映画「声もなく」を映画館で観てきました。
「パラサイト」を生んだ韓国発の傑作で、新人女性監督にしては実によくまとめた。こんな映画は見たことないと思わせる必見の作品だ。
韓国得意の下層社会を描いたどぎついクライムサスペンス物かと思うとちょっと違う。いきなり首に刺青をしたヤクザが出てきて、いつものようにえげつない暴力が噴出するのかと思うとそうでもない。「パラサイト」が持つコメデイタッチの要素を残しながら、少女を取り扱うやさしさが映画の中に浸透している。
裏社会の下請けで死体処理をやっている2人の男が、組織から誘拐された少女を預かることになる。口が利けない片割れが自分のオンボロのアジトに連れ込み幼い妹と3人で暮らすことになるにつれ情も移っていくという話だ。主演の丸坊主頭の男はどこかで見たことあると既視感があっても「バーニング」のユ・アインと気づくのに時間がかかった。何せ言葉が話せないだけに演技としては逆に難しいだろう。ラグビーの笑わない男稲垣に似たユ・ジェミョンの動きが笑える。
先日見た「さがす」はよくできていたが、「声もなく」は数段上だ。
足の悪い中年男チャンボク(ユ・ジェミョン)と口が利けない丸坊主のテイン(ユ・アイン)は2人で下町の市場で卵を売りながら、裏社会組織の下請けで死体処理の仕事をしている。組織の命令で今度の対象を引っ張り出そうと向かうと1人の少女だった。組織が身代金目的で誘拐してきた11歳のチョヒ(ムン・スンア)だとわかるが、少女を引っ張ってきた組織の親玉が逆にリンチされ、どうして良いのか分からずテインが預かることになる。結局身代金の支払い交渉がうまくいっていないのだ。
広々と続く畑の片隅にあるオンボロのテインの家に引っ張り、野生のような妹と一緒に暮らすようになる。最初はオドオドしていたが、妹をかわいがろうとする。その後、チャンボクが身代金の授受に関わったり、テインが里子取引の施設に連れ出そうとするのであるが。。。
映画を観ながら、どのようにこの映画を落ち着かせるのか想像がつかなかった。謎を解くという訳でないけど、シナリオの行方が読みづらい映画だった。それだけにおもしろい。
⒈善悪の混合
こんな映画は観たことないなあと感じていたが、昨年観たイーサンホーク主演の「ストックホルムケース」を連想する。犯罪の被害者が犯人に心理的につながりをもつというのを「ストックホルム症候群」というそうだ。銀行強盗と人質の関係だが、今度は誘拐犯から押し付けられた男と人質の女の子の関係である。ジャンレノとナタリーポートマンの「レオン」の要素もある。
ただ、この男テインは根っからの悪ではない。食い扶持がなくてやむなくやっている死体処理が本職である社会の底辺にいる障がい者だ。本質的に気持ちはやさしい。そういう男の本性を見抜いてか、誘拐された女の子も男寄りの立場になってしまうのだ。しかも、この子は賢い。野生のように学校も行かず育っているテインの妹を手なずけ、洗濯を教えたり、部屋の片付けも教える。世話好きな女房を思わせる振る舞いをムン・スンアが巧みに演じる。
2人の関係もあっちにいったりこっちに来たりと揺れる。時折り心境の変化をみせる。それなので、映画の先が見えない。善悪の境目を彷徨う。そんな感じでも嫌な部分が見あたらない。
⒉面白みのある登場人物
いきなり先日観たばかりの「ただ悪より救いたまえ」ばりの韓国ヤクザが出てきて、同じような末梢神経を刺激するシーンが続くかと思った。でも、違う。まずは、裏社会の下請けである主人公とその相棒の動きが気になる。依頼されて、ヤクザに惨殺された死体処理のためにカッパや手袋やシャワーキャップを身につける。ただ、処理がスマートにできるわけでない。どこか臆病な感じで、やることなす事不器用だ。
韓国は以前映画「冬の小鳥」などでも出てきた里子の売買が日本より盛んなようだ。いったん誘拐された女の子も売られそうになる。その人身売買の組織の人たちもなんか抜けている。それに加えて、女の子に絡む酔った警官や警官の部下の婦人警官など、いずれの動きもコミカルにしている。
そういう人物の楽しさが暗い一辺倒の話に面白さを生む。そして、バックには茜色した夕陽が包む広大な畑がある。決して道徳的でない話だが、後味が悪いわけではない。1982年生まれの女性監督ホン・ウィジョンの将来に期待できる。
