映画とライフデザイン

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映画「サバカン SABAKAN」

2022-08-21 20:58:22 | 映画(自分好みベスト100)
映画「サバカンSABAKAN」を映画館で観てきました。


映画「サバカン SABAKAN」は、ある作家の故郷長崎での小学生時代の想い出を描いた作品である。夏も終わりに近づき、季節にあった作品を探している中で見つけた作品。初めて知る子役2人が主役であるが、草なぎ剛や尾野真千子も出演しているので悪くはないだろうとチョイスする。これは正解であった。

離婚して娘と別々に暮らす作家久田孝明(草なぎ剛)が、生活のために書くゴーストライターの仕事に満足せず新作の構想を練っている。そんな時小学5年生だった1986年の夏休みの忘れられない想い出を振り返って書き綴る。


長崎の海辺の町で育った久田は、小学校5年生で父(竹原ピストル)、母(尾野真千子)と弟の3人暮らしだった。ある日、いつもみすぼらしい同じ服を着てクラス仲間になじめない竹本から、山の向こうにあるブーメラン島にイルカが漂流しているので一緒に見に行かないかと誘われる。最初は断ったが、竹本が久田のある秘密を握っていることがわかり、自転車の2人乗りでブーメラン島に向かう顛末とその後に起こる話が基調である。

心に響くすばらしい映画だった。
恥ずかしながら、今年観た映画の中でいちばん泣けた。自転車に乗ってブーメラン島に向かう2人のエピソードは、ビックリするようなハプニングや意外性はない。でも、心になぜか響く。そこでは、まだ精神的に成熟していない主人公を引き立てる登場人物が次々と加わってきて、ひと夏の物語を膨らませていく。

田舎の典型的な家庭の姿を描くのに尾野真千子をはじめとした配役が絶妙に起用される。ロケハンにも成功して、ドラマのポイントとなる場面に映る長崎の風景はこんな美しいところがあったのかと驚く。素朴な子ども目線でストーリーは流れていき、心が洗われるような気分になれる。必見である。

⒈美しい長崎
ほぼ全面的に長崎ロケである。といっても、長崎市内でなく大画面で観る長崎の長与は海と川が印象的な素敵な田舎町だ。おそらくは舞台となる1986年から30年以上の月日が流れても近代化されていないのであろう。田舎の匂いがぷんぷんする。ロケもやりやすそう。背景が巧みに描かれるので、登場人物にリアル感がでる。長崎県長与町出身の金沢知樹が監督・脚本なので、長崎県内の景色の良い場所からイイトコどりした感じもする。

海沿いを走るこんな鉄道路線が長崎にあるとは知らなかった。島原鉄道のようだ。海を見渡す駅は絶景である。大画面で観ると凄みが増す。


⒉絶妙な配役と竹原ピストル
オーディションで選んだのであろうか?主人公を演じる番家一路は、田舎育ちを感じさせる素朴さを持つ。坊主頭の弟役の子どもも含めて竹原ピストルと尾野真千子と食卓を囲んだシーンには本当の家族のようなリアル感がある。地元の方言も飛び交う。自分が知っている熊本あたりの言葉に通じてしまう。

一方相手役の竹本を演じた原田琥之佑には都会育ちのようなクールさを感じる。もっとも、役柄もつらく貧しい境遇の中で育っている設定で、これはこれで良いのかもしれない。その母親役が貫地谷しほりで、やさしいお母さん役が似合う年ごろになった。一世を風靡した「スイングガール」からもう18年経ったんだね。


主人公の父親役の竹原ピストルは、田舎の気のいい親父という感じをうまくかもし出す。いかにも地元の人のようだ。親父が斉藤由貴が大好きで、セガレもその影響を受けてカラオケを歌う。そこで時代を感じさせる。ボーナス2万円プラスビール券しかもらえないと、妻に罵倒される。主人公の弟にお父さんとお母さんもチュッチュしているのと言われて、尾野真千子と2人ニンマリ笑う姿がいい感じだ。


2人がブーメラン島に遠征して、ピンチでもうダメかという場面で助けてもらったお姉さんとお兄さんがいる。これがある意味謎の存在だけど、正体をほのめかすヒントをわれわれに与えながらミステリアスに巧みに使われている。特にお姉さん茅島みずきはモデルだけに美形だ。カッコいい。

⒊尾野真千子
こちらあみ子でもお母さん役をやっていたばかりである。あの時は遠慮気味の継母だったが、今回は長崎一おっかないお母ちゃんという肝っ玉母さんで口より手が先にでる。亭主も息子も叩きっぱなしだ。夫役の竹原ピストルと子役2人とのコンビネーションも抜群に良い。


こちらあみ子広島が舞台で「サバカン」長崎で、いずれも都会の匂いがしない海辺の田舎町だ。尾野真千子地方ロケを楽しんでいる感じもする。2021年公開作では主演女優賞をかっさらっていったが、往年の大女優と違い、偉ぶらずに主演にこだわらないその姿には感服する。小学生高学年の子どものお母さんを演じるには適齢ということもあるだろう。芸の幅がますます広がり、大女優の道を着実に歩んでいる。尾野真千子の出演作にハズレはない尾野真千子と竹原ピストルの最近の出演作をほぼ観ていることに気づく。

サバカンは、名のごとくサバの缶詰のことだ。ある場面で食卓に登場してから後半戦に向かって、効果的にうまく使われる。映画が終わり、エンディングロールに流れるテーマ曲が情感を高める素敵な曲だ。ただ、この曲は最後まで聴いてほしい。オマケの映像が2つあるのでご注意を。


映画館を出たら、若いお母さんと登場人物と同じくらいの小学生の男の子が歩いていて、泣き疲れたと思しきお母さんが息子に支えられながら、「泣いちゃった。この映画何度でも観たい」と息子に言っていた。その気持ちよくわかる。
コメント
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