映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

悪人  妻夫木聡

2011-04-26 21:29:49 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
「悪人」は2010年ナンバーワンの呼び声が高い作品だ。「告白」と日本映画の賞を争ったが、どう考えてもレベル的には格段に「悪人」の方が上だ。言葉の思いを映像で示すそのうまさと、ロケ地をうまく使って、みずみずしい映像美に包む李監督の手腕には感心せざるを得ない。時折リアルな映像を持ってくるせいか不自然さもなくドラマがつくりあがった。


福岡の保険外交員こと満島ひかりが友人2人といる姿が映し出される。彼女は出会い系に頻繁にアクセスしてさまざまな男とあっていた。友人には男たちの一人裕福な大学生こと岡田将生が恋人といっていた。その日は解体工事作業員の主人公清水祐一こと妻夫木聡と待ち合わせをしていた。ところが、偶然岡田が車で通りかかり、妻夫木の約束を破って彼女からデートに誘う。怒った妻夫木は2人の車の後を追っていった。

久留米で理容店を営む満島の父こと柄本明と妻宮崎淑子が映し出される。二人は警察の知らせで一人娘が絞殺されたことを知る。事件当日の晩に満島と会っていた大学生岡田に容疑がかかり、警察は岡田の行方を追う。そうして逃げる岡田はようやく名古屋で見つかった。

妻夫木は長崎の外れの漁村で生まれ育ち、祖母こと樹木希林の面倒をみながら暮らしていた。そこに以前携帯でメールを交わした佐賀の紳士服量販店員こと深津絵里からのメールが来る。孤独な心を抱えた二人が佐賀で出会い意気投合する。二人は海岸線を楽しいドライブにふけった。そこで妻夫木は深津に自分の秘密を告白するが。。。。

ロケハンティングのうまさで作品の優劣が決まってくる。何気ない日常の場面でも、映像にみずみずしさが感じられる。妻夫木聡の田舎の漁村の風景、妻夫木聡と深津絵里が逃避行をする灯台の美しい海など映画を作り上げる人たちがじっくりとロケ地を選んでいる。そこでの最高の撮影アングル、映像コンテには絶妙のうまさを感じる。近年の日本映画ではずば抜けているのではないか?
灯台は五島列島にあるらしい。こんな素晴らしい場所死ぬまでに一度行ってみたい。


そのロケ地で余計なセリフが出すぎないところも気にいった。気の利いたセリフというのもあるが、何もしゃべらないで表情だけでその思いを示すということこそ映画の醍醐味である。
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孤高のメス 堤真一

2011-03-07 20:20:08 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
映画「孤高のメス」はベストセラー小説を映画化した医療系作品である。現代医療の抱える様々な問題に警鐘をならす社会派ドラマだ。本格的手術シーンは堂に入っている。体内臓器を映す美術のレベルが高い。主人公は米国留学までしている医療にかけては凄腕の持ち主なのに何の野心もない。田舎の病院で、ろくな手術も受けられない患者のために、黙々とメスを振るうブラックジャックだ。



看護師だった急死した母こと夏川結衣の葬式を終えた新米医師の息子は、整理していた母の遺品から一冊の古い日記帳を見つける。
1989年。夏川結衣が勤める海辺の田舎の市民病院は、軽い外科手術すらまともにできない地方病院だった。そこに、ピッツバーグで肝臓移植も手掛けた主人公こと堤真一が赴任した。医師をまわしてくれる地元医大に配慮して、堤へのポストに戸惑う病院幹部だった。着任早々盲腸ということで運ばれた急患は腹を開くとがんであった。その緊急オペに、堤は正確なメスさばきで対応する。あやうく命を取り留めた。それを見た市長こと柄本明と病院側は医師としての腕前に驚き、地元医大出身の医長に配慮しながら、堤を第二外科医長とする。第一外科医長こと生瀬勝久らは強く反発、いやがらせをする。

手術室担当のナースとして堤に接していた夏川は、ブラックジャックばりの堤の仕事ぶりに感動、仕事に対するやる気を取り戻した。ある日、第一外科で、一年前のオペが原因で患者が亡くなる事態が発生。デタラメなオペをしながらそれを隠蔽、責任を回避する第一外科医長と対立して若き医師が病院を去る。
そんな中、市長が末期の肝硬変で病院に搬送される。市長を助ける方法は生体肝移植しかない。だが、成人から成人への生体肝移植は困難を極めるものだった。堤も大学病院でないと無理だという。堤が市長の家族に対して移植のリスクを説明する。その時、夏川の隣家に暮らす小学校教師こと余貴美子の息子が交通事故で搬送されてくる。脳挫傷で脳死と診断された息子の臓器提供を子供の思いと母親余は強く訴える。堤医師は日本ではまだ認められていない脳死肝移植を市長に施すことを決断するが。。。。



