倒的に喧嘩は強く、卓越した格闘能力を持っている。利権を得ようと話し合いしてもムリだとわかっている。お願いが受け入れられないと、ちょっとした隙に相手の親分を殺す。近くにいる取り巻きも皆殺してしまう。

そして、警察に出頭するのは本人ではない。もともと金融の仕事をしていて、多額の借金をしている男を身代わりに警察に出頭させる。


⒉地元の既存勢力
もともと地元を仕切っている組織自体も、内部の争いが絶えない。同じ組織の若者の結婚式に邪魔する場面がでてくる。それを会長と言われる老御大が抑えている。警察にも近い。ナアナアで悪さをしてきたのだ。よくある話だ。しかし、新興勢力の頭はそんな既存のしがらみを打ち消すように武力で持って皆殺しだ。会長にも手を伸ばす。この異常とも言うべき凶暴さがこの映画の見どころだ。


これでもかと攻めている新興勢力の頭の暴走と既存勢力の争いを見せる。それなりにはおもしろいが、既視感はある。韓国映画で時折あるパターンだけど、銃が出てこない。敵も味方も刃物である。戦前の任侠道を描いた映画で刃物を振り回して立ち回るのと同じだ。これは何か意味があるのであろう。

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映画「ひかり探して」キム・ヘス

2022-02-08 20:33:30 | 映画(韓国映画)
映画「ひかり探して」を映画館で観てきました。


ひかり探しては最近活躍が目立つ韓国女流監督によるサスペンス映画である。「コインロッカーの女」や「国家が破綻する日」で主役を張った女優のキム・ヘスが主役の刑事を演じ、アカデミー賞作品「パラダイス」のお手伝い役で強い印象を残したイ・ジョンウンが重要な目撃者として共演する。女性監督パク・チワンが脚本を書き、メガホンを自ら持つ。韓国の映画賞で脚本賞を受賞したということで期待する。

遺体が発見されない自殺した女性の消息を確認している女性刑事が、その女性の境遇が自分と似ていることに気づき深くのめり込んでいくという話である。

残念ながら結果的にイマイチであった。

俳優の演技のレベルが高いのに評価が低いのは、映画を観ていてさっぱり意味がわからないのだ。説明がくどいのも問題があるのだが、こちらがわかっていると推測して多重に人と人の関係をつくってしまう。セリフが飛び交っているが、意味不明なのだ。困ったものだ。主だった登場人物が女性で、男性が敵のように扱われているのもちょっとどうかと思う。韓国の女性監督が近年傑作を作ってきたけど、これはちょっと。

しかも、結末はこうなるだろうと予測させ、結局本当にその通りになるのはミステリーとしてお粗末という印象を受ける。


台風が吹き荒れるある日の夜、遺書を残し離島の絶壁から身を投げた少女。休職を経て復帰した刑事ヒョンス(キム・ヘス)は、少女の失踪を自殺として事務処理するため島に向かう。少女の保護を担当した元刑事、連絡が途絶えた少女の家族、少女を最後に目撃した聾唖の女(イ・ジョンウン)、彼らを通じて少女がとある犯罪事件の重要参考人だった事実を知ったヒョンスは、たった一人孤独で苦悩していた少女の在りし日に胸を痛める。

捜査を進めていくにつれ、自身の境遇と似ている少女の人生に感情移入するようになり、上司の制止を振り切って、彼女は次第に捜査に深入りして行く…。(作品情報 引用)


ここのところ観に行った3作連続で言葉の話せない出演者がいる。偶然だ。前2作は傑作だったんだけどなあ。主演のキムヘスは前から思っているけど、余貴美子に似ている。普通の刑事だというわけでなく、休養して復活した女性で、夫とは離婚訴訟寸前のトラブルが続いている。お互いに罵り合っている。性格が悪いわけではないが、自分の理解度も低いのか話している内容がよくわからない。まあこういうこともあるだろう。残念

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映画「ただ悪より救いたまえ」

2021-12-30 08:04:41 | 映画(韓国映画)
映画「ただ悪より救いたまえ」を映画館で観てきました。


「ただ悪より救いたまえ」は韓国映画得意のクライムアクション映画である。レベルの高い韓国クライムものでも2014年の新しき世界は自分の中で上位に入る傑作である。その映画で主演だったファン・ジョンミンとイ・ジョンジェが再度組むというだけでワクワクする。加えて、これも韓国クライムものではピカイチの「チェイサー」の脚本を書いているホンウォンチャンがメガホンを持つということなら必見ということで映画館に向かう。

