映画とライフデザイン

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映画「果てしなき情熱」 笠置シヅ子&市川崑

2023-09-21 23:01:45 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「果てしなき情熱」を名画座で観てきました。


映画「果てしなき情熱」は名画座の笠置シヅ子特集で観た1949年(昭和24年)の市川崑監督作品だ。この映画の存在は初めて知った。脚本は市川崑の連れ合い和田夏十で、落ちぶれた作曲家の物語である。いきなり画面に「これは作曲家服部良一の物語ではないよ」と文字でデカデカとでてくる。何じゃそれと思いながら古いフィルムの映像を追う。作曲家に堀雄二が扮して、その相手に月丘千秋をあてるが、笠置シヅ子に加えて、山口淑子、淡谷のり子の2大スターと当時の人気歌手を揃える。いずれも服部良一の曲だ。どちらかと言うと、怖いもの見たさに映画館に向かったという感じだ。

戦後のある繁華街、キャバレーに入り浸る作曲家の三木(堀雄二)は数々のヒット曲を生み出すが、酒に溺れる生活を送っていた。そんな三木は信州の田舎で出会った名前も知らない女に想いを寄せていた。キャバレーで下働きするしん(月丘千秋)が三木に想いを寄せて、シングルマザーの歌手福子(笠置シヅ子)が応援している。


ある日、三木は刃物を持った暴漢に襲われ、刺し返して刑務所で一年過ごすことになる。出所時にしんが待ってくれて、結婚を誓う。ところが、結婚を祝う日の夜に、駅のプラットフォームで想いを寄せる女性優子(折原啓子)にばったりあってしまい三木の心が揺れる。

作曲家の主人公の行動が意味不明でさっぱりわからない。
何でこんなに酔うのか?わずかな時間あっただけの女性にそんなに想いを寄せることってある?月丘千秋のような美女が目の前にいるのにだ。残念ながら、ありえないようなストーリーで脚本はハチャメチャだ。正直なところ高校の文化祭に毛の生えたような脚本だ。服部良一がこの映画は自分がモデルじゃないよとわざわざ言うのもよくわかる。だっていくら戦後のゴタゴタでもこんな女々しい男いるわけないよ。数々の名作品を生んだ脚本家の和田夏十も初期段階は世間に疎い。

逆に、市川崑がこだわったと思われるカメラワークがいい。カメラのズームを縦横無尽に使い移動撮影で巧みに歌手たちを映すのはいい。後年の作品を連想する。

口パクであっても、全盛時の山口淑子が歌っている姿を映し出す貴重な映像がでてくる。山口淑子は昭和24年近辺では、森雅之共演「我が生涯のかゞやける日」池部良共演「暁の脱走」三船敏郎共演の「醜聞」など後世に残る作品で主役を張る。特に「暁の脱走」での盛りのついた牝犬のような激しい接吻が印象的だ。大画面にアップで「蘇州夜曲」を歌う。服部良一の作曲だ。


今回メインなのは笠置シヅ子だろう。3曲歌っている。宝塚出身の月丘千秋や服部富子などの美人女優が共演なので、容貌的には引き立て役になってしまう。それでも存在感がある。関西弁でまくしたてているのも悪くない。他の人はわざとらしいせりふが多いので自然な演技に魅力を感じる。

この頃は「ブギウギ」調の数々のヒット曲を生んで、映画にもずいぶんとでている。笠置シヅ子をすごいなあと思ったのは黒澤明「酔いどれ天使」でのジャングルブギーの場面だ。カメラがグッと笠置シヅ子に近づく場面は大画面ではじめて観た時ドッキリした。あの迫力には劣るがここでもいい感じだ。


実は、この映画を観て気づいたことがある。映画「酔いどれ天使」で、笠置シヅ子がジャングルブギーを歌う前に、三船敏郎と山本礼三郎を目の前にして色っぽい木暮実千代がダンスを踊る場面がある。その時に流れるバックミュージックの響きと今回聞いた曲が一致したのだ。

「夜のプラットフォーム」である。この映画では服部良一の妹である元宝塚女優服部富子が歌う。歌もしっとりして良いが、彼女を捉えるカメラワークもいい。もともとは淡谷のり子のために服部良一が作った曲だけど、戦前封印されて戦後日の目をみた。ダンスに合う曲だ。

淡谷のり子「雨のブルース」で登場する。子供のころ、淡谷のり子を見るのが怖かった覚えがある。晩年はコメディタッチで親しみがあったが、小学校低学年までまともに彼女の顔を見れなかった。月丘千秋は姉の月丘夢路にも似ているのですぐわかった。当時24歳で美しい。自分は小学生の頃TV「光速エスパー」で主人公の母親役だったのを覚えている。

月丘千秋の母親役が清川虹子だ。娘に無心するダメな母親役だ。長い間名脇役だったなあ。サザエさんのお母さん役が十八番でも、今村昌平監督「復讐するは我にあり」やり手ババアが実にうまかった。殺しをやったことがある女役で底知れぬ怖さがあった。最後は芸能界のご意見番みたいだった。

ストーリー的には訳がわからないが、昭和24年のスターの姿が観れたので満足ではある。

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