マスコミの攻撃、殺人罪で逮捕されるかもしれない・・・色々なことが予想されるのに、堤医師は黙々とメスを握る。いつもながら堤真一は冴えている。「三丁目の夕日」の下町の大将的役柄から、「容疑者Xの献身」の天才数学者役、「刑法39条」発狂の狂言を演じる男の役までなんでもできる。ここでも無心に患者の病気に挑む医師を好演した。

映画を見ていてあきの来ない流れであったが、先が読めてしまう気がした。そこが物足りないかな。
脇役に隆大介の刑事などまさにドンピッシャリの配役を持ってきたからには、脳死時点の執刀に公安が突っ込む場面がもう少しあったほうがおもしろかったかもしれない。

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レイルウェイズ  中井貴一

2011-02-23 18:00:39 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
映画「RAILWAYS」は中井貴一が50歳にして、電車の運転手になる話である。
大きな起伏のないストーリーだが、田舎の田園風景が妙に心に残る映画だ。



大手家電メーカーの経営企画室室長こと中井貴一は50歳を目前に、取締役への昇進を告げられるが、家族を顧みる余裕もなく仕事に追われる日々を送っていた。そんなある日、故郷の島根で一人暮らしをしている母こと奈良岡朋子が倒れたという連絡が入る。更に追い討ちをかけるように、同期の親友が事故死したという知らせが届いた。久しぶりに帰った実家で、中井はかつて必死に集めていた電車の切符を見つけ、子供の頃、“バタデン”の運転手になるのが夢だったことを思い出す。中井は会社を辞め、地元島根の一畑電車の運転士採用試験を受けることを決意した。49歳、しかも大手企業のエリートだった中井の応募に、会社は驚くばかりであった。熱意に動かされ、採用を決める。妻と娘を東京に残して、中井の運転士見習いの研修が始まったが。。。



同じような年齢だけに、気になる映画であった。この年になると、定年までなんとか居残ることを考えるものである。会社にいたらもらえるであろう賃金を計算すると、思いきれないものである。転職すると大幅年収ダウン。人的資本という資産を捨てるわけにはいかない。よほどの余裕があれば、話は別だけど。。。。


島根の田舎の風景を見ていると、ほのぼのとしてくる。過疎が進む県である。退屈で死にそうになるのではと思うが、こういう生き方も本当はあるのかもしれない。レトロな電車もいい。自分も小さい頃は鉄道が好きで、よくおばあちゃんと品川御殿山の八ツ山橋にオレンジと緑の東海道線を見に行ったものだ。そんな小さいころを思いだしながら映画をみていた。
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必死剣鳥刺し 豊川悦司

2011-02-12 06:00:37 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
「必死剣鳥刺し」は藤沢周平原作の時代劇である。
豊川悦司が主人公の剣士、仕える女性を池脇千鶴が演じる。「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」同様のタッチで描くが、今回は平山秀幸監督がメガホンをとる。ストーリーの流れはいかにも藤沢時代劇らしいながれで個人的には大好きだ。最終に向けての展開は実に楽しめた。


いきなり城中で主人公兼見三左エ門こと豊川悦司が、藩主の妾連子を刺し殺すシーンからスタートする。
江戸時代、東北の海坂藩で藩主の妾が藩政に口を出すようになった。もともと苦しい財政状況だったにもかかわらず、ぜいたく三昧で自分に逆らう勘定の長老に切腹を言いつけるなどしたい放題であった。城下の空気は重苦しさを増していた。豊川が妾を刺殺したのはそんな時だった。

最愛の妻を病気で亡くした豊川にとって、切腹覚悟の行動だったが、下されたのは意外にも寛大な処分であった。1年の閉門の扱いを申し伝えられた豊川は、亡き妻こと戸田菜穂の姪こと池脇千鶴に支えられていた。一年の閉門後、藩の権力者こと岸部一徳の配慮で再び藩主の傍に仕え、近習頭取となった。しかし、藩主は豊川になじまない。自分を再度ひきたててくれた岸部の屋敷に行き相談したら、藩主は別家の主こと吉川晃司に地位を脅かされていると聞かされるが。。。

