映画とライフデザイン

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映画「あのこと」アニー・エルノー&アナマリア・ヴァルトロメイ&オードレイ・ディヴァン

2022-12-06 18:45:53 | 映画(自分好みベスト100)
映画「あのこと」を映画館で観てきました。


映画「あのこと」は2022年度ノーベル文学賞を受賞したアニーエルノーの実体験に基づく小説「事件」の映画化である。女流監督のオードレイ・ディヴァンがメガホンを持つ。2021年のヴェネツィア映画祭の金獅子賞を受賞している。望まぬ妊娠をした大学生が自分の懐妊に向きあう姿を描き出す。

文句なしの5つ星である。
おそらくは2022年度の各ベスト作品上位に入ってくるであろう。フランス映画らしい簡潔さで100分にまとめる。

ものすごい衝撃を受けた。妊娠を怪しむ時点からのアンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)の動きを映像で執拗に追っていくカメラワークがすばらしい。大画面からアンヌの心の動きがあぶり出される。これほど臨場感のある映像は少ない。ナレーションは一切ない。一人称で書いた私小説のようだ。

昨年同じように17歳の高校生が望まぬ妊娠をして、長距離バスで移動して中絶に向かう17歳の瞳に映る世界という傑作があった。ドキュメンタリーを観ているような映像で、よくできていた。ただ、戸惑い続けるアンヌを追う映像には、それ以上の緊迫感がある。


映画の性描写はきわどい。主人公を演じるアナマリア・ヴァルトロメイも割と大胆で、ヘア自体も何度も飛び出す。加えて、女子寮の別の女子学生のヌードシーンが何度も登場する。ただ、映画の内容がシリアスなので、いやらしさはほとんど感じない。

⒈アンヌとアナマリア・ヴァルトロメイ
アンヌは大学の文学部に通う学生だ。年代は原作者アニーエルノーの年齢に合わせて60年代の設定である。アンナから1940年生まれというセリフがある。古い感じはまったくしない。授業中、講師に突然当てられても、理路整然と答える自他ともに認める秀才である。上のランク(大学院)も目指している。女子寮の個室で暮らすが、夜は男子学生もいるダンスパーティにも参加する。

そんなアンヌが生理が来ないことに悩む。そして、医師に妊娠の診断を受ける。診察前に、医師の性交渉の経験があるかという質問にはないとウソをついて答えていた。医師には始末してくれと言うが、当時のフランスでは妊娠中絶が禁止であった。他の医師に相談しても、すぐさま帰ってくれと言われる。法令違反で逮捕されるリスクがあるからだ。


胎児の始末をどうするか。悩みが徐々に増幅する。最初は黙っていたが、懐妊の相手当事者にも告白するし、親しい友人にも漏らす。処置方法がわからないのだ。学業にも手がつかず、成績は急降下だ。心の戸惑いを感じる。

そんなアンヌを演じたアナマリア・ヴァルトロメイがすばらしい。美形である。脱ぐことも厭わず、ひたすら攻撃的にアンヌになり切る。彼女をひたすら追うカメラも含めてすばらしい。自力で処置をしようと、性器に刃物を刺すシーンは映画の見どころの一つだ。映画館の隣席の男性客が、そのシーンのクライマックスを観られず目を下にそむけていた。自分も同じような心境だ。

⒉妊娠中絶論議
フランスで妊娠中絶が認可されるのは1975年である。まだ10年以上の月日が必要であった。日本では、ベビーブームで極端に人口が増えることは国のために良くないとGHQ承認のもと1949年には中絶が認可されている。1950年には中絶率10%だったのが、1954年には何と50%にまで上昇する。1955年に116万件、1960年に107万件の人工中絶があったというデータもある。(男女共同参画局HPより)

自分は父母が結婚してまもない時の子供で、母親の死後に日記を読むと、もう少し新婚生活を楽しもうと最初は中絶を考えたようだ。懐妊が父の父母にわかり産むことになったと書いてある。もしかしたら、自分は生まれていなかったかもしれない三島由紀夫「美徳のよろめき」のような中絶小説が流行していた頃、きっと世間はそんな風潮だったのであろう。


ただ、アメリカの現在の中絶論議には驚くしかない。自分は民主党を支持する訳ではないが、共和党の政策は女性の気持ちを無視していると感じる。ある意味、禁酒法と同じである。この映画のように、裏の世界が蔓延るのではないだろうか?そんな思いも映画を観て感じる。

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