映画とライフデザイン

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「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」 村上春樹

2013-04-21 09:30:30 | 
村上春樹の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を早速読んだ。
長い間の彼のファンとしては本当に楽しみにしていた新作である。

題名を一読して意味がわかる人は誰もいないであろう。
「多崎つくる」は主人公の名前だ。なぜ色彩か?というと、高校時代や大学時代の仲間の名前に赤、青、白、黒、灰と色が入るのに彼の名前に色の名前が入っていないということ。それで「色彩を持たない」となる。「巡礼」はいくつか意味が込められているが、昔のある出来事に関して、その真相を確かめに行くために旅に出るという意味が強い。

いずれにせよ、読んでいくとわかっていく。
たまたま駅の構内で売られているのをみつけて、さっと購入して、翌日の電車の行きで90ページ、帰りで100ページ、自宅で残り全部を読んだ。
「1Q84」は600ページにわたるので、1冊読むのにも少し時間がかかったが、意外にさらっと読めた。長編の後こういう小説を入れることが多い。いずれも内容は違うけど「国境の南太陽の西」「スプートニクの恋人」が数ある長編の間に書かれているのと同じだ。

主人公多崎つくるは36歳の技術屋だ。電鉄会社の中で駅舎をつくる仕事に従事している。独身だ。今は2つ上の旅行会社に勤める沙羅と付き合い始めたところだ。
主人公にはつらい体験があった。高校時代仲の良い5人組でいつも行動を共にしていた。彼のほかに男2人、女2人でいつでも一緒にいた。主人公は名古屋出身で大学に進学する時、関心のある駅舎設計の専門の教授が東京の工科大学にいることを知り、東京に行ったのだ。残りの4人は名古屋に残った。進学後1年たった時、彼は残りの4人から絶交を申し立てられた。意味がわからないまま、もう15年以上たっている。そのことが彼の心に大きな傷となっている。
その話を沙羅にした後で、つくるが自分を抱いている時も心ここにあらずの感じがすることがあると言われる。昔の事件がわだかまりになっているのではないかと、残りの4人の消息を探すことを勧められる。段取り上手な沙羅は4人の消息を探しだしてきた。そして主人公の4人それぞれの消息を追う巡礼が始まる。。。

この間に大学で知り合った灰田という2つ下の男との関わりや、灰田の父親の体験が織り交ぜられていく。話自体は比較的単純な話だと思う。村上春樹の長編ではいくつものストーリーが平行線で語られることが多い。謎の人物も多い。それが彼の小説の重層性につながるが、ここでは灰田の話を思ったほど語りすぎないので単純化している。あえて長すぎないようにつくったのであろう。
昔の仲間ということで4人の人物を登場させている。
「国境の南太陽の西」では主人公の中学時代の同級生との純愛が語られ、あとは主人公の妻以外には存在感を持たせていない。ここでは昔の仲間4人にそれぞれ存在感を与える。このように昔の4人を普通に紹介すること自体は珍しい。それでもやり方次第では200ページで構成することすらできるストーリーだと思う。ストーリーは単純である。


村上春樹は分析的描写や心理的描写が好きでないと言っている。確かに彼の小説では、平易な話し言葉だけれども、非常に練られたセリフで登場人物が話していることが多い。それによって登場人物のキャラクターを浮き上がらせるのが彼の特徴である。
しかし、それだけだと軽く流されてしまうので、むしろ小説に出てくる場面の情景をかなり詳細にわざと表現することで、会話の流れをいったんあえてとめることを心がけていると彼が語るのを読んだことがある。フィッツジェラルドに影響を受けたそういう彼の書き方が好きだ。

でも、今回の小説は若干違うかもしれない。分析描写が目立つし、会話でキャラを浮き上がらせるのは同じであるが、前段の人物紹介がいつもより長い気がする。読者に読みやすくするつもりだと思う。最後の新宿の描写が意外に長いのであれと思った。軽く流されないためにそうしているのであろうか。彼の小説は謎の人物を織り交ぜることが多い。今回は緑川くらいかな?でもその緑川のキャラに一番自分は関心を持った。まずは彼の言葉をかみしめるように再読した。緑川がピアノを弾きがたるあたりが、一番好きだ。読みながら「ラウンドミッドナイト」のフレーズが耳についてきた、村上春樹の小説をよんでいるという実感が一番強い部分だった。

最後の締めはあれでよかったのかもしれない。自分なりに推理する楽しみができた。
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