藤沢作品に登場する剣の達人は物静かである。大はしゃぎして自分の実力を誇示するようなタイプはいない。そして自ら対決を申し出るのではなく、周りにやむなく仕向けられるという特有のパターンである。
ネタばれになるので、控えたいが、今回も同様のパターンである。「鳥刺し」も「隠し剣」の一つだという。「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」はいずれも大好きである。甲乙つけがたいが、「隠し剣鬼の爪」の秘技にしびれた。今回もラスト30分にわたる展開は実にすばらしい。


豊川悦司の剣の達人は、そもそもの物静かなキャラから言って、適役だったと思う。ラストの演技には御苦労さんと言ってあげたい。今後同様の活躍をすることを期待したい。
あとは脇役陣にはおそれ入った。岸部一徳はなんてうまいんだろう。悪役を演じさせたら当代きっての名手。切腹せざるを得ない状況にあった豊川を救うなんて、珍しく善人なのかと思しき動きを見せたところは迷彩か?吉川晃司もいい役者になってきた。「チームバチスタの栄光」の医者役も堂に入っていたが、今回もよくやったと思う。「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」の宮沢りえ、松たか子に比べると池脇千鶴は地味である。でもそこにリアリティがあるのかもしれない。徐々に成長していく姿を感じた。

藤沢周平映画はやっぱりいいなあ!

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映画 さんかく 高岡蒼甫

2011-02-02 19:27:47 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
映画「さんかく」は凡作の多かった2010年の邦画ではベスト3に入る作品だと思う。

倦怠期を迎えた同棲カップルの部屋に、気まぐれな妹が転がり込み、恋の三角関係に発展していくラブコメディーだ。高岡蒼甫が主演となり、同棲相手と彼女のかわいい15歳の妹に翻弄される男をコミカルに演じる。AKB48のメンバー小野恵令奈の妹がなかなか可愛く適役であった。同棲相手の田畑智子も好演だ。
よくありそうな話であるが、映画として非常に練られた印象を受けた。
脚本の巧みさと吉田監督の力量を感じさせる。


改造車を乗り回す釣具ショップに勤める30歳の主人公こと高岡蒼甫と、29歳化粧品販売員こと田畑智子は同棲して2年。特に高岡は田畑との関係にマンネリを感じてきていた。そんな二人のアパートに、田畑の妹で中学三年生のこと小野恵令奈が夏休みを利用して転がり込んでくる。小野は、下着同然の部屋着姿でうろついたりして挑発して主人公を翻弄し、彼も小野に惹かれていく。
夏休みも終わりに近づき、小野が実家に帰る前の晩、いなくなるせつなさで高岡は思わず小野を抱きしめてしまう。さらにその夜、眠れずにトイレに立った主人公と小野は自然とキスを交わすのだった。実家に帰ってからも、毎日のように彼女のことで頭がいっぱいになっていた。そんな時ちょっとしたケンカをして腹を立てた高岡は「別れる」といって家を飛び出してしまう。フラれた彼女こと田畑には別れるつもりはなく、逆にしつこすぎて迷惑がられるが。。。。


ロリコン好きにはたまらない小野恵令奈のふるまいである。同じような状況であったなら、普通の健康な男であれば、同じように狂ってしまったかもしれない。とはいうものの15歳である。同じ年の娘を持つ自分としては複雑である。ただそのロリコンの気持ちをあえて前面に出すのが監督の目的としてあったのではないか?
同棲相手のふるまいにちょっとしたことでひねくれたりヒステリーを起こしたり姿や、友人の紹介というだけでマルチ商法に引っかかっていく姿なんていかにも普通の女性にありがちな感じである。それに加えて、後輩イジメで反感を食らうようないやな奴で、自分勝手なダメ男の主人公のキャラもよくありがちだ。登場回数は少ないが、主人公の後輩役とのやり取りを通じて、主人公のいやな奴ぶりを浮き上がらせていた。いずれにせよ、男女間の心理はよくわかって書かれたシナリオと感じた。

途中弱い、非現実と感じさせる部分もあるが、最後にかけてのムードの出し方は絶妙のうまさであった。
少しづつセリフを減らしながら、その思いを画像の中の表情で表現しようとする意図を感じた。
ラストに脱帽!!

