映画とライフデザイン

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未来を生きる君たちへ

2012-04-22 06:28:57 | 映画(洋画 2010年以降主演男性)
映画「未来を生きる君たちへ」はデンマーク映画、2011年アカデミー賞外国映画賞を受賞した作品だ。

受賞が当然と思われる質の高さがある。撮影、映像コンテ、演技、シナリオいずれも高い水準だ。
映画を見て「仕返し」という言葉を連想した。「仕返し」を示すいくつかの逸話が続いたからだ。見終わった時解説を見たら原題は「復讐」だという。なるほど。。
若干「重い」と思わせる部分もあるが、映画の教科書のような作品だ。


舞台はアフリカザイールとデンマークの両方である。
エリアス、クリスチャンという2人の少年が話の中心だ。その両方の家族の話を混ぜ合わせながら映画は進んでいく。まずはアフリカのキャンプ地が映像に映し出される。現場で医療の先端にたつのはエリアスの父親アントンだ。避難キャンプのテント住まいの貧しい黒人たちの治療をしている。デンマークに家があるが、妻子とは別居していた。同じく医師の母と幼い弟と暮らしている息子エリアスは、毎日学校でイジメにあっていた。



そんなある日、クリスチャン少年が、エリアスのクラスに転校してくる。そしてクリスチャンの隣に座った。母親を亡くした彼は父親とともに祖母が住む大きなお屋敷にすむことになったのだ。
その放課後、「ドラえもんのジャイアン」のようないじめっ子のソフスにエリアスは絡まれ、新入のクリスチャンも巻き添えを食らう。翌日、再度トイレでエリアスがいじめっ子にまたちょっかいを出されていた。その時突如クリスチャンは棒を持って何度もソフスを殴り倒す。仕返しだ。なめられないためにはこうするしかないという。ソフスのケガが表ざたになり、親が呼び出された。クリスチャンの父親クラウスは、諭すがクリスチャンは聞く耳を持たない。いじめっ子をナイフで脅したことを言及されたが、ナイフは持っていないと言い張る。


一方アフリカのキャンプ地で、エリアスの父親である医師アントンの元にむごいことをされた産婦の患者が運ばれていた。地元の悪党グループが、妊娠している産婦に対してある賭けをする。生まれてくる子が男か女かの賭けだ。それがエスカレートして、まだ生まれないうちに産婦のお腹をほじくって確認するということをするのである。とんでもない話だ。その後キャンプ地の医療の現場に悪党グループのリーダーが来る。銃を持った仲間たちを連れて。リーダーは足をケガをしたのだ。そしてアントンに診てほしいとくる。周辺の面々はこんな奴を見るなといって、看護師たちは診察を拒否する。それでもアントンはケガを診ようとするが。。。


帰国した父親アントンが、子供たちとクリスチャンを連れて出掛けた帰り、幼い弟がよその子と公園でケンカになった。割って入ったアントンだが、駆け寄って来た相手の子の父親に殴られてしまう。翌日、クリスチャンとエリアスが自分を殴った男ラースが働く自動車工場を割り出した。それを聞いたアントンは、子供たちとラースの職場を訪れる。殴った理由を問いただすアントンを、ラースは再び殴るが、屈しない姿を子供たちに見せた。しかし、子供たちの気持ちは晴れなかったが。。。。

以上のような話が続く。それぞれに重い話だ。そして最終に向けてもっと重くなっていく。まさに復讐劇だ。

そんなストーリーがデンマークの女性監督スサンネ・ビアによる極めて巧みな映像技術でかなり高いレベルの映画となっている。
映像コンテの選択が実にうまい。美しい絵画を思わせるコンテだ。アフリカとデンマークの風景とそれにとけこむ人物をカメラアングルに巧みに収める。広大な原野にからんだ陽の映し方がうまい。また手持ちカメラを使ってリアル感も醸し出す。ミクロな部分を映した映像とアフリカやデンマークでの雄大な光景を映した映像がそれぞれに効果的に映し出される。カット割りも絶妙で編集もうまい。
まさに映画の教科書というべき作品だ。

アフリカの避難キャンプで映しだされる黒人たちの姿は悲惨な状況だ。今回は子供たちを中心に映し出す。物乞いのような黒人の子どもたちは車に乗っている西洋人たちを追いかける。60年代くらいまでの香港を舞台にした映画を見ると「銭!銭!」といって金持ちたちを追いかける中国人の子供たちの映像がよく出てきたものだ。それを連想した。今香港でこんな光景はまったく見ない。一握りの人ばかりでなく、みんなが豊かになった。果たしてこの黒人たちの行方はどうなるのであろうか?

吉良上野介に対する大石内蔵助といった忠臣蔵の大げさな復讐劇が江戸時代からずっと人気がある。それに対して福沢諭吉先生は有名な「学問のすすめ」の中でなんて愚かなことだと忠臣蔵を賞賛する論調を強く批判していた。これって意外に知られていない。
日本では大それたものは減ったけれど、身近なところで復讐、仕返しは繰り返しある。生きている限り、「仕返し」にかかわったことのない人の方は極めて少ないであろう。この映画では復讐した後の気持ちについても十分触れられている。けっして後味がいいわけではない。非常に考えさせられる映画である。でもいじめっ子に対して、なめられるといけないからといって、トイレで道具を使って殴る場面を見てなんかすっきりした気分もした。
復讐にかかるそれぞれの気持ちは理解できないわけでもない。正直何が正解なのかはわからない。
コメント
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