映画とライフデザイン

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映画「アルキメデスの大戦」菅田将暉&田中泯&小林克也

2019-08-08 19:02:37 | 映画(日本 2019年以降主演男性)

映画「アルキメデスの大戦」を映画館で観てきました。

菅田将暉の主演作品とは相性がいい。数学の天才が海軍の方針を動かすという話のようだ。おもしろそう。高等数学のセンスがないと自覚する自分は数学の天才という設定にひかれて観に行ってしまう。どういうところで、数学の天才ぶりを発揮するのかと思っていたら、船舶に関しては素人の主人公が巨大戦艦の建造費を2週間で算出してしまおうという話である。工学部出身ではない。帝大数学科100年に一人の天才という触れ込みである。しかも、船舶建造費に関する所与の条件は機密でわからないことだらけ。

漫画が原作だけに不自然なことだらけの設定である。映画の中に出てくる物語の数々は普通で考えたらありえないことだらけ。それでも不思議とストーリーの中に入り込んでいくので眠くはならない。


いきなり映像となるのは昭和20年の戦艦大和の最期である。制空権をとられて米軍航空機による空からの攻撃を受けっぱなしだ。戦艦からの砲撃も激しく、入り乱れる攻防がなされるが、結局沈没してしまう。誰もが知っている事実である。山本五十六という人物は東条英樹首相などのA級戦犯とは逆に一般の日本人からは好評価を受けていると言える。この映画でも正義の味方はあくまで山本五十六で、その考え方に基づいて動くのが主人公という構図である。

1933(昭和8)年海軍省は秘密裏に巨大戦艦の建造を計画している。海軍少将・山本五十六(舘ひろし)はこれからの戦いに必要なのは航空母艦だと進言したものの、嶋田少将(橋爪功)をはじめとした上層部は日露戦争の開戦を制した世界に誇れる壮大な軍艦こそ必要だと考える。しかし、巨大戦艦の建造費は意外に高くない。不自然だ。山本はその矛盾の解明にあたり軍部の息がかかっていない協力者として、帝国大学の数学科で100年に1人の天才と言われる櫂直(菅田将暉)に目をつけた。

大の軍隊嫌いという変わり者の櫂はかたくなに協力を拒んでいたものの、巨大戦艦を建造すればその力を過信した日本は必ず戦争を始めるという山本の言葉に動かされ、すでに決まっていた米国留学の道を断る。櫂は二週間という短期間で建造費のからくりを解明するよう指示を受けた。しかし、戦艦に関する一切の情報は建造推進派の者たちが秘匿している。困難だらけにもかかわらず、櫂は作戦を立てる。


さすがに戦前日本史の真実というのはマンガであっても動かせない。その事実を前提としながら、一人の数学好きの若者を暴れさせる。海軍任官後まずは、当時先端の軍艦であった「長門」を見学、設計図等は極秘扱いであるが、艦長をごまかしこっそりと図面を書き写す。それをもとに今回計画の軍艦の設計図を自ら作成する。一方で船舶工学に関するあらゆる書籍を読み込み、構造計算など船舶設計に必要な諸要件を理解する。しかし、軍艦の積算資料はない。建造にどれだけの人工がかかり、鉄の量がどれだけ必要なのか資料がないのだ。以前海軍と取引があった大阪にある造船会社に行き、過去の船舶建造の資料を得ようとするが断られる。それでも粘る。

1.不自然さ満載
⒈将校が出入りする高級料亭で学生の身分で芸者をあげる。そこで山本五十六と知り合う。
⒉いきなり少佐に任官
⒊使っている鉄の総量のみを変数にして船舶の建造費を算出し、それが正解する。
これらをいちいち気にしていたらきりがない。所詮はマンガと思うしかない。

2.東京帝大数学科
帝大で100年に一人の天才だという。1933年であれば、東京帝大数学科ができて100年たっていない。個人的には高木貞治教授がまだ在籍していたかどうかが気になった。数学を勉強した人で解析概論 ">
高木貞治の「解析概論」
を知らない人はいないであろう。調べると1936年に東京帝国大学教授を退官したようだ。とすれば、漫画の世界であるが櫂直とはダブっている。有名な数学者でいえば、彌永昌吉は1929年の卒業でその後留学、小平邦彦は1935年の数学科入学のようである。この映画で櫂直は海軍勤務になる前にプリンストン大学に留学することになっている。小平邦彦が東大卒業後プリンストン大学に留学したことを意識して設定したのであろう。

世の中にはすごい天才っていると思う。工学部、理学部という境界をこえて短期間で巨大戦艦の設計をして金額をはじき出すことが、一歩抜けた天才であればできうることなのか?もしもで考えると面白い。


3.ベテラン俳優の活躍
不自然な設定によるマイナス点はあれど、この映画はベテラン俳優の活躍が目立つ。橋爪功の嶋田少将はいやな奴の役だが、嫌味の語りがうまい。
何より海軍技術系のトップの役を演じる田中泯が抜群の存在感を示す。まさに昭和の将校らしい顔になっている。ラストに向けての主人公とのやり取りはこの映画のヤマ場だ。凄みのある将校ができる俳優ってそんなにいない。もともと舞踏界の人であったが、「たそがれ清兵衛」真田広之演じる主人公と対決する剣豪を演じてから出番は飛躍的に増える。個人的には「八日目の蝉」の写真館の店主役も好きだ。


あとは小林克也だ。最初はわからなかったが、途中で気づく。DJで一世を風靡した小林克也も昭和の軍人らしい顔になっている。若いころは大変お世話になった。「ベストヒットUSA」がスタートする前に、1970年代前半FM東京で全米ヒットチャートを紹介する深夜番組があった。アップデートで小林克也が国際電話をして最新チャートを伝える。その番組を聞くのが中学生のころ毎週楽しみであった。そんな彼が78歳になる。まだまだ健在であることを確認してうれしくなった。


印象に残ったシーンがある。序盤に戦艦大和が沈没するシーンの時、大和の砲撃を受けて海に米軍戦闘機が墜落する。戦闘員はパラシュートで海に落ちる。それを別の米軍軍用機が海に降り立ち、乗務員を助ける。それを戦艦大和の乗組員があぜんと見守るシーンである。日本ではこんなことはあり得ないのであろう。あえてこういうシーンを入れ込んだところに意味がある。


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