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映画 ノルウェイの森 2

2010-12-19 20:24:39 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
時代考証については、考えられていたと思う。
自分が大学にあがったときには、学園紛争の匂いはほとんど無かった。だからこれについては詳細は語れない。自分の母校も学生運動全盛時にはそれなりにあったみたいだが、もともとは学生運動が似あわない学校である。自分は今でも学生運動をやっていた人間はクズだと思っているくちである。

それはさておいて
村上春樹が主人公の原型と考えると、映画の服装その他が違うと思わせるところがある。
主人公の服装は、確かに当時の大学生が着ていたタッチである。
プレイボーイの先輩の雰囲気はまさにそれだという適切さだと思う。


村上春樹は神戸に生まれ、若き頃当時VANのブランドが好きであったとインタビューで語っている。
少なくともこの映画の主人公のようなダサい服装ではなかったのではなかろう。
レコード屋で働いている設定ということもあるんだからもう少し違うんじゃないかな?
松山コウイチについては好演だったと思う。
服装はともかく、主人公のナイーブさはよく表現していたと思う。

あとはミドリの設定である。
小説と映画が異なるのは仕方ない。
でもこの当時の女子大学生が持っていた知的雰囲気とミドリの匂いはどうしても違うような気がする。
最近は大学進学率が55%程度に上るというが、この当時は短大を合わせても20%にもなっていなかったであろう。こういっては何だが、微妙な知的匂いを感じさせる女性が多かった。
ミドリは古本屋の娘である。都内に生まれ、四谷にある名門女子高校に通うがお嬢さんとは違うという原作の設定だ。しかも当時の早稲田に通う女の子というとイメージが若干違う気もする。確かにあの髪形はよく見られたが、高校生はともかく大学生はあんな感じだったかな?吉永小百合も高校時代はこの髪型だが、大学生時代はちがう。
それと「ワタナベクン」というしゃべり方が若干違う気がする。


でも水原希子はみずみずしい若さをもつ有望な新人だとは思う。
(上に述べたことは彼女の資質とは関係ない)

菊池凛子があの年を演じるのは大変だったと思うが、よくやったと思う。
割と難しいシーンがたくさんあったと思う。
短いカットが多いといったが、極度の長まわしもあった。撮影ともども大変だったと思う。

今回濡れ場が大胆ではない。寸止めにしている。
これは良かったのであろうか?うーん難しい!
この小説を最初に読んだときは、情交の場面がやたらと目についた。
彼独特の性表現もある。それを言葉としていくつかとりいれたが露骨にはしなかった。
でもくどいけど、最後のレイコサンとの場面だけは残念だ。

村上春樹の小説に年上の女性との情交が出てくることが多い。
最新作「1Q84」にしてもそうだし、「国境の南太陽の西」もそうだ。
でもその年上の女性との情交が一番素敵なのは「ノルウェイの森」だ。
そういった意味でつくづく残念だ。

悪口もずいぶんと言ったが、かなり丹念につくった形跡がみられる。
監督、演技者の努力に敬意を表したい。
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映画 ノルウェイの森 1

2010-12-19 18:19:42 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
「ノルウェイの森」をロードショウで観てきました。
初めて小説を読んでから20年以上経つ。その後何度も読む機会があり、それなりの思い入れがある。村上春樹ファンで妙にこの小説に批判的な人もいるが、底辺に流れる70年代に向かう独特のムードとポップな響きが好きです。ベトナムのトラン・アン・ユン監督が起用される。「青いパパイアの香り」「夏至」いずれも大好きです。
今回楽しみにしていました。

時は1968年高校生の主人公こと松山ケンイチは、高校の同級生キズキと直子こと菊池凛子と仲良く青春時代を送っていた。その後キズキは人生に絶望して自殺した。友人を亡くした失望のまま、東京の大学に進学することになった。地方出身の大学生を収容する寮に住み大学に通うが、大学は学園紛争の真っただ中であった。授業も心ない学生たちによって中断する毎日、レコード屋でバイトをしながら悶々としていた。
そんなある日ナオコこと菊池と偶然再会した。同郷のよしみで親しくする二人である。二人で仲良く散歩するのを楽しんでいた。ところが彼女はある日突然姿を消す。心の病があり、静かに療養せざるを得ないのだ。再度一人でさまよっているとき、同じ授業を受けているというミドリこと水原希子が学食で声をかけてくる。急接近してきたミドリと主人公は時折会うようになるが。。。。