引退寸前の殺し屋が最後の仕事を終えたときに、バンコクにいる元恋人の娘が臓器売買の組織に誘拐されたと聞き、救出に向かうという話だ。ただ、最後の仕事で始末した男の弟分が復讐でバンコクに向かっているので、容易にはいかない。常に危機一髪のシーンが続く。

東京でのロケもあるが、タイロケのウェイトが高い。灼熱のバンコクということを示すためにフィルムの色合いもかえる。猥雑なバンコクの商店が立ち並ぶ狭い道で、縦横無尽に追跡するシーンはスリリングで楽しめるが、激しすぎて我が末梢神経を刺激しすぎる。ちょっときついかな。題材には子どもの臓器売買というきわどい題材も含み、いかにも裏社会経済が蔓延する東南アジアぽい映画の匂いがつよい。

「チェイサー」の脚本を書いているホンウォンチャン監督作品ということで、意外性のあるストーリーを予測したが、それはさほどでもなかった。でも主役2人には安定感がある。それなりにおもしろい。


東京でのミッションを最後に、引退するはずだった殺し屋のインナム(ファン・ジョンミン)は静かにパナマで余生を暮らすはずだった。ところがかつての恋人がバンコクで殺害され、別れた後に生まれたインナムとの9歳の娘ユミンが行方不明だと知らされる。

インナムはバンコクに飛び、娘の居所を突き止めようと聞き込みをして関わった者を次々と拷問にかけ真相を確かめると、臓器売買組織にさらわれたことがわかる。バンコクの協力者からトランスジェンダーのユイ(パク・ジョンミン)をガイド役にあてがわれ、組織のアジトに乗り込む。そして、インナムに兄を殺された裏社会でも狂犬と恐れられる殺し屋レイ(イ・ジョンジェ)も、復讐のためにバンコクに降り立ち、兄を殺したインナムの行方を血眼になって探していたのであるが。。。


⒈圧倒的なアクション
韓国映画のクライムアクションはレベルが高いので、外国資本の資金も流入しているようだ。日本とタイでのロケでクルマをたくさんド派手につぶしっぱなしだ。金かかっているんだろうと思う。スタントマンも階段で投げられたりして、こりゃ痛いだろうなあ。爆弾でいろんなものも破壊される。

主人公インナムの殺しの腕は抜群だ。いきなり日本で殺しの腕前を見せるわけだ。でも、今回はイ・ジョンジェ演じる殺し屋の方が気味が悪いし、圧倒的な強さと人の心がなそうな冷徹ぶりに怖さを見せつける。首にある入れ墨もちょっと違う。そんな2人が比較的早めに対峙する場面がでてくる。アレ、どうなってしまうのかと思ったが、最後まで結果はお預けになっていく。


⒉ロケ地のリアリティ
街のリアリティがないと、そこで動く人物のリアリティが出ない。日本ロケはともかく、猥雑なバンコクロケでは雑多に立ち並ぶ市場のど真ん中で、立ち回りやカーアクションが続く。その度に屋台のように路上に出している商店がぐちゃぐちゃだ。見ている方が大丈夫かいと思ってしまう。夜のネオン輝くバンコクのシーンもエキゾティックな肌合いをだしている。

⒊ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェ
ファン・ジョンミン出演作品は気がつくと近年ほとんど観ている。相性がいいのかもしれない。新しき世界でのヤクザの親分もずいぶん気性が激しい役だったけど、アシュラでの汚職市長がハチャメチャで強烈だ。いまだシャーマンの世界にとらわれていると言われる韓国社会を象徴するようなコクソン」の祈祷師ぶりも脳裏に残る。中国で北朝鮮高官に近づく商人を装うスパイを演じた前作も悪くない。ここでは、抑えをきかせながら圧倒的な格闘能力をもつ殺し屋だけど、「悪人にも心」を強調するシーンも用意されている。題名はそこから出ているのであろう。


新しき世界ではイ・ジョンジェは黒社会に裏から潜入する警官を演じた。表面的にはヤクザの顔をしながら、裏で苦悩するナイーブな役柄だった。今回の怖いくらいの凶暴な役柄はこれまでのキャリアからするとめずらしい。自分にとっては、もう20年以上前になってしまったがラブストーリーの名作「イルマーレ」がいちばん印象に残る。ハウスメイドで家政婦に手をつけるご主人役も役になり切る。今はNetflixドラマ「イカゲーム」で主役のようだ。これをきっかけに見てみたい。


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