「パラサイト」を生んだ韓国発の傑作で、新人女性監督にしては実によくまとめた。こんな映画は見たことないと思わせる必見の作品だ。
韓国得意の下層社会を描いたどぎついクライムサスペンス物かと思うとちょっと違う。いきなり首に刺青をしたヤクザが出てきて、いつものようにえげつない暴力が噴出するのかと思うとそうでもない。「パラサイト」が持つコメデイタッチの要素を残しながら、少女を取り扱うやさしさが映画の中に浸透している。
裏社会の下請けで死体処理をやっている2人の男が、組織から誘拐された少女を預かることになる。口が利けない片割れが自分のオンボロのアジトに連れ込み幼い妹と3人で暮らすことになるにつれ情も移っていくという話だ。主演の丸坊主頭の男はどこかで見たことあると既視感があっても「バーニング」のユ・アインと気づくのに時間がかかった。何せ言葉が話せないだけに演技としては逆に難しいだろう。ラグビーの笑わない男稲垣に似たユ・ジェミョンの動きが笑える。
先日見た「さがす」はよくできていたが、「声もなく」は数段上だ。
足の悪い中年男チャンボク(ユ・ジェミョン)と口が利けない丸坊主のテイン(ユ・アイン)は2人で下町の市場で卵を売りながら、裏社会組織の下請けで死体処理の仕事をしている。組織の命令で今度の対象を引っ張り出そうと向かうと1人の少女だった。組織が身代金目的で誘拐してきた11歳のチョヒ(ムン・スンア)だとわかるが、少女を引っ張ってきた組織の親玉が逆にリンチされ、どうして良いのか分からずテインが預かることになる。結局身代金の支払い交渉がうまくいっていないのだ。
広々と続く畑の片隅にあるオンボロのテインの家に引っ張り、野生のような妹と一緒に暮らすようになる。最初はオドオドしていたが、妹をかわいがろうとする。その後、チャンボクが身代金の授受に関わったり、テインが里子取引の施設に連れ出そうとするのであるが。。。
映画を観ながら、どのようにこの映画を落ち着かせるのか想像がつかなかった。謎を解くという訳でないけど、シナリオの行方が読みづらい映画だった。それだけにおもしろい。
⒈善悪の混合
こんな映画は観たことないなあと感じていたが、昨年観たイーサンホーク主演の「ストックホルムケース」を連想する。犯罪の被害者が犯人に心理的につながりをもつというのを「ストックホルム症候群」というそうだ。銀行強盗と人質の関係だが、今度は誘拐犯から押し付けられた男と人質の女の子の関係である。ジャンレノとナタリーポートマンの「レオン」の要素もある。
ただ、この男テインは根っからの悪ではない。食い扶持がなくてやむなくやっている死体処理が本職である社会の底辺にいる障がい者だ。本質的に気持ちはやさしい。そういう男の本性を見抜いてか、誘拐された女の子も男寄りの立場になってしまうのだ。しかも、この子は賢い。野生のように学校も行かず育っているテインの妹を手なずけ、洗濯を教えたり、部屋の片付けも教える。世話好きな女房を思わせる振る舞いをムン・スンアが巧みに演じる。
2人の関係もあっちにいったりこっちに来たりと揺れる。時折り心境の変化をみせる。それなので、映画の先が見えない。善悪の境目を彷徨う。そんな感じでも嫌な部分が見あたらない。
⒉面白みのある登場人物
いきなり先日観たばかりの「ただ悪より救いたまえ」ばりの韓国ヤクザが出てきて、同じような末梢神経を刺激するシーンが続くかと思った。でも、違う。まずは、裏社会の下請けである主人公とその相棒の動きが気になる。依頼されて、ヤクザに惨殺された死体処理のためにカッパや手袋やシャワーキャップを身につける。ただ、処理がスマートにできるわけでない。どこか臆病な感じで、やることなす事不器用だ。
韓国は以前映画「冬の小鳥」などでも出てきた里子の売買が日本より盛んなようだ。いったん誘拐された女の子も売られそうになる。その人身売買の組織の人たちもなんか抜けている。それに加えて、女の子に絡む酔った警官や警官の部下の婦人警官など、いずれの動きもコミカルにしている。
そういう人物の楽しさが暗い一辺倒の話に面白さを生む。そして、バックには茜色した夕陽が包む広大な畑がある。決して道徳的でない話だが、後味が悪いわけではない。1982年生まれの女性監督ホン・ウィジョンの将来に期待できる。