スタートは飛行機の中としていなかった。何もかも入れていると時間が足りなくなる。
なくても不自然さはなかった。

そんなに放映時間が長いとは感じなかった。
肝心なところは長まわしのカットとなるが、短いカットをずっと続けていく手法である。長いストーリーであるからこうやってまとめる必要があったのであろう。それはそれで正解である。同時にロケ時間がものすごくかかっただろうなと思わせた。
映像的にうまいと思ったのは、風と雨のバックの使い方である。「青いパパイア」「夏至」も同様に雨の使い方が非常にうまいと思った。特に室内セットでの雨の使い方は、小津安二郎監督の「浮草」を思わせる絶妙のうまさである。得意の小動物を使った表現はわずかにとどまったが、序盤少しだけ見られた。
監督得意の映画の手法が垣間見られて、映画としての完成度はまずまずだと思っていた。



でもネタばれになるが大きく取り上げないが、後半戦に不満が残る。

これだけは言いたい。

ナオコが療養に行った先のお世話する女性がいる。その女性レイコが主人公を訪ねてくる場面がある。僕自身は彼女が主人公を東京に訪ねてくる場面はこの小説の一つのクライマックスであると思っている。そこの表現が全く駄目であった。これが非常に残念である。監督と感じ方が違うのであろうか?極端にいえばここに時間をかなり取ってもいいくらいである。
レイコが主人公のところを訪れてギターを弾きながら歌いまくる場面が小説にある。素敵な場面である。そこが全く省略されている。レイコの表現が足りなかった。これには正直がっかりした。

つづく
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E.YAZAWA ROCK 矢沢永吉

2010-11-28 17:13:43 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
師走が近づくとうきうきする。年に一回矢沢に会える時が来るからだ。
今年も武道館公演チケットが取れた。
一昨年のコンサート中止は心配した。でも60還暦の昨年、かなりはじけた。世の中には熱狂的なヤザワ信者がたくさんいる。僕もその一人だ。今年もパワーをもらいに武道館へ行き、いい年で締めくくりたい。


E.YAZAWA ROCK は映画として公開されたドキュメンタリーである。独特の口調での矢沢節の会話を見せてくれると同時に、若き良き日のまさに突っ張って背伸びして生きていた時のヤザワの映像を交えながら、彼の真実を追う映画だ。近年のコンサートのシーンも映す。自分もライブで目の前で見たシーンだ。

レコーディング、リハーサル、筋力トレーニングにいたるまで密着し、さまざまな角度から矢沢の素顔を映し出す。若き日の辛い日々も語る。
ともかく熱い!ひたすら熱い!これって何なんだろう。

DVDでも熱気は伝わるが、やはりライブだろう。
コンサート会場に来ると、元ツッパリと思しき40代から50代にかけてのオジさんオバさんたちがたくさんいる。当然若い人もいるが、どちらかというと年齢層は高い。でもみんなヤザワにパワーをもらいにきている。飲酒厳禁で警察の交通係より厳しい入口の検問がある。その昔はツッパリ連中のケンカやトラブルがよくおきていたようだ。テレビ番組「ギンザナウ」で目の前で見た「キャロル」時代からのファンである自分は、曲は聞くがしばらくコンサート参戦から遠ざかっていた。でもコンサート復活した。ヤザワファンのマナーの良さに安心して見ていられる。
時間通りきっちりコンサートが始まる。その前は会場のいたるところで、「エーちゃんコール」をヤザワスーツで身を固めている男たちが発散させるように叫んでいる。始まりだすと総立ちだ。でもバラードになると静かに聞いている。個人的にはヤザワの魅力はバラードにあると思う。よくもまあ2時間半近くぶっ通しでできるなと思うが、それなりに声を鍛えているのがこの映画からも読み取れる。


「トラベリンバス」が始まる直前、一瞬の静寂。一転会場が明るくなり、飛び散る紙テープとタオルの中で歌うヤザワの映像に、昔のアメリカで乗ったトラベリンバスのシーンを混ぜて映す。アメリカのヤザワは意外にやさしい顔をしている。人相変わったなあ。でも両方好きだ。
今年も堪能したい!
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理由  大林宣彦

2010-10-31 21:19:33 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
宮部みゆきが直木賞を受賞したミステリーを、大林宣彦監督が映像化したサスペンス・ドラマ。荒川のマンションで発生した一家4人殺人事件に端を発する不可解な謎を、多数の人々の証言から解き明かしていく。
登場人物の多さに戸惑う。まあこれだけの出演者をよく集めたものだ。

 1996年6月5日暴風雨に見舞われていた深夜未明、荒川区にある高層マンションで、階上から転落する人を見た女性の父親と管理人の岸部一徳が落下地点で遺体を確認した後、どこから転落したかを調べて2025号へ向かう。そこには殺された遺体があった。犯行現場の2025号室には小糸信治一家が住んでいたことが分かる。当初4人の遺体はこの小糸家の人々と思われていた。しかし調べを進めるなかで、4人は小糸一家とはまったく赤の他人の別人であることが判明する。マンション管理人の岸部一徳によるとこの部屋は以前から人の出入りが激しかったという。殺された4人は何者か? 謎は深まるばかりだった…。

インタビュー形式で事件の関係者に取材する形で話が展開する。その人数が半端じゃない。
誰が好演という訳でもない。途中で何度もわけがなからなくなった。

城東地区を舞台にしているということにこだわる。荒川、江東、江戸川と下町の匂いを感じさせる路地裏の風景が多い。尾道三部作で古い街のたたずまいを撮る大林監督が好きそうな映像コンテだ。映像は美しいが、時間も長く、ちょっと凡長な感じがする。
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アヒルと鴨とコインロッカー  

2010-10-04 04:40:27 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
伊坂幸太郎の原作の映画化である。
見どころある部分もあるが、個人的には正直そんなにいいとは思わなかった。

仙台の大学に進学し、初めて一人暮らしを始めた主人公こと濱田岳。ボブ・ディランの「風に吹かれて」を口ずさみながら引越の片付けをしていると、アパートの隣人こと瑛太に声をかけられる。本屋から「広辞苑」を盗み出す手伝いをするように誘われる。同じアパートに住むブータン人留学生が彼女を失って落ち込んでいるから日本語の勉強のため「広辞苑」をプレゼントするのだと。困惑しながらもモデルガンを手に本屋襲撃の手伝いをしてしまうが。。。。

しばらくは淡々と流れて学園物の匂い。どういうミステリーかと思う。ところが、ブータン人をめぐる人間関係がまったく違うことに気づき、展開が変わってくる。
ストーリー自体は割と奥が深い気がするが、前後のシャッフルの仕方が割と難しい。妄想と現実の交錯、回想も入ってくるのでごちゃごちゃになる。デイヴィッドリンチのようにわざと難解にごちゃごちゃにする映画とも違う訳だから、映像の展開に難しさを感じた。
脚本の作り方が容易でなく、映画化が難しい作品だったのかもしれない。

濱田岳の演技はわざとらしく感じた。脚本がもう一つなのかな?瑛太はいいかも。
良かったのは大塚寧々かな?もう40過ぎたかと思うと奇妙な感じがする。成熟女性を演じ絶妙のうまさを感じた。
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ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

2010-09-29 21:08:14 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
「ブラック会社に勤めているが、もう俺は限界かもしれない。」は深夜残業の連続の人使いの荒い大手の下請けIT会社に勤めた主人公の苦労話が中心である。傑作だとか、感動したという映画ではないが、すんなりと映画にとけこめ、飽きずに最後まで観れた。考えさせられるところもある。いやな奴を演じた品川祐がうまい。



高校中退、26歳ニートの小池徹平が森本レオが経営するIT会社に入社した。母の死をきっかけに情報処理の資格を取得し、必死に就職活動をする。中卒のハンデは大きく、不採用を繰り返した後、ようやく採用にこぎつけたのであった。
しかし、入社初日からサービス残業は当たり前、後輩いじめに終始するリーダーこと品川祐にぐうたらな同僚、精神状態不安定の先輩、無関心な社長…。何度もくじけそうになりながらも、ついに限界が訪れるが。。。。。



ブラック会社と言っているが、この程度であれば現実にも多々あるかもしれない。中国やインドの人たちは普通にこなすであろう。今や日本社会がこの程度をブラックと言ってしまうところに今後の新興国の成長に対する日本の凋落が見えてきて複雑な気持ちを感じる。
そもそも今までの日本経済を支えてきたのは、大企業の下請けの中小企業である。大企業であれば、労働基準局の査察を恐れて、多少は気を遣うようになってきたが、中小ではそんなのは無理であろう。下請けの下請けであれば納期に間に合わせないと仕事が一気になくなる。

日本経済の凋落の主原因の一つに、労働時間が諸外国の圧力によって以前より大幅に短くなったことがあるとする一橋大の林教授のような学説もある。しかし、時間管理がしやすいブルーカラーの労働時間が減り、管理しづらい知的蟹工船とも言われるIT産業の従業員の労働時間は増えているともいわれる。そう考えると、資本主義の創成期から高度成長時代にかけての様相とは大きく違っている。複雑だ。

自分も以前は休みも少なく、夜も遅かった。今は相当楽になった。
それ自体は非常にいいことだと思う。企業の成長もいいが、体がもたない。
社員のタレこみを恐れる人事の姿勢がびくびくもので助けられている。

厚生労働省の長妻大臣が替えられた。次の大臣は官僚たちを土日休ませると言っているようだ。長妻大臣は土日も部下をこき使っていたようだ。下馬評の高かった彼も管理者失格のレッテルをはられた。いつも思うことだが、労基署は霞が関の役人をどう管理しているのかと?一般会社の残業には異様に目を光らせているくせに身内はどうしているのかな?と思っていた。
どうも自分のところには違っていたようだ。
これで言うこととやることとのギャップが少なくなって役人さんもほっとしているだろう。

映画自体はそんな日常のことを考え直すいいきっかけにもなった。
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座頭市  ビートたけし

2010-09-26 17:31:35 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
ビートたけしのつくった座頭市だ。個人的には彼の作品はあまり良いと思ったことがない。でもこれだけは別だ。オーソドックスな座頭市のストーリーの流れに乗って、たけし軍団を使ったコミカルな面やインド映画のような全員ダンスなど非常に楽しめる作品になっている。私は大好きだ。



盲目のあんま市ことビートたけしがある宿場町に到着した。その町はやくざの銀蔵一家に支配され町民たちは搾取されていた。脱藩した浪人こと浅野忠信も同じころこの町にたどりついた。自ら剣の実力を売り込み岸辺一徳率いる銀蔵一家の用心棒を勤めることになる。
市は賭場で遊び人ガダルカナル・タカと出会い、それが縁でその叔母こと大楠道代の家にやっかいになる。さいころの音を見抜く市と遊び人は賭場の博打で勝ち、誘いに来た芸者姉妹と遊びに出るが、彼女たちは彼らから金を巻き上げようとしていた。それを察した市は二人を問い詰めると、幼少時に両親を何者かに殺害され親の仇を探して旅をしていると言う。そして一緒に行動を共にすることに。。。。

時代劇の構図は、主人公と最も強い相手との剣劇をメインにして、対決に至る前に主人公と相手役の活躍をそれぞれ見せてから最終場面に持ち込むというパターンである。勝新太郎主演の第一回では、その対決相手が天地茂であった。今回は浅野忠信である。ちょうどこのあたりから浅野の演技が少しづつうまくなってきたところで、相手としては十分だったと思われる。前哨戦のビートたけしの剣劇も冴えまくる。

黒沢明監督の時代劇でも、シリアスな剣劇にとどめないで、コメディ的な要素をかなり付け加えていたと思う。さすがに冗談が言える役ではないので、たけしは沈黙。その分ガダルカナル・タカにかなりお笑いの場面をやらせた。この柔らかみがよかったのだと思う。
石倉三郎はいつもながら滑稽な動きを見せる。岸辺一徳も悪くはないが、最近の方が冷徹な表情がうまくなっている印象だ。柄本明、樋浦勉など日本映画を代表する脇役が映画にスパイスをきかせる。



最後のダンスはこの後の作品であるが「スラムドックミリオネア」を思わせる。「スラムドック」も最終にインド映画特有のダンスを持ってきた。このタイミングが一緒である。この時代にあんな踊りなんて踊るわけないと思いながらも、お祭りで興がのったらおおらかにこんなことあるかもしれないなあと思った。
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重力ピエロ  加瀬亮

2010-09-23 11:27:22 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
「重力ピエロ」は伊坂孝太郎の原作に基づくミステリー映画である。加瀬亮と岡田将生の主演二人の穏やかなムードに、落ち着いた仙台の街をうまく組み合わせて作り上げた傑作である。主演の二人が持つ独特のムードもよいが、彼らの両親を演じる小日向と鈴木京香の夫婦もいい味を出していて、ミステリーというよりも、上質の人間ドラマとなっている。



仙台市内に住む遺伝子を研究する大学院生・泉水こと加瀬亮と芸術的な才能を持つ2つ年下の弟・春こと岡田将生は、仲の良い普通の兄弟だ。二人が住む仙台市内で不審な連続放火事件が発生する。その現場には謎めいたグラフィックアートが残されていた。それを見て加瀬と岡田は犯人像を推理しようとしていた。
放火とグラフィックアートにどんな関係があるのか? 頭を悩ます加瀬は、大学院の友人から24年前の連続レイプ事件の鍵を握る男がこの地に戻ってきたことを聞く。この男は兄弟の家族と関係の深い男であったが。。。。

バランスのいい映画である。バックの音楽を静かに流しながら、セリフに重みを持たせる。ミステリーでありながらその匂いが強く出ていない。それぞれの性格描写に時間をかける。それでもミステリーの伏線をいくつか持たせながら、観ているものに犯人像の確信をもたせない。うまいと思う。
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雪に願うこと  伊勢谷友介

2010-08-27 06:01:29 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
北海道帯広のばんえい競馬をめぐって語られる人間模様を描いている根岸吉太郎監督の2006年の作品である。東京で事業に失敗した伊勢谷友介が、故郷に戻ってきてばんえい競馬の調教師佐藤浩市を訪ねていきそこで起きる出来事を描く。やさしい目線で描かれていて心温まる傑作だと思う。

北海道帯広にある競馬場では、ばんえい競馬という重量物を搭載したそりを従えた馬のレースが行われている。それを一人見に来ていた伊勢谷友介は女性騎手吹石一恵が乗る馬に有り金全部ぶちこんだが外れてしまった。そして、厩舎にいる調教師の兄佐藤浩市を訪ねる。長年疎遠だった弟がきて兄は驚いた。久々に戻った故郷で、厩舎に泊った弟だったが、厩務員の一人に金の無心をしていることを聞き弟を問いただす。弟は東京で事業をしていたが、失敗してお金に困っていて、疎遠だった兄弟に助けを求めようとしていたのであった。



このあと厩舎に入った中での出来事を描写していく。
根岸監督の作品だからか?出演者は豪華なキャストである。口だけでなく手が最初に出てしまう兄佐藤浩市がいかにも昔堅気の人間のようだ。素朴な荒々しさの見せ方がうまい。好演だと思う。
あとは小泉今日子と吹石一恵がいい。厩舎の賄いをやっている小泉は、夜は帯広のスナックのママもやっている。こんなママがいる店だったら週に何回か通ってしまうよなと感じた。吹石一恵は騎手を演じる。女性であること新人であることで大きなハンデをもらっていたが、新人のハンデが亡くなったとたん勝てなくなったことで悩むキャラクターである。実際に馬に乗って演技するが、そう簡単にできることではないと思う。見事だ。



そのほかも豪華だ。山崎努はいつもながらいい。草笛光子にあえたのがうれしい。
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サッド・ヴァケイション  浅野忠信

2010-08-23 20:50:05 | 映画(日本 2000年以降主演男性)
青山真治監督による北九州市を舞台にした人間ドラマである。キネマ旬報の2007年ベストテンで4位に入る作品ということでみた。浅野忠信、宮崎あおい、オダギリジョーをはじめとして近年活躍する若手俳優にベテランを組み合わせた映画である。序盤戦が意味不明で何が何だかよくわからない。途中からいいテンポになるけど、過剰評価の映画だと思った。



中国人の密航を手助けした浅野忠信は、中国人の少年を預かることになる。幼馴染の妹とその少年を養うため北九州市内で運転代行をしていた。ある日、浅野が仕事で送った先の運送会社の事務所で、5歳のときに自分を捨てていった母こと石田えりを目撃する。その後浅野は母親を訪ねる。母親は笑顔で息子を迎える。そして運送屋に住み込んで一緒に暮らさないかと提案する。中村嘉津雄が社長を務めるその運送会社はさまざまな過去を持つ人たちがたくさん働いていた。実際、割とたやすくその中に入っていけた。しかし、石田えりがその後生んだ高校生の弟は反抗期のせいかなついてはいかないが。。。



映画が始まってしばらく聞き取りにくいセリフが続き、ボリュームをかなり高く上げても何を言っているのかわらない。石田えりが出てきたあたりからようやくぼんやりと見えてくる。それまではよくわからない。監督がコーエン兄弟ならこの序盤は20分以内で駆け抜けるであろう。何でこんなに回りくどくするのであろうか?これが青山監督の思い上がりだと推定される。あまり評価できない。1時間近くたってからようやく映画らしい展開になってくる。福岡弁がなじみやすく聞けるのだけが救いだ。
浅野忠信は好演だと思う。宮崎あおい、板谷由夏など女優陣が健闘するが、二人はセリフが不足していて活躍の場も少ない。もったいない。

青山監督の映画づくりとはちょっと合わないなあといった感じだ。
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